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【フォールン・ワーク】6 シントの話

 そう、これが逮捕までのお話。

 依頼、と称して騙すなんてひどい。 


 ただ、こうも思った。

 宣伝の成功で依頼が来るようになり、こなしていくうちに評判も上がった。

 それが嬉しくて舞い上がっていたのかも。


 モンスター退治の依頼だと思ったらそれは嘘で、ウルスラの策略だった。

 用があるのなら直接来ればいいのに、と思うし、それが嫌なら手紙でもいいじゃない。


 そこまで考えて、自分を否定した。

 超名門の大貴族だから、一介のギルドにわざわざなにかするなんて恥ずかしかったのかもしれない。


 問題があるとすればユリスの方だろう。

 鉱山の件はともかく、おそらく新市街にいた悪党たちは従兄さんの息がかかっていた。

 俺はそれらを潰してしまったのだから狙われてもしかたのないことだ。

 ましてやマール・ラグナを吹っ飛ばしたのだし。


「時間をだいぶ無駄にしてしまった。急ごう」


 他に二件の依頼を受けている。

 今日中に解決しよう。そう決めて、加速した。



 ★★★★★★



 盗まれた形見の品を取り戻すのは、そう難しくなかった。

 調査したところ盗んだのは隣人で、すぐに取り戻す。報酬とともにいっぱいお菓子をもらった。やったね!


 行方不明の人を探すのは少しだけ時間がかかってしまったけど、無事に発見。恋人に振られて、自暴自棄になっていたそう。

 ご両親から感謝されて夕食に誘われたが、丁重に断った。少し、いや、かなり惹かれるものがあったけど、すぐにギルドへ戻る。


 時間は夜になっていた。

 中に入ると、ミューズさんが顔を上げる。

 カウンターの奥ではアリステラ、ラナ、カサンドラがくつろいでいた。

 アミールもはじっこで書類の整理をしているようだ。

 全員揃っているな。


「おかえりなさい、ギルドマスター」

「ええ、ただいま」

「依頼はどう?」

「おおかた解決しました」


 依頼達成を証明する魔法のプレートを渡す。

 現代の魔導具技術はすごい。このように魔法がかけられたプレートを記録に使用することで、現地でのやりとりを簡略化できるのだった。


 ちなみに冒険者庁や集会所を利用する場合は、免許(ライセンス)がその代わりになる。


「モンスター退治はダメでした。すみません」


 頭を下げる。


「シント? 達成率100パーセントなんて誰にもできないのよ? ガイドラインにもあったでしょ?」


 もちろん知ってる。

 俺たちのやりとりを見た他のメンバーも、なにごとかとやってきた。


「あたしも今でこそゴールド級だけど初めは失敗ばかりさ」

「怪我とかしたわけじゃないんだよね?」

「……珍しい。でもわたしたちが助ける」


 みんな、慰めてくれている。


「謝ることないわ。けどなにがあったのよ? 依頼人はなんて?」

「指定された場所に行ったら逮捕されて」


 空気が凍りついた。

 しまったな。もう少し回りくどい言い方をした方がよかったか。

 あるいは冗談を交えた方がよかったかもしれない。


「シ、シント? 逮捕……?」

「なにが……あったのさ」


 依頼がガラルホルン家第二公女ウルスラの策略であり、拷問室へ連行される。そこでユリス・ラグナとも会い、脱出してきたことを告げると、みんな絶句していた。


「すみません。嘘の依頼を見抜けず、一件分の報酬を得られなかったです」

「えー……いや、それは別に」

「いえ、せっかく軌道に乗り始めたところなのに時間を無駄にしました。俺は自分が許せない」

「……どんだけ真面目」

「ウチは安心、安全なギルドなのに、策略で嵌められるなんてもってのほかだと思う」

「うん、そうなんだけど! そうじゃなーーーーーーい!」

「あ、それとガラルホルン宅の壁を破壊したから、もしかすると修理代を請求されるかもしれません。すみませんでした!」

「だからそうじゃないってのさ!」


 どうにも話が噛み合わない。

 沈黙が訪れる。

 

「ね、ねえ、シント。お腹空いてるでしょう。食事にしない? 出前にしましょ?」


 ミューズさんの提案を聞いた瞬間、腹の音が鳴った。

 確かにそうだ。ウルスラのせいで食事をとれなかったんだ。



 ★★★★★★



「はあー、生き返る」


 古街にあるというミューズさんの馴染みの食堂から届いた出前を平らげて、ようやく息がつけた。

 ごちそうさまです。


「シントさんはほんとうに食べるのが早いですね」


 アミールはまだ半分といったところ。

 他のメンバーはあまり食が進んでいない。


「シント、聞いていい?」

「ええ、なんでも」

「その、人様の過去を根掘り葉掘り聞くのはどうかと思うんだけど」


 ミューズさんは歯切れが悪かった。

 ユリスやウルスラの名を出した以上、黙っておくことはできないだろう。


 話すのはいいんだ。彼女たちは俺が全面的に信頼する人なんだから。

 なにが嫌かって、これを話したことで、余計な迷惑をかけてしまうかもしれない可能性があること。


「ラグナ、そしてガラルホルン。シント、あなたはいったい」

「今まで黙っていてすみませんでした。決別したはずなのに、結局こうしてまた」

「……シント、もしかして農園?」


 アリステラとは一緒にマール・ラグナの農園を潰した。


「それもそう。あとはダレンガルト」

「あー、そうだよね。ラグナの人とガラルホルンの人、いたもん」


 ラナは元・帝国のスパイで、ガラルホルン家に潜入していた。父親のウィリアムさんはラグナ家に捕まって駒にされていたな。


「俺の元の名は『シント・ラグナ』。父が先代の当主で、母はガラルホルン家の公女でした」

「はわわわわわわわわわわわわわわ」

「……王子様?」


 公国だから王子じゃないな。公子だ。『元』がつくけど。

 ミューズさんは泡を吹きそうで、アリステラは尖った耳をぴくぴくしている。


「わたしなんとなく知ってた。だってそうじゃないとおかしいし」


 ラナはそれほど驚いていない……ように見えて、手が震えていた。

 カサンドラはというと――


「な、な、な、なんてこと……」


 椅子から転げ落ちた。


「姉さん、危ないよ。ほら、座って」


 アミールはほんとうにしっかりしてる。姉を支えて椅子に戻した。


「まあ、シントさんはそんな感じじゃないかと。聞いて納得です」


 肝が太い。頼もしいな。


「俺にはなんの【才能】もなかったから、十歳で本宅に住むことを禁じられました。その後、もういらないから家を出るように言われたんです」


 みんな、言葉を口にしなかった。


「それで、家を出たら見知らぬ人に馬車へ乗せてもらった。なんていい人だと思いましたよ。ただそのおじさんは人さらいだったんですけど」


 ニコッと笑いかけたが、ウケなかった。

 冗談っぽくしてもダメか。


「その人さらいはどうしたの?」

「アールブルクの憲兵に引き渡しました。その後冒険者になって、アリステラとともにマール・ラグナをブッ飛ばして――」

「ちょ、ちょーーーーっと待った! マール・ラグナって、あの? 次男の?」

「ブッ飛ばした!? どういうことさ!」


 今度はミューズさんとカサンドラが椅子から落ちた。ずいぶんと反応が激しい。

 

「アリステラ! なんで言わなかったんだい!」

「……人の事はぺらぺら喋らない。あと、倒してるところ見てない」


 彼女は捕まっていた人を逃がしていたからね。


「姉さん、それにミューズさん、しっかり」

「ご、ごめんね、アミール」


 またしてもアミールが支えて座らせる。


「アールブルクを出て、ダレンガルトの町に着くと街道が封鎖されていて、足止めをくらいました。逗留ついでに冒険者活動をしていたら、サル退治の依頼があって、実はサルがラナで」

「シント! わたしサルじゃないよ!」


 ある意味サルよりずる賢かったかも。


「ラナのお父さんがガラルホルン家に追われていて、しかも俺を追って来たラグナ家の暗殺部隊に捕まっていたんです」

「な、な、なんて複雑な」

「シントさん、それはどう解決したんですか?」

「途中でアイシアが乱入してきてね。ああ、アイシアはガラルホルン家の第一公女。で、なんとか倒して、ラナとラナのお父さんを死んだことにしてもらったんだ」


 わずかな沈黙。

 

「シント、ガラルホルン家の第一公女って【流麗の女神】……さね?」

「うん、そう」

「じゃ、じゃあ、【神格】の所有者を倒した……?」


 倒した。二回も。


 これにはアミールを除く全員が椅子から転げ落ちた。

 タイミングが一斉だったので、不覚にも笑いそうになる。


「フォールンについて、ミューズさんと出会って、ギルドを開業することにしたんだ。依頼を受けたから鉱山に行って、カサンドラと会った。あとはみんな知ってる通り」


 こうして話してみると、たくさんのことがあった。

 たいして日にちはたっていないのに、妙な懐かしさを感じる。


「黙っていて、ほんとうにすみませんでした。俺は、ラグナを捨てたし、捨てられた。それは別にどうでもいいんだ。ただ、これを話すことでみんなが迷惑になったらと思うと、耐えられない」


 大貴族、特にユリスやマールのような人間は、他人を殺すことなんてなんとも思わないだろう。

 アイシアやウルスラは【神格】の加護で超人と化している。そのせいか他人なんてそこらの草木と一緒だと考えてる。

 そんな人間たちだ。ウチのギルドメンバーに手を出す可能性も、ないことはない。


「もし……もしも、嫌だったら、ここから――」


 出て行っても構わない。

 そう言いかけた。

 寂しいけど、しかたないと思う。

 しかし――


「……シントのばか」

「そうだよ! いま変なこと言いかけたでしょ!」

「シント、いまさらさ。変な汗が止まらないけどね」


 あれ?


「いきなりギルドは立てるし、筋肉の可能性とか言うし、お、驚かないわよ」


 めっちゃ驚いてなかった?


「じゃあ、みんな、残ってくれるの?」

「当り前じゃない。ウチのギルドはこれからなの」

「……やる」

「うん、シントはシントだし」

「そうさ。あたしだってもっと上を目指すさ。まだ手が震えてるけどね」

「姉さんったら、小心なんだから」


 弟の鋭いツッコミに、姉がうめいた。


 驚かされたのは俺の方だ。

 みんなを誘ってよかったと、心から思う。


 誰がなにをしようが、関係ない。

 力がわいてくるのだった――

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