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シント・アーナズ【アウェイク】・10 大火炎魔導VS無価値野郎

「シント……おまえはこの手で殺す!」


 殺意と憎悪がユリス・ラグナを染めている。

 歪み切った顔だ。


「死ねい! ≪ファイアアロー≫! ≪ファイアボール≫!」


 炎魔法の二連打。

 ラグナ家の十八番(おはこ)か。


 放たれた魔法は、精密なコントロールで俺の急所に飛んでくる。

 ユリス・ラグナが持つ才能は【大火炎魔導】。炎魔法全般に様々な加護を得る。まさにラグナ家を体現する【才能】だろう。


 対魔法の障壁を展開。

 炎と障壁がぶつかって消滅。魔力の残滓を漂わせる。

 おそらく、次に来るのは≪ファイアランス≫だ。


 ≪ファイアアロー≫で足を止め、≪ファイアボール≫でもって炎上、視界をふさぐ。そして最後は火力の高い≪ファイアランス≫でとどめを刺す。

 ラグナ家で教わる炎魔法の基本コンビネーション。基本であるがゆえに完成され、隙がない。


「≪ファイアランス≫! くたばれ!」


 いいや、くたばらない。

 

「≪魔弾(マダン)≫」


 狙い澄ました≪魔弾≫は、ファイアランスの中心を撃ち抜き、消失させる。


「は!? な、なぜ……私の≪ファイアランス≫が……」


 ≪魔弾≫が速すぎて見えなかったようだ。

 

「貴様いったいなにをした!? どんな道具を隠し持っている!」


 またそれか。

 魔法を使っているのが、とにかく信じられないらしい。

 それならそれで別に構わない。


「≪ファイアアロー≫! ≪ファイアボール≫! ≪ファイアランス≫!」


 再びの基本コンビネーション。迫る炎の連撃。

 しかしそれは全て≪衝波(ショウハ)≫でかき消す。


「き、消えたっ!? 馬鹿な……」

「お返しだ。≪真空之刃(バキウブレイド)≫」


 風魔法で生成した刃をユリスに向けて放つ。


「くっ……≪ファイアシールド≫だ!」


 彼が展開した障壁は間に合った。

 だが、≪真空之刃(バキウブレイド)≫は障壁を切り裂き、さらにユリスの左腕をなぞるように斬る。


「ぐあっ!? な、なんだと! 私の腕が!」


 自分の血を見たのが初めてなんだろう。

 彼は腕を押さえて青ざめている。


「高貴なる私に! ラグナ家の嫡男に血を流させるだと! 貴様ァ!」


 高貴だって? なにを言っているんだ。


「おまえは少しも高貴なんかじゃない。ラグナ家もだ」


 言い切ると、ユリスは愕然としていた。


「な、なに!? ラグナを侮辱する気か!」


 俺は首を横に振る。


「仮に高貴だとしても、それは爵位を得た俺たちのご先祖様がそうであって、おまえは関係ないだろう。そもそもやりたい放題できるのだって、おじい様や、俺の父さんや、叔父上が戦争で武功を立てたからだ」

「なにを……言っているのだ」

「だいたいにして、戦争で多くの敵を殺し、血でべっとりした手のどこが高貴だというんだ? 言ってみろ」


 ユリスは歯をむき出しにして、目を血走らせ、凄まじい怒りをあらわにする。

 貴族なんていうけれど、結局やることは戦争。そこに貴賤(きせん)などあるものか。


 しかし、否定しているわけじゃない。

 兵を率い、前線に立って領民を守る。体を張ってこそ貴族だと、俺はそう思っていた。


 だがユリス・ラグナは違う。

 彼は自国の人々を苦しめる犯罪者だ。


「人に迷惑をかけるな。王様ごっこなら一人でやれ」

「この……無価値のカスがああああああああああああ! 私を! ラグナを否定するなああああああああああああ!!」


 怒りに任せて魔法を撃ってくる。

 数十本の≪ファイアアロー≫、そして≪ファイアボール≫の連打。

 

 乱れすぎだ。ぜんぜん集中できてない。これでは障壁を使うまでもない。

 ≪魔弾≫で撃ち抜き、≪衝波≫でかき消す。


「私の魔法がなぜ消されるんだ! ふざけるなペテン師めええええええ!」


 ユリスはまたもや炎魔法のコンビネーションで攻めてくる。

 

「……」


 全部防いだが、なんだろう。どうにも力がわいてこない。


「死ね! 死ねえええええ! ≪ファイアランス≫!」


 大きな炎の槍も問題にはならない。障壁を使用し、遮断。

 砕け散って、火の粉が舞う。


(シント? どうしたのです? しゅーんと魔力がしぼんでいますよ)


 古書の姿に戻ったディジアさんが、懐の中から心配そうに話しかけてくる。


「あ、いえ、急に力が抜けて」

(具合が悪いのですか?)

「そういうわけではないのですが、なぜか戦う気が」

(ひょっとして、()えた、のではありませんか?)


 萎えた? 

 そうか。

 俺は萎えたんだな。


「そうですね。もしかしたらそうかもしれません」


 なんということだ。

 最中に萎えるだなんて、いけないことなのに。


 ユリスはおじい様や叔父上から魔法を教わっていないのだろうか。

 あるいはマール従兄さんみたいにサボっていたのか。


 魔法のコントロールはすごいと思う。かなり精密だ。

 しかし、発動までが遅く、威力もムラがあってバラバラ。正直、見ていられないレベルだった。

 これが【炎の貴公子】か。


「さっきからなにをブツブツと! さっさと死ね! カスめ!」


 また同じコンビネーション。

 これも全部防ぐ。


「もうやめよう」

「……は?」


 無理だ。続けられない。


「い、いまさら命乞いだなどと! ははははは! そんな――」

「違う。続けても一方的になりすぎる。これじゃただの弱い者イジメだ」

「……なに? おまえはなにを言っている……」

「聞こえなかったのか? それとも意味がわからないのか?」


 ユリスはイジメる方が得意そうだから、逆の事をされるのは初めてなんだろう。意味がわからなくとも不思議じゃない。


「終わりだ。憲兵隊に出頭しろ。不安ならついていってやる」

「……はっ……かっ……」


 怒りすぎて言葉も出ない。ユリスはそんな様子だった。

 俺をどこまでもにらみつけ、歯を食いしばっている。

 そんな状態が何分続いたのか、彼はやがて笑い始めた。


「……くくく……はーはっはっは! 終わりなのは……貴様だ!」


 彼の内側から魔力が噴き出す。


「どうやっているかは知らんが……鉱山ごと焼き尽くせば関係あるまい!」


 不穏な空気が流れる。

 さっきまでとは少し違うな。


「消し炭だ! おまえを肉片一つ残らずに焼いてやろう!」


 巨大な魔力が渦を巻くようにして、ユリスの頭上に集中する。


「≪ライジング・サン≫!」


 そして、魔法の言葉と同時に魔力が形をなし、見上げるほどに大きな、鉱山を丸ごと吞み込めるサイズの火球が現れたのだった――


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