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事件ファイル【ファイアリザード】・1 緊急案件

 フォールンを騒がせたユリス・ラグナの暴走から一か月半ほどがたった。

 仮面男爵ことマスクバロンの話では、その件でラグナ家はフォールンでの影響力を失い、おとなしくなったそう。

 そしてガラルホルン家もまた表立った動きは見られず、静かだ。


 たいへん結構なことだと思う。【神格】を持つ超名門大貴族だからといって、なんでもしていいはずがない。


「≪螺旋魔弾(ラセンマダン)≫」


 今は昼休み。

 休憩時間を利用して、魔法の練習をしているところだ。


 撃ち放った魔力の弾が、標的の空瓶を貫いた。

 貫通力を高めた弾は無駄な破壊をせず、小さな穴だけを空ける。

 

「よし、いいぞ」


 毎日練習してるおかげで精度が上がっている。

 次は『黒蛇竜の盾(ヨルムンガンド)』を練習しよう。


「シント」


 魔法を発動しかけたところ、アリステラがやってきた。


「なにしてる?」

「魔法の練習だよ」

「ふーん」


 手に持っているのは弁当か。

 彼女は近くのベンチに座ってお昼を食べ始めた。


「依頼はどう?」

「今日の分はもう終わった」


 早いな。もう片付けたのか。

 アリステラは剣も魔法もこなし、足が速い。さまざまな局面で活躍できる万能タイプだ。

 ウチのエースといっていいだろう。

 

 彼女はサンドイッチをもぐもぐしながら、俺が練習しているところを見ている。

 見られていると緊張するな。


「シント」

「どうしたの?」

「その魔法って、なに?」


 ずばりときた。

 なんと答えたらいいだろうか。


「いろんな属性、使ってる。なんで?」


 アリステラも魔法士。気になるのだろう。

 彼女の言いたいことはわかる。彼女自身が持つ【森の息吹】や、マール・ラグナの【四属性魔導】といったレアな才能でもなければ、複数の属性魔法を使うことはできない。


「ほんとに魔法?」


 改めて聞かれると、返答に困った。

 確かにこの大陸で使われている魔法とは、別のものだと思う。

 しかし、深く考えないようにしている。

 いくら考えてもわからないからだ。


「魔法だよ。ただ、みんなが使っているのとは少し違うのかも」


 俺に魔法を授けたといっても過言ではないあの古書――ディジアさんに聞きたいのだけれど、彼女は思い出を失っている状態だった。


「ふーん」


 興味があるんだか、ないんだか。


「でも、シントの魔力は綺麗」

「ん? なんか言った?」

「なんでもない」


 小さく呟いていたようだが、なんだろう。

 そうして練習を続けようとしたところへ、ミューズさんが息を切らせてやってきた。

 新たな依頼か。


「二人とも、ちょっと来て。緊急の案件よ」

「わかりました」

「行く」


 様子を見るかぎり、大事かも。



 ★★★★★★



「モンスターの発生、ですか?」


 依頼人はフォールン行政府のお役人。

 都市の郊外にて、『火炎トカゲ(ファイアリザード)』が現れた、という話だった。


「街にだいぶ近いわ」

「はい、近くの村落が襲われたようで、これ以上近づかれたら街も危ないのです」


 恰幅のいい中年の役人が顔の汗をふきながら、深刻な表情を浮かべる。

 彼の話では、村人の一人が命からがらフォールンまでたどり着き、行政府に訴えたのだそう。

 村には老人や子供を含む十数人が動けずにいるとのことだ。


「街の外は憲兵の管轄外。軍の派遣を要請したのですが」

「来るまでに時間がかかるのか」

「おっしゃる通りです。こんなに近くで出現するなど想定外すぎて」


 本来であれば蒸気機関車などを利用し、すぐに来られるはず。しかし不運にも今は運休中。

 

「ギルドマスター、どうする? カサンドラとラナは別の依頼で出てるわ。戻るまで待つ?」

「いや、俺とアリステラで行くよ。いいかな?」


 アリステラに聞くと、彼女は当然のようにうなずいた。


「では大門前まで来てください。他のギルドにも依頼しておりますゆえ、そこで冒険者の方々と合流を」

「わかりました」


 火炎トカゲ(ファイアリザード)か。

 大きさは人間の大人サイズ。口から火球を吐く恐ろしいモンスターだ。

 野放しにはできない。

 どうやら、大仕事になりそうだな。


(シント、わたくしも行きます)

「ディジアさん、危険です」

(だからこそです。わたくしの小さな体でもなにかの助けにはなるはず)


 カサンドラとラナはいない。その代わりか。


「ギルドマスター、今の声って……」


 ミューズさんにも聞こえたみたい。

 この前、いちおうは会ったから、それで聞こえるようになったかも。詳しい事はわからないけど。


「二人とも、なに言ってる?」


 アリステラに聞かれたが、説明している時間はない。

 さっそく向かうとしよう。


 

 ★★★★★★



 アリステラとともに合流場所へ急ぐ。

 大門前には多くの街人に混じって、戦士達がいた。


 数は二十人を超えている。大がかりだ。

 モンスターが相手なら、人は多い方がいい。


 すでに全員集まっているようで、俺たちが最後。

 輪の中心にいる行政府の役人が話を始めた。


「お集りいただき誠に申し訳ない。緊急事態ゆえ挨拶は省きます。まず場所は近くの村『ダンドルフ』。人的被害はまだないそうですが、畑や家が壊されたとのこと。火炎トカゲ(ファイアリザード)の数は五体だと判明しておりますので、速やかに退治していただけるようお願いします」


 急がなくては。

 今ごろ村がどうなっているか、心配だ。


火炎トカゲ(ファイアリザード)、見たことある?」

「ない。アリステラは?」

「わたしもない」


 図鑑で見た知識しかないから、慎重にやる。


「気をつけていこう」

「うん」


 この前のアダガンド山では、想像以上のモンスター数で冒険者の多くが脱落した。警戒を怠らないようにしよう。


「こちらからは避難誘導を担当する人員を二人ほど派遣いたします。どうか村人たちを救出してください」


 こうして冒険者二十人プラス役人二人による即席パーティーが組まれ、モンスター討伐が始まった。

 

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