超巨大ミッション 24 饗団の狙い
ともに偵察をすることとなったフィネアさんと、小山の頂上にたどり着く。
≪魔弾球≫につかまった、もとい抱えられたフィネアさんも無事だ。問題なし。
「ちょっと……黒い翼に……タマ? どうなってんのよ」
「飛翔の魔法とでも思っていただければ」
「飛翔の……魔法……」
なんかぶつぶつ言ってるな。
「フィネアさん、ここからならいろいろ見えます。観察を」
「そうよね。そのために来たわけだし」
天気が良いということもあり、頂上からは村の様子が見て取れる。
けっこう離れているけど、はっきりわかった。
「ん?」
先の戦闘といい、また意外な様子だ。
やつらは村から出ていない。
饗団の戦士と裏切り者たちは村内でなにかしている。
「フィネアさん、どうですか?」
「……手のモンスターがうじゃうじゃいるわ。たぶん、村の周辺を守ってる」
彼女はとても目が良いようだ。
「動いています?」
饗団のやつらから目を離さずに聞いてみる。
「いえ、不気味なくらい静かよ。まるで……待機でもしてるみたいに。そっちは?」
「どうやら、俺たちを追う気はないようです」
異形と化したテンダーが、停止している超巨大モンスターの背にいる。デカいからすぐに発見できた。
そして他の連中もロープなどを使い、デカブツの側面からよじ登ろうとしている。
「なるほど。【神格】の所有者を無視してでも超巨大モンスターに用があるってわけだ」
そんな気はしていた。
なにせやつらは、【神格】の所有者が複数いても、この地から撤退しようとしない。
「どういうこと?」
「フィネアさん、聞きたいことがあるのですが」
今回の依頼、エリザベス様とフランの参加はサプライズだったはず。
「グレンザー伯が調査団に参加するのは、前から決まっていたのでしょうか」
「ええ、前もって知らされていたわよ」
やっぱりそうなんだ。
改めて考えると、俺たちは顔合わせの日の開催時間に合わせて移動したから、前乗りしていた人たちとは違う。事前の打ち合わせをできていない。
「なんだ?」
テンダーがゆっくりとした速さで向かっているのは、超巨大モンスターの背中部分。
写真でうっすらと見えた奇妙な建物だ。
あれって話に聞いた『図書館』なのかな。
いろいろと見えてきた。
偵察に来て正解だったと思う。
あとは、超巨大モンスターの陰で見えない部分なんだけど、そっちはラナたちが行っているから、合流後に聞こう。
「手のモンスターの数はどのくらいだと?」
「そうね……ここから見るかぎり、千以上。円状に配置されてる」
多いな。
『黄獣』は厄介だ。むやみやたらと動かれるのは、かなりきつい。
「そういえば、裏切り者たちのことを聞いてなかったな。フィネアさん、俺が合流するまでの間になにがあったのか、教えてほしい」
「君はいなかったものね」
偵察を続行しつつ、聞く。
『絶倒剣』と『爆斧』たちは、逃げ込んだ場所――村のはずれへ真っ先に駆けこんだ。
彼らはなぜか空き家の中に飛び込み、出て来るなり戦闘をしかけてきたのだという。
それをカサンドラ、アリステラ、ガディスさんが止めた。
皇女殿下を含め、他の冒険者たちは戸惑っていたそうだ。
彼らはエリザベス様やグレンザー伯が問いかけても、にやにやと笑うばかりで答えなかった。
そうしているうちに林の中から『黄獣』が突然現れ、グレースさんを襲う。
「伯爵さまがそれをかばったの。わたしたちは、情けないけど、一歩も動けなかった」
無理もない。
矢継ぎ早に変化する戦場。しかもこっちに都合の悪いことばかり起こる。
ウチのメンバーが動けたのは、あらかじめ言っておいたからだ。
「手のモンスターたちは他の人たちを襲わなかった?」
「言われてみれば、そうね。数も少しだけだったし」
そうだったか。
いまの状況も合わせて鑑みると、『黄獣』は饗団に操られていると見ていいだろう。
ありえないと思うことを外して考える。
【神格】の所有者を無視する理由。
【神格】の所有者が複数いても、逃げない理由。
裏切り者たちは皇女殿下に剣を向けた。それは反逆罪に問われかねないこの世でもっとも危険な行為。死刑になる。
それすらも補ってあまりあるメリットなんて、存在するか?
そして『黄獣』。
どんな図鑑にも載っていない、おぞましいモンスター。
そんなのが突如としてこの地に現れた理由はなんだ。
「ちょっと、アーナズ君。どうしたの」
「いえ……」
帝都学術院のドレスラー氏は、『図書館』になにかあると直感していた。
超巨大モンスターの背にある建物が『図書館』だとしたら、そこになにが待ち受けているのか。
「戻りましょうか」
「もういいの?」
ああ、もう十分だ。
「アーナズ君って、ほんと変わってるのね」
うん?
「ラナちんが下につくわけだわ」
ラナちん?
「急にどうしました?」
「実はわたし、あなたたちのことけっこう気にしてたの。『音速ノ女』のことは聞いていたし、負けるのやだなーって」
「勝ち負けじゃないでしょうに」
「大事なことよ」
フィネアさんは笑顔を作った。
「斥候隊でラナちんと少し話したんだ。あの子ってたった二年でダイアモンド級トリプルでしょ? なにかの冗談かと思ったけど、一緒に行動して実力がわかったもの。しかもレプリカ持ちだし」
「彼女はウチになくてはならない存在なんです。ギルドの根幹を支えていると言ってもいい」
「そんなのがギルドマスターじゃないなんてね」
今度は苦笑だ。
「君を見て思った。空を飛ぶだなんて、ちょっとありえない。きっと……とてつもない【才能】を持ってるんだね」
俺も苦笑で返そう。
俺には、なんの【才能】もない。
「最年少でオリハル級。実はどこかの貴族の出身なの?」
鋭い。
「殿下方とも知り合いみたいだし」
俺を探っているのか?
「ずいぶんと気になるみたいですね」
「それはそうよ。気にするなって言う方がムリ」
「俺は一帝国民で、冒険者です。貴族ではありません」
「そうなの?」
「エリザベス様とフランは、子どもの時の知り合い? まあ、友達?」
「やっぱり貴族じゃん」
ぐいぐい来るな。実はおしゃべり好きか? あるいは今後を見越した情報収集だろうか。
彼女の表情を見るかぎりじゃ、怪しい雰囲気はない。どちらかといえば好奇心がうずいて止まらないって感じだ。
「白状しなさいよ。誰にも言わないし」
「白状って、なんですか」
つい笑ってしまう。
「あとで教えますから」
「ほんと? 約束よ」
うーん、まあいいか。
「では戻ります」
妙なことになったが、アリかな。
ケルーガーさん兄妹とは、またいつか仕事をするかもしれないしね。
★★★★★★
というわけで、洞窟入り口まで戻る。
ラナ達はまだいないか。
「カサンドラ、アリステラ、こっちはどうだった?」
「特になにもないねえ」
「ていうか、静かすぎ」
やつらは俺たちのことなんて、どうでもいいってことだ。
「そっちはどうだったのさ」
カサンドラの問いに、フィネアさんが答える。
「手のモンスターが千体以上はいると思う。ただ、いまのところは襲ってこなさそうだわ」
「余計に気味が悪いねえ」
「……なにが目的?」
二人は首をひねった。
それから待つこと数十分。
森の中から気配がして、みんなが構える。
「戻ったよー」
割とのんきな声で、ラナが姿を見せた。ダイアナとガディスさんもだ。
戦闘があったような様子はない。
なにごともなく戻ってきて一安心だった。
「さっそくで申し訳ない。情報を合わせよう」
「うん」
砂地を囲み、小枝を使って地図を描く。
ラナ達との話と、俺たちが見たものを総合して、状況を確認した。
村の西半分は、超巨大モンスターが居座っているせいで、破壊されている。
饗団と裏切り者たちは村のまだ無事な部分に陣取り、こちらへ攻めてくる素振りはない。
『黄獣』どもは予想通りに村を取り囲む形で配置されており、俺たちが見られなかった場所にもたくさんいたという。
「シント、やつらはなにをしていると思う?」
ガディスさんの質問にはまだ答えない。
「話は中でしましょう。見張りはいらない。俺たちも少し休もう」
「シント?」
確証はないんだけど、狙いはだいたいわかった。
時間もないことだし、すぐに話し合いを始めようと思う。




