超巨大ミッション 16 アルテト村を覆う闇
突発的に起こった謎のモンスター襲撃。
意見の一致こそ見なかったものの、なにか恐ろしいことが起こっているという考えは共通だった。
時刻は夜も間近。
だが、俺たちはグレンザー伯を先頭に森の中を駆けている。
文句を言うものは誰もいない。
そう遠くない距離ではなかったため、もたつくこともなく到着。
アルテト村の入り口を前にして、一度止まる。
「ずいぶんと物静かですわ」
かなりの速度で走ったにも関わらず、皇女殿下はついてきた。いや、むしろ速い上に息も切れていない。
鍛えているのは間違いないだろうが、やはり【神格】の所有者だということかも。
ただ気がかりなのは、巨大であろう魔力をほとんど漏らしていないということだった。
隣のフランとは対照的だ。彼女は闘気がダダ洩れすぎて、旅の初めから近づく者はほとんどいない。
「誰もいない、か」
「閣下、いかがなさいますか?」
「日が落ちきる前までに調査だ。グレース、それでいいな?」
「え、ええ……各ギルドごとに分かれ、村の見回りを。皇女殿下、広場へと参りましょう。夜にそこへ集合とする」
グレースさんは息を整えながらも、なんとか指示を出し切った。
だが、想定外のことが起きているせいか、キレは良くない。
「村人がいた場合は保護してくれ。話を聞きたい。では『大紅蓮』、行くぞ」
グレンザー伯が率先して村に足を踏み入れる。
そのすぐ後ろに『絶倒剣』と『爆斧』が己のギルドメンバーを引き連れて入った。
続々と冒険者たちが村内へと進む中、俺は別のことが気になって動けない。
それは、モンスターがどこから来たのかということだ。
「シント、どうしたんだい?」
「いや、さっきのアレはどこから来たのかって思った」
「……たしかにそう」
村へ入る前に、グレースさんに声をかける。
「グレースさん、超巨大モンスター以外の目撃報告はなかったんですよね?」
「……ああ、なかった」
彼女の顔はひたすらに曇っている。そうとうに不機嫌だ。
もしかして俺、グレースさんにも嫌わてる?
思えば初日からにらまれっぱなしだ。
「唯一の生存者はすぐに亡くなったと聞きました。その方はやはり傷を?」
「そう聞いているが、立ち会ったわけではないので、なんとも」
今からじゃそこら辺の情報を得るのは難しそうだ。
ミーティングの時に聞いておくべきだったと、悔しく思う。
「シント・アーナズ、無駄話はその辺で。殿下に休息をしていただきたいのだ」
「あら? わたくしは疲れていませんわ。ねえ、フランもそうでしょう?」
「少し走ったくらいじゃ疲れないわよ。けど、水は飲ませてもらうわ」
「グレースったら、息が上がっていますわ。それと少し太ったのではなくて? 運動不足ではないかしら」
「稽古が足りないわね」
「ぐっ……」
グレースさん、悔しそう。言い返さないところを見ると、図星か。
怒り始めた彼女に急かされて、二人の姫は村内へ入った。
「シントー、わたしたちも行こうよ」
「まだ、気になる、の?」
ああ、気になる。だが、ここでまごまごしてられない。
「村の様子を見ていてくれ。ただし、単独行動はしないこと」
「シントはどうするの?」
「ちょっと空から見てみる」
≪漆黒ノ翼≫の魔法を発動し、真上の空へ。
夜になる前だから、見える。
「さしずめ陸の孤島ってところか」
二日前に泊まった宿場町からここまでは、細い道で繋がっているだけだ。
ところどころが深い森のせいで途切れており、まともな道ではなかった。
村自体は割と大きく、村外には田畑も多い。
たしか人口は六百人程度だったか。
空から見る限りは、調査団以外の動いているモノはない。変な気配もしない。
村は無人。そう考えていいだろう。
「全員やられたのか」
握りこぶしに力が入る。爪が手のひらに食い込むのを自覚した。
最悪の事態だ。
(シント、落ち着いてください)
(うん、いまは)
「ええ、わかっています」
二人の言葉で少し頭が冷える。
村の様子はもういい。次は周囲だ。
深い森に覆われた村の外には、低い山がたくさんある。
見たところ、超巨大モンスターらしきモノはない。
誰もいない村。姿を見せない巨大モンスター。目に見えるモノがないから、余計に不気味だ。
「ディジアさん、イリアさん、なにか感じますか?」
(普通ですね)
(とくに変な感じはしないよ?)
俺も同感だ。
ぐるりと確認してから、降りる。
いまは村の中を確かめよう。
★★★★★★
夜がやってきた。
大きなかがり火に照らされた村の広場に全員が集まっている。
中心にいるのはエリザベス皇女殿下と団長のグレースさんだった。
「やはり誰もいないか……殿下、どうやら」
「ええ、村の方々はモンスターの餌食になった、もしくは連れ去られた、と考えていいでしょう」
冒険者たちがうなり声を上げる。
全ての住宅に人がおらず、テーブル上に料理が乗った皿や中身が入ったままのカップがそのままの家さえあった。
「巨大モンスターの調査に来たはずが、とてつもないことになったな」
グレンザー伯が全員の気持ちを代弁する。
「いまのところ手がかりは得られそうにない。一度帰還するのがいい」
とうぜんの決断だ。もっと大人数で広範囲を捜索するべきだと思う。
もしくは俺が夕方言ったように、わずかな人数を残して調査を続け、その間に態勢を整えたほうがいい。
「伯爵閣下、まさか今から戻るおつもりか?」
『爆斧』バンダルに視線が集まる。
「さすがに夜は無理だろうぜ。ウチのモンも休ませたいとこだ」
今度は『絶倒剣』トレーボルだ。
グレンザー伯は少しの間、考えこんだ。
「帰還は明朝としよう。皇女殿下もそれでよろしいか」
「ええ、それでおねがいいたしします」
まあ、そうなるよね。
ほとんどの人が緊張しっ放しで疲弊しているだろう。
(シント、魔法を使えばすぐなのでは?)
(移動したほうがいいと思うんだけど)
本と剣と化した二人が、心の声で話しかけてくる。
その通りではあるが、気は進まない。
あとで何を言われるかわからないし、それに、問題もある。
(空気が良くない気がします)
(シント、ちらちら見られてるし)
「どうやら嫌われているみたいです」
(意味がわかりません)
(なんでよ)
俺も、なんでよ、って昨夜に言った気がする。
「≪空間ノ跳躍≫は無理なんです」
(それはどういう……)
(どゆこと?)
あとで説明しよう。
「シント・アーナズ、さきほどからなにかつぶやいているようだが」
グレースさんがぎらりとにらんできた。
「言いたいことがあるのなら、意見を」
「あ、いえ、独り言です」
「手柄を独占するための相談か?」
「こすいねえ」
『絶倒剣』と『爆斧』がそんなことを言う。
だいぶ噛みついてくるな。そんなに俺が嫌いなのか。
両隣に立つカサンドラとアリステラの闘気が燃え上がる。
すぐ後ろのラナとダイアナは苦笑だ。
どうどう。
軽口には付き合わないほうがいい。
「なあ、マジで戻るんなら報酬はどうなる」
今度はケルーガーさんだ。
そして、隣にいる軽装の女性が手を挙げる。
茶髪でロングヘアの美人に注目が集まった。
「仕事はこれで終わりじゃないのよね? 戻ったあとは?」
ラナに教えてもらったことだが、この女性はケルーガーさんの妹だという。
すらりとした体型と長い足。素早さには自信がありそうだ。
「とうぜん、報酬は支払われる。そのあとは……なんとも言えない」
「そりゃないぜ団長さんよー!」
「ここまで来て討伐の手当なしはちょっとな」
「もう少し調べてもいんじゃねーの?」
と、冒険者たちが次々と言葉を投げる。
だんだん騒ぎが大きくなってきた。
緊張が和らいだことで、溜まったうっぷんを晴らす時になったみたいだ。
「みなさん、少し落ち着いてくださいな」
皇女殿下が口を開くと、騒ぎは収まった。
強い口調ではないのに、誰もが耳を傾けている。
「わたくしたちは十分な兵を動かせませんの。戻ったあとも引き続き協力を要請することになりますわ」
「殿下の言う通りだ。我が家の兵だけでは足りないだろうし、貴殿らの助力が要る。心配することはない」
エリザベス様とグレンザー伯のおかげで、騒ぎはなくなった。
だけど、納得したようには思えない。
「今日は村の家々を借り、休もう。明朝に帰還だ。しかしなにがあるかわからん。できるだけ広場に近い場所で待機する」
休息については、さすがに文句が出なかった。
かがり火はそのままに、各ギルドから見張りが立ち、交代で休むこととなる。
「俺たちも適当な家を借りよう」
いまのところ、危険は感じない。だけど、不安がどうしても消えないのだった。




