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シント・アーナズ【ショッピング】・Ⅳ 『Sword and Magic of Time』出張

 集まった人々がざわめく。

 倒れている人は土の民じゃない。冒険者風の姿をした帝国人だ。


「どいたどいた!」

「通してくれい!」


 すぐに包帯やら薬を持ったドヴーが駆けつけてくる。

 だが、血まみれの男はそれを振り払った。


「いいんだ! それよりも族長に……アロンダイ族長に会わせてくれ!」


 様子がおかしい。

 まずい事態なのは一目瞭然だろう。


「わかったわかった。まずは治療をだな」

「やべえんだよ! 今すぐこの入り口をふさぐんだ!」

「なにを言っとる」


 無理やり治療を行うドヴーだったが、冒険者の口から出た言葉で固まる。


「だからこんなことしてる場合じゃないんだっ! 『岩喰い』だよ! ヤツらが出たんだ!」


 集った人々が大きなどよめきを起こした。

 

(シント、岩喰いとはなんなのですか?)

「……モンスターです」


 岩喰い。

 主に山などで発生する最悪の災厄。

 図鑑でしか見た事はないが、恐ろしさはわかる。


「簡単に言うと、巨大なムカデですね」

(ムカデ……?)


 サイズは人間十人分にも及ぶ。

 なにが最悪かと言うと、数がとてつもないということ。

 親玉を倒さないと増え続け、山や谷を食いつくす。動物だろうが岩だろうがお構いなし。

 発生したら避難してどこかに行くのを待つしかない化け物だ。


 誰もが恐怖の顔でささやき合っている。

 たとえ見たことがなくとも、言い伝えで知っているのだろう。


 やがて、人の列を割って誰かがやってきた。

 金色の冠を額につけたドヴーの老人だ。


「アロンダイ族長!」

「おお、族長さまだ!」


 騒ぎになりかけたところを、右手を挙げて制する。


「道すがら話を聞いたでな。ほんとうに『岩喰い』であったのか?」


 冒険者はうなずいた。


「ふーむ、ここ百年は見んかったが……」

「数がすごいんだ。あんなの……もう終わりだよ!」

「どのくらいの数だ?」

「数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいさ!」


 大量発生か。

 もはやミスリルどころの話ではない。


「皆の者! 対処するゆえ、いつも通りの仕事に戻ってくれい!」


 慰めかもしれないが、空気が変わった。みんな少し安心したように見える。


「それと冒険者に依頼をお願いしたい。救出チームを結成するでな」


 おお、と周りから声が漏れた。

 

(シント)

「わかっています」


 もちろん参加する。

 休日は一時返上だ。


 『Sword and Magic of Time』出張と行こうか。



 ★★★★★★



 石の街アダガンドの族長、アロンダイからの依頼は『岩喰いの討伐、及び閉じ込められた職人たちの救出』。

 他にも調査に向かった冒険者、復旧作業に当たっていた人々の救助も兼ねる。


 モンスターが現れたとなれば、放っておくことはできない。

 街までやってきたら惨劇が始まってしまう。


 この大仕事への参加希望者は、一時間後に坑道入り口前まで集合することになっていた。


 そして一時間後――


「みなよく来てくれた」


 族長アロンダイと、おそらく側近か、さもなくば高い地位のドヴーたちが来ている。

 さらに百人ほどのツルハシやシャベルを持ったドヴーもいた。


 俺の周囲には冒険者が集まっている。数は30人ほどだろう。

 思ったより少ない。


「これより救出作戦を開始するにあたって、いくつかの話をするぞよ」


 大きなテーブルの上に広げられた坑道の地図を、族長自ら説明する。

 

(ずいぶんと広いのですね)

「ええ、しかもかなり入り組んでる」


 崩落した箇所を聞きつつ、疑問を感じたので手を挙げた。


「すみません、質問があります」

「ふむ、君は?」

「シント・アーナズと言います」


 族長が優しげな目を向けてくる。


「なにかな?」

「取り残された方々は一か月も中にいると聞きました。食糧や水はどうしているのですか?」


 場合によって速やかに救出しなければならない。


「それについてはさほど心配がないであろうの」


 族長の説明では、鉱山内のいたるところに食糧や飲み水が備蓄していあるとのこと。


「山に事故はつきものじゃて。備えはしてあるのだ」


 無駄な質問だったようだ。けど安心した。


 一時間前に血まみれで戻って来たのは、やはり冒険者。なにかあった時の護衛として派遣された人物だという。

 その人の話では、復旧作業中、突然地鳴りとともに『岩喰い』が現れ、坑道内で暴れはじめた。


 その場にいた者たちはすぐに避難し、ぶ厚い扉を閉めたものの、はたして何人が無事なのかはわからない。


「こちらからは戦士兼土木工事の専門家を百人派遣しようぞ。冒険者の方々は彼らを護衛し、所定の場所まで連れていってくれい」


 なるほど。ドヴーの戦士は生まれつき頑健な肉体を持つという。頼りになりそうだった。


「報酬は五千万アーサルを用意した。これを均等に分けて払おう」


 五千万アーサルだって?

 今までにない額だと思う。

 30人で分けたとしても、160万アーサル。さすがは都市国家の報酬。

 桁がおかしい。

 

 冒険者たちは盛り上がっている。

 しかし、そんな場合じゃないと思った。


(急いだ方がいいのではありませんか?)


 ディジアさんの言う通りだ。

 読んだ図鑑の知識が確かなら、岩喰いは親玉を倒さないと増え続ける。あまりにも危険すぎるのだった。


「どうか、頼む」


 頭を下げる族長。

 こうして冒険者30人とドヴーの戦士100人、合計130人での仕事が始まった。



 ★★★★★★



 坑道から続く鉱山は説明を受けた通り、とてつもなく広い。

 先頭を行くのは、大剣を構えた屈強な冒険者。

 他にも弓、メイスなどを装備した者たちが続く。


(シント、彼らはいろいろな武器を持っています)


 懐にいる古書姿のディジアさんが聞いてくる。気になるみたいだ。


「みんなそれぞれ得意な武器があるのだと思います」

(器用なものですね)


 それが人間の長所です。


「おい! なんかいるぞ!」


 その時、冒険者の一人が声を上げた。

 一斉に物陰へ身を隠す。


「な、なっんだありゃあ!」

「バケモンじゃねーか……」


 道の先で、あまりに巨大なムカデが岩をガリガリ食べている。

 想像よりもちょっと……いや、かなりおぞましい姿だ。


 ぬらりと光る硬い表皮は生半可な武器では傷がつかないだろう。

 そしてバカでかいあごで噛まれれば、まず助からない。


「無理だ……お、おれはここで抜ける」


 抜ける?


「おれもだ! こんなのありえねえ! 軍隊が要る!」


 ここで脱落するのか。

 まだ戦ってもいないのだが。


 呆気に取られている内に、冒険者たちが逃げていく。

 予想外の事態だな、これは。

 

 引き留める間もなかった。

 30人はいた冒険者が、俺を含めてたった四人となる。


(あら~ シント、これは……)

「うーん、だいぶ減ってしまいましたね」


 ドヴーの戦士たちは一人も欠けてはいない。

 改めて逃げなかった三人を見る。


 残ったのは大剣を持った剽悍(ひょうかん)な男、大きな弓を背にした森の民エルフ、最後は上にも横にも体のデカい男だった。

 

「けっ! 腰抜けどもが」


 大剣の男が唾を吐く。


「みなシルバー級以下の者たちであろう。彼らでは荷が重い」


 やや堅苦しい口調で、エルフの冒険者が吐き捨てた。


「まあまあ、命あっての物種でございましょう」


 巨体の男性が丁寧になだめた。背には大盾、片手にメイスを持っている。


「おっちゃんたち! あんたらはどうすんだ? 戦えんのか?」


 大剣の戦士が、後ろについているドヴーたちに尋ねる。

 しかし、彼らはどこか呑気だった。


「わしらぁ、仲間を助けたいんじゃ」

「そうそう、あのバケモンはあんたらがなんとかしてくれるんじゃろ?」

「あん?」

「わしらぁ、鉄叩いて岩掘ってばっかりじゃもんな。戦闘なぞ何十年もしておらんし」

「そうそう、あんたら腕利きじゃろうて。頼むわ」

「おいおい……マジかよ」


 がっくりする大剣の戦士。

 前途多難になりそう。

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