希望と絶望と、絶望と希望 26 仲間を求めて『万戦士』『最強の受付』『閃光乙女』『神脚』
魔法を構える。
相対する男たちは余裕の表情。
五対一という数の差がそうさせるのか、それとも己の力と【才能】に絶対の自信でも持つのか。
「おまえたちは伝言役になってもらう」
「はあ? なめやがって~」
「もういい! ぶっ殺してや――」
「≪魔弾≫」
大口を開けた男に対し、魔力弾をそこへぶち込む。
男は派手に回転し倒れた。
「≪魔衝八極蹴≫!」
足に込めた魔法が炸裂する。
くらった戦士は鎧を弾けさせながら、天へと消えた。
「なっ……!」
「なんだ! なにが――うおっ!?」
懐に潜り込んでの肘打ち。一拍遅れて発動する≪発破≫。
三人目は爆音とともに、体を九の字に曲げてずっと奥の水平線に消えた。
「くそ! くそ! なんなんだてめえ!」
「≪魔衝烈覇拳≫!」
向かって来る男の胸に叩きつける拳。
魔力の爆発が生み出す一撃は、衝撃を何度もその場で反芻し、男の全身を砕く。
「嘘だろ……い、一瞬……?」
「どうした、かかってこい」
「……」
指をくいっとさせて挑発するも、最後の一人が少しずつ下がっていく。
これで終わりか。ならもういい。
「トレーボルに伝えろ。シント・アーナズがいつぞやのお礼をしに行く、と」
「う、う、うわあああああああ!」
「≪衝破≫!」
手の平から生み出された衝撃波により、背を向けた男は呆気なく意識を失った。
戦闘は終了。
ラナの具合が心配だ。
「シントーーーーーーーーーーーー!」
「おわっ!」
振り向いた直後、体当たりじみた勢いで抱き着かれる。
あまりの威力に、地面を転がった。
「シント! シント! 嘘でしょ!」
「嘘じゃないよ」
「でも……もう……会えないと思った!」
「ごめん。心配かけた」
「……」
頭を撫でると、ラナは動かなくなってしまった。
細かく震えているのは、泣き声を抑えているからだろうと思う。
「シント少年、君は女泣かせだな」
「からかわないでくださいよ。それよりも彼女のけがは?」
「問題ないだろう。私の治癒は信頼してくれていい」
「ん? まさか回復魔法?」
「厳密には違うが、多少の傷であれば治せる」
びっくりだ。現代において、回復魔法の使い手は存在しないとされる。
いまのマスクバロンなら、なにをしても不思議じゃないとは思うけど、それでも驚きだ。
「ラナ? だいじょうぶ?」
「……はー……シントってば、すごいタイミングで来るし」
彼女は俺から離れ、大きく息を吐く。
「それに……アルハザード卿? しかもめっちゃ小さいし」
「お久しぶりだね、ラナ君」
「え、あ、はい。元気そうで」
ラナが耳打ちしてくる。
(どういうこと?)
(俺もよくわからないけど、いまは信用していいと思う)
「本人を目の前にひそひそ話かな?」
しかしマスクバロンは楽しそうだ。
「ともかくありがとう、アルハザード卿」
「緊急時だ。礼はいらんさ」
ラナの足はすっかりきれいに治っている。素晴らしい力だ。
「どうして追われてたんだ?」
「ちょっとドジっちゃって。いきなり踏み込んできたんだー」
「なにしたの」
「あいつらの食糧焼いて、武器庫燃やして、テントに火をね」
「さすがだ」
「でも、それで油断して尾けられたみたい」
そこはらしくないが。
でも……やはりラナも戦い続けていたせいで、ボロボロだ。
疲労の限界、といったところだな。
「ごめん、シント」
「謝る必要はないでしょ」
「ううん……わたし、シントが死んだって、思って……それで……」
「謝るのは俺のほうだ。半年以上も留守にしてしまった」
「じゃあお互いさまってことで」
「ああ、そうしよう」
笑い合って、これでいつもどおり。
「ラナ、誰かが来る前にフォールンへ移動させる」
「いいけど、シントは?」
「いま、全員を集めているんだ。これから南方に行く」
「わたしも行ったほうがいーい?」
「いや、君には頼みたいことがある」
いくつかのことをおねがいし、詳細を詰めた。
「ただし、やってもらうのは体力を回復させてからで」
「わかった!」
≪空間ノ移動≫発動。魔法は正常に機能し、ラナをフォールンへと飛ばした。
「それにしてもシント少年」
「なんでしょう」
「君はまたずいぶんと強くなったものだな。わたしとやり合った時よりも数倍は上ではないか?」
「そうですか? まだ半分も力を出していませんが」
マスクバロンが固まる。
正直に言っただけなのだが、疑われたようだ。
「さっさと次行きましょう」
「ペースを落としたらどうだ。魔法を使い続けているだろう」
「まだいけますよ」
≪空間ノ移動≫については、【神格】魔空ウラヌスのおかげで、消費をかなり抑えられている。何度でも発動できそうだ。
「ですが、アークスについたら一息入れましょう」
「その時に連絡といくか」
ここまではなんとかなった。ラナも危ないところだが回収できた。
アークスでも仲間が待っている。
どうか無事で、とねがいつつ、空間を移動するのだった。
★★★★★★
南方の巨大都市アークスまでは一瞬。
ウチのギルド支部前に到着した。
「だいぶ静かですね」
「まだ昼だというのに、人が少ないようだ」
通りや建物が破壊されている様子はない。
しかし街全体に鬱屈した空気が流れている気がした。
アークス支部は特に異常が見当たらない。だが、とても静かだ。
あまりいい予感はしないが、躊躇はしていられない。
「どうした、シント少年」
「いえ……」
扉を開けようとして、背後から、どさり、と音がした。
振り向くと、メリアムさんがいた。
両手で口を覆い、フリーズしている。
落としたのは紙袋だ。
開いた袋の口からパンが覗いている。
「これは……夢?」
「メリアムさん、迎えにきましたよ」
「それは……あの世へのお迎えではありませんわよね?」
「ええ、ただいま戻りました」
ほろり、と彼女の頬を涙が伝う。
「どれだけ……心配したか……」
その場で崩れ落ちてしまう。
駆け寄り、支えた。
「ああ、間違いなくハイマスターですわ。シントさん……ほんとうに、ほんとうに、あなたなのですね」
「心配かけて、すみませんでした」
うーん、泣き止む様子がないぞ。
「君はあと何人の女性を泣かせるのだろうね」
「マスクバロン、冗談はよしてくださいよ。毎回言うつもりですか?」
「ということは、まだ泣かせる予定がありそうだな」
みんながみんな泣くとはかぎらないだろうに。
「メリアムさん、他のみんなは無事ですか?」
「え、ええ、おそらくは……」
「おそらく?」
「とりあえず小父さまに」
彼女をともない、ギルドの中に入った。
待っていたのは、ガディスさん。
俺が入るなり、かっと目を見開いて、手にしていた剣を元に戻す。
「妙な気配がしたと思えば、シント、なのか?」
「はい。ただいま戻りました」
彼はつかつかと歩み寄り――
「いでっ!?」
ごつん、と俺の頭にゲンコツをくらわせてくる。
目から火花でた。意識が飛びかけたんですけど。
「心配をかけすぎだぞ、シント」
「いってぇぇぇぇぇぇ……」
頭を押さえる。マジで効いた。
「力を入れ過ぎたか? ふっ」
「砕けるかと思いましたよ」
「だがいまので幽霊じゃないとわかった」
たしかにそうだけど。
「ミコ、ミリア、出てきてもだいじょうぶだ」
奥のドアが開いて、二人の女の子が顔をのぞかせる。
「あ! おにーちゃんだ!」
「おじ」
たたたっと駆けてきて、腰の辺りに抱き着かれる。
「なんでいなくなったの?」
「……おかえり」
困ったな。離れようとしない。
でも、違和感がある。
「二人とも、ずいぶんと背が伸びたみたいだ」
アミールの時も思ったが、半年見ないだけで成長著しい。
「あ、そうだ。ミコちゃん、ミリアちゃん、ちょっといい?」
「?」
「どうしたの?」
カバンから、ディジアさんとイリアさんを出す。
「これって……」
「ディジアとイリア……」
「うん、ちょっと眠っててさ。二人の力を貸してほしい」
ミリアちゃんには、肩からひもでかけられたおもちゃの木馬、しかしてその実際は【神格】神馬ザンザスを。
ミコちゃんにはその身に宿る【神格】神光アフラを出してもらう。
淡い光を放つ魔力の流れが、ディジアさんとイリアさんに吸い込まれる。
また少し、手帳とナイフは大きくなった。
「だけど、まだ意識はないか」
彼女たちはなにも言わない。ただ、力は確実に増している。
焦るな。焦っては、いけない。
「シントさん……?」
「ディジアとイリアはどうした」
「ちょっと……眠っているみたいで」
だめだな。これではもっと心配をかけてしまう。
「シント少年、そろそろ紹介をさせてほしいのだがね」
「そうでした」
マスクバロンが現れると、ガディスさんが剣を用い、瞬時に斬りつける。
その鋭い刃は、マスクバロンに届く寸前で止まった。
「なんという剣技だ。少々、派手な歓迎だが」
「おまえは何者だ? いくらなんでも怪しすぎる」
「人にして小さすぎますわ」
「虫だ!」
「むし」
子どもたちに虫扱いされ、マスクバロンはほほをほんの少し引きつらせた。
それはまあどうでもいいとして、四人は無事だ。
残るメンバーについて聞こう。




