三章 八重の夜桜
神代第二百四十九合期九百九十九万二千五十三年、七月二日。
抵抗軍グローリーが反攻作戦を開始した。
グローリーは大陸中部を目指して侵攻。
香澄の協力もあり白陽姫部隊を撤退まで追い込んだ。
しかし、グローリーは戦力の七割を失い、残りも戦意を喪失している。
「・・・」
煙管を銜えた香澄は煙を吐いた。
「香澄、お前の力がなければ間違いなく全滅していた。感謝する」
ユキュアは香澄を見てそう言った。
「どちらにしても状況は最悪だけどね」
香澄は負傷兵たちを見てそう言った。
「しかし、全て負傷止まりとは・・・今回は完全にこちらを潰しに来ているな・・・」
ユキュアは負傷兵たちを見てそう言った。
「相手は戦争をしたことがあるのかね。支配だけ考えるような奴がこんな戦い方するとは思えないよ」
香澄は煙管を持ってそう言った。
「先生によると、煌月と五色の月は近年現れた若い神とのことだ。神々の戦争に月の神が居た記録もない」
ユキュアは香澄を見てそう言った。
「あの人のことは信じすぎない方が良いよ。何か隠してるから」
香澄はユキュアを見てそう言った。
「私たちは自由を得るために結託したに過ぎない。隠し事があろうと気にしない。お前のことを詮索しないのもそう考えているからだ」
「・・・そっか」
香澄はそう言うと、裏にした煙管を叩いて火種を捨てた。
同年七月三日。
敵の拠点が島内北部旧リバカナト町周辺にあると偵察隊が確認。
グローリーは敵の拠点を叩くため荒廃基地から武器を運び出す。
「この時期なのにここまで冷えるのか・・・」
普段より厚着をしたユキュアがそう言う度に白い息が漏れる。
「やっぱり人工四季は偉大だったでしょ?」
香澄は武器庫のダイヤル式ロックを回しながら言った。
「あの発電所が使えなくなるだけでここまで生活し辛くなるのか・・・さっさと取り戻さないとな」
ユキュアは香澄を見てそう言った。
「・・・この島の価値って何だと思う?」
「難しいこと聞くんだな」
ユキュアは次々と解除されるロックを見てそう言った。
「どれだけ寒くても、どれだけ苦しくても、誰かを叩いて良い理由にはならない。伝統によって育まれて来たこの意識がこの島の価値・・・なのかな」
香澄はユキュアを見てそう言った。
「伝統には高い価値があったのは確かだろう」
ユキュアは香澄を見てそう言った。
「生活区っていう伝統が色濃く残った場所に島民がすんなり入ったことがその証明だ」
ユキュアは武器庫を見てそう言った。
「昔ね?剣帝の称を持つ燦水剣士に七華族の役目を教えてもらったことがあるんだ」
香澄は鍵穴式ロックを解除しながら言った。
この島の伝統祭事、天陽顕現祭を執り行うことが許された七名。
その七名から始まる一族が華族と呼ばれ、特殊な階級を持っていた。
初代大祭司、立華 世里香から始まる立華一族。
初代祭司、華凛 玲香から始まる華凛一族。
初代大巫女、華流 由香から始まる華流一族。
初代大演舞者、華本 巳瑠香から始まる華本一族。
初代笛奏者、華澤 香里から始まる華澤一族。
初代大太鼓奏者、穂華 陽香から始まる穂華一族。
初代小太鼓奏者、斎華 瑠香から始まる斎華一族。
七つの一族は世の主を直視することを許され、年に一度訪れる豊穣の時を民と喜んできた。
「七華族の役目って何なんだ?」
ユキュアは香澄を見てそう言った。
「七華族は受け取った富を分け与える重要な存在だって言われた・・・だけど、私は納得できなかった」
香澄は鉄の扉を開けながらそう言った。
「聖地を中心にして生きていればみんな豊かに生きられる。実際、みんな豊かに暮らしてたじゃん?」
香澄はユキュアを見てそう言った。
「私が生まれた時にはもう戦争が始まってたからな」
ユキュアは武器庫に入りながらそう言った。
「母ちゃんからそう言う昔の話を聞く余裕もなかった」
ユキュアは武器を運び出しながら言った。
「・・・・・・そっか」
香澄は小型の爆弾を見てそう言った。
グローリーは武器を運び出すと、確認を始めた。
「A3-09に搭載できる爆弾はこれだけか・・・」
グローリーの戦闘員1は小型の爆弾を見てそう言った。
「威力も低い。敵拠点の規模を見ると威力も量も足りない」
香澄は小型の爆弾を見てそう言った。
天空神装A3-09は人が邪悪と戦うために神が用意した武装である。
A3-09は適性こそ必要ではあるが無限に飛行することが可能であり、操縦士の考えですぐに操れる優れものだ。
香澄たちが見ている爆弾は、そんなA3-09に搭載できる五十キロ爆弾級の爆弾である。
「数が足りなくてもやるしかないだろ」
ユキュアは小型の爆弾を見てそう言った。
「人工神装はどれくらいあるの?」
香澄はユキュアを見てそう言った。
「動けるものは三十機もない」
ユキュアは香澄を見てそう言った。
「人工神装はエンジンの出力が弱いからな~・・・」
香澄はしょんぼりしながら言った。
「二発積めば六十発は投下できる。六十発もあれば何とかなるだろ?」
「全弾投下できたことなんて今まであった?半壊で三十発、壊滅で十五発、私とユキュアだけだと十二発・・・足りないでしょ」
眉を顰めた香澄はユキュアを見てそう言った。
「じゃあ、どうするんだよ!」
ユキュアは香澄を見て怒りながら言った。
「わからないよ。作戦の指揮は日菜がやってたでしょ?」
「私の力で何とかするよ!」
香澄はユキュアを見て笑みながら言った。
「・・・頼って良いんだな?任せて良いんだな?」
ユキュアは香澄を見てそう言った。
「もちろん」
香澄はユキュアを見て嬉しそうに言った。
同年七月四日。
雲が多く月光も天楼の光も届かない中、グローリーが島内北部旧リバカナト町周辺上空に侵入した。
A3-09を装備した香澄たちは細心の注意を払いながら敵の拠点に接近する。
(気温が低すぎる・・・人工神装組は不味いかもしれない・・・)
香澄・赤雷は周りを見た。
人工神装の操縦士たちが温度を上げるためにエンジンの出力を上げ下げし始めたその時、下から白い光の粒が大量に飛んできた。
(あぁ・・・)
航空士は迫る白い光の粒を見た。
その瞬間、白い光の粒が次々と爆発した。
「クソ!エンジンを吹かしたせいだ!!」
紅雷刀を握った香澄・赤雷は飛び回る白陽姫を斬りながら言った。
「島本来の気温を調べるべきだった!」
エネルギー砲を構えたユキュア・ノワールは飛び回る白陽姫を撃ちながら言った。
「何とか投下するぞ!!」
エネルギー砲で白陽姫を撃つユキュア・ノワールがそう言うと、人工神装たちが急降下した。
白い光の粒が飛び交い、逃げ場はない。
人工神装は瞬時に防御壁を破られて次々と撃墜される。
「クソ・・・どうせ死ぬなら・・・」
人工神装1は急降下しながら言った。
「おりゃぁぁぁぁ!!!!」
人工神装1は叫びながら急降下する。
人工神装1が雲を抜けて拠点に接近したその時、人工神装1が空中にある何かに激突して爆発を起こした。
「防御壁だ!」
紅雷刀を握った香澄・赤雷は炎が出す光を反射して光る防御壁を見てそう言った。
「香澄!任せたぞ!!」
エネルギー砲を構えたユキュア・ノワールはそう言うと、引き金を引いた。
エネルギー砲から放たれる何発ものエネルギー弾が防御壁に直撃し、防御壁が大きな音を立てて割れた。
「・・・」
紅雷刀を握った香澄・赤雷は防御壁の破片を腕で防ぎながら突入する。
紅雷刀を握った香澄・赤雷が着地すると、着地を狙った白陽姫が香澄を囲う。
香澄・赤雷は紅い稲妻を放つ紅雷刀を大きく一振りし、白陽姫たちを蹴散らした。
紅雷刀を握った香澄・赤雷は装備のエンジン出力を軽く上げて走る。
白陽姫は香澄を阻むが、紅雷刀がそれを蹴散らす。
「・・・」
紅雷刀を握った香澄・赤雷は椅子に座り、頬杖を突いた桃色髪の女性を見た。
「見つけた・・・五色の月!!」
香澄は笑みながらそう言うと、紅雷を放った。
しかし、紅雷は弾けてなくなり、香澄は魔神テリュスになれない。
「どうしてッ!!」
香澄・赤雷はそう言いながら急減速して着地した。
土が舞い上がり、土煙が辺りに立ち込める。
「神気封じの術だ」
桃色髪の女性、桃月は香澄・赤雷を見てそう言った。
「・・・」
紅雷刀を握った香澄・赤雷は桃月に紅雷刀を振る。
「女童」
桃月はそう言うと、振られた紅雷刀を受け止めた。
(う、動かないッ・・・!)
紅雷刀を握り込んだ香澄は掴まれた紅雷刀を見て冷や汗をかいた。
「テリュスの力がないと何もできないとは・・・何とも情けない」
桃月は紅雷刀を掴んだままそう言うと、神気風を放つ。
すると、香澄が血を吐いて崩れるように倒れた。
「女童、お前は素晴らしい瞳を持っておるな」
桃月は香澄を見てそう言った。
「・・・」
香澄は桃月を睨んだ。
「天日の大君様が貴様にこの瞳を授けるとは思えぬ」
桃月は香澄の瞳を見てそう言った。
「女童には似合わない」
桃月はそう言いながら香澄の目に手を伸ばす。
香澄の目に近づく桃月の手が止まった。
「・・・」
桃月は腕を掴む水色眼、桜色の狐耳に桜色髪ミディアムボブヘア。桜色が基調の服を着た女性を見た。
「奇妙な気を感じる。何者だ」
桃色髪の女性は水色眼、桜色の狐耳に桜色髪ミディアムボブヘア。桜色が基調の服を着た女性を見てそう言った。
「・・・」
香澄は気を失った。
「儂は八重 桜。お主は?」
八重 桜は桃月を見てそう言った。
その時、桃月が自身の腕を破断させて飛び上がった。
「小娘、名は命の根源だ。名を教えたことを後悔しろ」
桃月は桜を見て笑みながら言った。
「・・・」
桜は桃月の腕を見ると、地面に置いた。
「八重 桜、死ね」
桃月がそう言うも、何も起こらない。
「・・・あ、あれ?」
桃月は桜を見て焦りながらそう言った。
「名を使った従術じゃろう?」
桜は桃月を見てそう言った。
「まぁ、何事も過信すると負けじゃよ」
桜は桃月を見て笑みながら言った。
「・・・行け!!」
桃月がそう怒鳴ると、ユキュア・ノワールたちと戦っていた白陽姫たちが桜に向かって飛び始めた。
桜は白色の光剣を避けると、白陽姫を一殴りで粉砕した。
「へッ!?」
桃月は桜を見て目を丸くした。
桜は向かってくる白陽姫を格闘だけで葬っていく。
「ここを突破させるわけにはいかんのだよ!!」
桃色の後光を放った桃月は桃色に光る針を大量に飛ばした。
(どう動く!!)
桃色の後光を放った桃月は予見眼を開眼させて桜を見つめた。
その瞬間、様々な行動をするいくつもの桜が見えた。
「ど、どれッ!!」
桃色の後光を放った桃月は焦りながら動く。
その瞬間、桜の拳が桃月の鼻に直撃した。
すると、桃月の後光が砕けて桃月が地面に叩きつけられた。
「バ・・・バカな!!」
口と鼻から液状神気を垂らす桃月は目を見開いてそう言った。
「予見眼を打ち破るのは簡単だ。とにかく早く行動すれば良い。予見眼は夜華と違って未来を直接見るわけじゃないからね」
桜はゆっくりと着地しながらそう言った。
「・・・なんだ・・・誰の言葉だ!!」
桃月は桜を見て怒鳴った。
「儂の恩神であり、我ら燦水天狐族の主神・・・万象様の言葉じゃ」
桜は桃月を見てそう言うと、白色の鞘に納まった剣を白色の鞘から抜く。
徐々に姿を見せる剣を見た桃月は顔を青くして冷や汗を垂らす。
「・・・」
意識を取り戻した香澄は桜を見た。
「六合様の宝剣・・・なぜお前がッ!!」
桃月は振られる最上大業物燦海を見てそう言った。
その瞬間、最上大業物燦海が桃月の首を刎ね飛ばし、最上大業物燦海が桃月の胸部を斬った。
桜は桃月の神核を掴み取る。
桃月は倒れると同時に木の葉になった。
「・・・」
神核を持った桜は神核を見た。
「よし」
桜が神核をしまおうとしたその時、香澄が桜の腕を掴んだ。
「悪いが、それは私たちが必要としているものなんだ」
ユキュアは桜を見てそう言った。
「儂とて必要なのじゃ。二日は酒を飲めておらん」
眉を顰めた桜はユキュアを見てそう言った。
「言いたいことはあるが・・・まぁ、良い」
ユキュアは蔑んだ目で桜を見てそう言った。
「金が欲しいなら渡そう。だから、それを渡してくれ」
ユキュアは桜を見てそう言った。
「儂は万屋じゃ。取引なら依頼者に言っておくれ」
桜はそう言うと、香澄の手を振り解いた。
「依頼者は誰?依頼者の名前を言って」
香澄は桜を見てそう言った。
「ヒナ・フィトミア・カーリン」
桜は香澄を見てそう言った。
「どこのどいつだよ・・・」
ユキュアは頭を掻きながら言った。
「カーリンは華凛一族が大陸で使う苗字だよ」
香澄は座りながら言った。
「おい、こんな時に大陸まで行けってか?」
ユキュアは桜を見てそう言った。
「欲しいならそうしてくれ」
桜は神核をポーチにしまいながら言った。
桜は軽く飛び跳ね、木々を伝って去っていった。
「・・・どうする?」
寝転がった香澄は空を見てそう言った。
「・・・何かあった時のためにお前を島に残しておきたい」
ユキュアは香澄を見てそう言った。
「そっか。いってらっしゃい」
香澄はユキュアを見てそう言った。
「あぁ、いってくる」
ユキュアはそう言うと、ノワールを装備した。