シント・アーナズ【アウェイク】・11 魔法戦終了
ユリスが発動した魔法を見上げ、思わずつぶやく。
「習得していたのか」
炎魔法の最上級≪ライジング・サン≫。
現在の魔法界において、【神格】の力を除けば、これ以上の炎はない。
小さな太陽を思わせる火球が、夜になりつつある空を赤く染め上げている。
確かに放たれたら広範囲を炎が焼き尽くすだろう。
「やめろ、ユリス」
「やめるか! ≪ライジング・サン≫を見て怯えたのだろうが――」
「そうじゃない。おまえは部下の魔法士たちを巻き込むつもりなのか?」
俺が倒した魔法士たちは、気絶しているだけだ。まだ息がある。
「魔法を使えぬ貴様に倒された者など……死ねばよいのだ!」
まだ言うか。
呆れたヤツだ。もはや周りが見えていない。
「ああ……そんな」
「む、無理だ……終わりだぁ……」
気絶していない魔法士たちは絶望に打ちひしがれている。
「全て燃え尽きろオオオオオオオ! 無価値のカスがアアアアアア!」
ユリスが≪ライジング・サン≫を撃ち放った。
本来なら焦るところだけど、全くもってその必要はない。
目に魔力を集め≪探視≫を使う。
思った通りだ。
形だけをとりつくろった、中身がスカスカの≪ライジング・サン≫。
こんな魔法で俺をやれると思ったのなら、大間違い。
「≪飛衝≫」
空へ上がり、≪ライジング・サン≫に向かって飛ぶ。
「≪極之焔≫」
対象は≪ライジング・サン≫で生み出された火球。
内側から黒い炎が発生し、あたかも虫に食われたがごとく浸食を開始する。
これで仕舞いだ。
手を伸ばし、宙を掴む仕草。
≪極之焔・終局≫。
ボッ、と一際大きく燃え上がる黒炎が≪ライジング・サン≫を内側から焼き尽くした。
「ブァカな!? ≪ライジング・サン≫だぞ……どうやって!?」
ユリスは腰を抜かしたようで、その場に崩れ落ちる。
魔力が尽きたか。
顔色は青を通り越して、真っ白になっていた。
空からゆっくりと彼のそばに降り立つ。
ユリスはただただ唖然として、俺を見ていた。
「これは……なにかの間違いだ。夢を見ているのだ……」
「夢なんかじゃない。いい加減にしろ」
「ち、違う! そんなはずは!」
「くだらない話はもういいんだ。憲兵隊に引き渡す」
「ふ、ふざけるな! 私はラグナの公子だぞ! 憲兵なぞ私に触れることも、裁くこともできはしない!」
ユリスの顔にわずかな光が差した。
事件を隠蔽し、憲兵を買収する力がラグナ家にはある。
「じゃあここで始末する」
「やめろ! だ、誰か! 私を助けろ!」
なにを言っているんだ、こいつは。
いまさっきまとめて殺そうとしていただろうが。
当然、ユリスを助けようとする者はいない。
意識のある者はみな、その場で固まり、動けないでいる。
「焔はどこだ! 来ているのだろうが! 出て来い!」
焔?
なんでここで焔なんだ?
俺が社会見学で潰すことになってしまった民間警備会社だ。
やっぱり真っ当な会社ではなかったということか。
「焔って民間警備会社の?」
「なぜおまえの口から焔の名が出るのだ!」
「だって、俺が潰したし」
「……は?」
信じられないな。コソコソ人様の家を覗くような組織を大貴族の長男であるユリスが作ったのか?
「俺の家を覗いていたから、アジトごと潰したよ。捕まえた人たちは憲兵に引き渡した。もうノゾキはできない」
「……でたらめを言うな!」
ユリスはそれでも俺を信じようとはしない。
もう話すだけ無駄な気がする。
「そうだ! フリットはどこだ! フリットがいれば……」
今度はアルラグナル卿か。
「アルラグナル卿は倒した、と言ったはずだ。死んではないけど、しばらくは起き上がれない」
「嘘だ! やられるはずが……」
話が噛み合わないな。
しかたがない。証拠を見せよう。
【神格】神剣フランベルジュのレプリカを投げ渡す。
受け取ったユリスはこれ以上ないほどに顔面を歪めた。
「アルラグナル卿が持っていたモノだ。彼は今頃、病院にでも連れて行かれているよ」
「ば、バカな……そんなはずはない! あやつは優れた魔法士なのだ! おまえごときに……」
「そんなことばかり言っているから、俺ごときにやられる」
「……!」
「もう終わりだ。街を破壊し、モンスターまで引き入れた。言い訳はできない。牢獄に行け」
ユリスがぶるぶると震えだす。
そして彼は、俺が渡したフランベルジュのレプリカを見てニヤリとした。
「だったらここで貴様を消せばあああああああああああああ!」
炎の剣を振り上げる。
剣術なんて使えないだろう。
アルラグナル卿はおまえなんかよりずっとうまく使っていたぞ。
「≪魔衝拳≫」
拳に魔法を纏うオリジナルの術を発動する。
振り上げられた剣に合わせて、懐に飛び込んだ。
「ぶっ!? ぶふっ……」
レプリカは空を切り、逆に俺の拳がユリスの美しい顔面にめりこむ。
彼のあごが外れて、ずれた。
「憲兵のところに行かないのなら、別のところに行ってもらうしかない」
「こ、こ、この……ボロ小屋のゴミめええええええええ!」
あごが外れているから、なにを言っているかわからない。
聞き取りづらいから戻そう。
アッパーカットを撃つ。
「ぐがっ!?」
ユリスのずれたあごがはまった。
「これまでどれだけの人たちに迷惑をかけたのか……」
「やめろ……あ、あごが痛い……あごが痛いんだ!」
「おまえに虐げられた人はもっと痛かったはず」
鉱山で禁じられているはずの奴隷として強制的に働かされていた人々。
ワルダ一家によって被害を受けていた新市街のみんな。
民間警備会社『焔』に家を覗かれた方々。
そして、遺跡前では建物が魔法で壊され、街の人はモンスターに恐怖した。
「ベッドの上で百年くらい反省するんだな」
「やめろ……やめろ……やめろオオオオオオオオオオオ!」
「≪魔衝発破≫!」
≪魔弾≫、≪衝波≫、≪発破≫を組み合わせたオリジナル魔法を放つ。
対個人用のブッ飛ばし魔法が炸裂し、ユリスの体が天高く飛んだ。
「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
マールの時と同じく、方角と距離は計算済みだ。大河に不時着するはず。
死にはしない。だが、死ぬよりもつらい苦痛を味わうだろう。
これで魔法戦は終了だ。
「ディジアさん、終わりました」
(今度こそ帰れますね)
調査団護衛の依頼はまだ一日目。
実入りの良い内容だけに、できれば継続したい。
「元の姿には戻らないんですか?」
(消耗が激しいので、しばらくはこの姿でいましょう)
「そうですか……」
みんなに紹介したいんだけどな。
無理はできないから、いずれそうしよう。
「ゆっくりでいいですよ。それにみんな歓迎してくれます」
(ええ、その時が来ればおねがいします)
戦闘が終わった鉱山を見回す。
残っていた魔法士たちは逃げたようだ。
倒れている人たちも回収されるだろう。
とにかく今日は帰る。
あ、でもその前に。
遺跡前の広場からここに空間移動させたのは、ユリスたちだけじゃない。
もう一人、物陰で様子を見ている者がいたのだ。
「出てきたら? イングヴァル従兄さん」
声を出すと、一人の男が物陰からゆっくりと姿を現す。
現当主カール叔父上の三男、イングヴァル・ラグナだった。
「……気づいてやがったか。いつからだ?」
「最初から。てっきりユリスの加勢をすると思ってずっと警戒してたけど、タイミング逃した?」
そう言うと、イングヴァルは大笑いするのだった――




