超巨大ミッション 18 終わりの始まり
いきなり始まった女子たちのよくわからん会合は夜遅くまで続いた。
ときおり話を振られるも、曖昧な返事でごまかす。
我ながら情けないと思うが、聞いていられないような内容もあり、ガディスさんを見習い、心を無にして存在感を薄くさせることでやり過ごす。
その後、落ち着いたころを見計らって、俺とガディスさんは家の外にテントを張り、そこで休むことにした。
交代で夜の見張りをする間、他のギルドの方々とも意見を交換したが、たいした進展は見られない。
結局のところ、まだなにもわからない、という結論だ。
村人の死体を動かしていただろう『黄獣』。
肝心の村は無人。
超巨大モンスターはその姿の欠片もない。
明日には帰還という話だが、やはりウチだけも残らせてほしいところだ。
非難はされるだろうけど、いちいち付き合ってはいられない。全滅の憂き目にあわないためにも、打てる手は打つべきだ。
やがて、夜が明ける。
起き出したガディスさんと交代し、少しだけ眠らせていただく。
目が覚めたころには、帰還が始まるだろう。
だが、朝になってから問題が発生する。
「消えた?」
起きて早々、ラナから言われ、驚く。
「うん、『ロクサルヌ』の人たちがいないみたい」
「全員?」
「五人ともいないって」
『ロクサルヌ』は帝都で活躍するギルドだと聞いた。ランクはBだったか。
村の中央にある広場は、騒然としていた。
しかも、問題はそれだけじゃない。
団長のグレースさんが何人かから抗議を受けているようで、困惑していた。
「調査続行、か」
様子を見るかぎり、調査を続けさせろと言っているようだ。
「うん、特に『絶倒剣』さんと『爆斧』さんが強く言ってるよ」
(みな、ずいぶんと熱くなっていますね)
(グレースがかわいそうになってる)
ディジアさんとイリアさんには再び本と剣になってもらっている。
(止めなくていいのですか?)
「タイミングを見て、止めましょう」
(ブッ飛ばしちゃう?)
「イリアさん、さすがに過激すぎますよ」
皇女殿下はまだ来ていないか。フランの姿もないし、これではグレースさんが気の毒だろう。
彼女が囲まれているところに、グレンザー伯爵がやってくる。
彼が現れると、さすがに抗議が激減した。
「帰還は決めていたことだ。いまさらだろう」
若干の沈黙。
「けどよ、伯爵閣下。状況が変わったんじゃねえか?」
「トレーボル殿の言う通りだな。仲間が消えたのだ。少なくとも捜索はすべきだろう」
夜のうちに逃げたか、あるいは。
超高ランク冒険者の二人が提案をしたとたん、他の者たちからも声が上がる。
まずい気がする。とてつもなく。
「なんの騒ぎなわけ?」
不機嫌な顔をそのままに、フランが隣へやってくる。
「一人? エリザベス様は?」
「食事をしてるわ。すぐに来るでしょ」
問題がないなら、それでいい。
エリザベス様のことはいったん置いておき、これからどうするかを考える。
「シント、こんなんじゃ話が終わりそうにないさね」
「……みんな、いきりたってる」
【神格】神槍ゲイボルグの所有者であるグレンザー伯が相手でも、冒険者たちが引く気配はない。
気骨があるのはいいことだけれど、いますることじゃないと思う。
「興奮しすぎじゃないか?」
「無理もないと思うよー」
「ギルドの一つ、消えた、から」
ラナとダイアナは落ち着いた様子だ。二人とも、すごく頼もしくなった。
っと、感心してる場合じゃない。
「みんな、悪いけど周囲の警戒をおねがい」
「シント?」
「それって」
みんなにおねがいして、人をかきわけ、グレンザー伯のところへと歩いた。
フランがついてきてくれたから、邪魔されることもない。
「グレンザー伯、言い争ってる時ではありません」
「シント殿」
「みんな激しすぎてます。皇女殿下になんとかしてもらいましょう」
「険しい顔だな。どうした?」
説明しようとしたところ、『絶倒剣』と『爆斧』が割り込んできた。
「おいおい! まーた手柄を独占しようってか?」
「我らに言いたいことがあるなら、直接言ったらどうだ?」
あからさまな挑発。
しつこすぎないか。俺を怒らせたところで、たいした効果はないと思うのだが。
それとも他に狙いがあるのだろうか。
調査団の分裂を誘おうとでも?
……そうだな。俺自身に妙な感情をぶつけられるのが初めてだったから、深く考えなかったが、よくよく考えたら俺のいまの立ち位置は、はたから見ればエリザベス様、フランと懇意にしていると取られてもおかしくない。
実際には別に懇意にしているというわけではないが、そんな俺に対して敵意を向けては、皇女殿下と公女殿下に不興を買うかも、とは考えないのか?
やはりなにか別の狙いがあるということかな。
本来はともに仕事をする仲間で、足の引っ張りあいなど依頼の達成が困難になるだけだ。
実際、ケルーガーさんは同盟を持ちかけてきたし、他を蹴落とすのではなく、他よりも目立つことを考えていた。
「なんだ? いきなり黙ってよ」
「気味が悪いな。なんだというんだ」
いろいろ言われるけど、無視だ。
「グレンザー伯、このままだとまずい気がします」
「君の言う『まずい』は、ここで意見が分かれていることではないな?」
話が早くて助かる。
「まずいのは、いまのこの状況で襲われることですよ」
「……なに?」
「みんなが広場に集まっていて、しかもまとまりがない。こんな時にモンスターが現れては――」
「シントー!」
「来やがったさ!」
ラナとカサンドラの大きな声。
まったく、行ってるそばからこれだ。
「マハト! ドレーガ! ハリス! ベルトラン! 皇女殿下の元へ! グレース! おまえもだ!」
槍を携えた『大紅蓮』の面々が即座に動き出す。
騒然となる広場。
「≪アクアランス≫!」
アリステラが魔法を発動し、現れた何者かを攻撃する。
「閣下……これは」
「グレース、問答はあとだ。皇女殿下をお守りせよ」
「は、はい!」
グレースさんが少し遅れて、駆ける。
「ちっ……話の途中だってのによ!」
「しかたあるまい! みなついてこい! 駆除するぞ!」
『絶倒剣』と『爆斧』が己のギルドメンバーを引き連れて、戦いにおもむく。
しかし、行く方向はバラバラだ。
「ほんとうに来たというのか。シント殿、君はこれを読んでいたわけだな」
「いえ、読んでいたわけでは。いま来られたらまずいと思っただけです。結局、対策を打てませんでしたし」
家々の間にある道からぞろぞろ現れたのは、おそらく村人たち。
全員がうつむき加減で両腕を垂らし、現れる。
顔にはもちろん『黄獣』が張り付き、生きている気配は微塵もしない。
「やるしかないのか」
相手はなんの罪もない村人だ。
(シント……)
(このヒトたち、救えないの?)
ディジアさんとイリアさんの声は低い。
「なんとかやってみます」
見捨てることはできない。うまく顔から剥がせればいいが、うまくいくかどうかの保証はなにもなかった。
「シント、彼らはもう死んでるわ」
「フラン」
彼女は腰に差した【神格】神剣フランベルジュを抜く。
火炎をまとい、むせ返るような熱気が辺りを覆った。
「わたしたちができることは、これ以上苦しませずにすることだけよ」
頭ではわかっているのだ。だからといってすぐに納得はできない。
しかし、そうこうしているうちにも戦闘は激化している。
「さっさと片付けるわ!」
走り出すフラン。飛びかかってくる敵数体を一撃で両断し、燃やす。
彼女から少し離れた場所では、カサンドラとガディスさんが肩を並べて村人を足止めし、アリステラが魔法を放つ。
ラナとダイアナが動き回ってサポートをこなし、気を逸らす。
ウチのメンバーはまったく問題ない。
他の冒険者もそこまで苦戦をしていなかった。
あとは――
「ふっ!」
短い呼気とともに、グレンザー伯が神槍ゲイボルグを振るう。
あまりにも鋭い突きの連打。
前に立った村人数人の急所を突き、倒す。
「≪魔弾≫!」
援護を開始。
こちらの背後に回ろうとする者達を狙い、魔力弾を撃つ。
狙うのは顔面だ。顔に張り付く『黄獣』だけを落としてやる。
「効果はあるみたいだ」
顔面を激しく撃たれた村人がその場に倒れる。起き上がる気配はない。
「ディジアさん、イリアさん」
「ええ」
「うん、出るよ」
二人が人の姿へと変じ、両隣に立った。
「顔面を狙ってください」
「わかりました。≪闇弾」
「≪フラン≫! ≪デューテ≫!」
闇の魔力弾と光の剣が飛び、村人を吹き飛ばす。
この場に集った者達の実力を考えれば、負けることはない。
「みんな! 後ろは気にするな! 俺たちが援護する!」
声を上げながら、魔法を連打。
敵を寄せ付けることなく、数を減らす。
だが、どうにも胸の高鳴りが止まらない。
きっとこれは、気のせいじゃない――




