シント・アーナズ【アウェイク】・13 後の話
「ミューズさん、すみません。仕事の方はどうなりましたか?」
食事もそうだが、ギルドの仕事も三日放ってしまったことになる。
ギルドマスターとしての責任を放棄するわけにはいかなかった。
「そっちは大丈夫よ。みんな頑張ってくれたし」
「そうですか」
大きく息を吐く。
「みんな、ごめん。自分でも疲れているのに気づかなかったみたい」
「気にしなくていいさ」
「……やるべきことをやった」
「とはいえみんな心配で仕事が手につかなかったけどねー」
余計なことを言ったラナがみんなにぎろりとにらまれてしまった。
「シント少年、見舞いついでになにがあったのかを聞かせてくれないか?」
仮面男爵が尋ねてくる。
こっちが本題か。
「いいですよ」
「あ、じゃあわたしたちは外に出ていますので……」
と、ミューズさんをはじめ、みんな外へ出ようとする。
それを引き留めたのは仮面男爵だった。
「いや、構わないよ。君たちもシント少年から話を聞いていないのだろう? ここで一緒に聞けば二度手間を防げる」
「そうですね。それがいいと思います」
みんな、複雑な顔をしているな。
仮面男爵がいるから遠慮しているのだろう。
とはいえ、興味が勝ったようで、全員がおとなしく座った。
「では僕はお茶を用意しますね。入り口にも休憩中の札をかけておきます」
「ありがとう、アミール」
彼の気遣いには感心する。いつも助けられていて、感謝してもしきれないな。
全員分のお茶が用意されて、俺は仮面男爵の向かいに座った。
「マスクバロンはどこまで聞いているんですか?」
「ふむ。私がフィップス教授から聞いたのは、ガラルホルン家とラグナ家が調査に介入してきたこと。新区域で魔法震が発生、崩落を君が止めたものの、床が抜けて落ちたこと。そしてガラルホルン家に拘束された調査団を君が解放したこと。遺跡前広場でユリス公子が軍と共に待ち構えており、街中で暴れ、それが何故か丸ごと消えたこと、の四点だ」
それならもう説明することはない。
「だいたいの事情は知っているのですね」
「ああ、しかし君の口から聞きたいのだ。特に【神格】があったのかどうか、と軍が消えた後のことをね」
つまり、フィップス教授が見ていない場面ということか。
「できれば最初から頼みたい」
「わかりました」
床が抜けて落ちたところまで要点だけを話す。
ここまで話しても反応はない。みんな、知っているらしい。
「その先はどうしたんだい?」
「とりあえず障壁を展開して着地しました。その後、上に登る階段を探したのですが見つからなくて」
あの時は焦ったな。
で、まだ喋れなかったディジアさんの導きで、ある部屋に着いたんだ。
「さまよううち、部屋を発見しました。そこには変な剣があったんです」
「変な剣、か。それをどうしたのだ?」
「回収しようとして触れたら、バラバラに砕けてしまいました。もったいない」
「砕けたのか?」
「ええ、砕けて消えました。アレがなんだったのか、考えてもわからない」
仮面男爵が俺をじっと見る。
ディジアさんが吸収した、と言いたいところだけどやめよう。
事務所のすみに置いた彼女から、無言の圧力を感じるし。
「それはもしかして……【神格】だったのでは?」
「どうでしょう? なにかのレプリカだったのかも」
「そうか。砕けたのでは……」
どうしようもない。仮面男爵はそう小さくつぶやいた。
「その後、なんとか上に登る階段を見つけ、みなさんと合流するために移動したのですが、ウルスラと出くわしまして」
「ガラルホルン家の第二公女【雷光の姫騎士】か」
「ええ、そうです」
【神格】神剣インドラを持つ超人。
彼女は俺を強引に連れていこうとした
だが、話している途中にフリット・アルラグナル卿が乱入してきて、戦闘になったんだ。
アルラグナル卿を倒し、続けざまウルスラとも闘い、退けた。
思えばかなりの連戦だったな。
「……待った。シント少年、いまなんと?」
「ええ、ウルスラを倒して、もう調査には関わらないと約束を」
「聞き間違いか? 【神格】の所有者を倒した、と?」
「はい」
沈黙が訪れる。
仮面男爵だけでなく、ウチのメンバーも黙った。
「どうやって倒したんだ」
「いえ、普通に。そこまで苦戦もしませんでしたし」
仮面男爵はしきりにあごを触って、自分を落ち着かせようとしている。
「神剣インドラはすごいですけど、方法がないわけじゃないですから」
「……そ、そうか。まあ君は単騎で絶望の暴君を倒すほどの者だしな」
彼は乾いた笑いをした。
「ユリス公子とその軍については?」
「彼らは一方的かつ無差別に魔法を放ち、建物を破壊しました。挙句、モンスターまで引き入れたんです」
「モンスターだと?」
これには仮面男爵だけでなく、ともにマールの農園を潰したアリステラも反応した。
「なので、丸ごと空間移動を」
「空間移動……?」
またしても訪れる沈黙。
おかしいな。アリステラとラナは俺の魔法を知っているはず。
「すまないが、わかるように教えてくれないか?」
「あ、はい。俺が使える魔法の中に≪空間ノ移動≫というものがありまして、それを使用し例の鉱山に移動させました」
「鉱山とは、あのアクトー子爵のかい?」
「その通りです。アクトー子爵はユリス・ラグナと通じていました。それだけじゃない。新市街を荒らしていたワルダ一家も、マスクバロンに引き渡した『焔』も全部ユリスの手の者でした」
どこで誰と何が繋がっているのかわからないってことだな。
まさか全部がユリスと関わっていたなんて。
仮面男爵はそこまで聞いて、ため息をついた。
「そうか、だからユリス公子は君に報復を」
「そのようですね。今にして思えば、遺跡に入って、その中で俺を亡き者にしようとしていたんじゃないかと思います」
「だが、入る前に君が出てきてしまった」
俺はうなずいた。
そしてユリスは、軍とモンスターまで出動した手前、引くことができず、凶行に至ったのだろうと考える。
「その後は?」
「倒しました」
「……目撃者によれば、その軍は千人いたという話だが」
「何人いても関係ありません。彼らは悪行の限りを尽くしていた。それを取り締まるのは冒険者の仕事でもあります」
「そのレベルになると帝国軍の範疇だと思うが……まあいいだろう」
彼はお茶をすすった。
「各方面から訴えがあってね。無断で軍を行進させ街中を恐怖に突き落とした男、ユリス・ラグナを拘束することとなったのだが……彼は行方不明になっている。君が始末したのか?」
「始末はしていませんが、大河まで吹っ飛ばしました」
「なに?」
「シント?」
「……なぜ」
「どゆこと?」
「大河って……あの大河なのかい!?」
「さすがシントさん」
急にきたな。気になるみたいだ。
「死にはしないでしょう。【炎の貴公子】とまで呼ばれている人ですし」
「いや、死ぬだろう」
どうかな。意識はあったままだったし、障壁を張れば死なないと思う。おそらく、たぶん。
「話はわかった。近く、この件について皇帝陛下からラグナ公国への詰問があるだろう。君はよくやったよ」
「はい、ありがとうございます」
仮面男爵は呆れた様子だ。
「君は怖くないのか? ガラルホルンとラグナ、この超名門を敵に回したのかもしれないのだよ?」
あー、うん。
その件についてはいまさらだし、どうしようもない。
「きっと話せばわかってくれますよ」
「君のそれは『魔法での対話』じゃないか?」
その言い草に、思わずニヤリとしてしまう。
「そうです。『魔法での対話』ですね」
「ふっふっふ……ますます君のことが好きになりそうだよ」
彼は立ち上がり、メンバーの礼を言った。
「そろそろお暇しようか。後のことは任せたまえ。ああ、それと遺跡の調査が明日から再開されるそうだから、張り切って護衛に当たってくれ」
それ、一番大事な話です。
「それでは」
そうして仮面男爵が辞した……と思ったら、また戻って来た。
「そうそう、シント少年」
「なんですか?」
「以前、君が気に入ったと言っていたアクトー子爵の石像をここの庭に運ばせておいた。なーに、礼はいらないよ。遠慮なくギルドの名物にでもしてくれたまえ」
はあ?
ちょっとなにしてくれてんの!?
「いや、マジでいらないので持ってかえ――」
「では今度こそさらばだ」
うーわ。
押し付けられた。
しかたない。事務所の隅にでもあとで置いておこう。要らないけど。
今度こそマスクバロンが去ると、みんなが乗り出すように聞いてくる。
「ギルドマスター! ガラルホルン家の第二公女を倒したってどういうことさ!」
「……詳しく」
「わたしも聞きたいー!」
「みんな、仕事が先よ。まあ、わたしも聞きたいけど」
まいったな。
質問攻めだ。
「わかった。食事しながら話すよ」
困るけど、たまにはこういうのもいい。
そして、俺たちを見ている古書姿のディジアさんがふと微笑んだ気がした。
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