希望と絶望と、絶望と希望 6 知らない王国
「おい、起きろ!」
なんだ? 怒鳴り声?
「こいつ、どんだけだよ……」
「なんで寝てられんのよ。ぜんぜん起きねえ」
うるさい。
頭にがんがん響いて、気が遠くなってくる。
「兄貴、どうします?」
「兄貴はよせ」
「あ、すいやせん。将軍」
頭をおさえながら、半身を起こす。
ここは外だな。まずまず柔らかい地面の上に寝かされたようだ。
ラスカル君とミニイちゃんはどこだ?
まさかあれは夢?
「若いの、起きろ」
「すいません、眠いのであと五分だけ」
と、また寝る。
「あんちゃん! どんだけ眠いんだよ!」
ラスカル君の声だ。
また捕らえられたのだろうか。
しかたないので、起きる。
「あなたたちは誰で、何の用でしょうか」
男たちが五人。一人は頭に包帯を巻き、もう一人はあごが腫れ上がっている。
昨日の男たちみたいだが、一人多い。
仕返しに来たのか。ずいぶんと暇人だ。
真ん中に立っている男は立派な鎧と、マント。そして大剣を装備。身長はかなり高い。190以上はあるだろう。そうとうな手練れであることは、一目でわかる。
「若いの、昨日はウチのモンが世話になったみてえだが」
「世話、というほどのことはしてませんよ」
「ところで一つ聞きたい」
「答えられることであれば」
ちらりと様子をうかがう。
ラスカル君は男たちに腕を掴まれ、その場から動けないようだ。
ミニイちゃんはどこだ?
「そのかっこうはなんだ。服がねえのか?」
大男は顔をしかめている。
「ええ、服がないんです」
「そうか。くだらねえことを聞いたな」
かわいそうな目で見られる。
だってしょうがないじゃん。ないものはないんだし。
「おい、おまえら、ほんとうにこいつにやられたのか?」
「そうっすよ! こいつ、いきなり襲いかかってきて!」
「ふざけんな! おまえらがおれたちの食糧を取ろうとしたんだろうが!」
ラスカル君が怒鳴る。彼はほんと威勢がよくて、若さが前面に出ていた。
「なに?」
大男の鋭い目が、己の部下に向けられる。
「そりゃどういうこった?」
「い、いや、その、そいつは」
「こんなガキどもから食いもんを?」
「いやだって、王様もそうしていいって」
大男の盛大なため息が聞こえる。
それにしても『王様』? どこのだろうか?
彼らのやり取りを見るにつけ、妙な気分になる。
ただ倒すのなら苦労はしないけど、話し合いですむならそうしたい。
「ん?」
俺の視線のずっと後ろに、ミニイちゃんがいた。
木陰から弓矢で男たちを狙っている。
すごいな。あんな歳で、ずいぶんと肝が据わっている。
「ところで、ええと、あなたは?」
「セオドアだ。若いの、あんたは?」
「シント・アーナズ」
「うん? どっかで聞いた名だな」
俺の名を聞いたことがあるなら、ここはフォールンの近くってことかも。
「まあいい。おまえら町に来い。後ろに隠れてる嬢ちゃんもだ」
バレてるか。
「お兄ちゃんたちを、放して」
弓に矢をつがえたまま、木陰から出てくる。
「おい、放してやれ」
「兄貴! でもよ!」
「あ?」
「す、すいやせん、将軍」
ラスカル君が俺の隣に来て、ミニイちゃんも油断なくこちらへ来る。
「なあ、おまえらおれと来い。こんな小屋で三人。ひもじいだろが」
「い、嫌だ! おまえらは……町を襲っただろ! 父ちゃんや母ちゃんだって……」
「町の人間には手を出しちゃいねえよ」
町を、襲った?
「領主さまは殺したんだろ!」
「戦争だからな」
しかも、戦争だと? いったいなんの話をしているんだ。
「待った。戦争?」
「ああ、そうだ」
「なんの戦争ですか」
「はあ?」
セオドアと名乗った男が、顔をしかめる。
「おまえさんこそ、なに言ってる」
「話を聞きたい」
「話?」
うなずく。
「将軍! さっさと片付けましょうぜ! なんかこいつおかしいっすよ!」
周りの男たちが剣を抜いた。
「待て。こいつはおれがナシをつける。そもそもてめえらが仲裁を頼んできたんだろうが」
「そりゃそうですけど、ウチに逆らったんだ。見逃すことはできませんぜ」
「叔父貴にはおれが話す。てめえらは黙ってろ」
「……すいませんけど、王様には報告させてもらいますよ?」
「ああ、そうしろ」
男たちは下がった。代わりにセオドアが前へ出る。
「話なら、町に来ればいくらでもしてやる」
「断ったら?」
「手荒な真似をするつもりはねえ。ガキどもにはな」
「俺だけ特別待遇か」
「そういうこった」
緊張感が増す。
武には自信がありそうだ。【才能】もそうとうなものだろう。
「殺しはしねえよ」
抜き放たれる大剣。業物だとわかる。
やる。で、話をしてもらう。
「二人とも、下がって」
「でも」
「わたしもやれるよ?」
「いや、それはあとにとっておこう」
ラスカル君とミニイちゃんは下がった。
「俺が勝てば、話をしてくれますね?」
「いいぜ。こっちが勝ったら町に来て、働いてもらう」
「わかりました」
話は決まった。
深呼吸し、その場で軽くジャンプを繰り返す。
体調も魔力も、たぶんだいじょうぶ。
「始めても?」
「ああ、いいぜ」
よし、挨拶がわりの≪魔弾≫を一発。
右手首を左手で固定し、指先から魔力弾を放つ。
「なん――!?」
「え?」
セオドアと同時に俺自身も驚いた。
放たれた魔力弾はまったく狙いが定まらず、脇に逸れる。
だが、驚くのはそこじゃない。
≪魔弾≫は木をぶち抜いて破壊。さらに後ろの木をも倒した。
「魔法士だと!? しかもなんつう威力!」
セオドアは一気に距離を詰めて、大剣を振りかぶる。
決死の表情だ。
一撃でもくらえばやられる、と判断したのだろう。
「≪硬障壁≫」
硬さに重点を置いた障壁で、大剣を防ぐ。甲高い音がして、攻撃は弾かれた。
「おいおい!」
彼は下がった。
俺は……自分の手をまじまじと見る。
なんなんだいまの威力は。俺が知る≪魔弾≫じゃない。
何万回と練習し、何千回と実践した魔法なのに、威力が段違いだ。
なぜ、こんなことになる。いつも通りに撃っただけだ。
「格闘家って聞いたんだけどな」
「……」
話が耳に入らない。
なんだろう? すごく変な気分だ。
「ちっ……おかしなヤツだ!」
再び飛び込んでくる。
「≪衝破≫」
腕を掲げて、衝撃波を撃つ。空気を震わす魔力の衝撃は、周囲を巻き込み、見物していた男たちに尻もちをつかせた。
これもだ。威力がおかしなことになってる。
「ぐおっ……」
かろうじて防いだか。中々やる。
「≪魔衝撃≫」
「うおおおおおおおおおおおお!」
≪魔弾≫と≪衝破≫を組み合わせた特大に魔力弾が、大剣を盾にしたセオドアをぶっ飛ばす。
彼は少しだけ耐えたが、大きく飛ばされて森の中に突っ込み、転がっていった。
いまのはかなり手加減した。しかし、≪魔衝撃≫もまたとんでもない。最小限の魔力で撃ったはずなのに、以前の最大よりも二倍は大きかった。
俺になにが起きた?
こんなんじゃ制御が難しくて、まともな運用ができない。
愚痴ってる場合じゃないな。
どうにかして制御しなければならない。
「あ、あんちゃん……」
「す、すっごーい! お父さんよりもずっとすごいよ!」
二人のお父さんは魔法士なのかな。
まあいい。まずは約束通り話を聞かせてもらう。
★★★★★★
森の中に転がるセオドアを引きずって、庭に放る。
他の男たちは泡をくって逃げた。仲間を置いていくとは、情けないやつらだと思う。
あるいは、会話から察するにセオドアが煙たがられている可能性も高いか。
「あんちゃん、こいつ、どうするんだ?」
「起こす。で、話を聞くよ」
喝を入れて無理やり起こす。
「ぐ……ち、ちくしょう」
「セオドアさん、と言いましたね。約束は守ってもらいますよ」
彼を俺を見上げ、息を吐く。
その場で座り直し、あぐらをかいた。
もう戦う気はないようだ。
「ああ、約束は約束だ」
王様だの戦争だの、わけわからんことばかり言っていた。
「ここはどこなのですか? 帝国、なんですよね?」
「……」
驚いたように、俺を見る。
「なあ、おまえさん、どっから来た? むしろなんで知らねえんだ」
「?」
「身ぐるみはがされて服を着てねえんじゃねえかと思ったが……」
「俺が裸なのは、あなたには関係ないでしょう。それよりも、質問に答えてください」
「ここは帝国じゃねえよ。ラレール王国だ」
まったく聞いたことがない。南方諸国連合の小国か? だとしたら、ここは南方?
「帝国はもう風前の灯だ。そう遠くないうちに滅びるんだろうぜ」
「はあ? なぜ?」
「……マジで聞いてんのか? 饗団の起こした反乱だよ」
饗団のおこした、反乱だと?
バカな。なんでそんなことが。
両手で口を覆う。
なにが起きているのか、混乱するしかなかった――




