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希望と絶望と、絶望と希望 3 真実

 超巨大モンスターのことはわかった。

 まだ聞きたいことはたくさんあるけれど、後で聞く。

 で、どこから話したものか。


「俺は全てを知っているわけではありませんので――」

「そのようなことはわかっている。私が知りたいのは、そなたがどのようにして『時空の門』の存在を知ったのか、ということだ」


 なら話は簡単だ。

 まずは『フォールンの大穴事件』をざっと話す。その折に『饗団』なる組織の存在を知り、都市の崩壊を防いだ。


「キョウダン? 剣神教団のことか?」

「いいえ、全く別のものです」

「ふむ……」


 アルレエスさんはおそらく今この時も、自分の記憶と新たな歴史のすり合わせを行っているのだろう。

 

「あなたのいた時代にはなかったようですね」

「……いつかは外導神を求める者どもが現れると思ってはいたがな」


 より強力な力を求める者はいつの時代にもいる。

 それにしても、やはりアルレエスさんは外導神のことを知ってるのだな。


「饗団の幹部から俺たちが知る神話は間違っていると言われ、『時空の門』や外導神のことも聞かされたんです」

「……」

「それで、俺は『時空の門』の中に入り、外導神を倒したのですが――」

「ん?」

「正確には、パーツの一部ですね。巨大で、醜い顔面でしたけど」

「……はあ? いったい、そなたはなにを言っておるのだ」

「なに、とは? あなたは時空の門に外導神が封印されているのは知っているのですよね?」


 彼は口をあんぐりと開き、目を限界まで広げていた。


「いや……アホか! アホか!」

「阿呆ではありませんし、嘘でもない」

「それこそ、ありえぬ。どうやって」

「俺だけの力でありません。【神格】を四つ借りていたので、なんとか」

「四つ……四つか。不可能では……ない、やもしれん。私はどうやらそなたの評価をまた改めねばならんようだ。【神格】を粗末に扱う愚か者の裸の蛮族……その英雄というわけか」


 なんの理由もなく裸なわけではないんだけど。

 ただ、いまの状況ではわかってもらえそうにない。


「なるほど、やはり【神格】は……」


 彼はぶつぶつ言ってる。


「俺はおおいなる勘違いをしていました。時空の門を一つだけだと思い込み、外導神を倒したのだと。でも、それは違った」

「その通りだ」

「饗団は『時空の門』を探し続けています。封印を解く……いえ、壊すために【神格】もです。『時空の門』ははたしていくつあるのでしょうか」

「少なくとも、七つ」

「えっ!?」


 そんなに?

 マジかよ。


 いや待て。

 アルレエスさんはなんでそんなことを知っているんだ。

 さっき彼は、一つしか探し出せなかったと語った。


「なぜ、数をご存知なのですか」

「それを答える前に一つ聞く。そなたは現在に伝えられた神話が間違っていると教えられたと言っていたな」

「はい」

「ほんとうの神話を知ったのか?」


 ほんとうの、か。

 あの時聞いたモノは、真実なのか?

 確かめる術はない。

 そもそも俺は、剣神と魔神がいたとは考えていないのだ。


「いちおうは。ですが、なにかの例えなのでは? 神は概念だ。外導神も、神とは言うものの巨大なモンスターにすぎませんし」

「……」

「神は人が作り出した偶像です」

「では【神格】をどう説明する」

「人知が及ばないものを神器とするのは、別に不思議なことじゃない。そのほうがわかりやすいです。ですが……【神格】を定義づけたのはあなただ。なにか根拠があるのですよね?」


 アルレエスさんは間違いなく、誰も知りえないようなことを知っている。

 彼は目を伏せて、口を閉じた。


「若人よ、そなたはたいしたものだ。見ればまだ少年のような顔立ち。少なくとも二十歳は超えておるまい」

「はい。十七です」

「そうだったか。なるほど……十七という若年で【神格】に愛され、歴史にも精通し、私とも話が通じる。なにより外導神と関りを持っているというのに、発狂せずにすんでおる。よほどの精神力を備えておるのだろうな」


 発狂?


「待ってください。アルレエスさん、あなたはなにを知っているのですか?」

「真実、と言った」

「その真実とは?」


 聞くと空気が変わった。

 冷たさを帯びる重苦しい気配が屋内に充満する。


「若人よ、真実を知る勇気はあるか?」

「え?」

「もう一度聞く。そなたは、真実を知る勇気を持ち合わせているか?」


 あまりにも哀しい瞳。

 俺は思わずごくりと息を呑んでいた。


 いったいどんな真実が待っていると言うんだ。

 仮にマスクバロンの言っていた話が真実だとして、それがなんなんだろう。

 剣神の敵が魔神から外導神に変わっただけで、なんの違いがある。


「知りたくばついてこい。私はそれを、見せることができる」

 

 否やはなかった。

 ついていけば、饗団の求めるものがなにかを知ることができるはず。


 浮遊したままどこかへ行くアルレエスさんについていく。

 彼はやはりというか、人間じゃないことをまざまざと見せつけられた。

 ダイアナの持つ【神格】疑剣サナトゥスが出すゴーストによく似ている。


「こっちだ。この部屋に入るがよい」

「ええ」


 案内されたのは小さな部屋だ。

 壁も、目の前にある祭壇らしきものも、全てが金属だ。

 ミスリル銀に似た、ほのかに光を放つ装置。

 これも魔導具なんだろうと思う。


「台座にある球体に触れれば、始まる」

「わかりました」

「その前に……ほんとうにいいのだな?」


 うなずく。

 ここまできて、引けない。


「そうか」


 彼がうなずいたので、球体に触れる。

 瞬間、目に見える全ての光景が変わった。


「ここは、どこだろう?」


 まるで天の星々に囲まれているような。

 上も下もなく、かといって浮いているようでもない。

 映像、なのだろう。実際の俺はあの小さな部屋にいる。


「うん?」


 ふっと誰かの姿が浮かび上がる。

 あぐらに似たかっこうで足を組み、腕を少し広げて、目をつむる女性。

 ときおりさらさらとなびく長い黒髪。目鼻立ちと顔の輪郭が整い過ぎていておよそ人とは思えない。

 豊かに盛り上がった胸。細い腰……って、俺はなにを見ているんだ。


『来ましたか』


 なにごとかをつぶやき、目を開ける。


「――!?」


 うまく息ができない。

 おかしい。

 絶対におかしいのだ。


「ディジア、さん……?」


 どういうことだ。

 年の頃でいうと、たぶん二十歳くらいだとは思うが、間違いなくディジアさんだと思う。


『ディル・ジ・アル・エンド・カデス……』


 呪文のような言葉を口にしながら、別の誰かが現れる。

 その姿を見て、またしても息ができなくなる。

 その場に崩れ落ちそうな膝を殴って、かろうじて姿勢を維持した。


「イリアさん、なのか? なぜ……?」


 純白、と表現しても過言ではない女性。

 顔はディジアさんらしき女性と瓜二つ。その美しさも神秘さも匂いたつような姿形も、イリアさんに間違いない。


『イ・リィズ・アル・スフォリア・カデス』


 また呪文。なんの言語なのか、俺は知らない。


『ディル・ジ・アル・エンド・カデス、奴が来たわ』

『はい。すでにこちらでも観測を』

『そう』

『イ・リィズ・アル・スフォリア・カデス……いえ、イリア』

『どうしたの、ディジア。あなたが略称を用いるなんて』


 略称ということは、あの長い呪文みたいなのが名前か。

 しかしどうしてディジアさんとイリアさんがここにいるんだ。


『あのモノは、わたしたちだけでは』

『ええ、わかってる。わかってるし、それに』

『それでも、勝てるかどうか』

『そうね』


 目が離せない。

 これが過去の記録なのだとしたら、俺は――


 心臓の鼓動が早すぎて、口から飛び出しそうだ。

 頭を抱えそうになり、手が震える。

 大量の汗が全身を伝う。比喩でもなんでもない。


『やるしかないわ。ヤツは全ての生命を糧にしようとしている』

『永遠の奴隷……アレの中には幾数億もの命が存在しています』

『許されることじゃない。ヤツを止めることはわたしたちにしか、できないんだもの』

『はい、わたくしたちしかできません』


 決意めいた表情。


『行きましょう。外からの侵略者……あの邪神、いえ、外導神げどうしんをなんとしてでも』

『うん、止めなくちゃ。どんな……犠牲を払ってでも』


 二人は立ち上がりどこかへ行こうとする。


「待って! 待ってください! ディジアさん! イリアさん!」


 聞こえるはずもない。これは単なる映像だ。しかしそれでも叫ばずにはいられなかった。

 手を伸ばすも、触れることはできない。


 そしてまた場面が変わる。

 予想のはるか上をいく、人と魔が入り乱れる戦場が広がっていった――

 

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