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君と未来の約束


「……っほんっとーにすみません……!!」

「あ、え、えっと……」


髪の毛もボサボサで少しやつれた顔をしたリン。そんなリンの前には深々と頭を下げ申し訳無さそうにするルカ。先程からどれだけ言っても頭をあげようとしないルカにリンはわたわたとしながらも再度頭を上げるように言った。


「び、びっくりしたけど大丈夫ですから…もう頭あげてください…?」


あの後何とか黒いローブの奴らを巻いて今は森の中にあった洞窟に身を潜めていた。

ボロボロな見た目のリンを見てわかる通りどれだけルカの運転が荒かったがかわかる。


(ルカ、優しい顔して運転めちゃくちゃ荒かった……)


追われていた、と言うこともあるだろうが中々にトリッキーな運転を繰り返して黒いローブの奴らを巻いていた。所々記憶が飛んでいるが、チラリと追いかけてきた黒いローブの奴らを見れば魔術で飛行出来るキッカーと言う乗り物に乗って後を追っていた。現代で似ている物と言えばスノーボードだろうか、それが浮遊して動いていると言うような感じの。明らかにそのキッカーの方が小回りもスピードもあると言うのにルカはこのクラウンで見事に巻いたのである。さすが長年愛用していると言っていただけはあるようだった。

ただ、どう巻いていたかは記憶がハッキリしない。


全て巻いた所でやっとスピードが減少し、この森の中にある洞窟へと入った訳だ。


しかしながら洞窟に入るやいなやルカは深々頭を下げひたすら謝り倒してきて……冒頭へと戻る。


「い、色々と状況が整理出来てませんが…とりあえず無事で良かったです。だから顔をあげてください」

「……、すみません……巻き込む形になってしまって……その、思わず……」


ルカはしゅんとしたまま頭を上げた。


(何だか犬耳が見える、ヘタりと垂れた犬耳が……!)


「……本当に巻き込んでしまいすみません」

「……、もう大丈夫ですから謝らないでください」


それよりも、だ…何故彼は追われていたのだろう。あの黒ローブの人達は誰だろう、チラリとルカを見れば眉を寄せ何かを考え込む顔をしていた。


「……あの、それよりルカ…先ほどの人達は一体…」

「…………」


黙り込むルカ。

___あんまり聞かない方がいいのだろうか?

目が合えば、気まづそうにしゅんとする。


この犬耳が生えた彼が何か悪いことをしているようには見えないが…一体何故追われていたのか、あの黒いローブの奴らは何者だったのか……

次から次に疑問が出てくる。もしかして見た目に反して実は極悪人……?いやしかし、短い時間だったがルカと一緒にいれば彼が悪人だなんて考えにはならない。

リンの中で彼が信用たる人物かは十分だった。



ルカは初めて会った時に無理に話を聞き出そうとせずリンに寄り添ってくれた人。それなら自分がやることは1つだ、そう意気込むとルカに笑いかけた。


「…ふふ、とりあえず無事だったんですから全て良しですね!」

「…え、」

「…困った時はお互い様ですよルカ」

「!」


言いたくないのなら、聞かない方がいい。誰しも聞かれたくないことの1つや2つあるだろう。ルカが私にそうしてくれたように。

それにリンだって異世界人だというとんでも秘密を抱えている身、そんなリンの発言にルカは驚いたように目を開いた。


「…リンは、…本当にお人好しですね」

「なんて言っても、今のルカは頼れるボディーガードですもんね?」

「……ええ、ありがとうございます」

「ふふ、どういたしまして」


申し訳なさそうに、だけど何処かホッとしたような表情を見せたルカだった。



ーーーーー


その後暫くたわいのない話をしていれば、日が沈み出したのか洞窟内が暗くなりだした。

入り口から空を見上げれば曇り空、そう言えば砂嵐が来ていると言っていたことを思い出したリンは不安そうに嘆く。


「だいぶ暗くなってきましたね…風も強くなってきました」


そんなリンの呟きにルカがまたしても申し訳なさそうに小さい声でモゴモゴと言い出した。


「…リン、聞いてください。…まだ奴らがいるからもしれなくて…しばらくここから動くのはちょっと危険と、言いますか…その、もうじき砂嵐もきますし、なので……」


あー、えーっと言葉を濁したルカは先ほどよりも更に気まづそうにリンを見た。


(…あ、そっか…このまま行くと今日はここで野宿…)


なぜ追われているかはわからないが、あの逃げようを見る限りルカは捕まる訳には行かないわけで…今外に出て下手に動けばあの黒いローブ集団に鉢合わせしてしまうかもしれない。砂嵐もだんだん強くなってきた為あの街に引き返すことも出来ない。

だがそうなるとこの洞窟に野宿することになる。きっとルカは知り合ったばかりの自分とここで野宿しなければならないことが言いづらいのだろう。目の前のルカをみれば見るからに申し訳なさそうにして落ち込んでいる。


もうここまで来たなら野宿するしかない。元々ルカとは相部屋だったわけだし、部屋が洞窟になっただけだ。魔術が扱えるルカが一緒ならば野宿だってリン的には問題はない。


「それなら砂嵐が過ぎるまではここで一緒に野宿しましょう、良ければルカの旅した場所なんかのお話沢山聞かせてください!」

「!」

「だから、そんなに落ち込まないでくださいルカ」

「……はい」

「ふふ、洞窟で夜を明かすなんてワクワクしますね!」


悪戯っぽく笑えばルカは目を見開いた後、優しく微笑んだ。


「…ええ、リンとなら野宿も楽しそうです」



**


「ルカ、砂嵐がひどくなる前に森に牧を取ってきますね」


洞窟の少し奥に行けばそこは行き止まりの洞窟だった。魔物の住処じゃなくて良かったと一息ついたリン肌寒い洞窟内を温めるために森を指さす。

キョトンとした顔をしたルカは少しの間の後何かを納得したように地面に手を翳した。


「取りにいかなくても大丈夫ですよ」

「?」


地面に翳していた手元が光るとボワっと魔術陣が浮き出る。静かに揺れる炎がまるで焚き火のように現れた。


(!凄い、魔術だ……)


今までリンは魔術を使わない生活をしてきた。故に旅に出るまでは魔術とは無縁だったからか何度見てもこのファンタジーな力を使用する際に現れる魔術陣を間近で見ると興奮する。しかもルカが出した魔術陣は今までリンが料理屋や宿屋でみて来た魔術陣ではなかった。


「!…ルカの魔術陣、初めて見ます。何だか…凄く複雑ですね…?」

「……ええ、特別と言ったら良いんでしょうか。僕は人より魔術力が高いので…」


一瞬、間を開けたルカの顔は複雑そうな困ったような表情をしていた。


「そうなんですね…!私、魔術には触れずに来たので…あまりそこら辺は詳しくなくって」

「…そう、ですね…僕が使う魔術陣は世間一般で用いられる魔術陣ではないので、リンが見た事ないのも頷けます」



彼の言葉にリンはあることを思い出していた。


(そういえば…前にアルベールさんが一部の特別な人は自分用の魔術陣があって、すごく強い力を持っていると言ってたような…確か普通よりも複雑な魔術陣を使うんだっけ)


この世界の魔術は幼子も大人も同じ術式を使うのが一般的。と言うかそれ以外は普通の人の力では使えないのだ。

なので自分用の魔術陣を持っていると言う事は実はかなり凄い事になる。この世界の住人でないリンにとってはあまり実感はないのだが…


_____あれ、実はルカって凄い人なのでは?


きっと世間一般からしたらとても持て囃されるだろう力。自慢しても良いくらいの力なのに、彼をチラリと見ればやはり何故か眉を寄せて難しい顔をしている。


(……魔術が好きじゃないと言っていたことと関係あるのかな?)


何にしてもこの顔を見ればこれもあまり触れられたくないことのようだ。無理に聞き出すのも気が引けるし、何より気まずくなるのは嫌だ。それなら楽しい話をしたいとリンは唯一持って来ていたバッグを開けた。


「ルカ、お腹空いてませんか?」

「……へ?」

「幸い宿屋で食べようと思ってて、私が作ったものですがサンドイッチがあるんです!あとスープも」


ニコニコと取り出したサンドイッチをルカに渡した。


「………手作り…」

「…まさか、ルカ手作りは初めてですか?」


このご時世、料理は作るものではなく魔術で唱えれば出来上がった物が出てくるのが普通だ。

渡されたサンドイッチをまじまじとみるルカの反応が何だか少し面白くてクスリと笑う。


「すみません、私は魔術が使えないので皆さんみたいに魔術を唱えてすぐに料理完成!とはいかなくて…1から作らないといけないので」

「…作る、」

「あ…手料理はあまり…でしょうか?それなら食べなくても…」

「…っいえ!食べてみたいです…!」


弾けたように目を輝かせるルカ。それをみたリンも安心したように笑うと水筒に入っていたスープを注ぐ。


「ふふ、魔術で完璧に完成された物は作れませんが…それでも美味しいと評判だったので安心してくださいね!あ、ちょっと待ってくださいね」

「?」


注ぎ終わったスープを両手で包むとリンは聖なる光を使った。


「!聖なる光…それは、何をしてるんですか?」

「ふふ、実はこうするとスープが温かくなるんですよ」


元々アルベールの言葉のせいでこれを使う場面は唯一何かを温めたりする時だった。ルカのおかげでこれが聖なる光だと判明したがリン自身この力が凄いだなんていまだに自覚はない。

実はスープ温めるだけの力かと思っていて…凄く便利なんですけどね!と嬉々として話すリンの言葉にポカンとした表情のルカ。

すると次の瞬間にはぷっと吹き出した。


「!え、な、なんで笑うんですか…!」

「ふふ…っ、い、いえ…すみませっ…」


何故笑われているのかわからないリンの様子にルカはさらに肩を震わせて笑う。


「…っ、いえ、まさかこの力をスープを温めることに使うとは思わなくて…ふふ」

「!こ、これ以外に使い方わからなくて…」

「…っいえ、…いいと思いますよ」


恥ずかしくなりかぁっと頬を赤くすればルカは優しく目を細めて微笑んだ。


「スープ、頂いても良いですか?」

「…あ、はい!」

「…僕、手作り初めてです」


そう言ってスープに口をつけた。

アルベールには評判だった向こうの世界の味を再現して作ったスープ。しかしながらアルベール以外に出すのは初めての事で少し不安になりながら彼のの顔を伺った。


「…美味しい…!」

「!…ふふ、良かった」


驚いたように、しかし綺麗なアクアブルーの瞳はキラキラと光っていた。余程美味しかったようだ。リンも安心してサンドイッチに口をつける。


「…リンは料理人か何かですか?」

「っま、まさか!これは趣味と言うか…でも、お口に合ったようで安心しました」

「すっごく美味しいです!」

「ふふ、…でも魔術みたいにいつも完璧に作れる訳じゃないので」


「時間もかかりますし…」と苦笑いしながら困ったように笑えば彼はゆるゆると自身の首を振ると「僕は手作りの方が美味しいので好きですよ」と笑った。


(ルカはとっても優しい人だな)


一瞬で美味しい料理が完成するであろう魔術。それでも優しい彼は手作りの方が好きだと言ってくれる、きっと魔術が好きではない…のも関係しているだろうがそれでも、久しぶりに誰かに食べて貰えて嬉しかった。


「それなら次はもっと美味しいご飯作れるように頑張ります」

「本当ですか…!リンの作る料理楽しみです!」

「ふふ、なら腕によりをかけて作りますね」

「僕にも手伝えることがあれば言ってくださいね」

「…じゃあその時はルカも一緒に作りますか?」


近い未来、2人でのクッキングが開催されるのだがルカの戸惑う声と楽しそうなリンの声が響くのをこの時の2人はまだ知らない。


他の作品を読んで下さった方ならわかると思いますが洞窟で過ごすの好き芸人です。

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