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八章 紅雷対青月

同年七月十二日。

タンダ地下墓地に入った香澄・赤雷は地下の礼拝堂に向かって歩く。

「どこだよ・・・」

香澄・赤雷は周りを見てそう言った。

「・・・あれ?」

香澄・赤雷は掃除された墓石を見て不思議そうに言った。

香澄・赤雷は紅雷刀を持って歩き出した。

香澄・赤雷は墓石を掃除する青月(あおつき)を見ると、足を止めた。

「・・・」

香澄・赤雷は青月を見ると、青月に向かって歩みを進めた。

「生活区には行かないのですか?」

青月は墓石を掃除しながら言った。

「・・・あなたは?」

香澄・赤雷は青月を見てそう言った。

「人のような名前はありません。青月と呼ばれています」

青月はそう言うと、腕を前に出して力を込めた。

その瞬間、青月の腕に紅雷刀が当たって青月の腕が少しだけ斬れた。

「死人を起こすつもり?迷惑でしょうが」

青月は香澄を見てそう言った。

紅雷刀を握った香澄は飛び退いて青月を見た。

「自己中で自意識過剰・・・クズですね」

青月はそう言うと、再び墓石を掃除し始めた。

「・・・どういうつもり?」

紅雷刀を握った香澄は笑いながら言った。

「ここに眠る人たちはこの島の土に還ることを選んだのですよ?」

「そんな故郷を愛する人たちが良き来世に恵まれるよう祈るのは、神も人も同じだと思いますけどね」

青月はそう言うと、汚れたブラシをバケツで漱いだ。

「・・・」

紅雷刀を消滅させた香澄は墓石を掃除する青月を見つめた。

「まぁ、死後の転生なんてあなたには関係ありませんものね」

青月は墓石に花を手向け、墓石を見てそう言うと笑った。

「何のために島を攻撃したの?どれだけの人が家や財産を失ったか・・・」

香澄・赤雷は青月を見てそう言った。

「それは天道の勇者様に直接聴けばよろしいのでは?」

ブラシが差されたバケツを持った青月は別の汚れた墓石に移動しながら言った。

「・・・確かにね・・・」

香澄・赤雷は青月を見てそう言った。

「怖いのですか?」

青月は汚れた墓石を掃除しながら言った。

「怖くなんてないよ。あいつが憎いだけだ」

香澄・赤雷は笑いながら言った。

「何が憎いんですか?文武両道で正義感も強くて仲間思い・・・」

「欠点を上げる方が難しいと思うのですが」

手を止めた青月は香澄を見てそう言った。

「あいつは次女だ。次女は出しゃばるべきじゃない。それがこの島の規則だ」

香澄・赤雷は青月を見て怒りが籠った声でそう言った。。

「立華 世梨香の死後、テリュスが作り出した規則が島の規則ですって?」

青月は墓石を掃除しながら言った。

「天日の大君様から知恵と恵みを受けて生きて来た民族がそんなことを言うなんて笑えますね」

青月は笑いながら言った。

「・・・」

香澄・赤雷は青月を睨んで歯を食いしばった。

「あなたはどこにでもいるバカ者です」

青月は香澄を見てそう言った。

「何もかも間違い、間違いを重ね続ける。どこまで間違い続けるのか、楽しみにしていますよ」

青月は香澄を見て笑みながらそう言うと、笑った。

掃除を終えた青月は道具を片付けて地下墓地から出た。


同年七月十三日。

地下墓地から出た香澄は中央に向かって進み始めた。

「・・・私は間違ってない・・・間違ってない・・・」

香澄・赤雷は光の柱を見ながらそう言った。

その時、子供の声が聴こえた。

「ママ!」

香澄が足を止めて振り返ると、香澄の横を子供が通り過ぎた。

「ッ!!」

香澄・赤雷は驚きながら子供を視線で追い、子供の後姿を見た。

「ママ!」

霧のような子供は霧のような大人に抱きつくと、嬉しそうに手を繋いだ。

「アン・・・ということは・・・」

香澄・赤雷は霧のような大人を見て驚きながらそう言うと、霧のような子供を見た。

香澄・赤雷はエリオット親子を見ると、早歩きで前に進む。

「ユキュア、売っているようなお酒や煙草は偽物だよ」

アンは幼いユキュアを見て笑みながらそう言った。

「そうなの?」

幼いユキュアはアンを見てそう言った。

「本物のお酒や煙草はとても綺麗なお祭りの日に貰えるとても美しいものなんだ」

「お祭り!?どれくらい綺麗なの!?」

目を輝かせた幼いユキュアはアンを見て笑みながら言った。

「島中が提灯でキラキラになって、島中から楽器の音が聞こえてきて、みんな仲良く過ごすんだ」

「みんな仲良く!?綺麗なお祭りはいつ始まるの!?」

増々目を輝かせた幼いユキュアは飛び跳ねながら言った。

「・・・いつだろうね・・・」

眉を顰めたアンは少し悲しそうに言った。

「今すぐ開こうよ!祭りが始まれば戦争だって終わるじゃん!」

幼いユキュアは駄々をこね始めた。

「寒い日が一年続かないとお祭りは開かれないんだよ・・・もう少し待とうね」

眉を顰めたアンは幼いユキュアを見て笑みながら言った。

香澄・赤雷の歩く速度が速まる。

しかし、霧は消えることなく香澄に幻を見せ続ける。

本を持って活き活きとした幼いユキュアとアンが流れるように視界に入る。

「・・・これが聖地・・・」

ユキュアは発電所を見てそう言うと、歯を食いしばって黙った。

「・・・この発電所の発電装置は回帰の眠りについた天陽神様が入った黒い棺なんだよ」

アンは発電所を見てそう言った。

「この発電所ができてから七華族がケンカするようになり、華本本家の当主が立華分家の当主に殺されて戦争が起きたんだ・・・」

アンはそう言うと、拳を握り込んだ。

「この発電所があるからみんな楽しくて幸せに過ごせている。立華家の当主はそう考えてるんだ」

アンがそう言うと、ユキュアが声を出して泣いた。

「ふざけんじゃねぇよッ!!今のどこが楽しくて幸せなんだよ!!」

泣き崩れたユキュアは泣きながら怒鳴ると、地面を叩いた。

香澄は下を向いたまま全力で走り始めた。

しかし、視界からユキュアたちが消えることはない。

「・・・地下って結構いい所だね。もっとじめじめしててカビ臭い場所だと思ってたよ」

石の床に座ったユキュアは笑みながらそう言うと、グラスを持ってワインを飲んだ。

「先人たちが残したものだからってみんなが頑張って管理してるんだ」

石の床に座ったアンは嬉しそうに言った。

「私が幼かった頃はとても寒かったから、みんなで地下に住んで暖を取っていたんだ」

アンは笑みながらそう言うと、グラスを持ってワインを飲んだ。

「楽しかったなぁ~・・・みんなで吹雪の音を聴きながらじっとお祭りを待つ日々・・・」

グラスを持ったアンは楽しそうに言うと、ワインを飲んだ。

「良いなぁ~・・・」

グラスを持ったユキュアはアンを見て笑みながらそう言った。

「みんな暗い顔してたけど、心はとても温かくて面倒見が良かった」

「私が風邪をひいた時なんて、みんなで交代交代に看病してくれたんだよ?」

グラスを持ったアンはユキュアを見て笑みながら言った。

「今じゃ考えられないね」

「お祭りが始まればみんな元に戻るよ」

ワイングラスを持ったアンは笑みながらそう言うと、ワインを飲んだ。

「お祭りを開くって難しいことだよ」

「あの発電所が壊れれば、またお祭りが開かれる」

アンはユキュアを見て笑みながらそう言った。

「もう!!何なんだよ!!」

香澄・赤雷は走りながら怒鳴った。

「ま、街が・・・」

「発電所が・・・」

多くの人が絶望する中、ユキュアは壊れた発電所を見て笑みながら目を輝かせた。

(お祭りが始まる・・・みんなが楽しく幸せに暮らす日々が始まるんだ!!)

目を輝かせたユキュアは壊れた発電所を見て笑んだ。

「・・・」

足を止めた香澄・赤雷は青月を睨んだ。

「あなたの知り合いからお願いされたので、あなたにあなたの知り合いの記憶を見せました」

扇子で口持ちを隠す青月が香澄を見て笑みながらそう言うと、霧が飛散して消えた。

「ふざけるなよ・・・ユキュアとアンが幸せじゃなかったはずがない!!」

香澄・赤雷は青月を睨みながら怒鳴った。

「ふざけるな?」

閉じた扇子を下ろした青月は向かってくる香澄を見て首を傾げながらそう言った。

「・・・」

向かってくる香澄を見る青月は振られる紅雷刀を扇子で防いだ。

青月は人差し指と中指、二本の指で香澄のみぞおちを突く。

すると、香澄はみぞおちを押さえながら崩れ落ちた。

「どうしてあなたの口からその言葉が出てくるのでしょう」

青月はそう言うと、扇子を広げた。

「あなたこそそう言われる存在でしょう?」

青月は香澄を見てそう言った。

「戦争を起こして島中を引っかき回した挙句、のんびり暮らしたいからと戦争を他者に任せて自分は田舎に籠ったバカ者」

青月は香澄を見て笑みながら言った。

「ウゥアァァァァ!!!!」

香澄は目を見開き、叫びながら紅い稲妻を放った。

青月は魔剣ラ・ヴィクターを軽く跳ね避けた。

「・・・」

魔剣ラ・ヴィクターを握った魔神テリュスは青月を見た。

「・・・」

青月は扇子を広げた。

魔剣ラ・ヴィクターを構えた魔神テリュスは青月に向かって飛んだ。

魔剣ラ・ヴィクターを握った魔神テリュスは魔剣ラ・ヴィクターを振る。

振られる魔剣ラ・ヴィクターは途轍もない量の稲妻を放ち、雷鳴が轟いた。

「・・・」

青月は軽く着地し、向かってくる魔神テリュスを見た。

魔神テリュスは魔剣ラ・ヴィクターを振り、青月は扇子で振られた魔剣ラ・ヴィクターを防いだ。

すると、金切り音と重低音が混ざった異音が発生し、空間が揺らいだ。

魔神テリュスと青月はお互いに吹き飛び、転がった。

「素晴らしい・・・これが気気滅却の法則」

青月は笑みながらそう言うと、淡い橙色の水晶がはめられた腕輪を見た。

(青月よ、聞こえるか)

青月の頭の中にフンケルンの声が響く。

(はい、フンケルン様)

立ち上がった青月は念話をした。

(テリュス権能を確保し、私の所へ来い)

(・・・どういうことですか?)

(私がその力で世の主六合に代わる大神になる)

(・・・わかりました)

青月は魔剣ラ・ヴィクターを避けると、魔神テリュスの腹部を腕で貫いた。

「・・・」

魔神テリュスは魔剣ラ・ヴィクターを落とし、驚きながら青月を見た。

「世の大権はいただきますよ。立華 香澄」

青月は魔神テリュスを見て笑みながらそう言うと、手を引き抜いた。

すると、紅い稲妻が弾けて香澄に戻った。

血を吐いた香澄は地面に倒れた。

「・・・」

紅い稲妻を纏う水晶板を持った青月は紅い稲妻を纏う水晶板を見ると、香澄に背を向けて歩みを進めた。

「全く・・・ここで死なれると困るというのに・・・」

三葉は白い狐耳を動かしながらそう言うと、香澄に駆け寄った。


「ッ・・・!!」

香澄は驚きながら目を覚ました。

「・・・行かなきゃ・・・」

香澄はそう言うと、中央に向かって歩き始めた。

香澄は中央に近づくにつれて幻聴が聴こえて幻覚が見える。

香澄は強烈で鮮烈な幻聴と幻覚を見ながら進む。

中央に向かって進む香澄は徐々に幼くなっていく。

「お婆様・・・」

香澄は涙を流しながらそう言うと、照香の後姿を追った。

しかし、照香の後姿は離れ続ける。

「お婆様!!」

涙を流す香澄は照香の後姿を追いながら叫んだ。

「そっちへ行くな!行っちゃダメだ!」

少年のような誰かの声が聴こえると、香澄が足を止めた。

「誰!?」

香澄は周りを見てそう言った。

「・・・」

少しためらった香澄は振り返った。

「ママは私たちを助けてくれるんだよね?」

ぬいぐるみを持った香奈は香澄を見てそう言った。

「・・・」

元の大きさに戻った香澄は目を見開き、香奈を抱きしめて瞼を閉じた。


「・・・」

香澄は目を覚ました。

「目が覚めたか」

三葉は香澄を見てそう言った。

「・・・三葉・・・」

香澄は三葉を見てそう言うと、ゆっくりと起き上がった。

「・・・妾は白狐 真白じゃ。神里 三葉であると嘘をついた」

「どうして嘘をついたの?」

香澄は真白を見てそう言った。

「妾はお前の曾祖母と戦った神じゃ。奴とはかなりの因縁があった」

「照香曾お婆様は昔のことを話したがらなかった。親しい友を手にかけてしまった・・・とだけ言ってた」

「・・・友か」

「神力は使える?私の力はあいつらに奪われちゃったからさ・・・」

香澄は真白を見て笑みながら言った。

「大した術は使えぬ。じゃが、テリュスを取り戻す手助けくらいならできるじゃろう」

「頼んで良い?」

「もちろんじゃ」

真白は香澄を見て笑みながら言った。

香澄と真白は中央に向かって再び歩きだす。

中央に近づく度に異常現象が強くなる。

銀色の吹雪、黄金の風、翠色の雨、青色の炎、金色の光が異様な景色を創る。

香澄と真白が歩みを進めていたその時、香澄と真白の足元の雪が輝いた。

「転移術じゃ!!全身に力を込めろ!!」

真白は光を見て大声でそう言った。


「しっかりするのじゃ」

真白に起こされる香澄はふらつきながら立ち上がって周りを見た。

装飾が施された壁、橙色のカーペットに黄金の椅子、壁には美しい陶芸品や絵画が並べられている。

「・・・」

香澄と真白が見る先には、黄金の玉座がある。

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