表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
639/649

希望と絶望と、絶望と希望 2 偉人説話

 アルレエス。

 その名は帝国全土でよく知られている。

 歴史上初めて知られざる神器を発見し、それを【神格】と名付けた。

 そうして初めて剣帝アーサーの神剣が第一の【神格】と位置づけられ、カリバーンと呼ばれるようになったのだ。

 しかし、とうぜん故人。しかも、七百年も前の。


「あなたは、ほんとうのアルレエス、さん?」

「ふむ。ではそなたの知るアルレエスを教えよ」


 奇妙な問答だが、答えるしかないだろう。


「【神格】を定義づけた偉大なる研究者で二器目の神樹ユグドラシルから始まって、十七器めの神馬ザンザスまでを発見し、名前を付けた。【神格】研究に人生を捧げ、神の欠片であるとした、歴史においては最大の偉人として伝わっています」

「ほうほう。最大の偉人ときたか。はっはっは」


 めっちゃ嬉しそう。


「そのアルレエスでだいたい合っている。が、少々違う」

「そういえばさきほど、残響、という言葉を使っていましたが」

「ふむ。そなたはまだマシな頭をしているようだ」


 なんだか見下されている気が。

 でも最高の偉人だからそれもしかたない。


「いま喋っている私は、オリジナル、つまり生きていた私が記録していた霊子を元に再構築を行った模倣的人格といったところか」

「霊子を保存したと? そんな」

「可能だ。私の【才能】があればな」


 信じられない。神の如き力だ。


「つまり不死身」

「いや、そうではない。少し端折ったが……まあいい。それは後だ。そなたがどうやってここへ入ったのか、聞きたいのだが」


 うーむ。これってマジですごい話なんじゃないか?

 ありえない、という意識は捨てる。外導神などという存在があるくらいだ。なにがあっても不思議じゃない。


「どうした、若人」

「いえ、すみません。俺の話でしたね」


 アルレエスさんの家にお邪魔するまでを話す。

 帝都の近くに超巨大モンスターが現れ、倒そうとしたところ、中で『時空の門』を発見、封印し――これは希望的観測で成功したと信じたい――しかしながら爆発を受けて意識を失って、目が覚めたら妙な地下にいたわけだ。

 簡単に説明をすると、彼は顔をしかめたり、不機嫌になったりと忙しい。


「ふむ……なるほど。ちなみに今は帝国歴何年だ?」

「帝国歴はもう使用されていません。いまは新歴、正確には新生歴480年です」

「帝国はなくなっていたのだな」


 アルレエスさんが生まれた旧帝国はもうない。


「帝国の血筋は途絶えていませんよ。ただ、新しい国家になってはいますが」

「どういうことだ?」


 旧帝国は創立から五百年を経過したのち、南北に分裂。

 聖帝と呼ばれた偉大な大帝の息子二人が対立し、反体制派の皇子が勝利したことで、帝国は別の帝国となった。

 以上をざっと説明する。アルレエスさんは感心したようにうなずいた。


「若人よ、歴史に精通しておるな。きちんと学んでいるとみた。また少し、評価を改めるか。服を着ていない蛮族の割には博識のようだ」


 まだそこ言う?


「しかし、そうであったか。愚かな。だがそれも人」

「ええ、そうですね」

「帝国がなくなったというのなら、たしかにしかたのないこと。伝達がうまくいかなかったのだろう」

「伝達?」


 けっこう軽い感じで言われた。

 なんのことだ。


「時空の門が再封印されたことは不幸中の幸いであったな。だが……そなたは神剣カリバーンを持っておらん。どこに置いてきた」


 なんで?


「俺は神剣カリバーンを持ってません。所有者じゃないんですけど」

「時空の門を封印したのではないのか」

「ええ(たぶん)」


 話が噛み合わないな。


「いや待て。神剣カリバーンを持たずに時空の門を?」

「そうですが」

「……ありえぬ」


 アルレエスさんは混乱しているようだ。

 どうやら情報のすり合わせがいるだろう。


「質問してもいいですか?」

「……まずは一つだけだ」


 厳しいな。


「あなたは時空の門の存在をどうやって知ったのですか」

「それは……真実を知っているからだ」


 真実?

 アルレエスさんは考えこんでいる。


「そなたがなにを知っているのか、興味が出てきた」

「俺はずっとアルレエスさんのことに興味津々です」


 生きている人間ではない。だが普通の人間のように喋る。彼自身の言う模倣的人格という技術はすさまじいものだ。

 俺の知らない、いや、現代には伝わっていないなにかを知っている。歴史的発見だろうと思う。


「アルレエスさんは……いったいなにを見て、なにをしたのですか」


 彼は大きく息を吐いた。


「まずは話そう。類まれなる裸族の若人よ。そこから始めねばならんようだ」

「はい。ですが、俺は裸族ではありません」


 ちゃんと否定はしておく。

 アルレエスさんは、語り始めた。

 彼が偉人と呼ばれるようになった軌跡だ。


 アルレエスさんが生まれたのは、旧帝国三大帝と名高い一人のうち『賢帝』ルルーシエルの御世だった。成人したのち冒険家となり、遺跡に侵入しては遺物を拾って売りさばいていたという。

 うん、それは墓泥棒だね。良くて漁り屋。


 そしてある時、同じく墓荒らしをしている貴族らしき男と知り合い、意気投合したという話だった。

 その貴族らしきは美術品が好きなようで、古代の品を集めている、いわゆる収集家。趣味は合わないものの、お互いに面白いヤツと思ったようだ。


「いろいろとバカをしたものだ。あやつ……ヘルムリットはほんとうに馬鹿たれだったな」

「ヘルムリット? まさか……『放蕩皇帝』の? だとしたら貴族じゃなくて皇族じゃないですか!」

「はっはっは、後世ではそう呼ばれているのか? はーはっはっは!」


 バカ笑いだ。

 しかしまあ、皇帝と友人だとは。


「いったいなにをしたのですか」

「うん? まあ、無断で入ったら死刑の場所に侵入したり、悪徳商人から遺物を取り戻したり、女風呂をのぞ……ごふんごふん。様々な冒険を、だな」


 マジでバカをやっていたようだ。信じられない。


「面白い人のようですね」

「ああ、ほんとうに破天荒であった」


 ヘルムリット帝はかなりの遊び人で『放蕩皇帝』と呼ばれている。

 後世の歴史家の中には『賢帝』が残した遺産を食いつぶした愚か者、という評すらあるが、一方で文化を花開かせた人物でもあるのだった。

 『賢帝』が作り出した平和を利用し、美術や芸事を奨励した。一般人からも芸術家を見出して、文物の規制を緩め、大衆文化を発展させたのだ。


 つまり両極端で評価の難しい賛否両論の人物、ということになる。


「私とヘルムリットは、ある時、神器を発見した。それが神樹ユグドラシルの片割れだ」

「片割れ……?」


 急に胸がどきどきしてきた。

 じゃあイリアさんが吸収したのはいったい。


「それから、私たちは【神格】に夢中となった。ヘルムリットがスポンサーとなって、収集と研究を行ったのだ」

「そんなことが」

「が、あやつは敵が多くてな。なかなか表立っての研究は叶わなかった」

「そういえばアルレエスさんはドラグリアの里に行ったのですよね」

「そなたもか」

「ええ、行った時に聞きました。ドラグリアの秘密も」

「ふむ……」

「あ、ビッグウッド山にも行きましたよ。アテナとも会ったんですよね?」

「アテナ、とはあそこにいたアレジアント・テレシャス・ナビゲーターのことで合っているか?」

「ええ、そうです」


 アルレエスさんはどこか遠い目をする。


「囚われの哀れな娘……私では解放が叶わなかった」

「いまはもうウチで働いてますよ」

「……はあっ!?」

「ビッグウッド山も吹きとびましたし」

「……なぬっ!」


 呆気にとられている。


「待て待て! では……【神格】はどうなった? クロノスとウラヌスは?」

「ウチの事務所の戸棚に――」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!」


 反応が激しすぎやしないか。


「し、【神格】を戸棚、だと? この罰当たりな蛮族め!」

「まあいいじゃないですか。誰も【神格】だなんてわからないでしょうし。そんなことよりも、話の続きを」

「くっ……なんという若人だ」


 盛大なため息とともに、彼は話を続ける。


「ある時……私は調査を続けていくうちに『時空の門』の存在を知った。そしてそれが、解いてはならぬ封印であることもな。私が探し出せた門は一つだけであったが……」


 ここで言葉が止まる。

 なにか、嫌な予感がした。


「私はヘルムリットと協議し、アルテト村の近郊にあった時空の門を封印した。しかし、ただ封印したのではいつか破られるかもしれん。だから、二重の仕掛けを用意したのだ」

「二重の、仕掛け」

「うむ。それが移動要塞ボルグゲイルよ」


 言葉を失う。

 移動要塞、ということは。


「そなたが超巨大モンスターと言っているのは、私が作り上げた要塞のことだ」

「なんでそんなものを作ったのですか!?」


 迷惑極まりないことだ。アレがあのまま突き進んだら、多くの人々が犠牲になったかもしれないのに。


「仕掛け、といっただろう。なんらかの理由によって封印が解かれてしまった場合、帝都に向かって進むよう、術式を付与していたのだ」

「ですから、それはなぜ」

「神剣カリバーンで時空の門を破壊させるためよ」


 そうか! それが最初の話につながるのか!


「ヘルムリットには、有事の際に子孫へ要塞を破壊するよう碑文でも残せと言ったのだがなあ」

「しかし旧帝国は滅び、その約束は失われた……」

「どこかで途絶えたのだろう。とはいえだ、あれだけ巨大な物体が動けば、誰でも止めようとする」

「だから、二重の仕掛け」


 彼はうなずいた。

 この人、そうとうな食わせ物だ。

 超巨大モンスターは、モンスターじゃなかった。薄々わかってはいたが、とんでもないことだ。

 しかしあんなものが人工物だとは。すごすぎる。


「超巨大モンスターは言ってみれば巨大な魔導具で、要塞だったわけか」

「そういうことになる」

「この家もそうなのですか? ここもそのボルグゲイル内に?」

「まさか。ここはカーンデイレスという山地の、地下に作った隠れ家よ」


 うーん?

 カーンデイレスなんて聞いたことはない。位置関係がわからないな。


「さて、次はそなたの番だ、若人よ」

「わかりました」


 アルレエスさんの言うことは、信じがたいことばかりだけど、嘘ではないだろう。

 次は俺の番だ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ