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かつて私達は友達だった。

作者: 彼岸花

 たとえ飢え死にするとしても、ここにいるよりましだ。寧ろその方が遥かに素晴らしい。と、少女は考えました。

 少女は自分の近くに他の人間がいることをとても不愉快に感じていたので、家を出て一人で生きていくことにしました。その日は快晴で空気も乾いており、時折吹く風が心地よく感じられました。

 少女は自分の持ち物を全て持っていきたいと思いましたが、一人で運ぶには量が多過ぎます。持てる量だけを選り分けて、残りはこの家に置いていくしかありません。しかし、家に置いておくと他の人間に勝手に触られてしまいます。そこで少女は家を出る時、火をつけていくことにしました。全て燃やしてしまえば、勝手に触られることもありません。これで安心です。

 さて、少女は自分の持ち物の中からどれを持っていくのか選定を始めましたが、考えてみると必要なものなんて何一つありませんでした。

 少女は玄関を出て家に火をつけると、当てもなく歩き始めました。兎に角歩こう、そうして出来る限り遠い所へ行こうと決めていました。

 歩き始めて早い内は見慣れた景色が続きます。少なくともこの左右に見える物々が全て知らないものに変わるまで歩いて行こうと少女は思いました。

 風が、知らない匂いを運びます。どこか遠くの町で、何もない人間が今日のパンを探している、そんな匂いがします。そして少女は虫のようにその方向へと足を進めます。

 暫く歩いても少女に疲れた様子はありません。ただ、喉が渇いてきたようには感じます。どこかで飲み物を手に入れたい。次に人を見かけたら飲み物を譲ってもらおうと、そう決めました。

 少女は家から物を持って来ませんでしたが、お金は持って来ました。少女が持っていたお金全てを持って来ました。お金なら大した荷物にならないし、使い所は沢山あります。このお金で飲み物を手に入れて、風の吹く木陰で休憩しようと決めました。

 少女が歩いていると一軒の建物が見えてきました。それは一般的な家より大きな二階建ての建物でした。少女が中に入ると大人の男が話しかけてきました。話を聞いていると、ここは掃除屋さんらしいのでした。少女は丁度良いと思いました。このままだとお金は減る一方なので、なにか仕事が欲しいと思っていました。少女は早速男にここで働きたいと申し出ました。男は少女を奥の部屋へと案内し、そこで二人は幾らか言葉を交わした後、少女はこの掃除屋さんで働けることになりました。

 掃除屋さんになった少女の元へ早速初仕事がやってきました。それは噴水の掃除をして欲しいという依頼でした。その噴水は水が流れなくなっていたので掃除をして再び水が流れるようにしてほしいとのことでした。

 少女は依頼主の元へ出発しました。初めての仕事にドキドキしながらも、楽しみに感じてもいました。

 少女が歩いていると大きな門が見えてきました。門は所々錆びています。そして門の向こうに廃れた噴水が見えました。周りは雑草が高い位置まで生い茂っています。

 少女が家主を呼ぶと、中から男が出てきました。自分が依頼を受けた掃除屋さんだということを告げると、男は噴水についての説明を聞かせてくれました。

 少女は早速掃除に取り掛かります。ゴミを取り除いて錆を落とし、詰まりを取り除いてピカピカに磨きます。そうして全ての作業を終えると水を流しました。すると噴水は綺麗に水を噴き上げて小さな虹をかけました。

 男は少女に礼をして、少女は掃除屋さんの建物へ帰ります。掃除屋さんへ戻り、報告を済ませると、この仕事は終わりです。

 掃除屋さんの建物に戻って男に報告すると、男はお金を渡してくれました。少女が報酬を貰って外に出ると、辺りは暗くなってきていました。

 少女には家がないので、今晩寝る所を探さなくてはいけません。少女は歩き始めます。明かりも持っていないので真っ暗闇になる前に良さそうな場所を見つける必要があります。月明かりを目指して足を進め、ついに寝心地の良さそうな場所を見つけました。

 少女は仰向けに寝転びます。今日は疲れたけれどとても良い一日になった、と少女は思いました。明日からも掃除屋さんとして働いてお金を貯めて、早く家を手に入れたいと思いました。少女は今までの人生で最も安心していました。心が満たされて気がつくと眠っていました。

 翌朝少女が目を覚ますと、左手首に傷が出来ていました。屹度、昨日噴水の掃除をしている時か、草が茫々に生えている所を歩いた時か、寝ている間に出来た傷だろうと思いました。

 少女は掃除屋さんを目指して歩き始めました。今日も仕事をしてお金を稼ごうとしていました。

 掃除屋さんへ向かう道中で少女はとても格好良い男の人と出会いました。その男はこの上ない心の美しさを持ち、使い切れない程の富を持っていました。人間が欲しいと望むもの全てを手にしているような男でした。少女にとってその男は王子様のように見えました。そして少女はその王子様を愛し、王子様は少女を愛して、二人は恋人になりました。少女は掃除屋さんとして働くことを辞め、王子様と共に暮らしました。そして王子様は死にました。

 それからその数日後、少女は毒で死んでしまいました。恐らく掃除屋さんとして働いている時に毒に感染してしまったと思われます。孤独な少女は人知れず死に、死んだ体は動物や小さな生物に骨まで食べ尽くされました。そして少女を食べた生き物達は少女と同じ毒に感染し、そうして人間を含む全ての生物に少女の毒が伝播していきました。そして全ての生物は死にました。

 めでたし、めでたし、ざまあみろ。

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