シント・アーナズ【アウェイク】・12 ありえないことが起こった。目が覚めたら三日たってる。
「なにがおかしい?」
笑い続けるイングヴァルに尋ねる。
実の兄が吹き飛ばされたというのに、とても楽しそうだ。
「おれがあんな色ボケ野郎に加勢なんてするわけねーっての!」
色ボケ野郎ってなんだ?
加勢じゃない?
「おれはおまえを見てたんだよ。マールもやったんだろ?」
「うん、そうだよ」
「やっぱりな。どうやって魔法が使えるようになった?」
「勉強した」
「……?」
魔法は血統と【才能】。それが絶対だ。本から学んだなんて、言っても信じないと思う。
「ここに移動させたのもおまえの魔法か?」
「まあね」
イングヴァルの目は鋭くなる。
「で、イングヴァル従兄さん、どうする?」
「どうするって?」
「戦いに来たんじゃないの?」
子供のころから変わらない残虐な笑みを浮かべつつも、彼は両手を挙げた。
戦う気はないのか。
「おれはユリスやマールみてーなバカじゃねーよ? おまえには勝てねー」
勝てないと言っているけれど、態度はでかい。
「今はな」
切り札があるかのような口ぶりだ。
「おまえの魔法、見させてもらった。確かにやべー。ユリスやマールなんかじゃ無理無理無理、だ」
「俺を観察していたのか」
「ああ、そうだ」
それだけ言って、イングヴァルが背を向ける。
「だが、ラグナを継ぐのはユリスでもマールでも、ましてやおまえでもねー。このおれだ」
「俺は含めなくていいよ。ラグナに近づく気なんてないんだから」
「へっ、言ってろ」
イングヴァルは素質なら一番だと言われている。
【炎の貴公子】ユリス、【四属性魔導】マールを超える逸材であると。
だが万事にやる気がなく、その代わり暴力的な面が目立つ男だ。
(シント、彼は敵なのではありませんか?)
去っていくイングヴァルを見て、ディジアさんが聞いてくる。
彼女の問いかけに答えられなかった。
イングヴァルが何を考えているのか、掴めない。
「はい、気をつけておきます。それよりもディジアさん、ほんとうにありがとうございました」
(なにに対してのお礼なのです?)
「ディジアさんのおかげで、また一つ、魔法をうまく使えるようになりました。そのお礼です」
今日はいろいろあってだいぶ魔力を消費してしまったけど、頭は冴えている。
魔力と魔法の核心へわずかに触れたおかげで目が醒めた思いだった。
(なにを言うのです、シント。それはあなたの力なのです)
「いいえ、それでも言わせてください。ありがとう、と」
さあ、帰ろう。『Sword and Magic of Time』へ。
★★★★★★
「ただいまー」
「シント! 無事だったのね!」
事務所に戻ると、ミューズさんが血相を変えて立ち上がる。
アリステラ、ラナ、カサンドラ、アミールが駆け寄って来た。
「えーと?」
アリステラが俺の体をぺたぺたと触る。
ラナはほっぺたを引っ張ってきた。
「うわー、シントのほっぺたすごく伸びる」
「ラナ、やめるのさ」
なんなんだ?
「あなたが消えたって聞いたの。いったい何があったのよ」
「そうだよ。調査団の人がすごい顔で来て、シントが消えたー、とか言ってさ」
「話が支離滅裂で聞けたもんじゃなかったさね」
なるほどー。
俺が遺跡前でユリスの軍とともに消えたから、慌てたのか。
わざわざギルドに連絡してくれるなんて、調査団の方たちはいい人だ。守ることができて嬉しい。
「まあまあ、ちょっと待って」
みんなが不思議がる中、カウンターの奥のさらに奥にある棚に、ディジアさんを置く。
「ディジアさん、ここなら涼しいし、日も当たらないので過ごしやすいです」
(ありがとう、シント)
ふふふ、喜んでいるみたいだ。
「あ、俺の部屋も使っていいですから」
(はい、そうします)
これでよし。
「シント……? ね、ねえ、なんで本に話しかけてるの?」
「不気味」
「頭でも打ったのかな?」
「うーん……疲れてるんじゃないかねえ」
「シントさん、まずは休みましょうよ」
みんなの言う通りだ。
家に帰ったからか、安心感で眠くなってきた。
「朝に起きたら事情を説明します。では」
「え、ええ」
「……おやすみ」
「だいじょうぶ? 肩貸す? あ、カサンドラに抱っこしてもらったら?」
「ラナ!? なにを言うんだい!」
「それ、いいかも。姉さんは力持ちだし、やろうよ」
「アミールまで!?」
ああ、やっぱりここが俺の帰る場所だ。
ディジアさんもここで暮らすし、明日からまた楽しくなりそう。
そしてこのあと……めちゃくちゃ寝た。
★★★★★★
で、起きる。
日差しが気持ちいい。ゆっくりと背を伸ばし、肩を回してから着替えた。
「体が軽いな。あとお腹が空いた」
そういえば、昨日は朝食をとっただけで、そこからなにも食べてない。
昼食と夕食、二回分も食べ損なった。もったいない。
俺の家と事務所をつなげた通路を抜けて、中に入る。
まだかなり早い時間だが、そこにはメンバーが揃っていた。
「ギルドマスター! やっと起きたのね!」
やっと?
「……心配した」
「もう死んじゃうんじゃないかって思ったよ!」
よくわからないけど、みんなほっとしているようだ。
「ねえ、ギルドマスター、さっそくでごめんなさい。お客様が来ているんだけど……」
「お客様?」
目を向けると、客用のソファーに座り、お茶を嗜んでいる人物がいる。
「お目覚めかな? シント少年」
「マスクバロン?」
気配に気づかなかった。さすがはマスクバロン。
「どうしたんですか?」
「なに、君の事が気になってね」
「わざわざお越しいただかなくとも。呼んでくれればいいのに」
「そうしたよ。だが君が倒れて寝込んでいると聞いたからね。友人として見舞いに来たのさ」
倒れて寝込む? 俺が?
ばっ、と振り向いてギルドメンバーたちを見る。
彼女たちはうなずいた。
「君は丸三日、寝ていたようだぞ。ちょうど起きたところに来れてよかった。私は幸運だな」
「み、み、三日?」
「よほど疲れていたのでは?」
「えーーーーーーーーーーーーー!」
嘘だ。
そんなに寝ていただなんて、信じられない。
「しまった。三日ということは九回分の食事を逃したのか」
そう言うと、みんなその場でこけそうになる。
マスクバロンも、がくっ、と倒れそうになるのであった。
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