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希望と絶望と、絶望と希望 35 思いがけない……

 女王アルウェンとともに、謁見の間から離れ、長い廊下を歩く。

 それにしても彼女はまるで警戒することもなく、俺たちに背を見せている。

 少しは信用された、と受け取っていいのだろうか。


 背中からたくさん飛び出る綺麗な羽根の飾りは、たしかに美しく雄大なんだけど、重くないのかな。

 あれじゃとっさの動きができにくそう。


「ここじゃ」

 

 入るよう促された部屋は、執務室らしかった。

 一つのデスクと、椅子が何脚か。窓から見える景観は、素晴らしいの一言。


「いつもここで執務を?」

「ん? ここは予備の予備の予備の……はて? いくつめであったか」


 そんなに執務室いらないでしょ。

 女王は一番立派な椅子に腰を下ろし、ガランギールさんが来客用と思わしい椅子を使う。

 俺は……


「なんですか、この小さすぎる椅子は」

「子ども用じゃ」


 差別がひどい。

 

「さて、わらわは雑談を好まぬ。真のねがいを聞こう」

「少しくらいは雑談をしてもよかろうに」

「ガランギールよ、そなたはまたずいぶんと老けたな」

「……数カ月前に会った気もするが? ふざけておるのか?」

「雑談を望んだのはそなたじゃ」

「まったく」


 女王は別の方を向いて、自分の爪をいじってる。

 ガランギールさんは頬杖をつき、つまらなそうだ。

 仲が悪そうだなー。気まずいから帰りたいんだけど、そうもいかないか。


「真のねがいと申されましても」

「なに?」

「俺はただ、あなたが饗団と密約を交わしたのかどうか知りたくてきただけですし」


 彼女は爪をいじるのをやめた。

 長い耳がぴくりと動く。


「援軍はいらぬと?」

「欲しいですが、できないなら別に」

「人道支援とやらは?」

「聡明なあなたなら、すでにもうしているはず」


 女王がこちらを向く。


「饗団との関係を聞くためにきたのか? 捕まって処刑されるかもしれぬのに」

「捕まりませんし、処刑もされません」

「たいした自信じゃ。たしかにあの魔法……あの魔力……じゃがわらわを含めた最精鋭全員を相手にできるとも思えぬ。生意気がすぎよう。たとえそなたが()()()()()()であろうともな」

「女王アルウェン……知っておったのか」

「わらわを甘く見るなよ」


 なんつうドヤ顔だ。

 王者とは、決める時にドヤ顔を決め、そうでない時はポーカーフェイス。

 勉強になるなー。


「なんじゃその覇気のない顔は」

「いえ、さっきの俺の魔力を見て言っているなら、あなたが想定しているよりも十倍は連れてきたほうがいいかと」

「な、なに?」

「全力の十分の一くらいですし」

「……」


 ほんとうのことだ。そして、どうでもいいことでもある。


「ぶわっはっはっは! そうであろうな!」


 ガランギールさんが今まで見たことのないくらい大笑いした。


「それで、饗団とはどうなのですか?」

「なぜ知りたいのじゃ」

「やつらと関わるのはやめていただきたい」

「警告か?」

「饗団に加担することは、現在過去未来全ての人類に対する侮辱と冒涜だからです」


 はっきり言うと、二人は言葉を失くしていた。


「あなたは……いえ、世界の誰も饗団がしようとしていることを知らない。外導神がこの世界になぜ来たのかを、知らないんだ」

「どういう、ことじゃ」

「……なにやら寒くなってきたが」


 もう秋ですからね。


「饗団は外導神という神を信仰しています。しかしやつらのほとんどはなにも知らない。ただ戦争をしているだけ。外導神のほんとうの狙いは、全人類の家畜化です」

「……」

「なにを……言っているのじゃ」


 普通だったら、狂った物言いにしか聞こえないことだ。

 しかし、この王しかいない場所では、嘘などつかない。


「外導神は人を体内に取り込み、生まれてから死ぬまで囚人とし、魔力を吸い取り続ける。世界を渡り歩いた怪物は数百億に達する人類を取り込み、次は俺たちが住むこの世界で、人類を――」

「ば、ばかな! アーナズ殿!」

「それは……妄想の類としか思えぬことじゃ」

「いくらなんでも突拍子がなさすぎる!」

「なぜそう言いきれる。なぜ、そのようなことを知っている」

「実際に見たから」


 女王アルウェンを動かすには、真実が必要だ。

 さきほどまでの緩んだ空気はもうない。


「女王陛下、饗団に与するのはよせ。待ち受けるのは破滅だけだ」


 沈黙が場を支配する。

 二人の王は大きく目を見開いて、俺を見つめていた。

 俺が言ったことはまぎれもない真実。

 これで信じないなら、それまでのこと。


「……とりあえずは魔力を抑えるのじゃ」

「すみません、漏れてました」

「さきほどまで完璧に抑えていたじゃろが!」


 おっと、いけないいけない。


「話は……わかったのじゃ」

「信じていただけましたか?」

「そうは言っておらぬ。ただ……そなたの話を聞き、いくつか符合のゆく点もあるのはたしかじゃ」


 落としどころはこんなところか。

 女王はそれはそれはもう大きなため息をつき、目をつむる。


「シント・アーナズ。そなたのねがいを聞き届けよう」

「わかっていただけて、嬉しいです」

「じゃが、ただではすまぬ。それはわかっておろうな?」


 一度交わした約束を反故にするのだし、なにか言うことを聞けということか。

 やはり密約はあったんだろう。内容はどうでもいい。聞いてもしかたないし。


「できる範囲で言うことを聞きましょう」

「まあ、しかたあるまいて。及ばずながらわしも協力しよう」


 ガランギールさんの友情が身に沁みる。


「シント・アーナズ、そなたの【才能】を教えよ」


 そんなんでいいのか。


「おそらくは無属性。【螺旋念砕らせんねんさい】か、【輝発気勁きはつきけい】か……あるいは知られざるものか。とにかく最上級のものであることは疑いない。教えるのじゃ」


 女王が口にした【才能】は魔法系【才能】の無属性では最高峰のものだ。

 でも全部違う。


「俺にはなんの【才能】もありません」

「なに?」


 女王が顔をしかめる。


「冗談はよすのじゃ」

「この場で冗談なんか言いません。俺にはなんの【才能】もないから、ラグナにいられなくなった」

「何度聞いても不憫なことだ」


 ガランギールさんは昨年夏の一件で、すでに知っている。


「ガランギール、なにを言っておるのじゃ。【才能】なくして魔法を使えるわけがない」

「そんなことはありませんよ。勉強して会得できましたし」

「それこそ、天地がひっくり返ってもないこと」

「ちなみに俺は無属性以外にも、八属性の魔法が使えます。いや、いまだと九属性かな。そんな【才能】、あります?」

「全部合わせて十属性じゃと!?」


 無、火、水、風、土、雷、氷、光、闇、空間、の十個だ。


「前代未聞。だが、アーナズ殿であればなんとなく当たり前な気がするのはなぜだ」


 ガランギールさんは呆れていた。


「これでいいですかね」

「今日はなにやら、人生でもっとも驚いた日になりそうじゃ」


 おおげさだ。

 そう言おうとした俺をさえぎって、彼女は机上のベルを手に取り、鳴らす。


「女王陛下、お呼びでございますか?」


 細身の老人がやってきてうやうやしく礼をする。

 来るのはえーな。


「アルクルスを呼ぶのじゃ」

「ただちに」


 アルクルスって誰だ?


「王子殿を呼んでなにをする気なのだ」


 ガランギールさんがそんなことを言う。

 王子ってことは、息子か?


 それから十五分あまり。

 誰かがどたばたとやって来る。

 控えめに言って美男子。母親と同じプラチナブロンドの長髪を後ろに結び、まったくもってだらしないかっこうでやってきた。


「なんじゃそのナリは。今日は武芸の鍛錬を申し付けておったはずじゃが?」

「え? だって母上がいいかげん部屋の掃除をしろと」

「む、そうじゃった」


 掃除? 王子自ら?


「それはともかく、ドラグリアの族長の前でわらわに恥をかかす気か?」

「あ、ガランギール様。お久しぶりです」

「ずいぶんと大きくなったものよ。久しいな、王子殿」


 年の頃は、たぶん俺と同じくらいだ。長身で、手足も長い。

 

「それで、あのー、母上。僕になにか……」


 なんだか気弱そう。


「おまえは援軍にゆけ」

「はあ?」


 俺だって、はあ? と言いたい。


「というわけで、ガランギール、シント・アーナズ。わらわの息子を連れて行くとよい」

「女王アルウェン、本気か?」

「よい機会じゃろう」


 なんか思ってた援軍と違う。


「まーってください母上! なんでそんな話! 僕は聞いていない!」

「いま言った」

「いやいや……だって僕はあなたのひとり息子ですよ! 戦争なんて行くわけないでしょ!」

「いいから行け」

「母上~ 僕なんかが行ったって~!」


 母親のひざにすがりつく王子は、どこからどう見ても頼りない。


「ガランギール、シント・アーナズ、息子を頼むのじゃ」

「めっちゃ嫌がってますけど」

「しかし……王子とその親衛隊ともなれば、かなりの戦力。ほんとうによいのか?」

「親衛隊などつけぬのじゃ。援軍は息子一人よ」

「なんと!」

「うっそ! マジで僕一人!? 母上~ そんな殺生な~!」


 ついには泣き始める。

 女王は努めて冷静に、ティーカップを口につけた。


「こやつはな、あまりにも軟弱。性根を叩き直さねばならぬのじゃ」

「さすがに一人は可愛そうなのでは?」

「一人で十分じゃ。わらわよりも強い」


 え、それこそ嘘なのでは。


「うーむ、これは……」


 ガランギールさんはヴィクトリアに苦労させられていたから、同情の目を親子に向けていた。


「よく聞け、アルクルス。わらわはおまえを甘やかしすぎた。じゃからゆけ」

「甘やかされてな~い! 甘やかされてないですよ~! 来る日も来る日も魔法魔法魔法! 僕の体はボロボロだ~!」

「では魔法が嫌いか?」

「……嫌いですよ! 夢にまで出てくる!」

「そういえばおねしょをした時は水魔法の夢を見たと言っておったな」

「なんでそれ言うんですか! 小さい時の話ですよ!」


 これどう言えばいいんだ。

 

「というわけじゃ」


 ということになった。

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