超巨大ミッション 19 モンスター×モンスター
アルテト村の広場で突発的に始まった戦闘は、すぐには終わらなかった。
「う、うおおおおおお!」
「こいつら……攻撃がっ!」
「なんてタフさだ!?」
どこかから悲鳴混じりの声が聞こえてきた。
操られている人々は手足を傷つけたくらいじゃ倒せない。
急所を狙って確実に倒すか、顔面を狙わなければ、何度でも立ち上がってくる。
厄介なことだ。同時に、人の肉体をもてあそぶ最悪の力だと思う。
数はおそらく、三百人くらいか。
俺たちは包囲されたかっこうだが、いまのところ問題ない。
そう思った時だ。
「ぐあっ!」
戦っていた冒険者の一人が飛びかかられて、倒れる。
敵は道からではなく、家の屋根から攻めてきたのだ。
上からも攻めてくるなんて、厄介どころの話ではない。
「ディジアさん、イリアさん、俺たちは上を」
「数が多いですね」
「どうなってるの?」
かなりの数の村人が襲いかかってきている。
こちらは個々の戦力が高いとはいえ、三十人にも満たない。数の差は歴然だ。
『絶倒剣』と『爆斧』、それにケルーガーさんたちの姿は、ここになかった。
離れたところから戦闘をする音が聞こえるから、おそらく別のところで戦っているのだろう。
敵が思いのほか強力なこと、そして本来はただの村人だということが、多くの戦士の切れ味を鈍くさせている。
これは理屈じゃない。頭ではわかっていても、簡単に納得できないのだった。
フランやグレンザー伯は敵を寄せ付けていない。ウチのメンバーも同じだ。
だが、その他の冒険者は次第に苦戦し始める。
少しだけ嫌な汗が流れ始めた矢先、光明が差した。
「みなさん! お待たせしましたわ!」
皇女殿下がお供の人たちを連れてやってくる。
見たところ、無事だ。
「参ります!」
抜き放つのは、【神格】神剣カリバーン。
神々しい光輝なる魔力をたぎらせ、空気を変える。
周囲を覆う暖かな力が、俺たちに力を与えた。
これが神剣カリバーン。
そこにあるだけで、絶対的な存在感を放つ。
神剣であると知らない者達でさえも、そのおおいなる力を感じ取り、爆発的に士気を上げた。
これまで見られなかったエリザベス様の真面目な表情に、こっちまで気が引き締まる思いだ。
彼女は凄まじい速度で村人の顔に張り付いたモンスターのみを斬り払う。
なんという技量。体さばきも抜群。
フランは、自分の次に強い、とか言ってたけど、ほんとうだった。
「殿下! 前にはお出にならぬように! はあ!」
グレースさんも長剣で立ち向かう。なかなかに強い。
エリザベス様の登場で、形勢は傾いた。
モンスターにとりつかれた人々はどんどん倒されて、数が激減していく。
「≪魔衝撃≫」
最後の一人を吹き飛ばす。
これで戦闘は終了だ。
こちらに被害はせいぜいがけが人くらい。
「シント、無事でよかったですわ~」
「エリザベス様も、ご無事でなによりです」
改めて辺りを見回すと、絶望感を覚える。
村人たちの遺体が積み重なり、見たくもない現実を直視させられていた。
顔面だけを狙って倒した人々も、亡くなっているのだ。
「痛ましいかぎりですけど、どうしようもありませんわ」
エリザベス様が俺の胸中を感じ取り、言う。
ほんとうに悔しいんだ。村の人たちは取りつかれた時点で死んでいるのだとしても、なにかできないかを考える。
しかし、ここでふと疑問を感じた。
なんか、妙だ。
「シント? どうしたのですか?」
「難しい顔してるね」
「ディジアさん、イリアさん、子どもを見ました?」
「……いいえ」
「見てない」
襲いかかってきたのは、大人ばかりだ。
アルテト村の人口は600人くらいだと聞いたし、ここで倒れているのはおおよそ300人くらい。
他のところでも戦闘はあっただろうから、400人強と仮定すると、数が合わないのだった。
村に子どもがいなかったとは思えない。
どこかにいるのか? それとも逃げた?
「……っ!」
「なんだか……揺れてますわね」
「シント! 地震――」
地面の揺れが、思考を中断させる。
ずん、ずん、と規則的な地震。
まさか、と考えて即、≪漆黒ノ翼≫を発動。
直上に飛び、確認し、言葉を失う。
「嘘だろ」
アルテト村の西の先で、山が動いている。
いや、あれは山ではない。
「なんてことだ」
このタイミングで? どうなってんの。
「あれが、超巨大モンスター」
映像で見た異形が、地響きを起こしながらゆっくりと移動している。
空から見る姿は、生物で言えば亀に近いだろう。
しかし大きさはとてつもない。
首や手足は岩でできているのかってくらいゴツゴツしていて、背は木々に覆われた山にしか見えなかった。
これはまずい。とんでもなくまずい。
額を伝う冷や汗をぬぐうこともせず、下に降りる。
広場にはいなかった冒険者たち――『絶倒剣』と『爆斧』、ケルーガーさんたちも集まってきていた。
『絶倒剣』と『爆斧』は服に汚れ一つない。たいして苦戦はしなかったようだ。
対してケルーガーさんたちはけっこうボロボロ。激戦区だったのかも。
「シント、なにが見えたのさ」
カサンドラの問いに、答えようとした時、地面が揺れる。地震はまだ止まらない。
超巨大モンスターは東に向かい、歩いていると思われる。
つまり、それはこのアルテト村を通り、帝都への進路であると断定できるのだ。
「皇女殿下、すぐに帰還を。超巨大モンスターがこちらに向かっています」
「え?」
「グレンザー伯、もしもこのままアレが進んだら、帝都に達する。急ぎ軍の編成をしたほうがいい」
「……やはりいたのか」
嫌な予感がする。
予感の正体は、超巨大モンスターじゃない。もともとアレを探しに来たのだから、存在が確認されたのであればそれでいい。
「ここで退けるかよ。皇女殿下、倒していいんだよな?」
「ようやく、だな」
『絶倒剣』と『爆斧』はやる気をみなぎらせているようだが、だめだ。
タイミングが悪すぎる。
「おい、アーナズ、どうしたってんだ」
そう声をかけてきたのは、ケルーガーさんだった。
「あんたがビビったとは思えないが、他にもなにか見たのか?」
「いえ、超巨大モンスターのことはいいんです。問題は、あの手の形をしたモンスターがあれで終わりじゃないかもってこと」
「なに?」
みんなの視線が、俺に集まる。
そして、まるで俺がそう言うのを見計らったかのように、異変が起こり始める。
「なんだ……なにか、音が」
誰かがつぶやく。
地震とは別の、ざざざ、という耳障りな音だった。
ぞわりとした悪寒が背を突き抜ける。
「ちょっと待て! こいつら――」
「円陣! 皇女殿下をお守りせよ!」
やられた。
見るもおぞましい数の『黄獣』が、そこかしこから這い出てくる。
信じられない思いだ。
かさかさと指を使って近づいてくる『黄獣』は、明らかに俺たちを囲む形で、迫ってきている。
「……これまずい」
「数が多いよ」
「シント、サナトゥスに、おねがいする」
広場は完全に包囲された。
俺たちの様子をうかがうようにして、ゆっくりと囲いを狭めていくおぞましい怪物たち。
「ダイアナ! サナトゥスを頼む! ディジアさん、イリアさん! 上空へおねがいします! どこでもいい! 逃げ道を探してください!」
「ええ!」
「すぐに行くわ!」
二人が飛翔の魔法を発動。一息で天高く飛ぶ。
「飛んだっ!?」
「ていうか誰なの、あれ」
「アーナズ、あの二人はどこから――」
「ケルーガーさん! 話している暇はない!」
いまにも飛びかかってくるだろう『黄獣』の群れに対し、先制攻撃を仕掛ける。
「≪発破≫!」
爆発が契機となり、怪物どもが動き出した。
「顔へ取りつかれないように気をつけてください!」
エリザベス様を中心にした円陣。小さな地震が続く中、死闘が開始される。
「やられるかよ! そりゃあ!」
『絶倒剣』の一撃は、飛ぶ斬撃となり、数十の『黄獣』を切り刻んだ。
「やれやれだな……『爆斧』!」
異名そのままに振るわれた斧は爆発を生み出し、吹き飛ばす。
「まったく、こんなん割に合わねえよ!」
右手に長剣、左手に大振りのナイフを構えた『暴風雨』ケルーガーさんが回転斬り。黒い血が宙を舞って、『黄獣』を近づけさせない。
さすがは『暴風雨』の異名を持つ者、といいたいところだけど、いまは口にしない。
息が続くかぎり魔法を連打。
ダイアナもサナトゥスの能力を発動し、半透明な魔物を生み出す。
しかしそれでも『黄獣』の数が多い。
絶え間なく続く攻撃の波にいつまでもつのか。
「シント! あちらに!」
「うん! 家が見えるよ!」
上空からの声。
「あちらにはモンスターがいません!」
二人が指をさす方向は、畑の先だ。あぜ道が林の中に続いている。
それに賭けるしかない。




