事件ファイル【ファイアリザード】・2 小村の戦い
フォールンを出発した俺たちは小一時間ほどで目的の場所についた。
林の中にひっそりとある小さな村だ。
十軒くらいの家がそこにはあった。
「……ここ、だよな?」
「誰もいないけどね。もう離れたのかしら?」
男女のペアで参加している冒険者二人が、周囲を見回す。
「いや……足跡がある。トカゲのものかもしれない」
「ほんとだわ。みんな、気をつけて」
二十人が一斉に武器を構えた。緊張が走る。
しかし、五分待ったがなにもなかった。
「おい! こっちだ!」
すると、どこからか声がした。
「あんたたち! 冒険者だろ! イマーゾはちゃんとフォールンまで行けたか!」
一番大きな家の窓から、男性が手招きしている。
「頼む! 奴らが村を囲い込んでいるんだ! 助けてくれ!」
見ればところどころ、家が焼けている。
火炎トカゲの仕業だ。
何人かが周囲を警戒し、俺たちは家の中に入った。
村人たちは三十人ほど。けが人も多い。
「さあ、避難しましょう。冒険者の方々が守ってくれます」
すぐに役人二人が避難を勧める。
しかし、村の男性がそれを止めた。
「無理だ。じいさんやばあさんは走れねえし、子どもたちも危ねえ」
「あなたは?」
男性は村長だと名乗った。
彼らは外に出るのを渋っている。
(シント、なにやら揉めていますが)
「はい、みんな不安なんだと思います」
(小さな子もいますから、それも無理からぬことでしょうね)
まだ七、八歳の女の子が二人、壁のすみで震えている。
そこへ、アリステラが近づいてしゃがんだ。
「だいじょうぶ。これ、食べて」
「……あ」
「アメだ! ありがとう! おねえちゃん!」
甘味の威力がすごい。
暗かった屋内の雰囲気が明るくなる。
アメをなめる子たちの頭を、アリステラがそっと撫でた。
女の子たちの不安が和らいだように見える。
それでいい。
俺たちのギルド『Sword and Magic of Time』は安心、安全だからね!
(アリステラは子供好きなのですね)
「そうだと思います」
なにせ、さらわれたエルフの女の子を追いかけて故郷を飛び出し、冒険者になった人物だ。しかも等級はゴールド。半端じゃない。
「すみません、いいですか?」
手を挙げて発言する。
「火炎トカゲを対処してから避難をしてもいいのではないですか? ここに何人か残ってもらい、守りを固めましょう」
誰も言葉を発しなかった。
決めかねているようだ。
その時だ。
アリステラが剣に手をかける。
「シント、来る」
「アリステラ?」
「焦げた匂い」
確かに。
どことなく焦げ臭い。
そして――
「うわ! 火だ! 散開しろぉっ!」
外で警戒していた戦士達が騒ぎ出す。
全力の速さで外に出ると、火球が飛んできた。
しかも、一つや二つじゃない。
森の中から赤い鱗を持った怪物どもがぞろぞろと出てくる。
数は五体のはずが、大量だった。二十体はいるだろう。
「おい! 役人さんよ! なにが五体だ! 話が違うぜ!」
「物陰に身を隠せ! こりゃあまずいぞ」
戦士達が素早く身を隠す。熟練の動きだった。
俺たちも木の影に入って様子をうかがう。
火炎トカゲたちは横に並び、口から火球を撃ち続けているのだった。
「なんてことだ! 村長! 数は五体だと……」
「最初はそうだったんだ! どんどん増えてここから出られねえ!」
「それを早く言ってください!」
家の中は混乱していた。ご老人たちのうめき声や、子どもの悲鳴が聞こえてくる。
それを聞いて、そばにいるアリステラの魔力が噴きあがった。
「シント、わたしが行く」
「アリステラ、平気?」
「平気、当たらない」
彼女の素早さなら、おそらくはいけるだろうが。
そうだな。頭数は負けていない。背後を取ればやれる。
「わかった。俺が援護するよ」
「おねがい」
俺が引きつけて、アリステラが斬りこむ。他の方々には背後に回り、奇襲をかけてもらおうか。
「みなさん! 俺たちが囮になりますからその隙に奴らの後ろをとってください」
「なんだって!」
「おい! 囮って!」
アリステラが駆け出した。
俺もモンスターどもの前に出て、魔法を放つ。
「≪魔衝撃≫」
大きな魔力弾で何体かを吹き飛ばす。が、火炎トカゲの耐久力が思いのほか高く、倒しきれなかった。
二十体を超すモンスターの口から、火球が放たれる。狙いはアリステラか。
「アリステラ! そのまま走ってくれ!」
「了解」
≪感応ノ心意≫を発動。
新しい装備――『黒蛇竜の盾』を使う時だ。
背中に吸着していた盾が分裂し、俺の意思通りに動く。
分かたれた八つの小さな盾が、アリステラを襲う火球を全て防御した。
完成してから数日、機会がなかったので初めての実戦だが、良い調子だ。これなら全部防げる。
「な、なんだありゃあ!」
「盾が浮いてるの!?」
「あいつ、魔法士だったのか!?」
「魔法士だからって盾を浮かせられるか? ありえねえんだけど」
驚いている冒険者たちをよそに、アリステラが一体を斬りつけた。
鋭い剣先が鱗を裂いて、傷をつける。
「≪アクアランス≫」
彼女の放った水の槍が傷ついた箇所を狙い撃ち。火炎トカゲが絶命した。
剣と魔法の合わせ技。さすがだ。
(アリステラは優れた魔法士なのですね)
「はい、俺もそう思います」
懐の中でディジアさんが感心する。
「みなさんもお願いします。俺たちが引きつけているので」
「お、おう!」
「よっしゃ! 裏に回るぞ!」
この時点で戦闘は終わったようなものだ。
ほどなくしてファイアリザードどもは、背後からの奇襲によって倒される。
およそ二十体をみんなで仕留めて、討伐完了。
「おーし! やったぜ!」
「依頼完了だわ!」
喜ぶみんなだったが、しかし――
「うわああああああああああああ!」
冒険者の一人が火に包まれる。みんなで消し止めたが、重傷だ。
「う……まだいるぞ!」
「に、逃げろ! 一度退くしかねえ!」
またぞろぞろと。
今度は三十体くらいいるな。いったいどこに隠れていたのか。
「今度はもっと多い!? 村長! あと何体いるのですか!」
「知らねえって! あんた役人なんだろ! こっちが教えてほしい!」
何体いるのか、それを考えてもしかたない。
全部倒す。
ここで食い止めなければ、さらに被害は拡大するだろう。
「シント」
「わかってる」
俺とアリステラは再び身構えた。
予想以上の大仕事になりそう。
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