七ノ段
「昨日何か渡されたか、ですか?」
廊下の行灯に火を入れている黒田家の女中お蝶は、一旦手を止めて、そう尋ねた黒田官兵衛と八代又助の方を向いた。暗がりで頬に行灯の火がかかっているからか、お蝶は昼間の頃と変わって血色良く見える。
「あ、そうです、これを頂きました」
そう言い、お蝶は懐から紅白に彩られた包みを取り出すと、官兵衛の方に差し出す。受け取った官兵衛はそれを開くと、仲から綺麗に造作された団子菓子を取り出し、近づけて見てからにやりと笑い、次いで隣の又助にも見せた。
「食べるなよ又助、どうやらこれが本命なようだ」
「あ、あの……、どういう事なのでしょうか」
不安そうに尋ねるお蝶の肩を官兵衛が掴む。それに反応したお蝶の方は身を竦め、余計に不安そうな表情を作った。
「いや、良かった! 良く食べないでいてくれた! 君は気のつくコだな!」
官兵衛の感嘆を分不相応な賛辞と受け取ったお蝶は、気恥ずかしそうに頭を何度も振る。
「痩身中でして……、食べないのも申し訳ないとは思いつつも……」
状況をいまいち飲み込めていない又助の方が、団子菓子を物欲しそうに眺めている。仕方無しに官兵衛はお蝶には聞こえない距離で、口早に又助に事の次第を伝え、それを受けた又助も一度顔をしかめた後は黙ってお蝶の方を見るだけであった。
その後は、他の行灯に火を入れる作業に戻ったお蝶を見送り、官兵衛は禰子の報告を奥の曲輪の近く、昨日に又助と二人で潜んだ詰所で待つ事とした。
「やっほ、官ちゃんに言われた通りに話してきたよ」
詰所の窓の方から顔を覗かせた禰子に仰天する又助を捨て置き、官兵衛は事の次第を尋ねた。
「ちゃんと言ったか?」
「うん。『奥の曲輪の水桶を蓬莱庵のお爺ちゃんに持っていく』って言っといた」
「次第は?」
「代わりに私がやっておきます、だってさ」
「って事は、もう出てる頃か。よし、二人とも、どうやらここが大詰めだ。長壁姫の正体、見に行ってやろうぜ」