表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
崩壊の日 - The Day the World Fell -  作者: セイ・タカ
崩壊の日 - The Day the World Fell -
1/8

プロローグ:「崩壊の日」


臨時ニュース - 20xx年x月x日


『こちらは緊急ニュースです。ただいま各地で未確認飛行物体が確認され……』

『繰り返します。各都市において未確認飛行物体が出現し……』


それはまるで、悪い冗談のようだった。

最初にニュースが流れたとき、誰もが映画かフェイクニュースの一部だと思った。


だが、空に広がった漆黒の影は本物だった。


その日の朝、青空だったはずの都市上空に、巨大な戦艦がいくつも浮かんでいた。

それは不気味なまでに静かで、動く気配すらない。

誰もが息を呑み、カメラを向け、SNSに投稿し、そして……その数時間後、世界は崩壊した。


轟音とともに、火の雨が降り注いだ。


高層ビルは一瞬で崩れ落ち、街は炎に包まれた。

逃げ惑う人々の悲鳴、響き渡る警報、混乱と絶望の渦の中--。


「現在、政府は緊急事態を宣言……くそっ、何が起きてるんだ!?」


テレビの画面が揺れる。

リポーターの背後で何かが倒れる音がし、次の瞬間、画面が砂嵐に切り替わった。


そして、それはまだ序章にすぎなかった。


『……緊急速報です。現在、全米各地で原因不明の暴動が発生しており、政府は国家非常事態を宣言しました。軍は事態の鎮圧に向けて出動……』


『……複数の目撃情報によると、暴徒は常識では考えられない動きをしており、市民を襲っているとの報告が……』


『……ワシントンD.C.では軍と暴徒の大規模な衝突が発生し……』



・ニューヨーク、マンハッタン・


薄暗い部屋の中、リラはソファにもたれながらテレビ画面を見つめていた。


〈今日は、特に何もない日……。〉


いつも通りの朝。

アラームが鳴り、めんどくさそうに手を伸ばし、スマホのスヌーズを押す。


陽の光がカーテン越しに差し込み、窓の外では小鳥がさえずっている。

部屋には、着古したパーカーが無造作に放り出され、机の上には未完成の宿題が広がっていた。


「……まあ、明日やればいいか。」


テレビのニュースはつけっぱなしになっていた。

けれど、リラは特に気にすることもなく、リモコンを取ってチャンネルを変える。


「現在、各地で未確認飛行物体が確認され……」

「この現象について専門家はーー」


「未確認飛行物体? また陰謀論系の話?」


彼女は大して興味もなく、チャンネルを流し見しながら、冷蔵庫を開けた。

コーヒーを淹れて、適当にトーストを焼く。

いつも通りの朝。

いつも通りの、何も変わらない日常。


---それが、最後になるなんて思いもしなかった。


『繰り返します。ただいま、各都市で未確認飛行物体が確認され……』

『……何だ、あれ……?』


画面の中で、ニュースキャスターの声が震えた。

その瞬間---リラの部屋の窓が、揺れた。


「……地震?」


いや、違う。

リラは違和感を覚え、カーテンを開ける。


--そこには、黒い影があった。


空いっぱいに広がる巨大な物体。

雲すらも遮る圧倒的な質量。

まるで都市全体を覆い尽くすように、それは沈黙したまま空に浮かんでいた。


「……嘘でしょ。」


『緊急速報! 未確認飛行物体が各都市に出現! これは……いや……まさか……』

『……攻撃!? うわっ……!!』


ドンッッッ!!!


画面がノイズに切り替わると同時に、轟音と衝撃波が街を襲った。

リラはバランスを崩し、テーブルの上のマグカップが床に落ちる。


「何……?これ……?」


嫌な予感がする——。


ふと、ポケットのスマホが震えた。


[ママ]


「……ママ?」


不安を覚えながら通話ボタンを押す。


『リラ! すぐに家を出なさい!』


「え、何?」


『軍が制御できてない! 外に出ちゃダメよ! でも、そこにいたら危ない!』


「落ち着いてよ、ママ! 何が起こってるの?」


『説明してる時間がないの! すぐに逃げなさい!』


『リラ、聞いてるの!?』


「うん……! でも……どこに逃げれば……?」


『地下鉄はダメ、空港もダメ! どこも封鎖されてる……!』


「ママ…!ママは今何処にいるの!?」


『68thよ…。いい? どこか安全な場所に隠れなさい! それと——』


突然、通話が切れた。


「……ママ?」


慌ててかけ直す。


——ツー、ツー、ツー……


繋がらない。


鼓動が速くなる。震える指でメッセージを打とうとするが、手がうまく動かない。


同時に、外から轟音が響いた。


リラは反射的に窓の外を見た——。


爆発。


遠くのビルが炎に包まれ、煙が天に昇っていく。


「……嘘でしょ?」


ニューヨークが——燃えている。



・崩壊の始まり・



「はぁ……はぁ……っ!」


リラは家を飛び出し息を切らしながら、燃え上がる街を駆けていた。


街が、壊れていく。


ビルが崩れ、道路がひび割れ、燃えた車が黒煙を上げる。

頭上ではエイリアンの巨大な戦艦が光を放ち、エネルギー弾が雨のように降り注いでいた。


ドォォォンッ!!


彼女のすぐ横で、ガラス張りのショッピングモールが一瞬にして崩れ落ちた。

衝撃波で吹き飛ばされ、リラは地面に転がる。


「……っ!」


耳がキーンと鳴る。

砂ぼこりが舞い、視界が歪む。


『助けて……!』


ふと顔を上げると、目の前で一人の女性が倒れていた。

足が瓦礫に挟まれ、動けなくなっている。


「あっ……!」


リラはすぐに駆け寄ろうとした。

だが---


ズドォォン!!!


女性の背後に落ちた爆撃が、彼女を塵に変えた。


「……嘘……」


そこには、何も残っていなかった。


リラはスマホを握りしめたまま立ち尽くしていた。


——その時。


ガラスが割れる音がした。


リラは息を呑み、ゆっくりと振り向いた。


そこには——。


血まみれの男が立っていた。


眼球は充血し、皮膚は爛れている。口元には生々しい肉片がへばりつき、荒い息を吐いている。


まるで——ゾンビ。


違う。


もっと異質な何か。


「……嘘……。」


男は一瞬こちらを見たかと思うと、次の瞬間——。


「ギャアアアアア!!」


狂ったように叫び、突進してきた。



・崩壊と逃亡・



「……やばい。」


逃げなきゃ。


足がすくむ。しかし、動かなければ死ぬ。


外は地獄だった。


炎上する街。逃げ惑う人々。異形と化した存在が、次々と人を襲っている。


「これ……本当に現実なの……?」


そんなことを考えている余裕はなかった。


リラは迷わず駆け出した。




・ 戦場と絶望 ・



「撃てぇぇぇ!!」


銃声と爆発音が鳴り響く。


戦車の砲撃が火を噴き、ヘリが対空ミサイルを放つ。

地上の兵士たちは、建物の影や車の後ろに身を隠しながら、エイリアンの戦闘兵器に向けて全力で応戦していた。


≪ズドォォンッ!!≫


ビルの上から砲弾が飛び、戦艦の下部に直撃。

一瞬、空中に火花が散る。


兵士たちは叫んだ。


『効いてるぞ! 続けろ!!』


しかしーー


≪ギィィィィィィ……!≫


黒い戦艦の側面が開き、無数のドローン型兵器が飛び出した。

それはまるで蜂の群れのように動き、人間の陣地へ猛攻を開始する。


『くそっ、数が多すぎる!』


一機のドローンが突撃し、戦車の装甲を貫通。

爆発が起こり、数人の兵士が吹き飛ばされた。


『退避しろ! 全員、退避しろ!!』


だが、すでに逃げ場などなかった。


 


エイリアンの地上部隊、降下


≪ギギ……キィィ……≫


空から、異形の兵士たちが降りてくる。

身長は人間より一回り大きく、硬質な外骨格に覆われ、赤く光る眼を持つ。


その手には、青白い光を放つエネルギーブレード。


『やばい……!』


兵士が銃を構え、引き金を引いた。

しかし---


シュンッ……!


エイリアン兵は目にも止まらぬ速さで接近し、一瞬で兵士の胸を貫いた。


『……っ!』


彼は何が起きたのかも分からないまま、崩れ落ちた。


『……こんなの、勝てるわけがねぇ……』


兵士たちは次々と倒れ、陣形は崩壊。

司令部の無線が絶望的な言葉を吐き出す。


『こちら本部……もう……もう持たない……』


『……戦線崩壊……防衛不能……』


『……生存者は、直ちに撤退せよ……!』




リラは、崩壊した街の隙間を縫うように走り続けていた。


燃える建物。

響き渡る警報と悲鳴。


遠くで何かが爆発する音が聞こえた。


「……くっ……」


彼女は息を切らしながら、崩れた交差点にたどり着く。


その先には、地獄が広がっていた。


軍が、戦っていた。


戦車が炎に包まれ、ヘリが煙を上げて落ちていく。

ビルの陰から兵士たちが現れ、必死に応戦していたが……それは明らかに押されていた。


リラは瓦礫の影に身を隠し、戦場を見つめる。


彼女の目の前で、人間たちは次々と倒れていった。

だが、それ以上に恐ろしかったのはーー


"あれ" は、倒れない。


黒い影が動いた。


巨大な機械のような何かが、光を放ち、兵士たちの陣地を吹き飛ばした。

その周囲には、異形の者たちがうごめいている。


エイリアン兵か、それとも……いや、違う。


元・人間。


肌の色が変わり、体が異常に膨張したそれらが、軍に向かって突進していた。


感染が広がっている。


「……嘘でしょ……」


そして次の瞬間、耳元で聞こえたのは、兵士の叫びだった。


『退避しろ!! もう持たない!!』


『……戦線崩壊……政府は撤退を決定……』


『生存者は……直ちに避難を……』


終わった。


リラは、震える手でスマホを握りしめる。


「……逃げなきゃ。」


彼女は、再び走り出した。




-戦場は、地獄だった。


軍は必死に応戦していたが、エイリアンの圧倒的な戦力に押し潰されていく。

弾丸が効かない兵士たち。

戦車を無力化するドローン。

指揮官の声も、次第に悲鳴へと変わっていく。


「……もう、ダメだ……」


そう呟いた兵士の隣で、仲間が突然倒れた。


「おい、大丈夫か!?」


彼は、その兵士の肩を掴んだ。


-異様に、熱い。


「は……はぁ……」


倒れた兵士は、苦しそうに喉を押さえた。

汗が吹き出し、皮膚は青黒く変色していく。


「おい、おい……なんだよ、これ……?」


仲間たちが後ずさる。


「……あ、あぁ……」


彼の手が、異様に膨張した。

指が伸び、爪が鋭く変形し、目が充血していく。


「た、助けてくれ……」


「おい、何が……?」


次の瞬間---


「ギャアアアアアアアア!!!」


兵士は、もう人間ではなかった。


顔が裂け、異常なまでに膨れ上がった筋肉が軍服を引き裂く。

目の前で、仲間が"何か"に変わっていく。


「こ、これ……なんだよ……!!」


「離れろ!! 撃て!! 撃てぇ!!」


引き金が引かれ、変異した兵士に向けて銃弾が浴びせられる。

だが---


「グゥゥゥゥ……」


それは、一歩ずつ、ゆっくりと兵士たちに迫る。


「効いてねぇ……!? ふざけるな!!」


銃弾を受けても止まらない。

皮膚は硬化し、体が異様に歪んでいく。

それはもはや人間とは別の何かになりつつあった。


「……撤退だ!!」


司令官が叫ぶ。


だが ―


「ガァァァアアアアア!!!」


―すでに、遅かった。


ウイルスは、もう拡散していた。

次々と兵士たちが崩れ落ち、体を震わせる。

人間が、人間でなくなっていく瞬間を、誰もが目の当たりにした。


「……こんなの、ありえない……」


ある兵士が、震えながら呟く。


そして次の瞬間 …


「グギャアアアアアア!!!」


クリーチャーとなった"元兵士"が、襲いかかった。

「グギャアアアアアア!!!」


クリーチャーへと変異した兵士が、かつての仲間に襲いかかる。


「やめろ……! お前……仲間だろ……!!」


叫びも虚しく、鋭く変異した腕が兵士の首を引き裂いた。

返り血が飛ぶ。

それは血ではなく、ドス黒く変色した液体だった。


「やばい……! やばい!!」


周囲の兵士たちが後退する。


―だが、それは始まりに過ぎなかった。


「は……はぁ……っ」


一人の兵士が、地面に膝をつく。

身体が震えている。


「おい……大丈夫か?」


隣にいた兵士が駆け寄る。

その瞬間 ―


「グァァァァッ!!!」


牙が生えた口が開き、彼の喉元に食らいついた。


「う……ぁ……!」


兵士の目が見開かれ、力なく崩れ落ちる。

そして…


彼の皮膚が、ゆっくりと黒ずんでいった。


「……嘘だろ……?」


「ダメだ……もう手遅れだ……!!」


ウイルスは、すでに兵士たちの中に広がっていた。

それは爆発的に増殖し、次々と人間をクリーチャーへと変えていく。


「ギャアアアアア!!!」


叫び声が響くたびに、新たな異形が生まれる。


もはや、戦場ではなかった。


― 感染拡大の中心地 ―


兵士 vs エイリアンの戦場が、一瞬で「人間 vs クリーチャー」の地獄へと変貌した。


「ダメだ!! もうダメだ!!」


生き残った兵士たちは、一斉に逃げ出した。

政府の指令も、通信も、もはや意味を成さない。


「このままじゃ、都市ごと終わる!!」


ある兵士が、必死に叫んだ。


…その通りだった。


感染は、すでに制御不能。

そして、それが進行する先には…


"リラが向かっている駅" があった。





ニューヨークの街は、もはや人間のものではなかった。


軍が展開し、異形の化け物と交戦していた。しかし、圧倒的に不利。


戦車が爆発し、兵士が次々と食われていく。



- 地下駅構内



「落ち着け!! みんな冷静になれ!!」


駅の中には、避難してきた人々が溢れていた。

数百人はいるだろうか。


軍の敗北を知る者も、まだ何が起きているのか理解していない者もいた。

皆、ただ「ここなら安全だ」と信じたかった。


だが……


『……ウイルス感染……』


『……制御不能……』


『……市内全域に拡散……』


- その言葉が、駅構内に響いた瞬間。


静寂が、訪れた。


「……どういうことだ?」


誰かが呟く。


その問いに、誰も答えられなかった。


…だが、その疑問はすぐに"現実"として突きつけられる。


「……う、ぐっ……」


人混みの中で、一人の男が膝をついた。


「おい……おい、大丈夫か!?」


周りの人々が駆け寄る。


それは致命的な"選択"だった。


「は、はぁ……はぁ……」


男の呼吸は荒く、汗が額を流れ落ちる。


皮膚は青黒く変色し、腕には異様な血管が浮かび上がっていた。


「こ、これ……なんだ……?」


誰もが息をのむ。


そして……


「ギャアアアアアア!!!」


- 男が"変わった"。


歪む顔。

裂ける口。

腕が異常なまでに伸び、爪が鋭く変異する。


彼は人間ではなくなった。


「う、嘘だろ……」


避難者たちは一歩、また一歩と後ずさる。


だが…


「グギャアアアアア!!!」


次の瞬間、"それ" は近くにいた女の首に喰らいついた。


「ひ、ひぃ……!!!」


鮮血が舞う。


女性は抵抗する間もなく、崩れ落ちた。


だが、それだけでは終わらなかった。


「……あ、あぁ……」


その体が、ゆっくりと動き出す。


「……嘘……でしょ……?」


まわりの避難者が、震えながら見つめる。


彼女の目が、赤く光った。


そして…


次々と、悲鳴が響いた。


感染は、一瞬だった。

わずか数分で、駅の中は地獄へと変わった。


「やめろおおおおおおお!!!」


銃を持った男が、無差別に発砲する。


「俺は絶対に感染しねぇ!! 来るなあああああ!!!」


だが …


「グギャアアアアアア!!!」


それが、最後の叫びだった。




「はぁっ……はぁっ……!」


崩れた街を駆け抜け、リラはついに地下鉄の入口へと滑り込んだ。

荒れた階段を踏み外しそうになりながら、地下へと駆け下りる。

背後では、なおも爆発音と叫びが響いていた。


構内の空気は、重く淀んでいた。

酸素すらも不安と恐怖に汚染されたような感覚。

人々はただ呆然と立ち尽くし、誰もが「ここだけは安全だ」と信じ込もうとしていた。


だが——


『……ウイルス感染……市内全域に拡散……』


緊急放送が鳴り響いた瞬間、空気が一変した。

悲鳴。逃げ惑う足音。何人かが倒れ、そして——変わった。


叫び声が次々と響く。

地下鉄という密閉された空間が、あっという間に地獄へと化していく。


混乱の向こう側、ちらりと見えた“その後ろ姿”。


見覚えのある、髪型。

どんなに距離があっても、間違えようのないシルエット。


「……ママ……?」


リラは思わず立ち上がり、駆け出した。

何度も人をかき分け、転びそうになりながら、その背中を追いかける。


やっとの思いで距離を詰めたとき――

振り向いた、その顔。


それは。


人間では、なかった。


血走った目。

青黒く変色した皮膚。

膨張した腕、裂けた口元。


それでもリラには、わかってしまった。

その奥に、“ママ”がいたことを。


身体が凍りついた。

視界が歪んだ。

心が、崩れかける。


でも、それでも。

「ママ!!」


しかし、母は振り向かなかった。


違う。


振り向けなかった。


彼女の体は、すでに人間のものではなかった。


「リ……ラ……。」


母の口が、微かに動いた。


しかし、その目はもはや理性の残るものではなかった。


「……やめて……!!」


リラは泣き叫んだ。



そこにいたのは、一体の"異形"だった。


長く伸びた指先。

異様に膨れた腕。

口元は裂け、何かを求めるようにゆっくりと蠢いている。


だが、それよりも恐ろしかったのは。


その目。


赤く光る、二つの瞳。


それは―


「……マ……マ……?」


リラの声が、かすれた。


目の前の"それ"が、一歩、また一歩と近づいてくる。


「うそ……でしょ……」


彼女の背筋が、凍りつく。


そこにいるのは、かつての母親の姿だった。


もう、言葉は届かない。


「……っ!!」


リラは息を詰まらせ、無意識に後ずさる。


「ガァァァァッ!!!」


その瞬間、"それ"はリラへと飛びかかってきた。


「っ!!」


咄嗟に腕を上げる。

だが、力の差は歴然だった。


ドンッ!!!


リラの体が吹き飛び、背中から壁に叩きつけられる。


「ぐ……!」


肺から空気が押し出され、呼吸が乱れる。

視界が揺れる。

頭がぼやける。


…このままじゃ、殺される。


力が、入らない。

目の前が、暗くなっていく。


「……いや……」


嫌だ。


ここで、終わるなんて。


「……助けて……」


誰に向けた言葉かもわからない。

ただ、心の底から絞り出した願いだった。


「ッ……!!」


その瞬間。


リラの体に、"何か"が駆け巡った。


熱。


体の奥から燃え上がるような感覚。


目を開けると、視界の端で空気が震えているのがわかった。


―これは、何?


「……っ!!」


体が勝手に動いた。


リラは、咄嗟に腕を振り上げる。


ドンッ!!!


次の瞬間、"それ"は吹き飛んでいた。


「……え?」


リラは、自分の手を見つめる。


指先から、"何か"が弾けるような感覚。


何が起こったのかはわからなかった。


だが……


目の前の"それ"は、遠くの壁に叩きつけられ、動かなくなっていた。


リラの意識が、一気に揺らぐ。


「……ママ……」


彼女は、ゆっくりと崩れ落ちた。


…意識が、暗闇に沈んでいく。



その日、人類の凡そ半数が死滅した…。



― プロローグ完 ―



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ