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希望と絶望と、絶望と希望 39 まさかの邂逅

 なんとか町の中へ通された俺たちだったが、ガディスさんとクロードさんが武器を取り上げられ両腕は挙げたまま。俺とヴィクトリアは両手を後ろで縛られてしまった。

 魔法士の手を自由にさせるわけにはいかない、と隊長らしき男性は言うんだけど、これじゃ罪人扱いだ。


「まさか縛るなんて。やりすぎな気もしますが」


 クロードさんが周囲を確認しつつ、小さく言った。


「かなりの警戒ですね……ハイマスター、もしもの時は」

「ええ、わかっています」


 ガディスさんやクロードさんはいい。戦士として卓越した腕を持ち、経験も豊富だ。

 だが、ヴィクトリアはというと――


「ふー……ふー……」


 息が荒い。

 いまにも爆発しそう。


「ヴィクトリア、いまは我慢だ」

「……こいつら、ぜったいにやってやるんだぞ!」


 けっこうまずい気がしてきた。だいぶ興奮している。


「隊長さん、俺たちはどこへ?」

「完全に信用したわけではない。まずは詰め所で持ち物を改める」


 ……

 …………

 ………………


 目の前が真っ赤になりかけた。

 荷物検査は嫌だ。カバンの中ではディジアさんとイリアさんが眠っているんだから、ありえない。


「すみませんが、それは無理です」

「なに?」

「シルフガルダ族というのは、尋ねてきた人間に非礼をもってしか対応できないのですか?」

「貴様、生意気だぞ」


 そう言ったのは、俺たちの脇につく若いエルフだ。


「こちらは敬意を払っています。敬意に敬意を返さないなら、従う気はない」

「ハイマスター……?」

「シント、なにを」


 ガディスさんとクロードさんはほんの少し驚いたあと、うなずく。


「おまえたちが敵ではないという証拠がどこにある。ライセンス一つで全てを信じろと?」

「俺は敬意の話をしている。何者かの話などしていない」


 俺たちを連行する兵士たちが距離をとり、槍や剣を構えた。

 その後ろにはおそらく魔法士が何人か。

 完全に包囲されてしまった。


「やるならやれ。それをした瞬間、おまえたちは獣に成り下がる」

「ぐっ……」

「隊長! こいつら!」

「スパイに違いないですよ!」


 往来でのやり合いに、町を歩く人々が集まり出した。

 

「どうした? 囲んで終わりか?」


 俺たちは互いに背を預けて、死角をなくす。

 

「手を縛られ、武器もない状態でなにを粋がっている!」

「さっきから論点をずらしてばかりだ。やるのかやらないのか、俺はそう聞いている」


 ディジアさんとイリアさんには触れさせない。絶対にだ。


「うっ……」

「な、なんだ……気持ち悪ぃ……」


 エルフの若者たちがその場にうずくまる。


「き、貴様……なんだその、魔力は……」

「息が……」


 槍や剣を落とし、俺に奇妙な目を向けてくる。

 まだなにもしていないけど。


「ハイマスター……」

「すさまじい闘気……いや、これは」

「もう我慢できないんだぞーーーーーーーーーーー!!」


 ヴィクトリアが縛る縄を強引に引きちぎり、魔法を撃とうとする。


「待たれよ!」


 よく通る声がして、誰かがやってきた。

 身なりのいい青年だ。顔立ちは美形といっていいだろう。

 薄い金髪で、どことなく見た顔だった。


「いったいなにが起きたんだ」


 青年は、うずくまっている男性に駆け寄り、様子を見ている。

 魔力はもうひっこめたから、気分は悪くないはずだけど。


「ヌヌーサ隊長、いったいぜんたいどういう状況なんだ?」

「ファイレーブ様……それが……その、この者達が」

「魔法で攻撃を?」

「い、いえ……なにをされたのか、まったく」

「要領を得ないな」


 ファイレーブ、と呼ばれた青年は俺たちに目を向ける。


「君たちに聞いたほうがいいようだね」

「俺たちはなにもしていませんよ。こうして縛られているわけですし」

「ふむ。しかし、なにもしていないという割には、彼らが苦しんでいる」

「自業自得でしょう」

「その理由は?」


 けっこう細かく聞いてくる。


「人には触れられたくないものがあります。彼らはそこに触れようとした」

「つまり、君が怒ったら、彼らが倒れたと」

「そうかもしれませんね」


 鋭い視線を投げかけられる。

 

「それで? いつまでこうしていればいいのですか? さっさとどこへなりとも連れて行けばいい」

「そうだね。とりあえず牢にでも入ってもらおうか」

「いいですよ。ただし、俺たちに指先一つでも触れたら、また同じことになる」

「……ふうん」


 青年は油断のない目で、俺をにらんだ。

 こうして牢へ連れて行かれたわけだが、その間に触れようとした兵士たちは十人くらい倒れたと思う。



 ★★★★★★



 全員がそれぞれ別の小さな牢屋に入れられた。

 兵たちが引き上げたあと、向かいの牢からガディスさんが声をかけてくる。


「シント、さっきはどうした?」

「すみません」

「ヴィクトリアさんもいつも通りに見えて、なんだか違いましたね」

「……シント、怒ってたから」


 彼女は露骨に、ぶっすー、としていて口数も少ない。


「カバンに触られたくないんですよ」

「ディジアとイリアか」

「はい」


 ガディスさんはそれ以上、なにも言わなかった。

 その代わり、というわけではないが、隠れていたマスクバロンが出てくる。


「私が町の様子を見てこよう」


 少しでかい虫くらいのサイズであるマスクバロンなら、見つからずに情報を集められるだろう。


「おねがいします」

「ここはさっさと離れるのが無難だな。君が本気で怒ったら町が灰燼と化す」


 さすがに言いすぎだ。そんなことはしない。


「では少々お待ちあれ」


 マスクバロンが牢を抜け、飛んで行く。

 いまのところは彼に頼るしかない。


「ハイマスター、さきほど、姫、という言葉を彼らは言っていました」

「そこも気になります。アリステラって、もしかして」

「族長の娘、なのかもしれんな」


 ありえる話だ。

 彼女はそうとうにレアな【才能】を持つ。それこそ、ラグナ本家や六家の人間に並ぶほどのもの。


「とりあえずアルハザード卿を待ちましょう」

「それしかないか」

「抜け出すのはいつでもできますし、いざという時は魔法で移動します」


 おとなしくするしかない。

 それから何時間かが過ぎる。

 そろそろ夕刻も近い。

 アテナと連絡が取りたいところなのだが。


「そういえば、通信できるんだった」

「シント、なにを言っている」

「ちょっと待ってください。アテナ、聞こえる?」


 返事はない。

 たしか効果範囲は一キロ以内だったか。

 ぎりぎり範囲内と思ったが――


『マスター、聞こえています』


 よかった。ちゃんと通じた。


「そっちからなにか見える?」

『特に警戒すべきものはないと報告します』

「そうか。こっちはちょっとまずいことになった」

『詳細を希望します』

「俺たちはいま牢に入れられている」

『では救出に向かいます』

「いや、まだいい。それよりもディエンドを町の上空で待機させてほしい。迷彩はかけたまま、気づかれない高度で頼む」

『承知しました』


 使ってみてマジで驚く。あまりにも便利すぎるのだ。

 遠くにいる人間と会話できるという行為がこれほどまでに使えるとは、思いもしなかった。


「どうする気だ?」

「最悪、上空にディエンドを出現させて、混乱を起こします」

「陽動と撹乱ですね」

「はい、ですがやるのはアリステラの居場所がわかってからだ」


 いまのところ、なんの情報もない。

 マスクバロンがなにかしらを掴んで戻るといいのだが。


 それからまた一時間くらいが過ぎた。

 誰かの足音が聞こえてくる。

 兵士が食事でも持ってきたか?


「女の子?」


 クロードさんがつぶやく。

 やってきたのは、エルフの女の子だった。


「あ、もしかして君は」


 覚えている。


「あの、シント、さん、ですか?」

「うん、そう。久しぶりだね。ルーナちゃん」


 名を呼ぶと、顔がぱあっと輝いた。


「覚えていてくれたんですね!」

「もちろんだよ」


 彼女はルーナ・シルフグラム。俺が家を追い出されたすぐあとに、出会った。マール・ラグナが経営していた奴隷商に捕まっていたのを救い出し、この町に移動させたのだ。


「それにしても、ずいぶんと背が伸びた」

「だってもう、十四歳ですし」


 あれから二年半。目が大きくて髪がさらっとなびく。美しいと可愛いの中間といった姿だった。


「あの時はありがとうございました」

「礼なんていらない。当り前のことをしただけだしね」


 嬉しい再会だ。元気そうでなにより。


「シントさん、その、お姉さまを助けてください」

「お姉さま?」

「はい、アリステラお姉さまです」

「妹……ってわけじゃないよね?」


 以前、アリステラはルーナちゃんのことを親戚と言っていた。


「血はつながってません。ただ、親族なので」

「そういうことか。でも、助けるって、どういうこと?」

「お姉さま、捕まっていると思うんです」


 なんてこった。

 ここに来て大問題発生だな。

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