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六章 陽に思いを・・・

香澄は明るさと賑やかな音色で目を覚ます。

「・・・」

幼い頃の香澄は瞼を開けた。

「綺麗・・・みんな幸せそう」

幼い頃の香澄は周りを見て笑みながら言った。


普段薄暗い島がこの時だけは明るくなる。

天陽顕現祭(てんようけんげんさい)・・・この祭りは寒く、凍てついた土地を温かくしてくれる。

そして、たくさんの恵みをもたらしてくれる。

普段は冷たく、暗い人々もこの時ばかりは温かく、明るくなる。


「照香曾お婆様、どうしてこんなに明るくて温かいの?」

幼い頃の香澄は曾祖母、立華 照香を見て笑みながら言った。

「そうだな・・・島の外から色々な神様や人が来るから・・・かな」

照香は香澄を見て少し困ったように言った。

「ミューテ様だ!」

「これが七陽の勇者の一柱・・・」

ワイン瓶を持った島民たちは笑みながらそう言った。

「勇者・・・」

香澄は煌びやかなマントを羽織った烏輪(うわ)の勇者、ミューテ・レン・アンソロジーを見て目を輝かせ、笑みながら言った。


美しかった、力強かった。

あの人は力が一番弱い勇者だと聞いた。

でも、そんな最弱の勇者でも照香曾お婆様を圧倒してしまうほどの力を持っている。


ミューテは白い狐の面を被った六合を見て笑みながら言った。

白い狐の面を被った六合はミューテを見て笑みながら言った。


二人が何を話しているかはわからなかった。

でも、あの勇者がどれだけすごいかはわかった。

誰もが頭を垂れて蹲う存在を直視し、自然と話すその姿。

華族と呼ばれる存在ですらここまでは出来ないのに・・・


「綾香お母様!」

香澄は立華 綾香大祭司を見て笑みながら言った。

「香澄ちゃん、棺にお祈りはした?」

綾香は香澄を見て笑みながら言った。

「棺の近くに六合様がいて・・・」

眉を顰めた香澄は綾香を見てそう言った。

「六合様はお祈りの邪魔をするような悪い神様じゃないよ。ちゃんとしてきなさい」

綾香は香澄を見て叱るようにそう言った。

「はーい・・・」

香澄はそう言うと、黒の棺に向かって走った。


黒の棺は明るく、とても温かい。

何もないただの棺だと思っていた。

でも、この棺があれば・・・


「・・・」

祈りを捧げた香澄は黒の棺を見た。

「小娘」

白い狐の面を被った六合がそう言うと、香澄は白い狐の面を被った六合を見た。

「何を考えている」

白い狐の面を被った六合は香澄を見てそう言った。


何もない言葉、怒りが籠っているわけでもなければ悲しんでいるわけでもない。

無垢・・・この何もない感じが一番恐ろしかった。

湧き上がる恐怖、何か悪いことをしたのだろうか。

お母様は頭を垂れて蹲い、謝り続ける。

なぜ謝っているのかわからない・・・今も分からない。


「小娘」

白い狐の面を被った六合がそう言いながら綾香に触れると、綾香が頭を上げた。

「お前はいつかこの俗世を敵に回すだろう。世の主たる私に恐怖を抱くなら、一つ一つの行動をより多くの視点で、より深く考えろ。一つ、また一つと間違えば、世界から消えることになる」

白い狐の面を被った六合は香澄を見てそう言った。


白い狐の面を被った者は、白い狐の面に触れた。

そう、取るような仕草だった。

でも、その動きは誰かに優しく止められるように止まった。


「・・・」

ぶどう飴を持った幼い頃の香澄は眉を顰めながらぶどう飴を見た。

「香澄、見てみろ。綺麗な舞だろう?」

照香の声を聞いた幼い頃の香澄は顔を上げて舞を見る。


鈴を使った舞い。

名前は天理照赫 梨々香聖皇の旅 始幕 破邪照陽舞。

鳴り響く力強い太鼓と美しい笛の音。

何かと戦っているような力強さ、何かを守っているような優しさ・・・

その舞を舞い踊っているのはあの白い狐の面を被った者だった。


「・・・」

白い狐の面を被った六合は鈴を振り、舞い踊る。


その美しさに誰もが息を呑む。

そして、その熱さは人々を驚かせる。


「友よ、何も気にせず生きろ・・・」

白い狐の面を被った六合はそう言うと、鈴に揃えた指を当てるように構えた。


祭りの終わり・・・それは、空に昇る青い星が消える時。

太陰(たいいん)星一撃(せいいちげき)

舞の終わりにあの人はそう言っていた。


「・・・」

地下墓地の礼拝堂にある長椅子に寝転がった香澄はゆっくりと目を覚ました。

香澄は起き上がって周りを見ると、立ち上がって礼拝堂の外に向かう。

香澄は墓地を見渡し、ユキュア・ノワールを見つけた。

「ユキュア」

香澄は墓石にもたれかかったユキュア・ノワールを見てそう言った。

「起きたか」

ユキュア・ノワールは香澄を見てそう言った。

「懐かしい夢を見たよ・・・」

「楽しい夢だったか?」

「あんまり・・・」

香澄はユキュア・ノワールの前に座りながらそう言った。

「先生は?」

香澄はユキュア・ノワールを見てそう言った。

「先生なら礼拝堂の奥だ。煌月について調べてる」

「そっか」

香澄は周りを見てそう言った。

「そう言えば、日菜はどうして神核を欲してたの?」

香澄はユキュア・ノワールを見てそう言った。

「時計を作るために水晶が必要だったんだってさ」

ユキュア・ノワールは香澄を見てそう言った。

「そんなことのためにあんな強い便利屋に依頼したのか・・・」

「あいつ、煌月の正体を知ってた」

「正体!?教えてもらったの?」

香澄はユキュア・ノワールを見て驚きながらそう言った。

「あぁ、教えてもらった」

ユキュア・ノワールはそう言うと、煙草を銜えた。

「・・・煙草、嫌いだったでしょ?」

「嫌いだよ・・・でも、煙草は色々なことを思い出させてくれる」

ユキュア・ノワールは彫刻が施されたライターを見てそう言った。

「・・・」

香澄は彫刻が施されたライターを見て黙祷した。

「後悔してるぜ、私」

ユキュア・ノワールはそう言うと、煙草に火をつけながら吸い、咽ながら煙を吐き出した。

「幸せな人生だったな・・・なんて、今は口が裂けても言えねぇ」

ユキュア・ノワールは煙草の火を見てそう言った。

「・・・」

眉を顰めた香澄はユキュアを見た。

「母さんは死ぬまでずっと言ってた。マジ無意識で言ってんなって感じでさ」

ユキュア・ノワールは笑いながらそう言うと、煙草を吸った。

「この島の価値って何だろう。って」

ユキュア・ノワールは天井を見てそう言った。

「・・・」

香澄は煙草を見た。

「あの言葉が今になってじわじわ効いて来てるんだよ・・・」

ユキュア・ノワールは煙草を銜えてそう言った。

「香澄、この島の価値って何だと思う?」

煙草を銜えたユキュア・ノワールは香澄を見てそう言った。

「みんなが楽しく過ごせる。これが価値だと思う」

香澄はユキュア・ノワールを見てそう言った。

「そうか・・・やっぱり、価値はとっくの昔になくなってたのか・・・」

ユキュア・ノワールは笑いながらそう言った。

「ここにおったのか」

三葉は香澄とユキュア・レプシデシアを見てそう言った。

「先生、何かわかったんですか?」

香澄は三葉を見てそう言った。

「いや・・・それが・・・」

三葉は香澄を見てそう言った。

「?」

香澄は三葉を見て首を傾げた。

「調べている間になぜか砕け散ってしまった・・・」

三葉は水晶片を見せながら言った。

「何してるんだよ!!」

香澄は水晶片を見て怒鳴った。

「でも、大丈夫。ユキュアが煌月の正体を知ってるって」

香澄は三葉を見て笑みながらそう言うと、ユキュアを見た。

その時、レプシデシアがガサガサと音を立てて草の上に落ちた。

「・・・そ、そんな・・・」

香澄はユキュアを見て冷や汗をかきながらそう言うと、脈を計った。

「・・・急すぎるよ・・・」

眉を顰めた香澄はユキュアを見てそう言った。

「エリオットは最初からここで死ぬつもりだったのじゃろう」

三葉は香澄を見てそう言った。

「どうして・・・!!」

香澄は悲しそうに言った。

「エリオットは煙草と酒を執拗に嫌っておった。母と過ごした日々を思い出すから嫌だとかなんだとか」

「・・・ユキュアのお母さんは戦場精神病の患者だったんだ」

眉を顰めた香澄はユキュアを見てそう言った。

「戦場精神病・・・心的外傷後ストレス障害のことじゃな」

「戦場精神病から転じてアルコールとニコチンに依存・・・」

「暴力や暴言はなかったけど、口を開けば酒が欲しい煙草が欲しいって言うから大変そうだったよ」

眉を顰めた香澄は三葉を見てそう言った。

「お主、エリオットと知り合いだったということはエリオットの母とも知り合いだったのじゃろう?」

三葉はユキュアを見てそう言った。

「まぁね・・・」

「精神病の症状に気付かなかったのか?それとも、気付いていたのに放置したのか?」

三葉は香澄を見てそう言った。

「気付いていたよ」

香澄は三葉を見てそう言った。

「なぜ放置した。精神病を放置する・・・それはつまり、殺人だ」

「仕方がなかったんだよ!戦力がかつかつだったんだから!!」

香澄は三葉を見て大声でそう言った。

「・・・はぁ・・・もう良い」

三葉はため息をついてそう言った。

「何か文句あるなら言ってよ!!私は何も悪くないんだから!!」

香澄は三葉を見て怒鳴った。

「お主は実の娘よりも喧嘩の方が大切なのか?」

三葉は香澄を見て呆れたように言った。

「・・・」

香澄は三葉を見て黙った。

「行くよ・・・」

香澄はそう言いながら地下墓地の出入り口に向かって歩いた。

(聞いていた通りのゴミ人間だな。あんなゴミが人を纏めていたなんて信じられない)

三葉は香澄を見た。

(不愉快だ。一大神を手に入れるためとは言え、こんなゴミを生かしておくなんて・・・)

三葉は地下墓地の出入り口に向かって歩き出した。

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