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希望と絶望と、絶望と希望 10 救出作戦だって勢いが必要な時もある

 やるなら迅速に、そして正確にだ。

 手を握ったり開いたりして確認。よし、体はしっかり動く。


 消耗の激しい≪光迷彩カムフラージ≫はもう使わない。

 ここからはノンストップで行くつもりだ。


 窓に手をかけ、静かに開けた。

 ひとっ飛びし、部屋内に降り立つ。


「ん?」


 振り向いた瞬間に≪魔弾マダン≫を撃つ。

 魔力弾は眉間に当たり、指揮官と思わしき男は、かくん、と首を垂らした。

 出力の調整はうまくいった。首から上が吹き飛んだらどうしようかと。


 次いでミニイちゃんとラスカル君が入って来る。

 いまのところ、侵入はうまくいっているが、油断はできない。


 ハンドサインを送り、二人には出入り口を見張ってもらう。

 こっちはこっちで、探りを入れた。


「やっぱり持ってたか」


 鍵束を発見。なんの鍵かは言うまでもない。

 他にめぼしい情報はなかった。

 期待していた兵の配置図だとか、人員構成だとかは見たらない。なにもかも都合よくはいかないってことだ。


「報告書?」


 机上に置かれた紙に目が留まった。

 

神軍しんぐん進軍しんぐん開始? 駄洒落か?」


 神軍、というのは饗団の軍と見ていい。

 その軍は帝都に向けて進撃を始めたという。

 日付は一週間前。

 まだ帝都は落ちていないようだ。


「ラグナとガラルは離反が相次ぎ、その相手で手一杯。我らがこのまま領土を広げても他所の軍が来る可能性は極めて低い、か」


 ラグナとガラルも一応は滅びていないみたい。

 滅びると少し困るから、ほっとした。


「あんちゃん、次はどうすんだ?」


 移動しよう。そう言いかけた時、誰かがやってくる。


「騎士隊長、失礼しまーす」


 若い兵士が頭をかきながら足を踏み入れる。


「……お? なんだおまえら――っ!」


 ひゅっ、と音がして、兵士の太ももに矢が刺さる。

 男はすっころび、床に倒れた。

 

「いっ……て、てめーら!」

「お兄ちゃん! 口! 口ふさいで!」

「へ?」

「魔法で! 口!」

「あ、ああ! ≪サイキネ≫!」

「むぐっ……」


 もたついたけど、悪くない反応。

 あとはとどめまで刺せれば完璧なのだが。


「えい!」

「――!?」


 倒れた男の後頭部にゴミ箱の一撃。

 哀れな若い兵士は意識を失った。


「ふー……」

「二人とも、よくやった。そいつをこっちに引きずるんだ。起きないから落ち着いて、それでいて早く」

「うん」

「つーか重っ」


 指揮官らしき男と若い兵士をロッカーの中に突っ込んで扉を閉める。

 

「鍵を見つけた。あとは牢だ」


 その場で横たわり、床に耳をつける。


「なにしてんだ?」

「シントお兄ちゃんは音を聞いてるんだから、お兄ちゃんは黙ってて」

「え、あ、うん」


 床下からなにか物音が聞こえる。

 地下牢だな。


「普通に行ったんじゃ、かち合う。さて、どうするか」


 三十人はいそうな兵士たちを避けつつ、地下牢に達するのは簡単じゃない。

 さきほど透視した時は、地下牢への階段を見つけられなかった。


「シントお兄ちゃん、また誰か来る」


 ミニイちゃんも音を聞いたか。

 お母さんは狩人だっていうし、【才能】をよく受け継いでいるらしい。


「なんてすばらしい」

「ちょっ……見つかっちゃうよ!」

「二人はドアの両脇に。俺が止めるから、ぶん殴ってしまえ」

「うそーん」

「うん、やる」


 時を待つ。

 今回やってきたのは、トレーに食事を乗せた兵士だった。


「騎士隊長、入ります。メシを持ってきました」

「ありがとう。ご苦労様」

「ええ、置いとき……って、誰だてめえ!」

「隊長の顔を忘れたのか」

「忘れてねえよ。てめえみてえなガキが隊長なわけねえだろ。つうかなんでてめえは裸なんだよ!」

「≪物体ノ移動(ムーブイング)≫」


 無属性の魔法によって作られた見えない手が、男の首を絞める。


「ぐおっ……なん」


 次の瞬間には兄妹によるダブルバックアタック。

 倒れる男を抱き止め、メシの乗ったトレーをすっと受け止める。


「食べ物を粗末にしなくてよかった」

「気にするのそこぉ?」

「大事なことだ」


 彼らが食べられるかはわからないが、机の上に置いておく。

 で、抱きしめたままの男を縛り上げ、魔法で水をかけてやった。


「ぶふっ! な、なんだ……」


 口を手で強くふさぎ、黙らせた。


「喋るな。殺す」

「――っ!」

「いまから手を離す。騒ぐなよ? 騒いだら目玉をくり抜いてやろう」


 男はこくこくとうなずいた。


「地下牢はどこだ?」

「……」


 言わないので、人差し指を眼球のすぐ下に差し込んでやった。


「や、やめ……」

「地下牢はどこだ、と聞いている」

「……」

「騎士隊長はもう始末した。そこのロッカーに詰めてある。おまえもそうなりたいのか?」

「わかった……わかったから目はやめて……」


 地下牢はここを出て、廊下を左に曲がった先の行き当たり。

 情報を得たので、指に魔法を集め、ぴんっ、と弾く。

 指版≪魔衝拳マショウケン≫だ。

 男は眉間にピンポイントで衝撃を受け、白目をむいた。


「さあ、行こう。抜き足差し足だ」

「それはいいんだけど、あんちゃん、さすがに目は……」

「すごい迫力だったよ」

「ほんとうにくりぬく気はない。単なるブラフさ」


 爽やかに笑いかけたが、兄妹はドン引きしてる。なんでだ。


 指揮官の部屋の先は廊下で、ずっと奥に兵士たちが見える。あそこは広間か、台所だと思う。

 ゆっくりと進み、情報の通り左へ曲がる。

 左右にいくつかの部屋と、行き当たりに階段。兵士の話は嘘じゃなかった。


 ≪透視クリアアイ≫を発動。そろそろ目が痛くなってきたから、使うのはこれで最後にしよう。

 左右の部屋は人がいない。備品置き場と化している。


「今のうちに行くよ」


 ミニイちゃんはいいんだけど、ラスカル君は真っ青だ。いつ見つかるともしれない緊張の中でよくやってると思う。

 階段を下りる。

 監視はいない。

 ここまで警備がザルだと、逆に疑ってしまうのだが。


 地下に降りて驚いた。

 牢屋は三つしかない。が、それぞれの牢に人が押し込まれてる。

 いちおう、男女は別になっているようだが、そんなのは気休めにもならない。


 全員がぼろぼろで見ていられなかった。

 俺たちがやってきたことで、混乱が伝わってくる。


「父ちゃん! 母ちゃん!」

「なっ……ラスカル、なのか?」

「ミニイ、どうやってここに」

「お母さん!」


 左の牢に集められた男性の中、眼鏡をかけた細身の男性が声を上げる。

 右の牢に押し込められた女性たちの中には、ひときわ体格のいい狩人風の装備をした女性がいた。


「いま開ける! あんちゃん! 鍵ちょうだい!」

「ああ」


 鍵を投げ渡す。


「待ってくれ! だめだ! 戻りなさい!」

「父ちゃん?」

「ミニイ、あなたもよ。こんな危ないところに来たら」


 危険だから戻れと言いたいらしい。


「出ても兵士たちに捕まるだろう。おまえたちはどこか、別の町に行って助けを」


 それはちょっと無茶だな。助けなんてくるわけがない。


「わたしたちは平気よ。働いてれば、殺されない」

「でも!」


 そうかもしれないが、殺されない保証はない。『王様』とやらの気が変われば、いとも簡単に殺される。


「もう無理ですよ」

「……君は?」


 ラスカル君のお父さんが、鋭い目を向けてくる。


「これから『王様』を引きずり出して、話をつけます」

「なん……だって?」

「俺はラスカル君とミニイちゃんからあなたがたを救出するという依頼を請けました。請けたからには、遂行する」


 誰もが言葉をなくしている。


「あなたたちを救出しただけじゃ、根本的な解決にはならない。町を取り戻さなくては。ウチのギルドはアフターケアまでしっかりやるのがモットーなんで」

「ギルド? 冒険者だったのか」


 牢屋越しに夫婦は顔を見合わせた。


「父ちゃん、おれはもう嫌だよ。こんな……悪いことしてない人を牢に入れるヤツなんて王様と思えない」

「うん……家に帰りたい。それにわたし、冒険者になりたいんだもん」

「ミニイ」


 ミニイちゃんは冒険者になりたいのか。

 

「俺はシント・アーナズ。これでもギルドマスターをしています」

「なんと」

「あなた、もしかして」

「ああ」


 両親が反対をしなくなったことで、ラスカル君が鍵を開けた。

 三つの牢が解放され、町の人が自由になる。

 数は二十人以上。よく見ると働き盛りの人たちばかりだ。おそらく、抵抗されたら厄介そうな者を閉じ込めたんだろう。


「私はルース。ラスカルとミニイの父だ」

「わたしはマーニャ。母親よ。この子たちが世話になったみたいね」


 他の町人たちも名乗りを上げる。


「気づかれる前に、ざっと話します。よく聞いてください」


 作戦を話す。それと町の警備は緩く、チャンスはいまだとも。


「君一人で陽動だって? 無茶だ」

「逃げ回るだけなんで、問題ありません」


 彼らには武器庫を襲撃してもらい、あとで合流。


「他にも囚われてる人がいますか?」


 いるなら解放したいところだ。


「いや、たぶんいないはず。だが……」


 ルースさんの目が、地下牢の先の扉に向けられる。


「あそこは?」

「尋問室だったが、いまは拷問部屋なんだろうね。あそこに一人だけいる」


 誰だろう。

 気になったので、少し扉を開けてみた。


「あなたは」


 びっくりだ。

 意外な人物がそこにいた。

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