超巨大ミッション 25 戦うか、逃げるか
「ただいま戻りました――って、なに?」
入るなり、目が丸くなる。
どうにもおかしい。
「ああ、ディジアとイリアがやってくれたのさ」
カサンドラが背後から教えてくれる。
「シント、無事に戻ったのですね」
「心配したんだよ」
二人が駆けよってきた。
それはいいのだが、なにがどうなっているんだ。
洞窟内が様子が妙なことになっている。
明るいのだ。
見上げれば、天井のところに大きな光の球がある。まぶしさのない優しい明かり。しかも暖かい。太陽の日差し、なのか?
「これは」
「≪白ノ太陽≫だよ」
イリアさんが誇らし気に胸を反らす。
≪白ノ太陽≫は前に見た。攻撃用のものじゃないのか?
さらに驚きは続く。
ごつごつしてた洞窟の地面がない。
代わりに黒い絨毯とも言うべきぶ厚い魔力によって覆われている。
「地面も暖かい。しかも、柔らかいですね」
「≪黒ノ叡智≫です」
≪白ノ太陽≫と≪黒ノ叡智≫。
てっきり俺の≪魔弾球≫と似たようなものだと考えていたが、そうではないらしい。
とにもかくにも、村人たちは安心しきって寝ている人も多いし、問題はなさそうだが。
「信じられない。いつの間に、こんな」
びっくりどころの話ではなかった。
ディジアさんとイリアさんのとてつもなさを改めて実感する。
たしかに俺は出発する前、ディジアさんとイリアさんへおねがいをした。
内容は、洞窟内の地面を砂地にしてもらうことと、暖炉の代わりになるようなものを作製してもらうことだ。
二人の魔法なら簡単にやれると考えてのことだったが、想像以上だと思う。
「あ……ありがとうございます。これなら……ゆっくりと話が、できそう」
「でしょでしょ?」
「いっぱい練習しました」
なんてことだ。感動で言葉も出ない。
「……シント、とりあえず座ったら?」
「あ、お姉さま、にらんでる、よ?」
おっと。ガミガミ言われる前に話し合いを始めるとしよう。
エリザベス様とフランを中心とした場所まで行き、腰を下ろす。
黒い魔力の絨毯の感触が気持ちいい。
すごい。尻が暖かいぞ。さすがはディジアさんだ。
「帰りを待っていましたわ」
「で、なにがわかったわけ?」
フランはだいぶ焦れているようだ。
一呼吸置く。みんなの視線が集まった。
「エリザベス様。戦うか、逃げるか、決めてくれました?」
「戦うしかありませんわ」
即答だな。
「村の方々を連れて逃げるのは危険すぎます。安全を確保できない以上、まずは突破口を開くの先決だと思いますの」
賛成だ。
「シントはどう思いまして?」
「こちらの戦力は十分ですし、戦うのがいいですね」
エリザベス様はほっと胸を撫でおろした。
ケガをしたグレンザー伯を除いても、【神格】の所有者が五人。加えて高ランク冒険者たち。戦える者の数も人間にかぎって言えばこっちが上だ。普通に考えたら、負けない。
「アーナズ、そっちはなにがわかったんだ?」
ケルーガーさんはそれが聞きたくてしかたないって感じ。兄妹そろって知りたがりか?
「まず、饗団と裏切り者たちは俺たちを追ってきていない」
「追ってきてないって……」
「そりゃどういう」
冒険者たちがどよめく。
「やつらは超巨大モンスターに用があるようです。手形のモンスターは二千くらいいそうですが、動いていない。なので、ここはある程度安全でしょうね」
もちろん、『黄獣』が襲ってくる可能性は捨てきれないんだけど、それはなさそう。
「だったらなにが狙いなわけ?」
「【神格】じゃないかな」
沈黙が訪れる。
「つまり、伯爵閣下か公女殿下ってこと?」
半分は正解だろうけど。
皇女殿下が持って来た神剣カリバーンのことは黙っていよう。言ったらえらいことになる。
もちろん、ダイアナやディジアさんとイリアさんのこともだ。
「いや、フランが調査団に参加したのはサプライズだ。ですよね、皇女殿下」
「ええ、そうです。事前に知っていたのはわたくしとグレースだけですわ」
「つまり、裏切り者たちはフランが加わることを知らなかった」
「……話がよく見えねえ」
『絶倒剣』と『爆斧』たちが饗団の一員なのか、雇われているだけなのかは知らない。
確実なのは、フランが参加するということを知る立場にはなかったわけ。
だが、やつらは彼女がいても焦った様子がなかった。
フランが大陸でも最強格の戦士であることは、よく知られている。
そんなのがいたら、邪魔などころか、簡単に殺されるだろう。
なのに、彼らは退かなかった。
むしろ撤退案に反対し、アルテト村にこだわったのだ。
別の目的があることは明らか。
反魔法と饗団の戦士、加えて『黄獣』。【神格】への対抗策を事前に知っていたからこその行動だと推察できる。
「前もって参加が知らされていたのはグレンザー伯だけ。狙われていたのは彼だと思う」
「おいおい……」
「それ、マジなの?」
「シント、もう少し詳しくおねがいいたします。腑に落ちない点が多すぎますわ」
エリザベス様が疑問に思っていることは、わかっている。
「饗団の戦士達は、俺たちが来る以前からアルテト村付近に待機していて、待ち伏せをしていた。手形のモンスターを操り、村人たちに取りつかせて襲わせる。それで片がつけばよし。そうでないなら反魔法術を使う。それでもだめなら、饗団の精鋭がとどめを刺す、といったところでしょう」
「モンスターを……操る?」
「な、なにを言っているんだ……」
みんな驚いているようだった。
ウチのメンバーやフランなんかは経験者だから、問題ない。
だけど、他の人たちは聞いても信じられないだろう。
「モンスター化していた戦士を見ましたよね? 俺とディジアさんとイリアさんは以前にあのような異形と戦ったことがあります」
モンスターウォーズでのことを思い出す。
マーベラスファイブと名乗った怪物は、およそ人間とは思えぬ姿をし、モンスターを操っていたのだ。
「シント、あなたはいったい」
「それはいいわ。そんなことよりも、あいつらはなにをしているのよ」
「【神格】の所有者や皇女殿下を無視してまですることなんて、決まってる。所有者の定まっていない【神格】を手に入れたいんだろう」
またしても、沈黙。今度は長い。
やがて、おずおずと手を挙げたのは、ケルーガーさんだった。
「なあ、まさかとは思うが、あるのか? 【神格】が」
いまのところ所在がわからない【神格】は、魔竜ブラッドドラゴン、魔剣『血業』、神氷スカージズの三つだ。
って、それだけだっけ?
よくよく思い返してみると、やばい。
二十三器あるうち、知らないの三つだけって、なんか変な気分だ。
なんだかしんみりするなあ。
この二年で俺は多くの【神格】と関わってきたわけだ。
長いようで短い、あるいは短いようで長い、なんとも言えない感情が込み上げてくる。
「……なんで遠い目?」
「急にどうしたのさ」
「あ、ごめん。なんだかずいぶん遠くまで来たなあって」
みんな首をかしげている。
話が逸れた。本題に戻ろう。
「魔竜ブラッドドラゴン、魔剣『血業』、神氷スカージズのどれかがあるんじゃないかと」
大きなどよめきが起こる。
何事かと村人たちが起き出してしまった。
「どうしましたかのう?」
おじいさんが一人、びっくりしながら尋ねてきた。
ちょうどいいので、聞いてみる。
「おじいさん、村の付近に『図書館』と呼ばれる遺跡があると聞きました。行ったことがあったりします?」
「もちろんじゃわい。何度か行ったことがある」
「場所はどこなのでしょうか」
「村から少し離れた『神山』にあっての。じゃが、いまはわからんのよ」
「わからない?」
おじいさんは神妙な顔をした。
「地震が続いたこともあって、崩れたんじゃなかろうかと心配になったんじゃ。でも、行ってみると山ごとなくなっておった」
これで超巨大モンスターの背にある遺跡が『図書館』であることはほぼ確定。
「これで知りたいことは全部わかった。あとはもう、やるだけだ」
「シント、いまの会話はどういった意味が?」
「気になるし」
「ディジアさん、イリアさん、あとで説明します。時間がないので、仕事を終わらせに行きましょう」
「もちろんです」
「行こ」
ディジアさんとイリアさんは問題ない。
集まった人々の顔を見る。
ウチのメンバーもだいじょうぶだろう。
話はあとで聞く、といった雰囲気だ。
「待ってくださいな。すぐに行くというのですか」
「ええ、皇女殿下」
殿下やフラン、冒険者たちは納得がいかないといった風だ。
「ちょっと! せめてどう動くかだけ教えなさいよ!」
「もちろん言うよ。ただ、その前に聞きたい」
あえて強い口調で言う。
「負けるつもりはないし、村の人達だって助ける。だけど、命の保証はない。みなさんは全員、戦うのですか?」
返事はない。しかし、逃げようと言う者は誰もいなかった。
皇女殿下の前で格好悪いところは見せられない、といったところかな。
「やるさ。そもそも、あんたらが出てた間にそう決まったんだからな」
ケルーガーさんが、立つ。
「さっさとモンスターぶっ潰して、裏切りモンブッ飛ばして、殿下からたんまり褒美をもらう、だろ?」
彼がそう言うと、全員が『おお!』と立ち上がった。
思わず笑みがこぼれる。
それでこそ、冒険者だ。




