希望と絶望と、絶望と希望 9 臨時『Sword and Magic of Time』
食事をしたあとで、いまの俺たちについて話す。
ラスカル君は14歳で、ミニイちゃんは12歳。
兄は魔法、妹は弓矢が得意。
ミニイちゃんが使っている弓は子ども用のものだが、飛距離を絞れば十分に使えそうだ。
小屋に武器はほとんどない。あるのは予備の矢くらいか。
工具類はそこそこある。金槌、釘になんかの金具。ナタもあった。
「このかばんは?」
「あ、それわたしが小さい時に使ってたやつ」
肩にかけるベルトのついた、とても小さなカバンがある。
「借りても?」
「いいよ!」
ディジアさんとイリアさんを寝かせるにはちょうどいいだろう。
今の俺は服もないし、このままで尻の間に挟めるしかなかったところだ。
「これでよし、と。ディジアさん、イリアさん、もう少しの辛抱ですから」
返事はない。不安ばかりが募るけど、押し殺さなくては。
「あんちゃん……誰と」
「しーっ! きっと、心の傷が……」
うん? 兄妹がひそひそ言い合ってる。二人で作戦会議かな。
「準備はこれでいい」
あとは敵の状態を知りたいところだが、どうしようか。
待っていれば、なにかしらのアクションがありそうなんだけど、ここを包囲されたくはない。
「そういえば『王様』って誰?」
「名前は知らない。攻めてきた奴らの中にいたんだと思うけど」
行くしかないか。
「ミニイちゃん、敵に見つからずに町の様子がわかる場所ってある? できれば高いところがいいんだけど」
「あるよ!」
即答だった。
これはますます将来が楽しみだと思う。
「すぐに行こう。セオドアさんは手を出さないって言ってたけど、手下は違うだろうし。夕方になる前に出発する」
「う……」
「う、うん」
イイ感じに緊張が高まってきた。
★★★★★★
「おー、いいね。いい場所だ」
ミニイちゃんに案内された場所は文句の付け所がない。
木々に囲まれた丘で、ちょうど枝の間から町の様子が見てとれる。
「い、いや、近くね?」
「お兄ちゃん、ビビりすぎ」
「びびってねえから!」
兄妹が騒がしい。
「町は普通に見えるけど、元気がない」
町を歩く人々の足取りは重そう。
逆に武装した傭兵風の男たちは偉そうにしている。
入口の警備はザルだ。立っている兵はあくびなんてしてた。
『王様』は国を作った。だが饗団はそれを許している。
少し見えてきたな。
ここに作られた国は、饗団の手下か。『王様』とやらは饗団の助けを借りて国を建てたと考えるのが妥当なところだろう。
「兵士は何人だ? そこまで多くはなさそうだけど」
「たぶん、他の村とかもやられてると思う。だからそっちにも……」
「他の村?」
「領主さまはバイデンサルの他に四つの村を治めてたし」
「ちなみに領主さまって、なんて言うの?」
「バクレール男爵さま。オースケル・ヴァ・バクレール」
なるほど。
男爵という地位は、貴族階級の中でもっとも低い。ほとんどがどこかの町に土地と邸宅を持つくらいで、行政や軍に出仕し、給金を得ている。他にも年に一度、貴族年金を支給され、日々を営んでいるのだ。普通なら広い領土を持つことはない。
話を聞くかぎりじゃ伯爵級。
だが、名と姓の間に、ヴァ、が付くことから新帝国の創立に携わった古い家柄だろうと思う。そのおかげで、男爵位でありながらも広い領地を持つことが許されてるわけだ。
「好都合だ」
兵数が分散しているのなら、そう難しく考えることはない。
即座に叩き、外には連絡させない。分断し、各個に撃破する。
「ん、あれは?」
鎖につながれた男女が、道を引きずられように連行されている。
虜囚なんだろうけど。
連れていかれたのは町の奥か?
ということは、望みがあるかな。
セオドアやその部下たちの会話を思い出す。
『王様』とやらは略奪を容認しているようだし、逆らう者を許さないと言っていた。
ここから見る町の人々は兵士たちをあからさまに避けているし、良い状態とは少しも言えない。
だったら蜂起を促すのも可能とは考えられないか。
「あの人たちはどこに連れていかれてると思う?」
「……憲兵の人たちの基地だったり?」
牢屋がありそうだから、可能性は高い。
「他に思い当たるところは?」
「うーん、たぶんないと思うけど」
「納屋とか?」
納屋は広くて大人数を収容するにはいいけど、そこまで敵はバカじゃないだろう。
「囚人っていうのは、バラバラにしていたほうがいいんだ。反乱されにくくなる。だけど、この兵数なら」
戦線は広がれば広がるほど、各所が薄くなる。手が回ってないってことだ。
あとは、俺の問題だ。
どこまでやれるか。
「さっそくやるか」
「へ!?」
「いまから? シントお兄ちゃん、ほんと?」
「早い方がいい。まずは捕らえられている人たちの場所を突き止めて、解放。俺が兵士を全部引き付けるから、君たちは助けた人たちと武器庫を襲って――」
「まままま待ってよ! それマジで言ってんの!?」
マジだけど。
「じゃあ、解放はラスカル君に任せる。ミニイちゃんは高いところから狙撃」
「いやいやそうじゃなくてぇ!」
「お兄ちゃん、やらないと」
「ミニイ!?」
ラスカル君の反応が面白い。
「他に作戦は?」
「おれに聞かないでよ……えーと、父ちゃんと母ちゃんは元冒険者だし、けっこう強いと思う。町の解放を手伝ってくれると思うんだ」
いいね。悪くない。
「どこにいるかは?」
「家……?」
「家にはいなかったよ」
「ミニイ?」
「この前忍び込んだ時、いなかった。中も荒らされてたもん」
「お……な……あ、危ないだろ! なにしてんだよ!」
「そう言われるから黙ってたの!」
ほほう。
素晴らしい。ミニイちゃんはそうとうにやる。
「捕まって、無理やり働かされてるんだろうね」
肝心なのは、捕まっている人たちがどこにいるかだ。ここに時間をかけたくはない。
正直、夜を待ちたいところではあるが、やめておこう。
緩み切っている兵士たちを見るかぎり、昼も夜も関係ない。
「憲兵の基地がどこかわかる?」
「行ったことない」
「うん、家は町の外れだし」
無理は言えない。行きながら、情報を収集だな。
「では行こう」
「いや、絶対に見つかるって」
「問題ない」
≪光迷彩≫を使う。
かぎりなく姿を隠す魔法だ。
「え……?」
「シントお兄ちゃん、すごい……」
「お互いも見えなくなるから、三人で手をつなごう。身を低くして、建物に沿って進むんだ。それと、喋らないこと。音までは消せない」
いくぶんか緩和されていた緊張が再び高まる。
ここからはミスの許されない本番だ。
★★★★★★
(うう……マジでやばい……マジで)
(お兄ちゃん、喋らないで)
迷彩の効果は上々。いまのところは制御できている。
町を歩く人々とすれ違いながら観察を開始。
びくびくしていて、道の端を歩かされている。
一方で、兵士たちは下卑た笑いを浮かべ、闊歩している。
ときおり露店の食べ物を奪い、代金を払わない。
文句を言うものは誰もいないようだ。
恐怖による支配なのは、誰が見てもわかる。
町に侵入してからおおよそニ十分。
さして大きな町ではないから、≪光迷彩≫はもつだろう。
広場が見えてきた。
小さな噴水と、ベンチがいくつか。
町の中心部だろうと思う。
商店と商店の間の脇道に入り、止まる。
俺とつないだラスカル君の手は汗だくだ。
さて、憲兵の詰め所はどこだ?
注意深く辺りを見つめる。
いまは夕刻だ。食事を摂りに戻ろうとする兵士を探した。
(あんちゃん……こっからどうするんだよ)
(しっ)
耳に集中する。
「おーい、早めにメシにしようや」
「ついてねーぜ。夜も見張りだよ。捕虜なんてさっさと殺せばいいのによー」
「人間もシゲンだって王様が言ってたろ。おれたちゃいまや騎士様だぜ? ちゃんとやらねえとよ」
「まあな」
おおいに有益な情報のようだ。
立派な鎧に身を包んだ二人が、どこかに去っていく。
俺たちはそれを尾行した。
やがて、兵士たちが集う施設にたどり着く。
数軒先には町で一番でかい建物が見えた。おそらくは行政府か、領主の邸宅。『王様』とやらはあそこかな。
施設の裏手に回り、≪光迷彩≫を解除。
息が漏れた。
「ふー……」
「ほんとにここまで来れるなんて」
積まれている砂嚢袋の陰に身を隠す。
見張りはいない。やはり、緩み切っている。
「≪透視≫」
続けて使うのは、透視だ。
壁が透けて、屋内が見える。
詰めている兵士の数は、思っていたよりも多かった。
おおよそ二十人ってところだ。
奥にもっといると仮定して、多くて四十人ほどだろうか。
その数であれば問題ない。
「……やべ。なんか気持ち悪くなってきた」
「もー」
問題は……ありそうだ。
けど、ここまで来たからにはやるしかない。
≪透視≫をさらに使い、構造を確認、把握。
横長の施設で、一人だけ、小さな部屋にいる。
黒塗りのデスクに向かう体格の良い男。指揮官と判断した。
「おあつらえ向きに窓。いけそうだ」
「あんちゃん?」
「あの窓から侵入する。入ったら、俺が兵士を倒すから、君たちは入り口に向けて警戒。誰か来たら倒せ」
「え?」
「うん、わかった」
ミニイちゃんが弓を手に持つ。
「では始めよう」
『Sword and Magic of Time』の臨時メンバーによる反撃開始だ。




