超巨大ミッション 20 バーサス【神格】
ディジアさんとイリアさんからもたらされた情報をすぐさま、全員に伝える。
「グレンザー伯! あちらの畑の先へ! 敵が薄い!」
「承知! 『大紅蓮』! 道を拓くぞ!」
一瞬たりとも時間を無駄にできないことは、彼も理解している。
呼応して動き出す戦士たち。
「応!」
「御意!」
五本の槍が閃き、モンスターどもを突き刺しまくる。
そこへ冒険者たちの猛攻が続いた。
さしもの怪物たちも数が減り、かすかな道ができる。
その隙を見て、グレンザー伯が皇女殿下やグレースさんを誘う。
よし、これでいい。
さらにその後ろへ『絶倒剣』や『爆斧』、ケルーガーさんたちがついた。
遅れているように見える俺に対し、『絶倒剣』と『爆斧』がちらりと視線を向けてくる。
口に嫌らしい笑みを貼り付かせているのが見えた。
なんかこう、妙な気分になってくるな。
あざけっているのだろうが、どうにも引っかかるのだ。
「ガディスさん! カサンドラ! アリステラ!」
三人を呼ぶ。
ほんの小さな違和感でさえも、いまは見逃せない。
「三人は皇女殿下を守ってください。なんか嫌だ」
「嫌って、どうしたのさ」
「……なに?」
うまくは言えない。
あの笑み。
そして綺麗なままの衣服や装備。
これまでの経験が俺に警鐘を鳴らしている気がした。
「なにかあるんだな?」
ガディスさんの問いにうなずく。
「俺が殿を務めます。ラナ、ダイアナ、脇を固めてくれ」
わずかな間に指示を出す。
三人が動くと同時に、ディジアさんとイリアさんが降りて来た。
遅れていた冒険者たちも走り出し、それを『黄獣』どもが追いかけ始める。
「フラン」
「なによ」
炎の神剣を振るい続けるフランへ声をかける。
「俺から離れないでくれ」
「……別にいいけど」
一段と炎が噴きあがり、仲間を追おうとする怪物を燃やす。
一呼吸整え、ディジアさんとイリアさんとともに魔法をぶっ放す。
随時背後を確認し、みんなが撤退したのを把握。
「少しずつ後退だ。ダイアナ、もういっちょ頼む」
「うん……サナトゥス、おねがい!」
ゴーストたちの増援が、モンスターどもを混乱させる。
弾幕を張り、障壁を張り、土魔法で妨害を繰り返し、フランやディジアさんとイリアさんの攻撃力を活かす。
俺が打ち漏らした『黄獣』はラナが仕留め、先には行かせない。
どれだけ倒したかな。
俺たちの周りは君の悪いでかい手の死体がアホほどある。
攻勢が目に見えて弱まっていた。
そろそろこちらも撤退する好機だ。
「よし、俺たちもそろそろ――」
言いかけた時、耳を破壊されそうな爆音が突き抜ける。
魂を切り裂く声は、生物が発したとは思えない。
体中がビリビリと震え、痛みを覚えるほどだ。
「な、なにいまの……」
「超巨大、モンスター、なの?」
これまでで最大の緊張が走る。
声を発したのは、おそらく超巨大モンスター。
「シント、見てください」
「モンスターがいっちゃうよ」
引き波を思わせる動きで、数百はいる『黄獣』が去っていく。
声に反応したのだろうか。
ともあれ、好都合だ。
なんにせよ、ここから離れて態勢を整える。
「先に行ったみんなを追う」
全員がうなずき、駆けた。
散発的に遭遇する怪物の死体を目印に、林の中へと身を躍らせる。
時間をかけず、村はずれと思われる場所に到着。
四軒ほどの家が並ぶ低い丘。
そこには、目を疑う光景が広がっていた。
「みんな! これは!」
油断なく構えるガディスさん、カサンドラ、アリステラの先には、『絶倒剣』と『爆斧』、そして彼らが率いるギルドの面々が並ぶ。
さらには――
「う……ぐううううあああああああああああ!」
全身に『黄獣』を取りつかせたグレンザー伯が、苦悶の声を上げている。
彼のそばには、尻もちをつくグレースさんが。
沈黙と緊迫した雰囲気が場を包んでいる。
なにがあったのか、すぐには理解できそうにない。
「エリザベス様!」
「シント!」
皇女殿下は無事だ。
だが、それ以外は異常すぎる。
「カサンドラ、なにがあった?」
「シント、こいつら……」
「裏切った」
アリステラの顔は、『絶倒剣』と『爆斧』たちに向けられたままだった。
「うう……私から……離れろぉっ!」
グレンザー伯が怒鳴る。
理解は追いつかないけど、立ち止まることはできない。
伯爵に駆け寄る。が、瞬間、【神格】神槍ゲイボルグの穂先が俺に向けられた。
「体の自由が……効かないのだ! 避けろ!」
「くっ!?」
凄まじい槍の一撃に下がらざるを得なかった。
「閣下! お気を確かに!」
「いま我らが!」
『大紅蓮』の四人が駆け寄ろうとするも、それを止めたのは裏切った冒険者たちだ。
「貴様ら……許さぬ!」
「おいおい……モンスターにとりつかれたのは伯爵閣下が下手打ったからだろうが。人のせいにすんなよ」
邪悪な笑みを浮かべるのは、『絶倒剣』だ。
剣の切っ先をこちらへ向け、隙は無い。
なんのつもりだ?
俺たちはモンスターに囲まれ、いつまた襲ってくるかわからない状況なのだ。
加えて超巨大モンスターの挙動にも注意しなければならない。
裏切るだなんて、バカげている。
改めてグレンザー伯を見た。
片や腕、腹、足と多数の『黄獣』が張り付いている。
救いがあるとすれば、それは顔面が無事だということ。
「……グレース……さっさと、逃げろ。このままでは!」
「閣下! きゃあっ!」
薙ぎ払う一撃が、グレースさんを吹き飛ばす。
力は込められておらず、押し出したような動作だ。
まだ完全には操られていないと見える。
「さあ、ショーの始まりだ。【神格】の所有者が槍さばき、見せてもらおうか」
『爆斧』が笑う。
聞いてて嫌になる声だ。いつまでも好きにはさせない。
「ガディスさん! カサンドラ! アリステラ! 奴らを押さえてくれ!」
「アーナズ! おれらもやらせてもらうぜ!」
ケルーガーさん率いる面々が、『絶倒剣』と『爆斧』に対峙する。
否やはない。
だけど、反応を見せているのは彼らだけだ。他の冒険者たちは固まったまま、動けないでいる。
「皇女殿下は下がって。ラナ、ダイアナも奴らを頼む」
「シントはどうしますの?」
「グレンザー伯をなんとかします」
ディジアさんとイリアさんを連れて、一歩前に出る。
「あなたはモンスロートさん、でしたよね」
殿下お付きの重装騎士に声をかける。
「すみませんが、皇女殿下をお守りください」
「無論、言われるまでもないことだ」
野太い声での返事が頼もしい。
「私がいるかぎり、皇女殿下には何人たりとも近づけぬ」
大盾を構え、長剣を振る。
これで守りはいいだろう。殿下自身の力も考えれば、簡単にやられることもない。
「シント、挟むわよ」
「ああ、わかってる」
フランが隣に立つ。
この上ない味方だ。
しかも、操るのは炎。希望はある。
「ディジアさんとイリアさんは魔法で牽制。俺たちはその隙に懐へ潜り込みます。フラン、合図したら炎を頼んだ」
言葉は要らない。彼女たちはすぐに自分の役割を理解する。
そして、同時に苦しむグレンザー伯へ迫った。
「よせ! 私に構うな! 皇女殿下を――」
「いまは黙って! ≪魔衝拳≫!!」
「はあっ!」
俺とフランの一撃が、神槍ゲイボルグによって止められる。
一度離れ、距離を空けたところに闇の魔力弾と光剣が炸裂。
再度至近距離に踏み込み、拳を打つ。
グレンザー伯は槍を地面に突き刺すと、それを支えにして、体を浮かせた。
空中で360度の回転。降り際に槍を抜き、上段からの叩きつけだ。
あり得ない動きと、とてつもない一撃。回避と攻撃をほぼ同時に行う神業。
なんとか避けたものの、叩かれた地面がえぐれる。
操られてはいても、【神格】の所有者だ。少しも油断できない。
「さすがにやるわね。手加減できないわ」
「フラン、殺さないように」
「わかってるわよ」
妖しげな魔力を立ち昇らせるグレンザー伯。得体の知れぬ迫力に、場が乱される。
俺たちが戦う隣では、さきほどまで仲間だったはずの者達が戦いを繰り広げていた。
ガディスさん、カサンドラ、ケルーガーさんが攻めたて、『絶倒剣』と『爆斧』たちを好きにさせていない。
集中だ。
時間をかけず、グレンザー伯をなんとかして、『絶倒剣』と『爆斧』を倒す。
深く呼吸して、拳を握る。右手にのみ≪魔衝拳≫を発動。左手には別の魔法を準備。
フランへアイコンタクトを送り、地面を蹴る。
俺たちを追い越すようにディジアさんとイリアさんが魔法を撃つ。
タイミングはばっちりだ。
二人の魔法により、固められた防御態勢のままのグレンザー伯へ拳を叩きつけた。
空気を震わす衝撃が伝わってくる。
さらにそこへフランが斬りかかることで、グレンザー伯がそちらへ体を向けた。
「今だ! ≪燃焼之火≫!」
左手に用意していた炎の魔法を放射。グレンザー伯を火で包む。
続けてフランが、神剣フランベルジュの魔力を高めた。
「『炎剣』よ!」
轟、と燃え上がり、もっと大きな炎がグレンザー伯を焼いた。
「ぬううおあああああああああああああああああああ!!」
絶叫がこだまする。
ここからは一瞬の判断が求められる。
一秒にも満たない間を、まばたきなしで凝視。
伯爵にとりつくモンスターがぽろりと剥がれた刹那、水の魔法で消化を開始する。
勢いよく放たれる≪水之砲≫がグレンザー伯を包む炎にぶち当たる。
フランもまた、魔力を急激に減らし、神剣フランベルジュによる炎を解除。
「……はあっ……ふうっ」
鎮火されたグレンザー伯は倒れなかった。
槍を支えにして、体中から煙を出しながら、荒く呼吸を繰り返す。
「グレンザー伯」
「……なんという、荒療治だ。効いたよ……」
ほんとうなら立っていられないだろうに、笑顔を作る。
「体はどうですか?」
「いや、死にそうなのだが」
「操られてはいませんね」
「ああ、すまん。手間をかけさせた……うっ」
倒れかけたグレンザー伯を、すかさず駆け寄ってきたグレースさんが支える。
彼はこれでいいだろう。
「フラン、次だ」
「言われなくたって」
俺たちは『絶倒剣』と『爆斧』へ目を向けた。
「やってしまいましょう」
「うん。やっつけて、話を聞く、でしょ?」
ああ、その通りだ。
ディジアさんとイリアさんがいれば、なんだってできる。
奴らの狙いがなんなのか、聞いてみようか。




