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超巨大ミッション 30 図書館

 俺以外誰もいなくなった空間で、立ち尽くす。

 テンダーとの因縁は、予想だにしなかった終わりを迎えた。


 もはや、いまとなっては全てを知ることがかなわない。

 饗団に取り込まれたムンゾォさんを殺したテンダーもまた、利用されただけの駒。


「人をあんな姿にするなんて」


 饗団のことを初めて知った時から、様々なことがわかってきたのに、ますます謎が深まっていく。

 嫌な気分だ。濡れて重くなった縄に全身をからめとられたみたいに、体が鈍い。


 やがて、振動が伝わってきた。


「ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンン!!!!」


 空気を震わす雄叫びは、超巨大モンスターのものだろう。

 皇女殿下やフランが攻撃を始めたのだと思う。


 外からの攻撃は、【神格】の所有者の任せればいい。

 俺は中からだ。


 と、ここで背後に気配を感じる。

 もちろん、いつも感じているものだ。

 

「シント」

「探したよ?」


 ディジアさんとイリアさんが追いついてきた。


「どうしたのです?」

「倒したん……だよね?」

「ええ、終わりました」


 二人の顔色はどうしてかすぐれない。


「シント、いったいなにがあったの?」

「ひどい顔をしていますね」

「いえ、俺にはなにも問題ありません」


 ここで心配をかけてしまうのはよくない。

 戦いはまだ終わっていない。


「下から大きな力を感じます。行ってみましょう。うまくすれば、内部から破壊できるかもしれない」

「ええ、おそらくそれが魔法の乱れのもとでしょう」

「うん」


 彼女たちも感知していたようだ。

 テンダーが作った床の亀裂から覗き込む。

 予想通り、空間があった。


 ここは『図書館』と呼ばれる遺跡で、間違いない。

 なぜ本や本棚がないのに『図書館』と呼ばれているのか、超巨大モンスターの背に作られた理由がなんなのか、答えは下にあるだろうと考える。


「まあ、とりあえず人の家じゃなくてよかったですよ」


 最初に見た写真では不鮮明だったから、確証が持てなかった。

 ようやくすっきりした感じだ。


「いつものシントですね」

「すごい顔してたから心配したし」


 そんなにひどかった?


「床を破壊します。下がってください」


 二人を下がらせ、≪発破エクスプロード≫を使う。

 

「一発では壊せない?」


 床がかなり固い。ただの石と土かとも思ったが、そうではないようだ。

 そういえばドレスラー氏が、ツルハシではだめだった、と語っていた。冗談ではなかったわけか。


 続けざま≪発破エクスプロード≫。二回、三回と撃ちこみ、床に穴を空ける。

 

「うう!」

「これは……!」

「すごい……魔力!」


 穴から噴き出した異様な魔力に、口を覆う。

 閉じ込められていたものが一気に飛び出たのか。

 

「濃度がすごい!」


 あまりにも濃い魔力にめまいを覚える。

 一瞬、一年近く前のことが頭をよぎった。


「巨魔大晶、かもしれない」


 ビッグウッド山でアテナと出会った時だ。

 あそこははるか太古の施設であり、ばかでかい魔晶石によって稼動していた。


「だとすると」


 突飛な想像が、頭に浮かぶ。

 すぐさまその考えを捨てて、穴の先を見つめた。


「行ってみましょう。危険ですが」

「危険は百も承知です」

「依頼を終わらせようよ!」


 そうだ。

 俺たちは冒険者。受けた依頼を遂行しなくては。


 意を決し、穴に飛び込む。

 だいぶ深い。

 照明の魔法を使い、降りながら周囲を照らす。


「自然にできた穴じゃないな」

「くりぬかれているようです」


 人の手で作られているのは明白だ。

 どこか鉱山の空気孔を思わせる。

 

 感じる魔力がさらに濃くなってきた。

 終点が近そうだ。


「ん……冷たいね」

「ええ」


 魔力とともに冷気が噴き出す。

 イリアさんがぶるっと震えた。

 

「なにがあるのか、予想できない。気をつけて、二人とも」


 警戒心を高める。

 下は、明るい。松明かなにかがあるようだ。


 底に降り立つ。

 上にあった空間よりもさらに広いホールが、眼前にある。

 左右の壁にはたくさんの本が詰められた棚を確認。遺跡が図書館たる由縁はこれか。


 考えていた想像にどんどん裏付けがなされていく。

 そして空間に浮く、巨大な魔力の結晶。

 予想していた巨魔大晶は、あった。

 あったことはあったのだが――


「凍っている……?」

「なにこれ……」


 俺たちは口をあんぐりと開けたまま、徐々に見上げていく。

 バカな、と言いたいのに、言えない。


「これは……シント……まさか」

「ええ、ありえない、ものです」


 俺とディジアさんは、かつてこれと同じモノを見ている。

 空に切れ目を入れて、無理やり広げたかのような穴。


「なんでこれがここにある」


 これは、『時空の門』だ。マスクバロンが街の上空で開いた異次元に通ずる穴と同じもの。

 見間違えたりはしない。

 

「シント、これはいけません。すぐに……閉じないと」

「これって、わたしが、いたところ?」


 二人が左右から俺の腕をつかむ。

 俺たちはフォールンの街を破壊されそうになり、それを阻止した。

 あの穴は間違いなく閉じたが、いま目の前にもある。


「次から次へと」


 やっかいすぎることばかりだ。

 深呼吸をして、弾けそうな心を落ち着かせる。

 

 『時空の門』から視線を少しずつ下げていく。

 何本もの管につながれた巨大魔晶石がそこにあり、魔力を伝えているのがわかる。

 管の先は見た事もないからくりがあり、規則的な音と動きを見せていた。

 ついさっき、脳裏をよぎった突飛な想像は、当たりだ。


 超巨大モンスターは、モンスターではなく、造られたものでは? と考えた。

 巨魔大晶をエネルギー源とした動く施設ではないか。そんな疑念を裏付けるモノが、ここにはある。

 

 しかし、もっとも驚くべきはさらにその下だ。

 氷の塊。

 塊の中で絶命する人間たち。


「ここでなにが起こったんだ?」


 死んでいる男たちは、俺たちが立っている方に向かって必死に逃げて来ていると思われる。

 目も空いたままだから、瞬時に凍りついたんだろうか。


 そして、彼らの着ている服。

 何人かは体にフィットした白いスーツだ。

 つまりは饗団の戦士。


 近づいて、氷塊に触れてみる。

 ちょっとやそっとじゃ、壊せそうにない。


「魔法? しかしこんな」


 氷魔法によるものだとしたら、とてつもない大魔法だ。

 それこそ、【神格】クラスの――


「いや、待て、まさか」


 目を凝らし、氷塊のもっとも奥を見る。

 一際大きい珠がある。

 台座に嵌め込まれた暗い蒼の珠だ。


 少し下がって氷の形状を見つめる。

 発生源はあの珠と見ていい。


「ん……いまだいぶ揺れましたね」

「激しいです」

「みんな戦ってるんだと思う」


 俺たちも外に出て加勢した方がいいのか?

 『時空の門』をどうにかして閉じなければいけない。

 ウチのメンバーだけでも呼んだほうがいい。


「でも」


 だけど、だけど、どうして足が動かないんだ。

 いましがた思い浮かんだ、ある一つの可能性。

 

()()()()()()()()()()

「シント?」


 フォールンでの事件は、忘れたくとも忘れられない。

 あの時、黒獣と名付けたアレは――


「待って! なんか変!」


 異変に気づき、イリアさんが『時空の門』を指さす。

 蠢く黒い影の正体は、わかりきったモノだ。


「黄獣!」


 やはりだ。

 モンスターの発生源は、ここだった。


「ディジアさん! イリアさん!」

「はい!」

「倒さないと!」


 三人で同時に放つ特大の魔法。

 溢れ出ようとする黄獣を焼き、雷で払い、光剣で斬る。

 しかしそれでも、勢いは止まらない。


「キリがない!」


 倒しても倒しても、奥から這い出てくる。

 まずい。あまりにもまずい。

 こんな数が外に出たのでは、犠牲者は千や二千じゃきかない。


 魔法を撃ちまくって、気がつけばモンスターのどす黒い血がばら撒かれた惨状と化していた。

 モンスターの攻勢は収まったものの、予断を許さない状態だ。

 フォールンでの事件は、第二波、第三波と黒獣が断続的に押し寄せている。

 今回も同じだと思ったほうがいい。


 外のみんなは必死で超巨大モンスターを押しとどめているはずだ。

 その最中に黄獣が溢れ出せば、どうなるかわかったものじゃない。


 迷っているヒマはないだろう。

 穴を閉じる。

 それしかない。


「ディジアさんとイリアさんは戻って!」

「待ちなさい! なにをするつもりですか!」

「穴の中に入ります!」

「だめだよ! 閉じる方法もわかんないのに!」


 その通りだけど、行かなくては。


「イリアさんを見つけた時だって、なんとかなりました」

「あなたらしくもない!」

「作戦もなにもないんでしょ!」


 いいや、これは時間との勝負だ。

 饗団の思惑を探るのは後回し。目前の危機を払う!


「なら、わたくしたちも参ります」

「シントだけ行くなんて、嫌だもん」


 ここで言い争っている余裕はない。


「わかりました。ですが、ヤバい時はすぐに撤退を」


 二人がうなずく。

 そして俺たちは、『時空の門』へ飛び込むのだった。

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