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超巨大ミッション 23 つかの間の休息

 泣き続ける女の子。

 その声は洞窟内にいる人々にも伝播し、重苦しい空気が訪れる。


「すまなんだ。この二日間、張りつめていたでな」


 一人の老人が立ち、代わりに話に続ける。


「あなたがたは帝国軍の方だというが、村には行ったじゃろうか」

「ええ、行きました」

「どうなったかの? 戻れそうかのう」

「いえ、村はもうありません」


 超巨大モンスターが居座っている。家々も破壊されただろう。


「俺のせいです。すみません」


 やるせない気持ちに、深々と頭を下げる。


「それはどういう」

「俺たちが村に着いた翌朝、大量のモンスターに包囲されました」

「なん……」

「その後、超巨大モンスターが目覚め、別の敵を倒すためにおびき寄せましたが――」

「待ってくれい! 話が見えん!」


 老人は慌てふためいた。


「村については皇帝陛下がなんとかいたしますわ」

「皇帝陛下!? なぜ……い、いや、待ってくれい……あなた様は」


 彼は大きく目を見開き、皇女殿下を見る。

 何者なのか気づいたのだろう。老体に見合わぬ素早さでその場で平伏した。


「皇女殿下でいらっしゃいますとは……も、申し訳ございませぬ! とんだ無礼をしたこと、どうかお許しいただきたく」


 老人の声が思いのほかでかい声だったので、他の老人たちや少女たちも気づく。

 これはもうどうしようもない。

 子どもたちを除く全員が、その場でひざまずいた。


「みなさん、頭をお上げなさって」

「し、しかし」

「いまは非常時ですわ。そのようなことをする必要はありません」


 平伏してた人々は、エリザベス様が放つ暖かな雰囲気に包まれ、安堵していたようだった。老人たちの中には感涙している者さえいる。

 なんとも言えない不思議な空気だ。

 皇族の中で皇帝陛下に次ぐ人物の高貴なオーラともいうべきものが、洞窟内を満たしている。


「必ずなんとかいたしますわ。ね、シント?」


 急に話を振られた。

 なんとかはしたいけど、少し時間が欲しいところだ。


(シント、あなたならきっと)

(うん、わたしたちがついてる)


 ディジアさんとイリアさんが俺から離れ、人の姿へと変じる。

 その奇跡を目の当たりにした村人たちから、驚きの声が上がった。


「なんという……」

「ありがたや……ありがたや……」

「皇女殿下は天女を従えておるのか……」


 彼らの反応には苦笑するしかない。

 とはいえ、生き残った村人たちは少し落ち着いただろう。

 ただ、問題は山積みだ。


 状況を改めて見てみる。

 『絶倒剣』と『爆斧』たちの裏切りと、消えた一組の冒険者ギルド。つまり十五人減った。

 グレンザー伯は休息が必要だから、こちらの戦力は40人ほど。

 しかも消耗が激しいだろう。みんな地面に腰を下ろし、武器を置いているのだ。


 村人たちだって戦える元気はなさそう。

 緊張した状態で、かつこんなごつごつした地面の上に二日も潜んでいたんじゃ、体力なんてない。


「シントー、こんなところにいたらまずいんじゃない? あの手のモンスターがまた来るかも」


 ラナの言うことはもっともだ。俺たちはいつまた襲われるかわからない。

 

「じゃあ行くか」


 そう言いつつ、立った。


「おい待て! まさか、もう打って出るって?」


 ケルーガーさんが慌てる。

 

「いえ、確かめたいことも多いですし、まずは偵察、といったところですね」

「いやいや、聞きたいことがあるんだよ!」

「そうよ。兄貴の言う通りだわ」


 ケルーガーさんの妹が、強く引き留めてくる。


「そういえば自己紹介がまだだったね。ケルーガーの妹のフィネア」

「シント・アーナズです。よろしく、フィネアさん」

「シント~ わたくしだっていろいろと聞きたいんですの」

「わたしもだわ。少し休みなさいよ」


 続いてエリザベス様にフランとぐいぐい来る。

 

「悪いけど、こっちが先だ。出るよ」

「だーめ」

「だめよ!」

「少しくらいならいいだろが!」

「ちょっと落ち着いてよ」


 めんどうだな。いまの段階じゃたいしたことは言えないんだけど。


「じゃあ一つずつ答えますよ。まずはケルーガーさん」

「お、おお。さっきの戦いで来たやつら……ナニモン?」

「饗団という危険な組織です。【神格】を狙って動くやつらですね。はい次、エリザベス様」

「力が急に抜けたのはなんなのですか? なにやら、恐ろしい力に思いますの」

「ええ、あれは反魔法術を使った領域ですね。魔力を減衰させる効果がある。【神格】なら受ける影響は未知数。もう二度とくらわないように。最後はフラン、質問を」

「……あなたはどうして普通に動けたわけ? 反魔法術なんて……魔法士なら余計にやられるはずだわ」

「俺も反魔法術を使えるようになったんだ。反魔法に反魔法をぶつけると、まるでなにも起きてないかのようになる。だから動けた」

「……え?」


 みんな言葉を失っていた。

 普通の顔をしているのは、ウチのメンバーだけだ。


「質問はこれ以上受け付けない。≪次元ノ断裂(ディメンション)≫」


 次元の穴から大量の食材をどばーっと出してみた。


「なんて量さ」

「えー! いつの間に用意してたの?」

「……ありすぎ」

「シント、すごい、です。予測してた、の?」


 こんなこともあろうかと、出発する前に用意しておいた。


「ダイアナ、これはシントの一人分ですよ? ふふ」

「もー、ほんと食いしん坊なんだから」


 ディジアさんとイリアさんは楽しそう。

 否定したいところだけど、うん、なにも否定できないのがつらいところだ。


「今回の件は救助も視野に入れていましたから」


 調査と討伐が主な仕事内容だったけれど、冒険者の仕事はそれだけじゃない。

 大量の食材を目にしたことで、村人たちの瞳に希望の光が灯る。

 

「みんなは手分けして調理と分配。あと、冒険者の方々もいまは休んで。エリザベス様は俺が偵察に言っている間、今後の方針を決めておいてください」

「待て、シント、行くならおれも連れて行け」


 ガディスさんもまた立ち上がる。


「わたくしも、ともに」

「わたしもー」

「ディジアさんとイリアさんはここにいてください」

「嫌です」

「嫌よ」

「いえ、特別にお願いしたいことがありますので」


 と、お願いを口にする。

 二人はもういっぱしの冒険者だ。役割を話すと、快諾してくれた。


「カサンドラ、アリステラは入り口の備えを。なるべく早く戻るから、休み休み、頼む」

「ああ、任せな」

「こっちは問題ない」

「ラナ、ダイアナ、出られる? ガディスさんも」


 全員がうなずく。

 特にラナとダイアナは偵察にうってつけの力を持つ。つらいだろうけど、ここは一つ、がんばってもらおう。


「だ、だから、待ってってば!」


 フランは立ち上がり、とたんにがくりと膝を折った。

 相当に消耗しているようだ。

 やはり【神格】への影響は、はかり知れないという証拠だな。


 エリザベス様も平気そうにしているけど、まったく立ち上がろうとしない。

 ときおり漏れる吐息は、疲労の証拠だ。


「わたしも行く。兄貴たちは休んでて」


 フィネアさんも参加か。

 聞けば、彼女は二日目の斥候隊に参加していたそう。いかにも素早そうだし、情報収集が得意なんだろうと思う。


「わかりました。ラナ、ダイアナ、ガディスさんで探りを。フィネアさんは俺と来てください」


 ほとんどの人間が呆気にとられる中、洞窟を出る。

 なにか言いたそうな人も何人かいたけど、答えている暇はないのだ。


「それで、なにを探る?」

「超巨大モンスターの様子と、手のモンスターの発生源、饗団や裏切り者たちの動向とその配置です。ですが、戦闘は絶対に避けてください。ガディスさん、ラナとダイアナを頼みますね」

「ああ」


 世界で最強クラスの戦士が護衛なら、安心できる。


「ではフィネアさん、行きましょう。≪魔弾球マダンキュウ≫」

「えっ!? な、なに!?」


 九つの魔力球のうち、四つを彼女にくっつける。


「つかまって。飛びます」

「飛ぶぅ!? うひえええええええ!」

「声は出さないで」


 二手に分かれる。

 ラナ達は西。俺とフィネアさんは東の小山だ。高いところから様子を探ろうと思う。


 これから戦うにしても、逃げるにしても、やつらの狙いを突き止めなければならない。

 【神格】なのか、【神格】だとしたらどれなのか、あるいはもっと別のなにかなのか。


 こっちに都合の悪いことしか起きなかったけれど、今度は逆にしてやる。

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