表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『がらんどう』の中の人

蓮くんの悩み事

作者: なかな

 『がらんどう』の番外編!

 何故、お寺の少年であり、野球少年「蓮くん」の頭髪は、寝癖が付くほどに長かったのか?

 その理由が明らかになる話。




 俺の名前は『山本蓮』




 『蓮』って言う名前は、俺の爺ちゃんが付けてくれた名前だ。


 爺ちゃんはお寺の住職をしているから、極楽浄土に咲く「蓮の花」を清らかだといっている。泥に根を張り、泥水の上に美しい花を咲かせる逞しさも、爺ちゃんにはグッとくるらしい。




 蓮の花みたいに清らかで逞しくなんて、正直言って今の俺には到底当てはまらない。


 ‥‥名前負けも良いところだ。




 でも俺は、爺ちゃんが読経を上げている姿に憧れるし、カラカラと笑う顔も大好きだから、爺ちゃんが付けてくれた名に恥じない男になろうと思っている。




 そう、爺ちゃんは俺にとって理想であり、なりたい大人の姿なんだ。




 「頭髪」以外は‥。






* * *






「山本ーっ、どうしてチーム辞めちゃったんだよ。コーチが連れ戻せってうるさいんだよ」




 小学生の頃から、ずっと続けていた野球のチームを2ヶ月前に辞めてきた。


 中3になって受験勉強をするからって事を理由にして。




 俺の友達の「安達」は足も早くて、スポーツは何でも出来る奴だ。


 同じ野球チームでプレーしてきたけれど、コイツには絶対敵わないと何度も思わされてきた。


 安達がバッターボックスに立つと、辺りの空気がスッと落ち着いて透きとおる。


 奴の周りにはセンサーのような物が張り巡らされていて、安達に近づいた球は絡め取られるように、打ち取られてしまうんだ。






「山本さぁ、もう野球やらないのかよ‥。気が変わったらいつでも戻ってこいよ」




「あぁ、分かったよ。気が変わったら‥な」




 安達は良い奴だから、煮え切らない俺の返事にも嫌な顔をせずに″ニカッ″と笑ってくれる。


 高身長だし、糸目気味だけど涼しげな顔はイケメンだと言えるだろう。


 


 そう、坊主頭でなければ。






* * *






 物心着いた頃には、俺の周りは坊主頭ばかりだった。


 身近な男の人は皆んな坊主かハゲ頭だ。




 野球のコーチだけは何故か短髪でずるいなとさえ思っていた。




 中学生になって「進路調査」の紙を受け取った時、俺はある事に気が付いて雷に打たれたような衝撃を受けたんだ。




(俺って、ずっと坊主頭なんじゃね?)って。






 俺の頭はいつだって家庭用のバリカンで刈り上げられてきたから、小さい頃からずっと変わらずこの丸刈りだ。




 このまま修行をしてお寺を継いだら、それはやっぱり坊主で丸坊主なのだろう。




 初めて手がワナワナと震えるという経験をした‥。






 そんなある日。




 桜の花びらがヒラヒラと風に舞うような麗しい春の日に、何故か俺は熱を出してしまったんだ‥。


 少し伸びた髪を乾かさずに寝たのがいけなかったのかもしれない‥。




 学校も休みにして、重苦しい体を持て余し布団でゴロゴロしていたら、玄関の呼び鈴が鳴ったんだ。




 体を動かすのも億劫でそのまま出ずに居たら、今度は玄関ホールで物音まで聞こえ出した。




(やばい‥、こんな時に空き巣かよ‥)




 様子だけでも見ようと、足音を立てずに階段を降りていくと、玄関ホールにある古時計の前に「透けてる女の子」が居た。




(えっ?あれって幽霊じゃん‥。大人じゃないし、怖くなさそうだから声掛けてみようか‥)


 


 


それが、俺とユーリさん達との出会い。




ーーきっと、運命だったんだ。






 ◇ ◇ ◇






 俺は、初めて″一目惚れ″という物をしたのかもしれない。


 水面のようにキラキラと揺らめく輝きをまとった、銀色の長い髪をした人。




 こんなに凄い人が目の前に立ち、話をしている事実がもはや夢に思えた。




 俺が今まで坊主頭だったのも、この銀髪の人に出会う為の布石だったんじゃないかと、そう思えた程に、俺の頭はバグっていた。






* * *




 ユーリさんとミツリさんの仲間になり、俺は自分の居る場所が見つかったような気がした。




 いつかユーリさん達の国にも行ってみたいし、色んな物を目にしても怯まない、清く逞しい人であろうと、そう心に誓う。




 そしていつか、ユーリさんのように格好良い大人の男に‥、なってみたい。




 ‥‥俺にも銀髪って、似合うの、かな?




 !!!!!




 思い出したっ!確か母ちゃんが、合唱サークルの発表会で首に巻いてたっ。




 俺は母ちゃんの部屋のクローゼットを開け、引っ掛けられたそれを取り出した。




 銀色でラメの入った、細長いスカーフ。




 クローゼットの扉の裏に付いた、大きな鏡の前でスカーフを頭に掛けてみる。




(おぉ!ラメのキラキラ凄いけど、ちょっと銀髪っぽくね?)




 スカーフを少しずらしながら角度を変えて、鏡に写る銀髪の具合を確認する。




「おっ、この角度、いけてんじゃね?」




「蓮っ?これはユーリ様に黙っておいてあげるわ。あの、その‥蓮は黒髪でも素敵だと思うわよ。」




「うわっ‥!恥ずっ‥。ステラさん、何でいるんすか‥」




「だって、蓮の事を頼まれているんだもの。いつもと違う部屋に居たから、どうしたのかと思って」




「今度、鳥ササミ買っときます」




「うん、気を使わなくて良いわよ。若いんだから」


エピソード「蓮くんサイド」でした。


評価などいただけると励みになりますっ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ