シント・アーナズ【ショッピング】・Ⅵ ムカデ退治
ここで引くことはできない。
はっきり告げると、バーンズさん、二クラスさんが顔色を変えた。
「ふざけんじゃねえぞてめえ……」
「戦力が足りない、と言っているんだ」
そんなことは百も承知。
しかし、引けない理由がある。
「軍が派遣されるまでの間も奴らは増える。これ以上数が増えれば対処はより難しくなります」
「だからって四人でアレをやろうってのか?」
「無謀だ。状況が見えていない」
「いいえ、ここに倒すべき敵が集まっている」
岩喰いが百匹以上。これを殲滅すれば、少なくとも時間は稼げるだろう。
引くとしてもそれからだ。
「バーンズ殿、ウィンダルフ殿、彼には策があるようですし、それを聞いてからでも遅くはないでしょう」
「……ちっ」
「……しかたあるまい」
ラハドさんの一言で二人は話を聞く気になったようだ。
「ここに来る途中、いくつかの樽を見ました。ドヴーのみなさん、あれは燃料ですね?」
「おー、ありゃあ炉に使うんだ」
「つまり爆発はしない」
「そりゃそうじゃ。爆発物は厳禁じゃて」
そしてもう一つ。
「さっき通ったところの大穴は?」
「作りかけの空気抗じゃが、それがどうしたというんじゃ」
やはりだ。
「ではあの大穴に燃料を全部注ぎ込んでください。そこに奴らをおびきよせてぶち込み、火をかけます」
「……っ! おまえ……マジで言ってんのか」
「あまりにも危険すぎる。いくら爆発しないからといってもこちらが無事ですむ保証はない」
作戦にはおびき寄せる役、進路が逸れた岩喰いを始末する役が必要だ。
俺一人ではできない。
「小生はアーナズ殿に賛成ですな」
「ラハドさんよ。正気か?」
「もちろんですぞ。我らの仕事は討伐と救出。やれるところまでやらねば、信用問題にも関わりますからな」
冒険者の失敗は、今後の依頼に影響する。
さきほど去った冒険者たちには、『逃げた者』という悪評がついて回るかもしれない。
二人はずいぶんと考えこんでいた。
その間、口は挟まずにじっと見る。
「わーったよ。乗った。報酬のためにな」
「……ブロンズ級の目の前で尻尾を巻き逃げるなど」
やる気になってくれたみたいだ。
「ドヴーのみなさん、すみませんが大穴に燃料を入れてください」
「そりゃあ構わんが」
「おまえさん、中々にイカれておるなあ」
いちおう、褒め言葉として受け取ろう。
「バーンズさんとラハドさんはおびき寄せを。ニクラスさんと俺で援護します。やつらが穴に落ちたら、すぐに避難してください」
「……いっちょやるか」
「癪だが、他に術はないだろうな」
作戦は決まった。
すぐに実行する。
★★★★★★
「おーい、こっちはええぞ!」
「みなさんは横穴に避難を!」
大穴に燃料が注がれている。言ってみれば燃焼促進剤のプールだ。
俺とニクラスさんは作業用の足場に登り、待ち受ける。
「アーナズ殿! こちらもよろしいですぞ!」
ラハドさんから声が上がった。
よし、作戦を開始しよう。
広場でうごめく一匹に狙いを定める。
使用するのは――
「≪螺旋魔弾≫」
引き金を絞るようにして、撃ち放つ。
らせん状に回転する≪魔弾≫が、一匹の頭を貫通。
「GYSYAAAAAAAAAAAAA!」
「GIGIIIIIIIIIIIIII!」
岩喰いどもが俺たちに気づく。
「うっおおおおおおおおおおおおお! マジでやべえじゃねえかああああ!」
「バーンズ殿、さっさと走らねば」
囮役の二人――バーン・バーンズさんとラハドさんが全力疾走。
大量の岩喰いが彼らをギシギシ追いかける。
「来たぞ」
「ええ」
ニクラスさんが大きな弓に矢をつがえた。
俺たちが狙うのは、進路から外れた、壁を這うムカデだ。
「……ふう!」
息を吐きながら、ニクラスさんが矢を射る。
目にも止まらない速さで放たれた矢は、一匹の頭を貫き、絶命させた。
なんて威力。
「私の【才能】は【剛弓】。連射はできんが最強の矢だと自負している」
自信たっぷりだな。
嫌いじゃない。
俺の方でも≪魔弾≫を撃って壁から引きはがす。
巨大ムカデ百匹の行進はこちらの思惑通りに進んだ。
やつらは俺と二クラスさんには目もくれず、囮の二人を追いかける。
「行きましょう、ニクラスさん」
「うむ」
誘導は成功だ。
そして、追いかけた先では燃料プールの中で苦しむ岩喰いの姿がある。
百匹以上の巨大ムカデが穴の中にみっしりだ。
オイルにも似た燃料のおかげで滑り、穴から出てこれないでいた。
「これは……おぞましいものだ」
「ニクラスさん、今から火をかけます。すぐに避難を」
「バーン・バーンズたちもすでに避難したか。やってくれ」
彼が走ると同時に魔法を発動。
「≪燃焼之火≫」
手から放射した火炎が燃料に引火。一気に燃え上がる。
それと同時に≪魔法障壁≫を展開。炎を遮断しつつ、この場にとどまった。
「一匹も逃がさない」
穴から這い出ようとするムカデを≪魔弾≫で撃つ。
「KISYAAAAAAAAAAAAAAAA!」
最後の一匹が悲鳴を上げて燃え尽きる。
あとは仕上げだ。
「≪巨人之土岩≫」
大きな岩の塊を作り出し、穴ごと火を潰す。
これで終わり。
(やりましたね、シント。さすがです)
「ええ、なんとかやれました」
(ですが、あなたの魔法だけでも全て倒せたのではありませんか?)
ディジアさんは俺が持つ大魔法のことを言っているのだろう。
それは俺も考えた。でもやめた。
他の人たちを巻き込んでしまうし、鉱山へどんな影響を及ぼすのか、わからなかったからだ。
「マジでやりやがるとは!」
「アーナズ殿、お見事」
バーン・バーンズさんとラハドさんが出てくる。
「君は……魔法のびっくり箱だな。いったいいくつ使える?」
「たまげたぞい。おまえさん、ムカデ退治の専門家か?」
「まだ子どもじゃのに、偉いもんじゃあ」
難所を乗り切ったことで、みんな安心しているな。
しかしそれはまだ早いかも。
「まだ親玉が残っていますから」
「あの中にいたんじゃねえか?」
そうであればいいが。
とにかく先を急ごうと思う。
★★★★★★
「いやー、これで1250万アーサルかよ! 最高だぜ」
「あれだけのモンスターを倒したのだから、報酬は上乗せされるべきだな」
「おう! わかってんじゃねえか!」
大量の岩喰いをともに倒したという連帯感からか、バーン・バーンズさんとニクラスさんが仲良くなっている。
「ラハドさんよ! あんたは金をなにに使うんだ?」
「バーンズ殿、気が早いですぞ? ですが……そうですな。恵まれない子供たちに寄付をさせていただきましょうか」
「真面目だな、あんた」
後ろではドヴーのみなさんが和やかに談笑しながら道を進んでいる。
崩落した箇所を取り除けば解決。そういった雰囲気だった。
「お、見えてきたぜ」
「ここが終点か」
第十三高炉、と案内盤が見える。
目的地だ。
広く造られた十三高炉の施設にはさまざまな物資に作業場がある。
掘ったそばから溶かしてインゴットするのだそう。
しかし今はおよそ半分ほどが岩と瓦礫に埋もれていた。
ドヴーのみなさんがすぐに作業を開始する。
「おれたちは休もうや」
「異論はない」
「そうですな」
「坊主、おまえも来いよ。魔法のこと、聞かせてくれ」
俺もすっかり彼らと仲良くなってしまった。
それはいいのだが。
「いえ、バーンズさん。武器を構えてください。みなさんも」
「なんだって?」
「ドヴーのみなさん! すぐに元の道へ! ここは危ない!」
声のかぎり叫ぶ。
すでに足元が小さく揺れているのだ。
「君、どういうことだ?」
「ウィンダルフ殿、彼の言う通りにした方がよさそうですぞ」
揺れを感じ取ったのか、ラハドさんがメイスと盾を構えた。
そして――
「GIIIIIIIIISYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
盛大に土を巻き上げて巨大すぎるモンスターが現れる。
見上げるほどの大きさに、みんな尻もちをついた。
「うそ……だろ……?」
「な、なんだこれは!?」
異常なデカさの岩喰い。大人三十人分はありそうな巨体を震わせている。
間違いなくこいつが親玉。さっきまでのムカデは前哨戦に過ぎなかったということだ。
(ここからが本番のようですね。頑張って、シント)
「はい」
ディジアさんから応援をもらった。
相手がどれだけ巨大でも負ける気がしない――




