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シント・アーナズ【ショッピング】・Ⅶ マグナダイト

 大量の土砂が噴きあがり、坑道の高い天井まで届く。

 満を持して姿を現したのは、ありえないくらいの巨体を持つ『岩喰い』だ。


「こいつはダメだ! 全員逃げろぉ!」


 バーンズさんがすぐに指示を出す。復旧作業に当たろうとしていたドヴーの方たちが大岩喰いを見て腰を抜かしていた。


「おい二クラス! 矢だ! 矢を撃て!」

「バカな! こんなもの、どこに当てたとて効くはずがない!」


 大岩喰いが暴れ出す。

 やたらめったら土に穴を空けて施設を破壊した。

 

「小生が食い止めますゆえ、避難を」

「なに言ってる! あんたも逃げるんだよ!」

「しかし!」


 前へ出ようとするラハドさんだったが、顔は青ざめている。

 

「いいから戻れ! さっさとしろォォォォォォォォォ!」

「こっちだ! 早く!」


 突如として現れた巨大モンスターのより、混乱状態だった。

 

「坊主! なにしてる!」

「アーナズ殿! こちらへ!」


 いいや、引けない。


「君! 死にたいのか!」


 死ぬのはヤツだ。

 大岩喰いに向かって走る。

 

「≪硬障壁(ハードシールド)≫・十連!」


 あごをがぱりと開けて襲いかかるモンスターを障壁で止める。

 重い、が止められない衝撃ではない。


「なっ……止めた!?」

「あれが障壁なのか!? 信じられん!」

「みなさん今の内に避難を!」


 これで全員下がった。

 あとはやるだけだ。


(さあシント、『Sword and Magic of Time』を始めましょう)


 セリフとられた。

 なぜだか、ふっ、と小さな笑みがこぼれてしまう。


 ≪飛衝(マジックフライ)≫の魔法で飛び、ヤツと目線を合わせる。

 感情のない、破壊することだけしかない目だ。

 そしてなにより、その大きな(アギト)には赤い液体が付着していた。


 地中に連れ去られた人々はこいつに食われたのだろう。

 なるほど。微塵も容赦はいらないようだな。


「まずは雷だ」


 小手調べを放つ。

 発動した≪天上之雷(ヘブンズサンダー)≫が稲妻を炸裂させ、大岩喰いを焼いた。

 しかし、巨体すぎて効き目が薄い。


(大きすぎますね。なにか手があるのですか?)


 少し考えなくてはいけない。

 水、土、風はおそらく通じないと思う。雷もだめだし物理的な衝撃、つまり打撃や斬撃も意味がない。

 残るは、火、なんだけど、こいつを燃やせるくらいの火では、山ごと燃えるかもしれない。


「外がだめなら……」

(シント、非常に嫌な予感がするのですが)

「ディジアさん、気のせいですよ」

(いいえ、だって()()()()――)


 大岩喰いに向かって加速。

 狙いはヤツの大口。その中だ。


「≪全方位障壁(オールシールド)≫!!」


 全身に障壁を展開しつつ、大岩喰いの体内に飛び込む。


(やっぱり……ああ、なぜだか汚された気分です)

「障壁がありますし、汚れたりは」

(そういう問題ではないのですっ!)


 ぶつぶつ言ってるディジアさんは放っておこう。

 ≪全方位障壁(オールシールド)≫は解除しない。

 全力でシールドを外へと広げてやる。


 魔力は十分。

 内側から弾けろ。


「いっけええええええええええええええええええ!」


 限界までシールドを拡大。

 中から膨張する大岩喰い。うめき声と苦痛が伝わるようだった。


 そうだ。どこまでも苦しむがいい。なんの罪もない人々を喰らった貴様には地獄すら生ぬるい。なにもかもが潰れて死ね。


「UGISYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」


 破裂。

 大岩喰いの巨体がちぎれ、いくつもの肉片と化して飛んだ。

 

「終わりだ」


 親玉の退治完了。

 岩喰いはこれ以上増えないはずだ。


「ん?」


 気づけばみんな来ていて、あんぐりと口を開けていた。

 

(シント、どうして彼らはあんなにあごが外れそうになっているのですか?)

「顔の運動でしょう」

(みな変わっているのですね)


 あとは崩落した岩をどければそれで終わりなのだけれど、まずは大岩喰いの肉片を片付けないといけない。


「お……おい……坊主。あ、いや、ごほん、アーナズ殿()


 バーンズさんの口調が変わった。


「今のは……」

「君、なにをしたのだ」

「中から障壁を広げて破裂させました。そんなことよりもすぐに取りかかりましょう。みんな救助を待っています」

「彼の言う通りですな。我らも手伝いを」


 ようやく本格的な復旧作業に取りかかれる。


「岩喰いの中に飛び込むなんてのう! おまえさん、やっぱり頭のネジが飛んでおるぞい!」

「ええもん見せてもろうた。酒の肴にゃあ持ってこいじゃあ!」


 ドヴーのみなさんには大ウケだった。

 一番倒しやすい方法を選んだつもりだったが、そんなに変だった?


「では始めましょう」


 復旧作業が開始。

 もちろん、俺も魔法を使って手伝った。

 魔法で岩をどかし、慎重に砕く。


(シント、なにか光っていますよ)


 ディジアさんがなにかを見つけたので、調べてみる。

 大岩喰いの肉片を除くと、見たこともない赤と白の光る鉱石があった。


「これはなんだろう?」


 ミスリルであれば、青っぽくて薄く光るはずだ。

 なのでドヴーの方に聞いてみた。

 すると――


「……こ、こりゃあ」

「なんてこった! もしかして……マグナダイトじゃぞい!」


 マグナダイト? 

 なにそれ? 聞いたことない。


「まさか岩喰いが食っておったとはの」

「待つんじゃ! 本物かどうかわからん」

「いやいやこの輝きは本物じゃろうて」

「えーと、結局なんなのですか?」

「国宝級の石じゃよ!」


 すごいもの、というのは伝わった。

 ドヴーの方たちは興奮して盛り上がっている。

 岩喰いの親玉が、知らずのうちに食べていたということらしい。


(ずいぶんと喜んでいますね)

「ええ、お手柄ですよ、ディジアさん」

(ほんとうですか? ふふふ)


 彼女はとても嬉しそうだ。

 さあ、作業に戻ろう。あと少しで救助できる。



 ★★★★★★



 数時間後――


 俺たちは救出した方々とともに坑道から脱出した。

 出荷が止まっていた加工済みのミスリルもついでに運んできたことで、街の人々は大喜びだ。

 さらにみんなを驚かせたのは、伝説の鉱物マグナダイトが出たことだった。


「よくやってくれた。冒険者たちが逃げ帰ってきたでな。増援を送ろうとしていたところじゃったが……よもやマグナダイトまで発見するとは」


 アロンダイ族長が苦笑しながら出迎えてくれる。

 確かに百人以上の戦士が集まってはいるものの、必要はなくなった。


「族長さんよ、とんでもねえ岩喰いの数だったんだぜ? 報酬をだな……」

「無論じゃ。さらに上乗せいたそう」


 これにはバーンズさん、二クラスさん、ラハドさんが満面の笑みだった。


「すみません、アロンダイ族長。俺の報酬は変更していただきたいのですが」

「アーナズ殿の働きは聞いておる。岩喰いの親玉を倒したとか。格別に報酬を上げようかの」


 嬉しい申し出だけど、お金はいいんだ。


「いえ、実は盾と服を作ろうとしていて。なのでお金ではなく、素材に使うミスリルを分けていただけないでしょうか」

「ちょっ! アーナズ! なに言ってんの!?」

「アーナズ君、報酬の金でミスリルを買えばいいだろうに」


 二クラスさんの言う通りではあるんだけど、たぶんダメだろう。


「きっとミスリルは買い手が決まっているでしょうし、報酬ならもらえるかなー、なんて」


 みんな一瞬きょとんとして、それから笑い始めた。


「アーナズ殿は商才もあるのですかな! 実に面白いですぞ!」


 ラハブさんは楽しそうだ。


「ぜひまた共に仕事をしたいものです」

「こちらこそ。ラハブさんにはいろいろ助けられました」

「なーに。当然のことですぞ」


 彼は頼りになった。それにバーンズさんとニクラスさんもだ。


「アーナズ殿、ミスリルなら好きなだけ持っていくといいぞよ」

「ありがとうございます」

「盾を作ると言っておったが」

「ん? ええ、そうですけど」


 アロンダイ族長がなにかを考えこむ。


「ならばそのマグナダイトを報酬として渡そう。良い盾が作れるじゃろうの」


 国宝級と聞いたけど、もらっていいの?


「せめてものお礼じゃ。受け取ってくれまいか」

「はい、ありがとうございます」

「もちろん、報酬の銭もじゃよ」


 断った方が失礼だろうから、受け取る。

 人助けができて、服と盾を作れるし、お金も稼げた。この上ない成果だと思う。

 裏地用に薄く伸ばしたミスリルと、マグナダイト、さらにお金をもらって帰路につくところ――


「待てよ、アーナズ」


 と、止められる。

 バーンズさんがアーナズ殿なんて呼ぶものだから、それはやめてもらった。


「おまえさん、どうだ? フリーならウチのギルドに入らねえか?」

「待て、バーン・バーンズ。彼は我らに加わるべきだ」


 二人とも、俺を誘おうとしているのか。


「おれぁ『ブレイバーズ』っていうギルドの副長やってんだ。どうだ? 一緒に稼がねえか?」

「私は冒険者ギルド『風と水の調べ』に所属している。スカウトなども担当しているのだよ。破格の待遇を用意しよう」


 嬉しいんだけど、お断りします。


「すみません、俺、すでに自分のギルドを持ってまして」

「……?」

「フォールンの『Sword and Magic of Time』。そこでギルドマスターをやっています」

「マジ!?」

「な、なんと……ギルマスだったのか」

「でも誘ってくれて嬉しかったです。いずれどこかでお会いしましょう」


 もう夕方だ。

 夜までに戻ると約束したし、フォールンまで全速力でいこう。


「それじゃ」

「お、おう」

「……とんでもない男だ」


 ≪飛衝(マジックフライ)≫を使用して、一気に加速した。

 アダガンド山がすぐに遠くなる。


(シント、日帰り旅行は楽しかったですね)


 ディジアさんが嬉しそうだ。

 

「はい、とても楽しかったです」


 また出会いがあって、良い品物も手に入った。出張仕事は予定外だったけれど、たくさんの報酬もいただいたし、最高だったな。


「帰りましょう。我が家に」

(はい、我が家へ)


 俺はさらに加速するのだった――

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