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超巨大ミッション 21 畳みかけてくる危機

「そういえばフラン」

「なに?」

「すごく腕を上げたみたいだ。神剣を使いこなしてる」


 褒めたのだが、彼女は口をとがらせた。


「夏にさんざんやられたんだもの。わたしだって少しは考えるわよ」


 不機嫌だな。

 夏、というのはドラグリアでのことだろう。

 俺の祖父――ジンク・ラグナに叩きのめされ、全て終わったあとで俺と訓練したが、そこでも彼女は負けた。


「その話はいいでしょ。まずはあいつらをやるわ」

「そうだね。ディジアさん、イリアさん、おねがいします」

「ええ」

「もっちろん」


 『絶倒剣』と『爆斧』たちは数でも質でも不利だ。

 事実、ガディスさんとカサンドラに押され、アリステラの援護もあってか、苦戦を強いられているように見える。

 そこへフランをはじめとする【神格】の所有者が加われば、勝敗は明白だ。


「ちっ……神槍ゲイボルグもたいしたことねえな」

「トレーボル」

「ああ、わかってんよ」


 彼らは潔く下がった。それにつられて、彼らのギルドメンバーも下がる。


「降参した方がいい。殺すつもりはない」

「黙れ、若造。バンダル、起動だ」


 『爆斧』が懐から奇妙な黒い物体を取り出す。

 それを見て、ぞっとした。

 なにかはわからないのに、反射で≪魔弾マダン≫を撃つ。


 まっすぐに飛ぶ魔力弾が到達する寸前で、信じられないものが発動した。

 これは――


「あっ……」

「うう……」


 俺の≪魔弾マダン≫がかき消されると同時に、ディジアさんとイリアさんがうずくまる。

 次いでフランがよろめいた。


「な、なんなの、これ」


 異常をきたしているのは、三人だけじゃない。

 振り向くと、エリザベス様やグレンザー伯、グレースさんや他の冒険者たちが片膝をつき、うめいている。

 横では、ウチのメンバーやケルーガーさんたちが倒れそうになっていた。


「この、気持ち悪さ! ふざけるなよ!」


 思わず大声を出してしまう。

 まさかもまさか。身に覚えのありすぎる感覚が体中をさいなむ。


「反魔法術!」

「なんだあ? 若造、おまえ」

「知っているのか? まあ、だったらなんだという話ではあるが」


 『絶倒剣』と『爆斧』が驚いている。

 こっちも驚きだ。

 なぜ、やつらは反魔法術の領域で普通に動ける?


「シント、これはなんだ」


 この場で立っているのは、俺とガディスさんだけだ。

 

「反魔法術のフィールドです」

「初めて聞いたな。だが、おれは魔法士ではない。しかし、力が抜けそうだ」

「人間はみな魔力を持っています。魔法士でなくとも、影響はある」


 俺とガディスさんのやりとりが普通に見えたのか、『絶倒剣』と『爆斧』が血相を変えた。


「てめえら、どうなってる。なんで倒れねえ」

「効いていないのか?」


 いや、効いてる。全身がびりびりして最悪だ。

 

「ガディスさん、やれますか?」

「ああ、なんとかな。気合でやろう」


 気合いでどうにかなるものでもないと思うけど、ほんとすごい人だ。

 でも、あらためて思い返すと、俺もおじい様も気合いでなんとかした気がする。


「無理はしないでください」

「ああ」


 踏み出し、ガディスさんと並ぶ。

 『絶倒剣』と『爆斧』たちは下がった。


「計画が狂ったぜ」

「まさか、効かないとはな」


 じりじりと距離を詰め、間合いに入ろうとした時だ。

 今日何度目かもわからない、最悪の驚きが訪れた。


 林の間を抜けてきた一団が俺たちの真横から現れる。

 殺気と闘気をまとった戦士風の男たち。

 その数は十人。

 装いは筋肉が浮かび上がる白のボディスーツ。

 手には禍々しい意匠の剣が握られていた。


 間違いなく饗団の戦士。しかも『二桁ダブル』と呼ばれる連中だ。

 さらに場を凍り付かせるモノが一拍遅れて現れる。


「なんだ……ありゃあ」


 ケルーガーさんが苦しみながらも、声を絞り出す。

 みんな同じことを頭の中で言っただろう。

 あまりにも現実からかけ離れた存在が、巨体を震わせてやってくる。


「久しぶりだな……クソガキ」

「おまえは、テンダー」


 饗団の上級戦士、テンダー。

 死んだと思っていたが、生きていた。

 しかもその怖気の走る姿はなんだ。


 スキンヘッドの男は、殺気をみなぎらせた目で、俺を()()()()()


「知り合いはよく選んだほうがいいぞ、シント」


 ガディスさんでさえも冷や汗を流しながら、皮肉を言ってくる。

 テンダーの姿は、俺が知っているものではない。


「なんてバカなことを」

「おい、ずいぶんなごあいさつじゃねえか」

「俺とおまえは、挨拶なんてする間柄じゃないだろう」


 本能から来るこの感情は、なんて表現したらいいんだ。

 凄まじい生理的嫌悪感。


 テンダーの肉体のほとんどが、モンスターと化していた。

 腰の辺りまでは、人間と同じだ。両腕もある。

 だが、そこから下は細長い胴体に、四本の足がついた蠢く虫の腹。背中の薄羽を威嚇するかのようにはためかす。

 胴体から巨大な節くれだった腕が伸び、凶悪そのものと言っていいでかいかまがついている。


 簡単に言えば、人の体が付いた巨大カマキリ。

 これ以上の異形はない、異形の中の異形だった。

 

「おまえら、こいつらを片付けろ。【神格】を奪え」


 テンダーが情けの欠片もない命令を下す。

 ありえない。

 どうしてこうもこちらに都合の悪いことだけ起き続けるんだ。


 操られた村人の来襲。超巨大モンスターの鳴動と『黄獣きじゅう』の出現。仲間の裏切りとグレンザー伯の暴走。反魔法術と、饗団。

 なにがなんでも俺たちを殺しに来たとでも言うのか。


「全員を守りながら戦う余裕はない。どうする、シント」

「さすがにここまでされたら、使える手は限られますね」


 ガディスさん以外は、もはや人質のようなものだ。

 こうなったらもはや、やるしかない。


「≪魔錬体マジックボディ反魔法反魔法アンチドート≫!」


 全力を出す。

 ラグナでの一件で身に着けた切り札を発動。

 ごく小さい領域型魔法を身にまとい、反魔法を相殺する。


「……油断するんじゃねえぞ。やれ」


 テンダーは不気味なほどに冷静だ。

 奴らは一斉に構えたが、まともにやり合うつもりはない。


 深く腰を落として、思いっきり跳躍。

 一瞬で天へ身を至らせ、反魔法の領域から抜け出す。


「範囲は広くないな」


 下に見える反魔法の領域は、かなり狭かった。

 だが、仕掛けられたであろう反魔法装置は木々に隠されて、見えない。

 だから、違う手を使う。


「超巨大モンスターは……マジか。こんなに近くに」


 さすがに青ざめる。

 巨大な亀みたいな存在が、アルテト村のすぐ近くまで来ていた。

 地震はずっと続いていたし、とうぜんか。

 

「行くぞ……≪魔衝撃マショウゲキ≫! そんでもって≪天上之雷ヘブンズサンダー≫!」


 大きな魔力弾と、雷。

 それを超巨大モンスターの顔面に向けて、撃ち放つ。


 衝撃を受けた超巨大モンスターは、俺に気づき、地響きを轟かせてこちらへ向かって来る。


 そのまま下に降りた。

 卿団の連中や、『絶倒剣』と『爆斧』たちは動いていない。いや、動けていないと言ったほうが正しいか。


「クソガキ、てめえ、なにしやがった」

「ああ、避難したほうがいいと思うけど」

「まさか」


 テンダーの顔面が歪む。


「テンダーさんよ、こいつは」

「この地響き……冗談ではない」


 『絶倒剣』と『爆斧』がようやく気づいたみたいだ。

 

「ガディスさん、みんなを起こして、逃げましょう」

「シント……アレをおびき寄せたのか」


 ガディスさんが見上げた先には、超巨大モンスターの顔がある。

 俺たちがいる場所を影が覆い、夜みたいになった。


「まったく、おまえはとんでもないことをする」

「さあ、フラン、立って。ディジアさんとイリアさんは姿を変えてください」


 二人は力なくうなずき、俺の懐と背に収まる。


「ま、まって、いま……」


 フランは自分の足を拳で叩いて、立った。


「ラナ、みんなを先導だ。安全そうな場所を探しつつ、退避」

「う……わ、わかったよー!」


 彼女はヤケクソ気味で立ち上がり、走る。


「アリステラとカサンドラは全員を起こして領域からの離脱を。フラン、皇女殿下を頼むよ」


 異を唱える者は誰もいなかった。


「ガディスさん、もう一働きおねがいします」

「こいつらの足止め、だな」


 裏切った冒険者たちや饗団のヤツラがなぜ反魔法の中で動けるかは知らない。

 だけど、そのせいで俺たちを簡単に討ち取れると思っていただろう。


 誤算だったな。

 これまでさんざんに反魔法をくらってきた俺を甘く見たことが、痛々しい思い出となるだろうよ――

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