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シント・アーナズ【アウェイク】・7 【神格】との戦い『神剣インドラ』

 しーん、と静まり返る空間。

 少したってからウルスラが激怒する。


「タイム、だと? なんのつもりだ! シント!」

「いや、君と戦うにふさわしい武器を用意しようかと」

「……私と戦うにふさわしい?」


 彼女の持つ【神格】神剣インドラの特性は『雷』。その刀身には常に稲妻が走り、剣や盾で受け止めたとしても、焼かれる。

 間合いを離しても激しい雷が降ってくる、という非常に厄介なものだ。


 雷だけなら障壁で防げる。

 しかし同時に剣撃や刀身の稲妻をも対処するのは困難を極めるだろう。

 だからアレを使おうと思った。


 魔法≪次元ノ断裂(ディメンション)≫を発動。

 まさかここで使うことになるなんて思わなかったけど、回収しておいてよかった。


「えーと、あったあった」


 異次元の穴から取り出したのは、(たけ)


 以前のこと。ギルドを開業する少し前だ。

 事務所の建築にあたって、費用を浮かそうと木材や竹を回収したのを覚えていた。結局、建材には使えなかったけど。


 青々とした竹をちょうどいい長さに切る。

 これでいい。


「……シント? なんのつもりだ?」

「竹だよ」

「見ればわかる! よもやその竹竿で私とインドラを……」

「うん、その通り」

「シントーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 うわ。

 ものすごく怒っている。

 彼女の美貌は浮き出た血管でえらいことになっていた。

 だけどこれが正解だと思う。


 怒りながら斬りかかってくるウルスラ。

 雷を纏う神剣インドラの刀身を、竹で受け止める。

 もちろん、ただ受け止めただけでは斬られるから、腕から竹の先まで障壁を展開しているが。


 竹は雷を通さない。障壁を重ねれば二重、三重に遮断できる。

 剣に絶対の自信を持っていたウルスラは、止められたことで顔色を変えた。

 混乱しているようだ。


「な、なぜ!? なぜインドラに焼かれない!」

「答える気はない」


 見事に慌てているが――


「い、いや! 雷などなくとも!」


 そうだな。雷を防いだとして、彼女自身の剣技、そして身体能力を封じたわけじゃない。


「私の才能は【縮地(しゅくち)】! 人の目には捉えられないぞ!」


 それも知ってる。

 ウルスラが授かった【才能】は、まるで瞬間移動でもしたかのような神速。

 まさに【神格】の所有者にふさわしい、極めてレアな【才能】だ。

 おかげで子供の頃は駆けっこじゃ一度も勝ったことがない。


 速すぎてウルスラの姿が消える。

 だが俺はその剣を再び、止めた。

 剣と竹がぶつかった衝撃で雷が走り、周囲に跳ねる。


「ありえない……ありえないぞ! どうして!? なぜだ!?」


 すでに≪探視(サーチアイ)≫は発動している。

 答えは難しくない。

 ≪探視(サーチアイ)≫で見るのは、魔力だ。

 彼女の姿が見えなくとも、魔力は違う。巨大すぎる神剣インドラの魔力はよく見える。


 そしてもう一つ、剣を止められた理由がある。

 彼女の動きはあまりに直線的すぎるんだ。先を読むのが簡単だった。

 小さい時からずっとそう。無駄がなく、余計なフェイントがないからとても読みやすい。


「シント……私になにをした!? インドラになにを――」

「≪魔衝撃(マショウゲキ)≫」

「!?」


 巨大な魔力弾を撃つ。

 ウルスラはそれを真正面から受け止めた。


「くうっ……このおおおおおおおおおおおお!」


 神剣インドラが俺の魔力を切り裂く。

 しかし、その余波は彼女に膝をつかせた。


「ひ、姫さま!」

「まさか……公女殿下がお膝をおつきに……」

「どうなっている……夢なのか?」


 絶句する騎士たち。

 ウルスラが、ぎり、と歯を噛んだ。


「シントォォォォォォォォォ! もはや! もはや手加減はしない!」


 ずっと本気だっただろうに。


「これで終わらせる! 必ずひざまずかせてやる!」


 空気が変わった。

 彼女は神剣インドラを両手で天へと掲げる。

 すさまじい力の集中。巨大な雷が生成されていく。


「た、た、退避だ! 姫さまが『大雷(だいらい)』をご使用にいいいいい!」

「動ける者はみなを回収しろぉ! 離れるんだァーーーーーー!」


 騎士たちが慌てて動き始めた。

 周りが見えていないウルスラは、この広間でとんでもない一撃をぶっ放すつもりらしい。

 怒らせて動きを乱すつもりだった。それは成功し、ダメージを与えることができたわけだが、彼女は怒りすぎて、切り札を出すようだ。


「ウルスラ、やめるんだ。部下の人たちまで巻き添えにするのか?」

「うるさーーーーーーい! おまえが言う事を聞いていればよかった! 私の! 私だけのしもべとなればよかったんだ!」


 もうめちゃくちゃだな。子供みたいに駄々をこねている。

 俺の後ろにはディジアさんがいることだし、引けない。

 

 しかしどうする?

 生半可な魔法じゃ――


「シント」


 いつの間にか、ディジアさんが俺のそばに来ていた。


「ディジアさん、俺から離れてください。危険です」

「ふふ、あのような一撃、どこにいても一緒ですよ?」


 その通りなんだけど。でも危ないものは危ない。


「アレでは、周囲の方々もただでは済まないでしょう。ですからシント、打ち破るのです」


 それもわかってる。


「応援していますからね。シント、頑張れー」


 ディジアさんは途中で舌を噛んだのか、がんば()ー、と聞こえた。

 変な応援だな。でもすごく力がわいてきた。


 手持ちで最高の雷魔法をぶつけよう。

 真正面から神剣インドラを覆す。


 術式を構築。口から力ある言葉を発する。


雷轟(らいごう)よ、天より来たり、その神姿(しんし)雄叫(おたけ)び上げて、灰燼(かいじん)とせむ。(しこう)して、いなと(ひかり)す、その御名(おみな)――」


 魔力充填――


「終わりだ!!!! シントォォォォォォォォォ!!!!!」


 神剣インドラから巨大な雷の力が放たれた。


 しかしこちらも魔法を発動する!


「≪至極之天雷(トール)≫!」


 生まれるのは、大いなる雷。そしてそれに、拳を思い切り叩きつけた。


「≪大槌(ハンマー)≫!!」


 極大の稲妻を撃ちだし、神剣インドラから放たれた巨大な雷と真正面からぶつかる。

 誰もが光景に息を呑み、まぶしさに目を覆う。

 せめぎ合う極太の雷が強烈な音を響かせた。


「こ、こんなもの……こんなものでぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 ウルスラがさらに力を込める。

 だが、彼女は足が震え、徐々に押されていった。


「私が……私が負ける!? そんな……そんな――」


 終わりだ。


「ばかなあああああああああああ! シントォォォォォォォォォ!」


 インドラが彼女の手から弾け飛び、≪至極之天雷・大槌(トールハンマー)≫がウルスラを突き抜けた。


 これ以上ないというほどの炸裂。雷が広間を暴れ回る。

 そして、発生した光が収まった時、そこには両膝をついて体からぷすぷすと煙を出す彼女の姿が。


「……」


 目が開いているから意識はあると思う。

 ただ、動かない。


「姫さまーーーーーー!」

「だ、誰か櫛を持て! 姫さまのお美しい御髪(おぐし)がお乱れになっておるぞ!」


 騎士たちの呼びかけにもウルスラは応じない。


「さすがです、シント」

「いいえ、ディジアさんの応援があったからですよ」


 俺には守るべきものがある。だから、負けない。

 勝負は俺の勝ちだ。ここを去る前にウルスラには釘を刺しておこう。


 床に落ちた【神格】神剣インドラを拾う。

 やはり所有者ではないことで、手の中のインドラがビリビリした。


「いっ……! 『水姫』の時と同じだな。このっ!」


 思い切り握って魔力を込める。

 神剣インドラはおとなしくなった。

 【神格】ってほんとよくわからない。


「ウルスラ」

「……!」


 声をかけると、彼女はゆっくりと俺を見る。


「ひ、ひいいいいい!」

「来るな! この怪物め!」


 騎士たちがウルスラを放って、俺から離れた。

 ひどい。


「はい、これ」


 と、神剣インドラを渡す。


「シン……ト……どう……して、わ、私は……」


 か細い声で途切れ途切れに言う。負けた理由を聞きたいようだ。

 

「わ、私……弱い……のか? おまえよりも……」

「違うよ。強いとか弱いってことじゃない」


 ウルスラは【神格】に選ばれた超人。議論するに及ぶところじゃない。


「小さい頃のこと、覚えてる? 俺は君に駆けっこで一度も勝ったことがなかった。君はすごく足が速いからね」


 今でも思い出す。

 庭で走り回っていた。俺も、みんなも。


「10歳であの小屋に移ったあと、ずっと考えてた。もしもまた君と競争することになったら、あるいは戦うことになったのなら、どうすれば勝てるだろうか、と」


 考える時間だけはたっぷりあったからな。


「それがうまくハマった。それだけ」

「……」

「君は負けた。もう俺たちに近づかないでほしい。遺跡調査にも関わらない。いいね?」


 反応はないけど、聞いてはいるようだ。


「どうしても用事があるなら手紙でおねがい」

「……」


 彼女はかろうじて小さくうなずいた。そして。


「……はぅぁ」


 吐息を漏らし、白目をむいて気絶する。

 よし、終わった。

 

 そうだ。ついでに神剣フランベルジュのレプリカも回収しておく。

 これは賞金首フレイムが持っていたものだと思う。アルラグナル卿が持っていたということは、すなわちあの賞金首もラグナ家の手の者なんだろう。

 危ないし、どこかに保管しておかないといけない。


「帰りましょう、ディジアさん」

「はい、帰りましょう」


 こうして俺はディジアさんの手を取り、広間を後にするのだった。

 

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