事件ファイル【ファイアリザード】・3 黒蛇竜の盾
「今度は三十体か」
(これは厄介かもしれませんね、シント)
ディジアさんの言う通りだ。
討伐した二十体は前座にすぎなかった。
「来るぞおおおおおお! 早く走れっ!」
「なんでこんなにぃぃぃぃ!」
三十体もの怪物が一度に口から放つ火球は、なかなかに壮観だ。
「黒蛇竜の盾、行け」
しかし、新装備『黒蛇竜の盾』が感応し、全ての火球を遮断。
「アリステラ、俺の後ろに」
「うん、でもどうするの?」
数が多い。
明らかに異常だ。
モンスターは悪い魔力――いわゆる『瘴気』が溜まる場所で発生する、らしい。
らしい、と言い切れない理由は危険すぎて調べられないから。
「発生源が近くにあるのか?」
「発生源、ってなに?」
「モンスターが生まれるところ」
だとしたら、潰す必要があるな。
「おいい! あんたらなにしてんだ!」
「早くこっちに来い!」
彼らの言う通り、いったん立て直すのもいいだろう。
ただし、ヤツらが増え続けるのであればそれは悪手。こちらが詰みとなる。
「アリステラ、奴らは火球を出す時に口を開ける」
「そこを狙う?」
「やれる?」
「問題ない」
まずは確実に数を減らす。
鱗が固くとも、中はそうじゃない。先のアダガンド山での戦いで学んだことだ。
「≪アクアランス≫」
「≪螺旋魔弾≫」
火炎トカゲが口を開けた瞬間を狙い撃つ。
アリステラが放つ水の槍と、俺の魔弾が二体の頭を貫通した。
「まだまだ! ≪螺旋魔弾≫!」
「GUWAAAAAAAAAA!?」
出かけた火球もろとも貫く。
「ん、負けられない。≪アクアランス≫≪ウインドカッター≫」
アリステラの魔法二連打。
練られた魔力、精度ともに高いレベルだ。
瞬く間に二体倒れる。
「お、おお! あいつら!」
「おれたちもやるぞ!」
下がっていた冒険者たちも戻り始めた。
彼らはむやみに近づいたりはせず、飛び道具を使って応戦する。
熟練の冒険者らしい対応の速さだ。
モンスターたちは一体、また一体と数を減らしていく。
俺たちは力を合わせることができる。ただ破壊することしかできないモンスターとは違うのだ。
遠距離での応酬がしばらく続き、結果は火炎トカゲの全滅。
こちらはけが人がいくらか出たくらいで終えることができた。
家も村に住んでいる人たちも無事だ。
「なんとかやったぜ……」
「もうおかわりはないわよね」
さすがにみんな疲労している。
火炎トカゲはもう出てこないから、とりあえずは一段落だろう。
「アリステラ、だいじょうぶ?」
「余裕」
「ちょっと調べたいことがあるのだけれど」
「なにを?」
街の近くでこんな数のモンスターが発生するのはおかしい。
魔力の溜まりも見られないし、理由があるはず。
「村長さん、モンスターが現れたことに心当たりはありますか?」
安心して出てきた村長さんに聞いてみる。
「わからねえ。おれたちはいつも通り畑仕事をしてたんだ。そしたらいきなり火がついて……」
いきなり火がついた、か。
突然現れたってこと?
「どこから来たのか。いや、来たのではない?」
(シント、なにを言っているのです?)
「ディジアさん、モンスターはここで発生したのかも」
(ここで?)
突き止める必要がある。
放っておけばまた出てくるかもしれない。
「≪探視≫」
魔力の流れを視る。
禍々しい異様な魔力が火炎トカゲの死体に残ったままの状態だ。
「どこかに続いている……」
(そのようですね。行くのですか?)
「ええ、野放しにはできないです」
少々嫌な予感がするものの、行くしかないだろう。
「シント?」
「アリステラ、もしかしたら巣があるかも」
「巣」
「そう、火炎トカゲの巣」
巣を残せば、また出てくる。俺たち以外は疲労の色が濃いし、連戦は無理だ。
「すみませんみなさん、ちょっと調べてもいいですか?」
声をかけてみる。
「そりゃあ別にいいけどさ」
「あなたたちも休んだら?」
狩人風のカップルがへたりこんでいる。
この二人はよく戦っていたから、かなり疲れているようだ。
「いえ、気になるので。みなさんは休みつつ、周囲を警戒していただければ」
俺の話に異論はないようだった。
「行こう、アリステラ」
≪探視≫を発動したまま、魔力を追いかけていく。
ほどなくして、瘴気が濃い場所を見つけた。
(あの井戸が源ですよ、シント)
「ええ」
村の外れにある古ぼけた井戸。
足跡が周りにたくさんあって、火炎トカゲどもがこの中から出てきたのだと推察される。
「シント、ここ?」
「たぶん」
「中が見えない」
石を落としてみた。音がしないので、かなり深い。
危険そうだけど、入ってみるか。
「なに考えてるの?」
「入ってみようかなって」
「……だめ。危ない」
「ちょっとくらいならいいじゃない。見るだけ」
「……」
アリステラはかなり渋々といった様子でうなずいた。
(ふふふ……)
ディジアさんが懐の中で微笑んでいる。
(アリステラは押しに弱いようです)
押しに弱いというイメージはないけど、前に斬られかけたし、怒らせると怖いのは確かだからあまりは無理は言わないようにしよう。
「どうやって降りる?」
「そうだな」
俺は≪飛衝≫の魔法があるからいい。
「アリステラ、盾に乗ってくれ」
「これ、落ちない?」
「だいじょうぶだよ」
水平にした黒蛇竜の盾の上にアリステラが乗った。
井戸は大きめだから俺たち二人くらい通れる。
≪飛衝≫を使用して、中に降りてみた。
下まで降りると、土の匂いがきつくなる。
水の音はしないので、乾いているのは間違いない。
「……どこまで行く?」
「かなり深いな。井戸じゃないのか?」
光が届かなくなってきた。
≪照明之灯≫を発動。
縦穴はまだ下に続いていた。
(これは……気をつけた方がいいでしょう)
ディジアさんがなにかを感じ取っている。
俺も同じだ。冬でもないのに、寒さを覚えた。
「そろそろ底だな」
「ん、井戸じゃない」
照らされた床は石造り。下水道かとも思ったが、やはり水がない。
下に降り立った俺たちは、言葉を失うしかなかった。
「ここ、遺跡だ」
見覚えのある様式。そして雰囲気。
フォールンの地下に広がる大遺跡だった。
郊外の村にまでつながっているだなんて、どんだけ広いの。
(あの遺跡とつながっているのでしょうね。空気が同じだと思います)
「同感です」
もしかして、けっこうな発見なのではないだろうか。
新区画だとしたら、歴史的な――
「シント」
アリステラが袖を引っ張ってくる。
「うん?」
「あれ、見える?」
彼女が指を差す先に、暗く濁った塊が見えた。
初めて見る魔力の塊。
おそらくは瘴気と呼ばれるモノ。
「まさかこれがモンスターの源なのか」
見ていると気持ちが悪くなってくるな。存在していいものじゃないだろう。
(シント、モンスターが出てきましたよ)
異様な光景だった。
大きな魔力の黒い塊から、火炎トカゲがぬるりと出現しする。
やはり、モンスターたちはどこからか来たわけじゃない。村の地下が遺跡につながっていて、発生源だったわけだ。
「ごめん、アリステラ。やっぱり危険だった」
「別にいい。それよりも……壊す。そうしないと子供たち、怖がる」
「いい返事だ」
思わずニヤリとしてしまう。
依頼はまだ終わっていない。
いや、むしろここから本番だろう。
では始めようか。『Sword and Magic of Time』を――




