超巨大ミッション 28 オリハル級VSオリハル級
≪魔錬体・反魔法反魔法≫は正常に発動。
彼らが使用する反魔法の領域を相殺。
範囲は俺の体のすぐ周りだけ。
持続時間は五分。
問題ない。
自由に動ける。いや、それ以上だ。
「なんだ?」
「ふん、こけおどしだろう」
剣と斧を構える二人に対し、地を蹴る。
「なっ……」
「ちいっ!」
瞬時に間合いを詰める。
慌てて武器を振り上げるが、もう遅い。
「ぐほおっ!?」
ボディブローを『爆斧』バンダルの腹に突き刺す。
ほぼ同時に横蹴りを放ち、『絶倒剣』トレーボルとの距離を空けた。
「嘘だろ!」
驚きつつも、彼は下がった。
「一発で……だと!」
バンダルがワンパンで倒された。それが信じられないようだ。
「その魔導具」
と、彼の胸に備え付けられた、奇妙な板を指さす。
「それが、領域でも動けるからくりか」
淡く光る板から、奇妙な力を感じる。
「饗団から支給されたものかな」
「……」
沈黙は肯定の証。
しかし、俺が考えているよりもずっと饗団の技術は進んでいると思う。
反魔法を確立、運用にまでこぎつけ、さらにそれを中和するモノまで。
そして邪剣。人をモンスター化する術。操る力。
いったいどこからそんなものを?
いや、考えるのはあとだ。
「くそっ、バンダル! 起きろ!」
「う……ぐう……」
『爆斧』はしばらく立てないはず。その場でうずくまり、顔は汗だらけだ。
「『絶倒剣』さん、あなたは皇女殿下に武器を向けてしまった。後戻りはとっくにできなくなってる」
「……」
「そこまでして饗団に与するのはなぜです」
「……帝国は、終わりだ。終わりは、もう始まってんだよ」
なんだって?
「おい! よそ見するんじゃあないぞ! オリハル級の老害野郎が!」
俺に気を取られていたトレーボルは、ケルーガーさんに気がつかなかった。
彼は気合いで反魔法装置にたどり着き、勝利を確信した笑みとともに短剣を突き立てる。
「てめっ! この死にぞこない!」
トレーボルの叫びはもはや無意味。
バチバチと火花を出して、黒い箱が爆ぜる。
これで反魔法の領域は無力化した。
「バンダル!」
「ま、待て……息が……」
逃げようとする二人。
今さらそんなこと、させるものか。
「形勢逆転だ! アーナズ!」
「ええ!」
≪魔弾≫の連射が、『絶倒剣』と『爆斧』の背を撃つ。
「ぐおおおおおお!」
「ここでやられるわけにはっ!」
全弾命中。彼らの速度が目に見えて鈍る。
倒れないのはたいしたものだが、そこへ『暴風雨』が襲いかかった。
やつらの背にケルーガーさんの刃が迫る。
だが――
「うおおおおおおおお!」
「これは!」
風を斬る音に反応し、避ける。
ケルーガーさんは短剣で受けたが、吹き飛ばされた。
なんという威力。
空間が立ち割られた錯覚すら感じる。
この斬撃の正体は、確かめるまでもない。
「うまく避けたか」
底冷えのする低い声で、ヤツが姿を現した。
異形と化したテンダー。
いつか来るとは考えていたが、ここでか。
改めて見ても、おぞましい。
巨大なカマキリとなった饗団の戦士は、俺をじっと見つめる。
「来い。ケリをつける」
「ケリ、だって? 隠れていたくせに、よく言う」
俺の言葉には反応せず、大きく跳び上がる。
節のある四本脚が衝撃を生み出した。
ヤツが向かったのは、超巨大モンスターの背だ。
あからさまな誘導。
行くべきか、行かざるべきか。
とりあえず吹っ飛んだケルーガーさんの元へ駆け寄る。
「ケルーガーさん!」
息はしているが、意識はない。気絶してしまったのか。
天を仰ぐ。
超巨大モンスターはいまのところ、動く気配がない。
『絶倒剣』と『爆斧』の姿は消えていた。
逃げ足もオリハル級、ということらしい。
「シント!」
離れたところからディジアさんの声がする。
彼女の後ろにはイリアさん、そして、ウチのメンバーが続く。
「反魔法は解除したさ」
「たぶん、もう、ないと、思う」
「饗団もだいたい倒したと思うよー」
さすがは我がギルドのメンバーたち。
「主力が三人、残ってる。それと――」
「このデカブツか」
「ええ」
予定通りではあるが、テンダーの余裕が気に食わない。
ヤツはいったいなにをするつもりなんだ。
「俺はテンダーを追います。みんなは殿下やフランと超巨大モンスターに対処を」
光魔法の球を打ち上げる。
これが、反魔法領域解除の合図だ。
「わたくしも、シントともに」
「行くよ!」
ディジアさんとイリアさんは、俺が連れて行く。
「……気をつけて」
「ああ、アリステラも。ガディスさん、頼みます」
「無論だ」
いまさら指示はいらない。
ディジアさん、イリアさんとともに飛翔。一気に上空へと舞う。
「でっかーい」
「超巨大、と言うだけはありますね」
「まるで島だな」
二人の言うとおり、でかすぎる。その背中はもはや大地。山がそのまま乗っかっている。
動かないでいるのがせめてもの救いだろう。
「あ! あそこにいる!」
テンダーは隠れようともせず、超巨大モンスターの背で俺たちを待っていた。
不敵な目でこちらを見上げているのだ。
「罠のように見えますが」
「そうですね」
「行くの?」
「はい、あえて乗ります」
危険だが、行くしかない。
野放しにはできない。
俺たちもモンスターの背に降りる。
生き物の背に降りたとは思えない感触だ。熱も感じない普通の地面だと感じた。
「クソガキ」
「テンダー」
ヤツはいた。
巨大な鎌を威嚇するように広げ、威圧してくる。
「なぜ、饗団に戻った。失敗したら消されるんじゃないのか」
「ああ、そうだ。消されるはずだ……」
表情に変化はない。それがいっそう不気味だ。
「だがよ、てめえを殺さなきゃならねえ。やられっぱなしは、ありえねえんだ」
知ったことか。
「クソガキ、ここがてめえの墓場だ」
「それはどうかな」
空気が変わる。濃密な魔力が立ち込め、息苦しくなってきた。
「ディジアさん、イリアさん」
「一筋縄ではいかないようですね」
「前みたいにならないようにしなくちゃ」
前みたい、というのはマーベラスファイブとの戦闘だろう。
あの時は謎の攻撃をくらって大苦戦した。
同じ轍は踏まない。
「行くぜ! ≪インビンシブルポーン≫!」
気配が増える。
やはり来たか。
これまで、饗団の最上級戦士はモンスターを生み出していた。
こいつもそうだって話だ。
瘴気の塊が生まれ出でるのは、でかい昆虫。
カマキリの形をしたベルベラマンティスに、蜂の姿をした殺人バチ。サイズは人間の大人よりも上だ。
「やっかいすぎる」
「シント、やるしかありません」
「こんなの、放っておけないよ!」
ああ、その通り。
もとよりテンダーとは因縁がある。それがモンスターと化したのなら、倒す。
「テンダーに気をつけながら、モンスターを駆逐します」
まずは殺人バチを片付ける。
俺たちが飛翔をすると同時に、殺人バチも浮上。
空中戦だ。
「下からの攻撃に気をつけて!」
「はい! ≪闇弾≫!」
「飛んで! ≪ウルスラ≫!」
二人が放つ魔法を、殺人バチが回避する。旋回の性能が凄まじい。
しかし、奴らはモンスター。知恵はない。
「……≪螺旋魔弾≫」
回避行動を読み切った上での、狙撃。
撃ち放たれた魔弾は二つ。
それが寸分たがわず、殺人バチを穿つ。
これで二体を片付けた。
俺たちは空から爆撃を敢行。
鎌を振り上げようとするベルベラマンティスを片っ端から爆破する。
「なんだと……?」
テンダーは驚いていた。
こうも簡単に手下がやられるとは思ってもみなかったろう。
マーベラスファイブとの戦いは確実に糧となった。俺もディジアさんもイリアさんもあの時より成長している。むざむざ好きにさせたりはしない。
そもそもが俺たちは冒険者。モンスター退治も仕事のうちだ。
「どうした。これで終わりか?」
高度を落とし、テンダーを見る。
「言うじゃねえか、クソガキ。その女どもはどっから連れてきやがった」
「言う必要は、ない」
≪魔弾≫を最速でかます。
ヤツはそれを腕で防いだ。
「ふん……これでやれるなんざ、はなから思ってねえが」
再びモンスターを生成の構え。
「おれの目的はてめえだ。その女どもは……悪いが招待してねえ」
ベルベラマンティスと殺人バチがぬうっと黒い塊から出てくる。
「おまえらは女どもを相手してろ」
生み出されたモンスターは、ディジアさんとイリアさんを標的に動き始める。
「来い、クソガキ」
テンダーが身をひるがえし、場を離れようとした。
「シント、こちらはわたくしたちに」
「うん」
一瞬の混乱。
言葉が継げない。
「心配はいりません。このような存在にわたくしたちが脅かされることはないのですから」
「だいじょぶだよ。任せて」
たしかに二人はこのところ信じられないくらい腕を上げている。
だからといって首を縦に振るのは容易じゃない。
「わたくしたちはあなたを信じています」
「だから信じて」
「わかり……ました」
断腸の思い、だけど、行く。テンダーをすぐにでも倒し、さっさと戻ってやる。




