超巨大ミッション 22 混迷する戦場
逃げた先の戦場は、駆けつけた時すでに混沌と化していたが、現在はさらにめちゃくちゃだろう。
俺とガディスさんの眼前には、饗団の戦士たちと、モンスター化したテンダー。さらに『絶倒剣』と『爆斧』たち。
さらには超巨大モンスターが迫り、俺たちを踏み潰そうとしている。
「ちっ……めんどうなことしやがる」
「さっさと逃げれば?」
「黙れよ。てめえはそうやって裏をかいたつもりなんだろうがな……手間が省けたぜ! やれ!」
手間が省けたって、なんだ。
「うおらあっ! 若造! ぼけっとしてんじゃねえぞ!」
『絶倒剣』の飛ぶ斬撃。
それはさっき見た。
すぐに避ける。
「動きは読んでいるぞ! 『爆――」
「させん!」
『爆斧』の攻撃を割り込んできたガディスさんが弾く。
わずかにできた余裕を元に、地面を蹴って加速。
狙うのは『絶倒剣』と『爆斧』たちではなく、饗団の戦士だ。
なにかをされる前に、殴り、蹴る。
≪魔錬体≫で強化された肉体は、盾であり、矛だ。
瞬く間に二人を吹き飛ばし、さらに追撃……したいところだったが、巨大な影が再び俺たちを覆う。
「ガディスさん! 退避!」
「そうしよう!」
つられるようにして敵たちも動いた。
「なあっ!」
「くっ! さ、下がれ!」
思い切り後ろに跳ぶ。
超巨大モンスターの巨大すぎる足が、俺たちのいた場所を民家もろとも踏み潰す。
「傭兵を長くやっていたが、こんな馬鹿馬鹿しい戦場は初めてだな」
ガディスさんのつぶやきは、まさしくいまの状況を説明していた。
それはともかく、突然の開放感が訪れる。
超巨大モンスターが暴れている影響か、装置が破壊されでもしたか、反魔法の領域は消えた。
≪魔錬体≫を解除し、消費魔力を抑える。
やっとだ。
普通に戦える。
「馬鹿馬鹿しい戦場だとしても、利用しない手はない」
ガディスさんは剣を納め、代わりに背のボウガンを取り出す。
走り出し、スライディングの要領で超巨大モンスターの足元へ滑り込んだあと、矢を射出。
狙いすましたボウガンの矢が、動けないでいた裏切り者たちを襲って倒した。
「くそ! 撃ち返せ!」
「させない! ≪地雷之天≫!」
地を這う雷が伝わり、炸裂ともに天へ昇る。
饗団の戦士を巻き込み、無視できないダメージを与えた。
だが、またしても超巨大モンスターが動き出す。
その場で足踏みをするように、踏みつけを始めようとしていた。
「テンダーさん! これはやべえ!」
「油断するなと言っただろうが」
テンダーの冷たい言葉が、裏切り者たちを落ち着かせた。
別人かと思うほど、冷静だ。
「まあいい。どのみちこいつらは終わりだ。いったん引く」
怒りのままに突っ込んでは来ない。
テンダーの号令により、敵たちは撤退した。
「意外だな」
「シント、おれたちも引くぞ」
「ええ」
一瞬だけ追い打ちしようかと考えたが、やめた。
身をひるがえすガディスさんの背につき、超巨大モンスターから遠ざかる。
デカブツは追ってこない。いや、俺たちなどもはや目には入らないか。
「手の怪物に気をつけろ」
「はい」
ガディスさんはわずかな油断もなく、辺りを警戒しながら走っている。
まったくこの人は、ほんとうに恐れ入るばかりだ。
反魔法の領域でも唯一動けたし、判断も抜群。仲間でいることが安心であると同時に、絶対敵へ回したくないと思う。
「ん、あれは」
「目印を残していたか。ラナの仕事のようだ」
クナイが置いてあり、切っ先がある方向を指している。
敵にバレたら嫌だし、回収しつつ辿っていこう。
「村は半壊のようだ」
「ええ、不幸中の幸いは、無人だったということです」
振り返って見る超巨大モンスターは動きを止めた。
足を畳み、その場にとどまっている。
それからだいぶ走り、ようやく終点に着いて、大きく息を吐いた。
山肌にぽっかりと空いた洞窟。
入り口前にいるのはウチのメンバーや皇女殿下、フラン、グレースさんやグレンザー伯、冒険者の面々だ。
「あれ?」
他にも人がいる。
知らない女性や、老人たちだった。
「シント」
「無事、だった」
ラナやダイアナが安堵の息を漏らす。
「ラナ、クナイを回収しておいたよ」
「ありがとー! シントならやってくれるって思った」
クナイを渡しつつ、状況を聞いてみる。
「この人たち、アルテト村から避難してたみたいだよ」
「そうだったのか」
洞窟の中から子どもたちが顔を出している。
さすがにホッとした。
広場での戦いにいなかった村人たちはここにいたってわけだ。
「シント殿……」
「グレンザー伯は休んでください。グレースさん、医薬品を渡すので、応急の処置を頼みます」
「医薬品があるのか!?」
≪次元ノ断裂≫を使って取り出した医薬品を渡すのが返事の代わり。
「……ん?」
なんだろう。
魔法はいちおう発動したが、少し乱れている。発動するまでももたついたし、疲労のせいか?
(シント、どうやら……まずいですね)
「まずい?」
ディジアさんの声は暗かった。
(たぶんだけど、あの時と同じだと思うわ)
「あの時って」
イリアさんも同様に、妙なことを言う。
(シントが吹き飛ばした山のことです)
(魔法が乱れたでしょ?)
吹き飛ばしたのは俺じゃねえから、と言いかけて、止まる。
額に手を当てて、今までにないくらい深く息をする。
マジックジャミングかー。
もしも神様なんてものがいるのなら、とことん俺たちを追い詰めたいらしい。
「シント、さっきからどうした」
「いえ」
これまで普通だったのに、どうしてなのか、わからない。
うーむ。
反魔法の領域のせいではなさそうだ。
別の魔法を発動してみた。
≪魔弾≫は正確に発動し、木に穴を空ける。
「いきなりなにさ!」
「……敵?」
みんなびっくりしてる。
「≪魔弾≫は普通だ」
(空間の移動を試してみてください)
ディジアさんの言葉に従い、≪空間ノ跳躍≫の発動を試みる。
魔法は乱れ、移動先を指定できなかった。
なるほど。
≪空間ノ跳躍≫は複雑な術式を用いる。
≪次元ノ断裂≫も似たようなもの。
一方で≪魔弾≫は俺の手持ちの中で最も簡単、つまり基本中の基本だ。
「複雑な魔法ほど影響を受けてる。ただ、ビッグウッド山ほどではない」
「さっきからどしたの? なんかぶつぶつ言ってるケド」
「……サナトゥス、嫌がってる。それと関係、ある?」
関係はあるだろう。
【神格】は莫大な魔力の塊でもある。影響を受けないほうが不自然だ。
≪空間ノ跳躍≫が使えないんじゃ、全員で瞬時に帰還は不可能。
さらに窮地へと追い込まれたと言っていい。
さて、どうしようか。
倒すべき敵は定まっているものの、狙いがまだ読めていない。
(シント、なにか策があるのでしょう?)
(わたしたちにも教えて)
「まあまあ、焦らずに。いまはたいした策なんてありませんし」
他のみんなはだいぶ疲労している。
グレンザー伯にいたっては、戦うなんて無理な話だ。
みんなを連れて、洞窟内に入る。
避難していた村人たちは百人いるかいないか。女性と子ども、老人だ。働き盛りであろう大人の男女はいない。
「あの」
俺に声をかけてきたのは、少女だ。俺よりも歳が少し下くらいの女の子。
髪はおさげで、目の大きい、そばかすのある子だった。
「あなたたちは、その」
後ろにいるグレースさんを見る。彼女はグレンザー伯を寝かせ、傷の治療を行っていた。
皇女殿下はかなり疲れているようだったが、俺の視線を受けて前に出た。
「わたくしたちは帝国軍の者ですわ。地震の原因を調査に来ましたのよ」
「あ、軍人さん」
「ここに村長はおりまして?」
女の子は首を横に振った。
「どうやってここへ逃げたのか、教えてほしい」
気になるので聞いてみた。
彼女のたどたどしい説明を黙って聞く。
二日前、度重なる地震に、妙な生物の目撃があり、村の広場にて村長からの説明とこれからのことが話された。
食事時ではあったが、広場にはほとんどの村人が集まっており、話し合いがされたという。
「全員で、帝都に逃げようって、なりました。ビルバートさんが――あ、村の憲兵さんです。そのビルバートさんがなんとか話をつけるって、言って」
ここで一度、彼女は言葉を止めた。
「そしたら……あの……変ないきもの」
「手の形をした?」
「は、はい」
『黄獣』が大量に出て、大人たちが子どもたちや老人を逃がし、この洞窟に避難したとのことだ。
「あの、お父さん……わたしのお父さん、見ませんでしたか? 他の人たちとかも……」
もう、死んでいる。
誰も口を開けないでいると、それを察した女の子はその場に崩れ落ち、泣き始める。
洞窟内に嗚咽が響く。
いったいどうすればよかったのか。
わからない。
考えても、答えは見出せそうになかった――




