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シント・アーナズ【アウェイク】・1 思いがけない大所帯

 自分の出自を話してからというもの、どこかギルドメンバーとの距離が縮まったように感じた。

 ためらいがあったけれど、やはり話してよかったと思う。


 それから数日、怪しげな人物がギルドを監視していたりしたが、おおむね平和だった。

 もちろんその怪しげな男たちは捕まえて全員憲兵隊に引き渡したけどね。

 彼らは決して口を割らず、自害しようとしたから、すぐに異次元の穴に入れてから引き渡した。


 そしてある日のこと。


「ギルドマスター、総監代行がお呼びですって」

「アルハザード卿、じゃなかった。仮面男爵(マスクバロン)が?」


 総監邸に務める職員がわざわざ俺を呼びに来ている。

 なにかあったのだろうか。


「今日の依頼は?」

「あなた抜きでもだいじょうぶよ。最近みんな張り切っているし」


 なら問題ない。

 すぐに行こう。



 ★★★★★★



 フォールン総監邸。

 現在の総監代行である仮面男爵は、いつものように執務室で仮面をつけたまま政務に励んでいる。


「シント少年、呼び出してすまない。本来なら私が出向くところだ」

「いえ、問題ありません。なにかご用ですか?」

「うむ、実は君に依頼を出したくてね」


 仮面男爵じきじきの依頼か。

 

「君は新聞を読むかい?」

「はい」


 新聞は好きだ。


「では、先日の遺跡に関するニュースは知っているのだね」

「ええ、もちろんです」


 数日前、一面トップに出ていたニュースのことだろう。


 大都市フォールンは、はるか太古の遺跡の真上に建っている。

 それは、元々ここが遺跡以外になにもない未開の土地だったから。


 フォールンの遺跡には気の遠くなる昔から秘宝が眠るとされ、多くのトレジャーハンターが発掘をしていたという。そうして様々な人が集まり、いつしか街を形成し、大陸の中央部という立地もあってか、陸路の要にまで発展したわけだ。

 

「掘り尽くされたはずの遺跡に新たな区画が見つかった」

「歴史的発見ですね」


 その記事を見た時、さすがに興奮した。

 実際、フォールンの遺跡からは三つの【神格】と多くのレプリカが出土しているのだ。


「この度、フォールン行政から調査団が派遣される運びとなった。君にはその護衛をお願いしたい」


 俺を名指しで?

 光栄だけど、護衛というのはなんだろう。


「フォールンの遺跡が発掘され始めたのは八百年も前だが、当時の記録にわずかながらモンスターの出現を示唆する箇所があってね。念のため、護衛が必要なのさ」

「そうでしたか。知りませんでした。詳しいのですね」

「私はもの好きでね。おおいに興味がある。【神格】でも見つかれば大ニュースだろうな」


 気持ちはわかる。

 となれば断る理由は一片もない。引き受けよう。


「わかりました。いつですか?」

「おいおい、報酬も聞かずに引き受けるのかい?」

「総監代行からの依頼なら高いでしょう?」

「まいった。これでは安くこき使えない」


 笑いながら、そんな冗談を飛ばす。

 ……冗談だよね?


 第一次調査隊が出発するのは、三日後。護衛の期間はとりあえず一週間。場合によっては短くなるか、長くなる。

 報酬100万アーサル。モンスターが出現した場合はさらに追加。そして経費は全て総監府持ち。かなり実入りの良い仕事だと判断した。


 引き受けて、総監邸を出る。

 大仕事だ。そして、個人的にもおおいに興味があった。



 ★★★★★★



「ミューズさん」

「おかえりなさい。どうしたの? ニコニコして」

「大仕事です」


 内容を説明すると、彼女は驚いていた。


「ギルドマスター……」

「はい」

「でかしたわ!」


 喜んでくれたようだ。

 

「ますます潤うわね。今から納税額を計算しておかなきゃ」


 なんか楽しそう。

 護衛は日替わりの交代で務めることとした。最初に行くのは俺だ。


 そして、三日後――


 フォールン遺跡への入り口は街の中心部にあるのだが、すでに調査隊の人たちが待っていた。

 数は20人を超える。大がかりな調査だ。


「すみません、遅れましたか?」

「おお! あなたがアーナズさんですか?」


 樽を思わせる丸型な体をした紳士に声をかける。


「いやいや、私たちも今来たところですよ。初めまして、今回の調査で団長を務めるフィップスと申します。中央大学で教授をやっとります」

「シント・アーナズ。冒険者ギルド『Sword and Magic of Time』のマスターをしています」

「総監代行からの推薦ということですが、驚きましたぞ。若くしてギルドマスターとは」


 すごく優しくていい人そう。

 固く握手を交わし、打ち合わせを始める。


「すぐに出発を?」

「ああ、それがですな……まだ来ておられない方々がおりまして」


 方々?


「様々なところを通じて腕の立つ冒険者を手配していただいたのですが、急に変更となったのです」

「変更、というと?」

「はい、それが――」


 教授が言いかけたところで、周囲がざわつき始めた。

 俺たちのところに、華美な軍装をまとった屈強な兵士たちがやってくる。


「全隊、止まれ」


 号令とともに、兵士たちがぴたりと止まる。

 一糸の乱れもない統率された動き。

 それだけで、ただごとではないとわかる。


 そして、兵士たちの列間から現れたのは、絶世の美女。優雅な仕草で髪をかきあげ、俺の前に立つ。


「ウルスラ!?」

「シント、また会ったな」


 なんでここにいるんだ。


「こ、これはこれは、公女殿下。おいでいただき、恐悦至極」


 ははー、と教授に加え調査団の方々がひざまずく。

 この光景、アイシアの時も見たな。


 ウルスラは、教授に対しうなずいただけだった。


「我が最強の近衛(このえ)雷光(らいこう)』の百人、調査団に加わる。よいな?」

「ははー」


 なんだって?

 だいじょうぶかな?

 この人たち、歴史に詳しいのだろうか。

 それとも、また俺をさらおうと?


「もしも【神格】が見つかった場合、我が家で買い取らせてもらう」


 なんだ、そういうことか。

 なら納得だ。

 神器は誰もが求めてやまないもの。特に大貴族は喉から手が出るほど欲しいだろう。【神格】は戦力としても、権威としても、名誉としても、人知を超えた存在だ。


 だが、登場人物はウルスラだけにとどまらなかった。


「お待ちを。公女殿下」


 どこからか声がする。

 部隊を引き連れてやってきたのは――


「貴様は?」

「はい。私はラグナ公国アルラグナル家の者。名をフリットと申します」


 フリット。

 見覚えがある。

 確か、よくユリス従兄さんと一緒にいた人だ。

 アルラグナルといえば、ラグナ公国の中でも名門。『ラグナ六家』と呼ばれるものの一つで、侯爵家だった。


「ほう? 公子は来ていないのか」

「公子は予定がございまして、私が代わりに」

「で、何用か」

「【神格】、もしくはレプリカが見つかった場合の所有権、その競売にラグナ家も参加いたします」


 これも当然か。

 それにしても、まだ見つかっていないし、なにがあるのかもわからないのに、気が早いと思う。


 アルラグナル卿は俺をちらりと見て、下がった。

 お供の魔法士は十人ほどで、ウルスラのお供に比べるとだいぶ少ない。


「法で定められていることだ。いたしかたないな」

「お許しいただき、ありがとうございます」


 うーん。

 少しだけ嫌な予感がしてきた。


 この大仕事、一筋縄じゃいかなそう。

  

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