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シント・アーナズ【アウェイク】・6 雷光

 体から煙を出してアルラグナル卿が床に倒れる。

 そこへ、彼と共に来ていたラグナ家の魔法士が駆け寄った。


「……息はある」

「しかし、なんなのだ……今の魔法は」


 彼らが俺に目を向けた。

 近寄ると、下がっていく。


「アルラグナル卿は倒れた。あなたたちはどうする?」


 返答はない。ただ息を呑む音だけ聞こえた。


「戦わないのなら、すぐに引け。このままここにいたらウルスラに殺される」

「……!?」


 魔法士たちはうなずいて、気絶しているアルラグナル卿を担ぎ上げた。


「別の道があるはずだから、それを探して行けばいい」

「……かたじけない」


 これでラグナ家の人々は去った。


「お見事でした。シント」

「ディジアさん、ありがとうございます」

「次はあの女性と戦うのですね?」


 そうだ。

 ガラルホルン家第二公女ウルスラ。【神格】神剣インドラを持つ、雷光の超人。

 一人で万の軍に匹敵するというその力を、彼女は微塵も隠そうとしない。


「シント、魔法を使えること、なぜ黙っていた」


 ウルスラはすでに神剣インドラを抜いて、雷の力を放っている。


「隠してはいないよ。ちゃんと使えるようになったのが最近なんだ」

「覚醒したのか?」


 覚醒。

 ごくごく稀に、成人してから【才能】が目覚めた、という例がある。

 残念ながら違う。これは学び、習得したものだ。


「それも違う。勉強した」

「勉強?」


 信じられないか。


「やはりおまえは()()()()()()()()

「なにが?」

「幼き頃より、私にはわかっていた。いつもへらへらしてなんでも受け流すおまえを侮る者は多かったが、そやつらの目はガラス玉の節穴。だが……私だけは気づいた。おまえは奥底になにか途方もないものを隠し持っていると」


 そういえばアイシアも似たようなこと言ってた。

 勘違いだ。俺にはなんの【才能】もなく、要領も悪かった。笑ってやり過ごすしか、自分の身を守る方法がなかっただけ。


「シントよ、私にひざまずけ。私だけにだ。私専用のしもべになるんだ。それがおまえの幸せ」


 勝手に人の幸せを決めないでくれるかな。

 アイシアはペットがどうのと言っていたし、今度はしもべときた。


「俺は冒険者ギルド『Sword and Magic of Time』のマスターだ。いまさらしもべになんて、転職はできないな」

「聞き分けのないことばかり言う。年下のくせに生意気だぞ! シントぉ!」


 そろそろ来るか。

 と、身構えた時だ。俺とウルスラの間に、ガラルホルン家の騎士たちが割って入る。


「姫さま、ここは我らにお任せください」

「公女殿下のお手を煩わせることなど」


 彼女の近衛騎士『雷光』の百人が、立ちはだかる。


「……いいだろう」


 意外なことにウルスラが下がった。

 

「一対一じゃないのか」

「私は姉上のように甘くはないぞ、シント。私と戦いたくば、我が騎士たちを倒すことだな」


 全て倒すつもりだったから問題ない。


「シント公子よ、黙って聞いておれば、我らが姫さまに対し数々の無礼。馴れ馴れしい口の利き方。もはや我慢ならぬ」


 一人がそう言うと、周りから一斉に野次が飛んでくる。


「聞けばもうラグナ家の者ではないと聞く。立場をわきまえろ、小僧」


 にらまれた。

 なるほど、と思う。

 だから彼らは、遺跡に集まった最初から俺をにらんでいたのか。

 騎士などというものは、そうして面子ばかり気にする。


「どうでもいい。来るなら来い」

「なっ……!?」

「調子に乗りおって!」


 百人が剣を構える。

 乱れのない動きで、ざっ、と並んだ。


「シントを捕えた者は値千金、子々孫々まで厚く報いよう!」


 ウルスラの言葉が騎士たちに火をつけた。

 そして、一人の騎士が前へ出る。


「やあやあ我こそはガラルホルン家ウルスラ様が麾下(きか)サンデール男爵なり! 栄光あるガラルホルンの剣として貴殿との決闘を果たさん! 剣神よ! ご照覧あれ! ガラルホルン家の女神よ! 我に――」

「≪魔弾(マジックショット)≫」


 魔力弾を撃つ。

 ≪魔弾≫がサンデール男爵のとやらの眉間にぶち当たり、彼はずっと後ろの壁まで吹き飛んだ。


 前口上が長すぎる。聞いていられない。

 なんのつもりだ。


「貴様っ! 口上の途中で! なんたる卑劣!」

「汚いぞ! なぜ待たぬ!」


 待つわけないだろう。

 騎士たちは俺を非難したが、ウルスラがそれを一喝(いっかつ)した。


「たわけもの! 口上の途中だろうが戦は始まっているのだ! いついかなる時も警戒を解くな!」

「ははー!」


 なんなの、これ。

 これだからガラルホルン家のノリは好きになれない。


「次は吾輩(わがはい)が行こう。我こそはガラルホルン家ウルスラ様が麾下――」

「もういい。全員で来い」


 時間がもったいないよ。


「なんだと!? 我らを一度に相手とする気か?」

「馬鹿な! なんという愚かなことを。死にたいのか!」

()()()はいいんだ。時間を無駄にしたくない」


 この一言が騎士たちの顔色を変える。彼らは真っ赤になって敵意をむき出しにした。


「姫さま! この不遜(ふそん)な若造を我らの手で!」

「必ずや捕えてごらんにいれましょう!」


 ウルスラがうなずき、騎士たちは俺を半包囲した。

 憎悪が渦巻いている。

 

「自らの首を絞めるとは! 阿呆め!」

「観念するんだな!」


 なんとでも言えばいい。

 

「雷光の力を思い知れえええええええええ!」

「おおおおおおおおおおお!!」


 約百人の男たちが襲いかかってきた。

 どの顔も怒りでいっぱいだ。


 大きく息を吸って、吐く。

 魔法を発動。


「≪マダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダ魔弾マダン≫!!!」

 

 ≪魔弾≫を五十連打。狙うのは全て眉間。

 迫っていた騎士たちはみな吹き飛ばされ、背後の男たちを巻き込んで崩れる。

 

「≪魔衝撃(マショウゲキ)≫」


 間を空けずに次の魔法を撃つ。


「う、うわああああああああ!」

「馬鹿者! 前をふさぐ――ぐおあああ!」


 巨大な魔力の弾が衝撃波を伴い、数十人をまとめて倒した。

 腕を伸ばし、二本の指を残る騎士に向ける。


「≪発破(エクスプロード)≫」


 魔力の炸裂が爆発を呼び起こし、騎士たちが真上にブッ飛んだ。

 これで残りは五人。


「な、なんなのだ……これは」

「嘘だ……およそ百人が……五分とかからずに、だと!?」


 じりじりと下がる『雷光』の騎士たち。


「ば、化け物……」

「人間じゃない……」


 さんざん罵っておいて、今度は化け物扱いか。

 この人たちはなにがしたいのだろう。

 だがもう終わりだ。


「愚か者! ガラルホルン家の騎士ともあろう者が、下がるな!」

「し、しかし姫さまっ!」

「ええい! もういい! 私が相手をする!」


 ウルスラが残った五人の騎士を無理やり下がらせて、前へ出た。

 ようやくのお出まし。【神格】のご登場だ。


「不甲斐ない者どもめ。だがシント、おまえの力、見せてもらったぞ」

「最初から君が出てくればよかったんだ。無駄にけが人が増えた」

「またしても生意気な口を……!」


 ウルスラは激しい怒りの形相で、神剣インドラを構えた。

 だいぶぷりぷりしているな。

 

「神剣インドラの力! とくと見よ!」


 一歩踏み出しただけで、雷が跳ねる。

 さすが【神格】だ。


 緊張が走る。

 直後に始まる戦いの予感……の前に。


「はい!」


 俺は手を挙げた。そしてこう言う。


「ちょっとタイム」


 と。

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