プロローグ:「崩壊の日」
臨時ニュース - 20xx年x月x日
『こちらは緊急ニュースです。ただいま各地で未確認飛行物体が確認され……』
『繰り返します。各都市において未確認飛行物体が出現し……』
それはまるで、悪い冗談のようだった。
最初にニュースが流れたとき、誰もが映画かフェイクニュースの一部だと思った。
だが、空に広がった漆黒の影は本物だった。
その日の朝、青空だったはずの都市上空に、巨大な戦艦がいくつも浮かんでいた。
それは不気味なまでに静かで、動く気配すらない。
誰もが息を呑み、カメラを向け、SNSに投稿し、そして……その数時間後、世界は崩壊した。
轟音とともに、火の雨が降り注いだ。
高層ビルは一瞬で崩れ落ち、街は炎に包まれた。
逃げ惑う人々の悲鳴、響き渡る警報、混乱と絶望の渦の中--。
「現在、政府は緊急事態を宣言……くそっ、何が起きてるんだ!?」
テレビの画面が揺れる。
リポーターの背後で何かが倒れる音がし、次の瞬間、画面が砂嵐に切り替わった。
そして、それはまだ序章にすぎなかった。
『……緊急速報です。現在、全米各地で原因不明の暴動が発生しており、政府は国家非常事態を宣言しました。軍は事態の鎮圧に向けて出動……』
『……複数の目撃情報によると、暴徒は常識では考えられない動きをしており、市民を襲っているとの報告が……』
『……ワシントンD.C.では軍と暴徒の大規模な衝突が発生し……』
・ニューヨーク、マンハッタン・
薄暗い部屋の中、リラはソファにもたれながらテレビ画面を見つめていた。
〈今日は、特に何もない日……。〉
いつも通りの朝。
アラームが鳴り、めんどくさそうに手を伸ばし、スマホのスヌーズを押す。
陽の光がカーテン越しに差し込み、窓の外では小鳥がさえずっている。
部屋には、着古したパーカーが無造作に放り出され、机の上には未完成の宿題が広がっていた。
「……まあ、明日やればいいか。」
テレビのニュースはつけっぱなしになっていた。
けれど、リラは特に気にすることもなく、リモコンを取ってチャンネルを変える。
「現在、各地で未確認飛行物体が確認され……」
「この現象について専門家はーー」
「未確認飛行物体? また陰謀論系の話?」
彼女は大して興味もなく、チャンネルを流し見しながら、冷蔵庫を開けた。
コーヒーを淹れて、適当にトーストを焼く。
いつも通りの朝。
いつも通りの、何も変わらない日常。
---それが、最後になるなんて思いもしなかった。
『繰り返します。ただいま、各都市で未確認飛行物体が確認され……』
『……何だ、あれ……?』
画面の中で、ニュースキャスターの声が震えた。
その瞬間---リラの部屋の窓が、揺れた。
「……地震?」
いや、違う。
リラは違和感を覚え、カーテンを開ける。
--そこには、黒い影があった。
空いっぱいに広がる巨大な物体。
雲すらも遮る圧倒的な質量。
まるで都市全体を覆い尽くすように、それは沈黙したまま空に浮かんでいた。
「……嘘でしょ。」
『緊急速報! 未確認飛行物体が各都市に出現! これは……いや……まさか……』
『……攻撃!? うわっ……!!』
ドンッッッ!!!
画面がノイズに切り替わると同時に、轟音と衝撃波が街を襲った。
リラはバランスを崩し、テーブルの上のマグカップが床に落ちる。
「何……?これ……?」
嫌な予感がする——。
ふと、ポケットのスマホが震えた。
[ママ]
「……ママ?」
不安を覚えながら通話ボタンを押す。
『リラ! すぐに家を出なさい!』
「え、何?」
『軍が制御できてない! 外に出ちゃダメよ! でも、そこにいたら危ない!』
「落ち着いてよ、ママ! 何が起こってるの?」
『説明してる時間がないの! すぐに逃げなさい!』
『リラ、聞いてるの!?』
「うん……! でも……どこに逃げれば……?」
『地下鉄はダメ、空港もダメ! どこも封鎖されてる……!』
「ママ…!ママは今何処にいるの!?」
『68thよ…。いい? どこか安全な場所に隠れなさい! それと——』
突然、通話が切れた。
「……ママ?」
慌ててかけ直す。
——ツー、ツー、ツー……
繋がらない。
鼓動が速くなる。震える指でメッセージを打とうとするが、手がうまく動かない。
同時に、外から轟音が響いた。
リラは反射的に窓の外を見た——。
爆発。
遠くのビルが炎に包まれ、煙が天に昇っていく。
「……嘘でしょ?」
ニューヨークが——燃えている。
・崩壊の始まり・
「はぁ……はぁ……っ!」
リラは家を飛び出し息を切らしながら、燃え上がる街を駆けていた。
街が、壊れていく。
ビルが崩れ、道路がひび割れ、燃えた車が黒煙を上げる。
頭上ではエイリアンの巨大な戦艦が光を放ち、エネルギー弾が雨のように降り注いでいた。
ドォォォンッ!!
彼女のすぐ横で、ガラス張りのショッピングモールが一瞬にして崩れ落ちた。
衝撃波で吹き飛ばされ、リラは地面に転がる。
「……っ!」
耳がキーンと鳴る。
砂ぼこりが舞い、視界が歪む。
『助けて……!』
ふと顔を上げると、目の前で一人の女性が倒れていた。
足が瓦礫に挟まれ、動けなくなっている。
「あっ……!」
リラはすぐに駆け寄ろうとした。
だが---
ズドォォン!!!
女性の背後に落ちた爆撃が、彼女を塵に変えた。
「……嘘……」
そこには、何も残っていなかった。
リラはスマホを握りしめたまま立ち尽くしていた。
——その時。
ガラスが割れる音がした。
リラは息を呑み、ゆっくりと振り向いた。
そこには——。
血まみれの男が立っていた。
眼球は充血し、皮膚は爛れている。口元には生々しい肉片がへばりつき、荒い息を吐いている。
まるで——ゾンビ。
違う。
もっと異質な何か。
「……嘘……。」
男は一瞬こちらを見たかと思うと、次の瞬間——。
「ギャアアアアア!!」
狂ったように叫び、突進してきた。
・崩壊と逃亡・
「……やばい。」
逃げなきゃ。
足がすくむ。しかし、動かなければ死ぬ。
外は地獄だった。
炎上する街。逃げ惑う人々。異形と化した存在が、次々と人を襲っている。
「これ……本当に現実なの……?」
そんなことを考えている余裕はなかった。
リラは迷わず駆け出した。
・ 戦場と絶望 ・
「撃てぇぇぇ!!」
銃声と爆発音が鳴り響く。
戦車の砲撃が火を噴き、ヘリが対空ミサイルを放つ。
地上の兵士たちは、建物の影や車の後ろに身を隠しながら、エイリアンの戦闘兵器に向けて全力で応戦していた。
≪ズドォォンッ!!≫
ビルの上から砲弾が飛び、戦艦の下部に直撃。
一瞬、空中に火花が散る。
兵士たちは叫んだ。
『効いてるぞ! 続けろ!!』
しかしーー
≪ギィィィィィィ……!≫
黒い戦艦の側面が開き、無数のドローン型兵器が飛び出した。
それはまるで蜂の群れのように動き、人間の陣地へ猛攻を開始する。
『くそっ、数が多すぎる!』
一機のドローンが突撃し、戦車の装甲を貫通。
爆発が起こり、数人の兵士が吹き飛ばされた。
『退避しろ! 全員、退避しろ!!』
だが、すでに逃げ場などなかった。
エイリアンの地上部隊、降下
≪ギギ……キィィ……≫
空から、異形の兵士たちが降りてくる。
身長は人間より一回り大きく、硬質な外骨格に覆われ、赤く光る眼を持つ。
その手には、青白い光を放つエネルギーブレード。
『やばい……!』
兵士が銃を構え、引き金を引いた。
しかし---
シュンッ……!
エイリアン兵は目にも止まらぬ速さで接近し、一瞬で兵士の胸を貫いた。
『……っ!』
彼は何が起きたのかも分からないまま、崩れ落ちた。
『……こんなの、勝てるわけがねぇ……』
兵士たちは次々と倒れ、陣形は崩壊。
司令部の無線が絶望的な言葉を吐き出す。
『こちら本部……もう……もう持たない……』
『……戦線崩壊……防衛不能……』
『……生存者は、直ちに撤退せよ……!』
リラは、崩壊した街の隙間を縫うように走り続けていた。
燃える建物。
響き渡る警報と悲鳴。
遠くで何かが爆発する音が聞こえた。
「……くっ……」
彼女は息を切らしながら、崩れた交差点にたどり着く。
その先には、地獄が広がっていた。
軍が、戦っていた。
戦車が炎に包まれ、ヘリが煙を上げて落ちていく。
ビルの陰から兵士たちが現れ、必死に応戦していたが……それは明らかに押されていた。
リラは瓦礫の影に身を隠し、戦場を見つめる。
彼女の目の前で、人間たちは次々と倒れていった。
だが、それ以上に恐ろしかったのはーー
"あれ" は、倒れない。
黒い影が動いた。
巨大な機械のような何かが、光を放ち、兵士たちの陣地を吹き飛ばした。
その周囲には、異形の者たちがうごめいている。
エイリアン兵か、それとも……いや、違う。
元・人間。
肌の色が変わり、体が異常に膨張したそれらが、軍に向かって突進していた。
感染が広がっている。
「……嘘でしょ……」
そして次の瞬間、耳元で聞こえたのは、兵士の叫びだった。
『退避しろ!! もう持たない!!』
『……戦線崩壊……政府は撤退を決定……』
『生存者は……直ちに避難を……』
終わった。
リラは、震える手でスマホを握りしめる。
「……逃げなきゃ。」
彼女は、再び走り出した。
-戦場は、地獄だった。
軍は必死に応戦していたが、エイリアンの圧倒的な戦力に押し潰されていく。
弾丸が効かない兵士たち。
戦車を無力化するドローン。
指揮官の声も、次第に悲鳴へと変わっていく。
「……もう、ダメだ……」
そう呟いた兵士の隣で、仲間が突然倒れた。
「おい、大丈夫か!?」
彼は、その兵士の肩を掴んだ。
-異様に、熱い。
「は……はぁ……」
倒れた兵士は、苦しそうに喉を押さえた。
汗が吹き出し、皮膚は青黒く変色していく。
「おい、おい……なんだよ、これ……?」
仲間たちが後ずさる。
「……あ、あぁ……」
彼の手が、異様に膨張した。
指が伸び、爪が鋭く変形し、目が充血していく。
「た、助けてくれ……」
「おい、何が……?」
次の瞬間---
「ギャアアアアアアアア!!!」
兵士は、もう人間ではなかった。
顔が裂け、異常なまでに膨れ上がった筋肉が軍服を引き裂く。
目の前で、仲間が"何か"に変わっていく。
「こ、これ……なんだよ……!!」
「離れろ!! 撃て!! 撃てぇ!!」
引き金が引かれ、変異した兵士に向けて銃弾が浴びせられる。
だが---
「グゥゥゥゥ……」
それは、一歩ずつ、ゆっくりと兵士たちに迫る。
「効いてねぇ……!? ふざけるな!!」
銃弾を受けても止まらない。
皮膚は硬化し、体が異様に歪んでいく。
それはもはや人間とは別の何かになりつつあった。
「……撤退だ!!」
司令官が叫ぶ。
だが ―
「ガァァァアアアアア!!!」
―すでに、遅かった。
ウイルスは、もう拡散していた。
次々と兵士たちが崩れ落ち、体を震わせる。
人間が、人間でなくなっていく瞬間を、誰もが目の当たりにした。
「……こんなの、ありえない……」
ある兵士が、震えながら呟く。
そして次の瞬間 …
「グギャアアアアアア!!!」
クリーチャーとなった"元兵士"が、襲いかかった。
「グギャアアアアアア!!!」
クリーチャーへと変異した兵士が、かつての仲間に襲いかかる。
「やめろ……! お前……仲間だろ……!!」
叫びも虚しく、鋭く変異した腕が兵士の首を引き裂いた。
返り血が飛ぶ。
それは血ではなく、ドス黒く変色した液体だった。
「やばい……! やばい!!」
周囲の兵士たちが後退する。
―だが、それは始まりに過ぎなかった。
「は……はぁ……っ」
一人の兵士が、地面に膝をつく。
身体が震えている。
「おい……大丈夫か?」
隣にいた兵士が駆け寄る。
その瞬間 ―
「グァァァァッ!!!」
牙が生えた口が開き、彼の喉元に食らいついた。
「う……ぁ……!」
兵士の目が見開かれ、力なく崩れ落ちる。
そして…
彼の皮膚が、ゆっくりと黒ずんでいった。
「……嘘だろ……?」
「ダメだ……もう手遅れだ……!!」
ウイルスは、すでに兵士たちの中に広がっていた。
それは爆発的に増殖し、次々と人間をクリーチャーへと変えていく。
「ギャアアアアア!!!」
叫び声が響くたびに、新たな異形が生まれる。
もはや、戦場ではなかった。
― 感染拡大の中心地 ―
兵士 vs エイリアンの戦場が、一瞬で「人間 vs クリーチャー」の地獄へと変貌した。
「ダメだ!! もうダメだ!!」
生き残った兵士たちは、一斉に逃げ出した。
政府の指令も、通信も、もはや意味を成さない。
「このままじゃ、都市ごと終わる!!」
ある兵士が、必死に叫んだ。
…その通りだった。
感染は、すでに制御不能。
そして、それが進行する先には…
"リラが向かっている駅" があった。
ニューヨークの街は、もはや人間のものではなかった。
軍が展開し、異形の化け物と交戦していた。しかし、圧倒的に不利。
戦車が爆発し、兵士が次々と食われていく。
- 地下駅構内
「落ち着け!! みんな冷静になれ!!」
駅の中には、避難してきた人々が溢れていた。
数百人はいるだろうか。
軍の敗北を知る者も、まだ何が起きているのか理解していない者もいた。
皆、ただ「ここなら安全だ」と信じたかった。
だが……
『……ウイルス感染……』
『……制御不能……』
『……市内全域に拡散……』
- その言葉が、駅構内に響いた瞬間。
静寂が、訪れた。
「……どういうことだ?」
誰かが呟く。
その問いに、誰も答えられなかった。
…だが、その疑問はすぐに"現実"として突きつけられる。
「……う、ぐっ……」
人混みの中で、一人の男が膝をついた。
「おい……おい、大丈夫か!?」
周りの人々が駆け寄る。
それは致命的な"選択"だった。
「は、はぁ……はぁ……」
男の呼吸は荒く、汗が額を流れ落ちる。
皮膚は青黒く変色し、腕には異様な血管が浮かび上がっていた。
「こ、これ……なんだ……?」
誰もが息をのむ。
そして……
「ギャアアアアアア!!!」
- 男が"変わった"。
歪む顔。
裂ける口。
腕が異常なまでに伸び、爪が鋭く変異する。
彼は人間ではなくなった。
「う、嘘だろ……」
避難者たちは一歩、また一歩と後ずさる。
だが…
「グギャアアアアア!!!」
次の瞬間、"それ" は近くにいた女の首に喰らいついた。
「ひ、ひぃ……!!!」
鮮血が舞う。
女性は抵抗する間もなく、崩れ落ちた。
だが、それだけでは終わらなかった。
「……あ、あぁ……」
その体が、ゆっくりと動き出す。
「……嘘……でしょ……?」
まわりの避難者が、震えながら見つめる。
彼女の目が、赤く光った。
そして…
次々と、悲鳴が響いた。
感染は、一瞬だった。
わずか数分で、駅の中は地獄へと変わった。
「やめろおおおおおおお!!!」
銃を持った男が、無差別に発砲する。
「俺は絶対に感染しねぇ!! 来るなあああああ!!!」
だが …
「グギャアアアアアア!!!」
それが、最後の叫びだった。
「はぁっ……はぁっ……!」
崩れた街を駆け抜け、リラはついに地下鉄の入口へと滑り込んだ。
荒れた階段を踏み外しそうになりながら、地下へと駆け下りる。
背後では、なおも爆発音と叫びが響いていた。
構内の空気は、重く淀んでいた。
酸素すらも不安と恐怖に汚染されたような感覚。
人々はただ呆然と立ち尽くし、誰もが「ここだけは安全だ」と信じ込もうとしていた。
だが——
『……ウイルス感染……市内全域に拡散……』
緊急放送が鳴り響いた瞬間、空気が一変した。
悲鳴。逃げ惑う足音。何人かが倒れ、そして——変わった。
叫び声が次々と響く。
地下鉄という密閉された空間が、あっという間に地獄へと化していく。
混乱の向こう側、ちらりと見えた“その後ろ姿”。
見覚えのある、髪型。
どんなに距離があっても、間違えようのないシルエット。
「……ママ……?」
リラは思わず立ち上がり、駆け出した。
何度も人をかき分け、転びそうになりながら、その背中を追いかける。
やっとの思いで距離を詰めたとき――
振り向いた、その顔。
それは。
人間では、なかった。
血走った目。
青黒く変色した皮膚。
膨張した腕、裂けた口元。
それでもリラには、わかってしまった。
その奥に、“ママ”がいたことを。
身体が凍りついた。
視界が歪んだ。
心が、崩れかける。
でも、それでも。
「ママ!!」
しかし、母は振り向かなかった。
違う。
振り向けなかった。
彼女の体は、すでに人間のものではなかった。
「リ……ラ……。」
母の口が、微かに動いた。
しかし、その目はもはや理性の残るものではなかった。
「……やめて……!!」
リラは泣き叫んだ。
そこにいたのは、一体の"異形"だった。
長く伸びた指先。
異様に膨れた腕。
口元は裂け、何かを求めるようにゆっくりと蠢いている。
だが、それよりも恐ろしかったのは。
その目。
赤く光る、二つの瞳。
それは―
「……マ……マ……?」
リラの声が、かすれた。
目の前の"それ"が、一歩、また一歩と近づいてくる。
「うそ……でしょ……」
彼女の背筋が、凍りつく。
そこにいるのは、かつての母親の姿だった。
もう、言葉は届かない。
「……っ!!」
リラは息を詰まらせ、無意識に後ずさる。
「ガァァァァッ!!!」
その瞬間、"それ"はリラへと飛びかかってきた。
「っ!!」
咄嗟に腕を上げる。
だが、力の差は歴然だった。
ドンッ!!!
リラの体が吹き飛び、背中から壁に叩きつけられる。
「ぐ……!」
肺から空気が押し出され、呼吸が乱れる。
視界が揺れる。
頭がぼやける。
…このままじゃ、殺される。
力が、入らない。
目の前が、暗くなっていく。
「……いや……」
嫌だ。
ここで、終わるなんて。
「……助けて……」
誰に向けた言葉かもわからない。
ただ、心の底から絞り出した願いだった。
「ッ……!!」
その瞬間。
リラの体に、"何か"が駆け巡った。
熱。
体の奥から燃え上がるような感覚。
目を開けると、視界の端で空気が震えているのがわかった。
―これは、何?
「……っ!!」
体が勝手に動いた。
リラは、咄嗟に腕を振り上げる。
ドンッ!!!
次の瞬間、"それ"は吹き飛んでいた。
「……え?」
リラは、自分の手を見つめる。
指先から、"何か"が弾けるような感覚。
何が起こったのかはわからなかった。
だが……
目の前の"それ"は、遠くの壁に叩きつけられ、動かなくなっていた。
リラの意識が、一気に揺らぐ。
「……ママ……」
彼女は、ゆっくりと崩れ落ちた。
…意識が、暗闇に沈んでいく。
その日、人類の凡そ半数が死滅した…。
― プロローグ完 ―