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ファミリアバース 5 そうだ、憲兵に会おう!

 フレデリカさんに別れを告げて、すぐに向かいの憲兵隊事務所に行く。

 異次元にしまってあるけど、いつまでも悪党の人たちを入れてはおけない。


「すみませーん」


 ドアを開けて声をかけると、ちょうど誰かが出てくるところだった。


「お? なんだ坊主。まさか入隊希望か?」


 引き締まった肉体の人だった。憲兵の装備を身に着けていて、どこか颯爽としている。身のこなしは軽やかだし、他の人と違う空気をまとっていた。


「すみません、お尋ねしたいのですが犯罪者の引き渡しはここでよろしいでしょうか」

「妙に丁寧だな。まあいいが、答えはイエスだ」


 憲兵さんの目つきが変わる。


「おまえさんは?」

「シント・アーナズといいます」

「で、犯罪者ってのは?」


 そうだった。出さないと。

 ≪次元ノ断裂(ディメンジョン)≫の魔法を使って次元の穴を空ける。

 

「はあ?」


 どさどさどさ、と悪党の人たちが落ちてきた。合計で12人。

 みんな息をしているから死んでない。


「おいおい……なんだこれは」

「一種の魔法です。運んできました」

「……マジか。こいつ、『ナイフマン・ベネット』じゃねえか」


 憲兵さんが御者風の男を見て驚く。


「!?」


 さらに目を見開いて俺を見る。


「こいつは! 『狂獣大剣ゴールガン』!? バカな!」


 ものすごく驚いているな。ひょっとして大物だったのか。


「おまえさん……マジで何者だ?」


 とんでもないことをしでかしたような空気が流れた。

 犯罪者を捕まえてきただけなのに、怒られそうだ。



 ★★★★★★



 これはどういう状況なのだろう。

 俺は今、憲兵隊事務所内の椅子に座らされ、屈強な男たちに囲まれている。


 彼らはじーっとこちらを見つめ、口を開こうとしなかった。

 ちなみに捕まえてきた人さらいやひったくりは憲兵の方々がきつく縛って、地下の留置場に放り込まれている。


「あのー、なにか言ってほしいのですが」

「……」

「せめて自己紹介くらいは」

「……おれはブルーノ。いちおう男爵位を持ってる。この町の憲兵を預かる司令官だ」


 この人、けっこう偉かったのか。


「じゃあ聞くぜ。シント・アーナズ。賞金首どもをどうや――」


 ぐごおおおおお、と派手に音が鳴る。音源は――俺の腹だ。


「おい、おまえさん、話を聞く気はあるのか? なんなんだその爆発音みてえな腹の音はよ!」

「だって、今日はなにも食べていないし」

「何も食べてないだと! しゃあねえ! 出前だ出前!」


 デマエ? デマエってなに?


「メシは食わせてやる。その代わりわけを話せ」


 食事をさせてくれるのかこの人! なんんんていい人なんだ!

 そういうことであれば、話そう。


 ラグナ家のことは全て伏せて、事情を話す。

 馬車に乗ったら人さらいのアジトにいたこと。戦闘になって捕えたこと。なぜかモンスターがいたこと。そして奴隷として売られそうになったエルフの女の子たちを助けたこと。

 話し終えると、ブルーノ男爵は小さくため息をついた。


 話している間にデマエが来た。

 俺の前に置かれたのは丸いボウルに入ったスープ。肉やら野菜やらが煮込まれたものだ。

 香しい旨味を伴った匂いが鼻をくすぐる。これもう食べる前から美味しいヤツに違いない。


「いただきます」


 フォークを使って中身をすする。一緒に入った肉とか野菜も味が染みこんでいてかなりうまい。こんな素晴らしいものがこの世にあっていいのだろうか。


「ずいぶんうまそうに食うな……どうなってんだ」

「ふぁふふぁふん(すみません)」

「いいよ、食ってから喋りな?」


 あっという間に完食。ごちそうさまでした。このデマエという料理、最高だ。


「さて、本題に入るぜ」

「はい」


 ブルーノ男爵は料理に手を付けずに、話を始めた。

 その料理、俺にくれないかな。


「おまえさんが倒した男。ガタイがデカいヤツだ」


 悪党たちから、先生、と呼ばれていた巨漢のことだ。


「人呼んで『狂獣大剣』のゴールガン。100人斬って賞金首になったバケモンだ。普通の人間に倒せるヤツじゃあねえ。持ってる【才能】はたしか……【斬岩】だったか」


 確かにちょっと強かったな。

 ただそれは相性というか、運が良かったというべきかも。


「ナイフマン・ベネットもそうだが、こいつらはおれたちが追っていたクソ野郎どもで、今まで尻尾を見せやがらなかった。だが……いきなりどこからか出てきたおまえさんがやっちまった」


 成り行きで偶然でくわした。それ以外に説明できない。


「なにか問題でもあるのでしょうか」

「ああ、ある。おまえさん、どこから来た? 黒髪に黒瞳。帝国じゃ珍しい。それにさっきの妙な魔法……まさか」


 ぎくり、とする。俺が元いたラグナ家は大陸でも一番の魔法大家。そしてそこから追放という名の家出をしたので、姓は捨てた。

 バレるのはしかたがないとして、ここの人たちに迷惑がかかるかもしれない。それだけは嫌だ。


「エターナルの秘蔵っ子か?」


 ……?


「違うか。だとしたら、ラグナ家かグーレンベルク家、あるいはメギストス家の関係者……はねえな。冒険者なんぞ絶対にやるわけねえ」


 危ない。かすった。


「いえ、俺はただ運が良かっただけです」

「……そうか。ならいい。ただな、もう一つ問題がある」


 俺は身構えた。今度はなんなのか。


「ここにはたいして金がねえ。おまえさんが捕まえてきた奴らの内、半分が賞金首だった。全員分は出せねえから、後日、ということになる」


 なんだ、そんなことか。問題はない。


「なら出せる分だけでいいですよ」

「……なんだと?」

「彼らを捕まえたのは()()()みたいなものだったし、俺は路銀が稼げればそれでいいので」


 きょとーんとする憲兵の人たち。


「……こいつは参った。だがなあ、さすがにそれは」

「みなさんの手柄にしてください」

「それこそありえねえ。大の男がそんな真似できるかよ」


 ブルーノ男爵は折れそうにない。

 妥協できる案があればいいと思うんだけど。

 ……そうだな、思いついたぞ。


「あ、そうだ。だったらお金の代わりに推薦状をいただけませんか?」

「なんの話だ?」

「冒険者っていうのは免許が必要だと聞きました。俺は天涯孤独なので身分を証明できるものがありません」

「あー、そういうことか。うーむ……まあ、推薦状なんていくらでも書いてやるが、金の問題はそれじゃダメだ」


 本当に折れない。真っすぐな人だ。


「では後で取りに伺いますので、保管していただければ」

「それで手を打つか。ちょっと待ってな」


 ブルーノ男爵は席を立った。

 よかった。これ以上は揉めたくない。

 彼は数分後には戻ってきて、推薦状をくれた。


「おまえさん、しばらくこの町に?」

「いえ、フォールンに行きたいので」


 話は終わった。ブルーノ男爵は最後までなにか言いたそうにしていたが、これ以上は何も言わない方がいい。

 賞金を受け取って外に出る。


 もらった賞金の額は30万アーサル。叔父上が言った『10万でひと月』という話を信じるなら、かなりの額だと思う。


「これで100日近く生きられる……!」


 感動でしばらく動けそうになかった。

 食事もおごってもらったし、家を出てからいいことばかりだ。

 

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