超巨大ミッション 13 なんで持ってきた!?
やはりついてきていた皇女殿下。
おとといの顔合わせの時といい、スベッてばかりだと思う。
「なんでいるのですか。帰ってくださいよ」
突き放すようで悪いけど、ここは皇女がいていい場所じゃない。
「顔を隠してまでついてくるなんて、なにを」
「だって」
「だってではありません。どんな危険があるかもわからないんだ」
上目遣いで見てくる。
そんな顔されてもだめなものはだめだ。
「帝都が危機にあるかもしれませんのに、わたくし一人安全な場所で待つなど、ありえませんわ」
思ったよりも真面目な返しだ。気持ちはわかるけど、さすがにまずいだろう。
「あら? そういえばこの二人は初めて見ましたわ。一昨日はいなかったと記憶しているのですが」
いま気づいたのか。
「ディジアさんとイリアさんです。ウチのメンバーですね」
「わたくしはディジア」
「わたしはイリアだよ!」
「エリザベスですわ。同じくらいの歳の女の子がいるのは、なにやら嬉しいですわね」
エリザベス様は俺の一つ年上で、フランと同い年だ。
ディジアさんとイリアさんの今の見た目は、17、8くらいだし、一緒にいても違和感はない。
「話を戻しますよ。帰ってください、いますぐに」
「いやですー」
「ほんとうに危険なんです。相手はどんなものかもわからない。守りながら戦う余裕だってあるかどうか」
彼女自身から感じる魔力はそうとうなものだ。さすがは帝室の出身。さぞ凄まじい【才能】なんだろうとは思うが、不測の事態が起きた場合、安全は保障できない。
「エリザを守る必要なんてないわよ」
「フラン?」
「それ、見なさい」
彼女は、皇女殿下の腰にある剣を差した。
じっと見てみる。
え、嘘。
「シントったら、そんなに腰の辺りを見つめないでください。わたくし、お尻はあまり大きくありませんし。あ、でもシントは大きいお尻と小さなお尻、どちらがお好みかしら」
尻なんてマジでどうでもいい。
俺が見ているのは、剣だ。
意識するとわかる。ありえないほどの潜在魔力。正直、信じられない。夢か幻なんじゃないかってくらい、びびる。
「これ、まさか」
「シント、その先は口にしないほうがいいわよ」
そりゃそうだ。
大騒ぎになってしまう。
彼女が持っているのは【神格】神剣カリバーン。皇帝のみが所持できる至高の神器だ。歴史の表舞台に現れてより千年あまり。剣の最高峰であり、帝国の象徴でもある。つまり、国宝以上の国宝……いや、もっと上のモノ。
言葉を失ってしまった。
なんで持ってきたのよ。
いや待て。ここにあるということは、所有者は皇帝陛下じゃない?
では、皇女殿下が――
「お父さまから借りてきたのですわ」
簡単に貸し借りできるものではないだろう!
どーなってんの!?
「シントが今まで見たことのないとてつもない顔になっています」
「右半分が笑ってて、左半分がピクピクしてるね」
そうもなるよ!
これは参ったぞ。想定外の出来事だ。
冷静になれ、俺。
【神格】が四つと、【神格】の所有者であろうディジアさんとイリアさん。
戦力としては、十分すぎるくらいだ。
けど、安心感が一切ないのはなぜだろう。
不安ばかりが募っていく。
「殿下ーーーーー!」
何も言えないでいると、離れた場所にいたグレースさんが血相を変えて走って来た。
「終わるまでお顔を出さないという約束だったではありませんか!」
「そうでしたかしら? 記憶にございませんわ」
「悪事が露見した政治屋のようなことを言わないでください!」
グレースさんのツッコミがキレキレだ。
普段から振り回されているとみた。
「とにかくこちらへ! お顔を隠してください! シント・アーナズ! このことは誰にも言わぬように!」
鬼の形相をしたグレースさんが、ものすごい勢いで詰め寄ってくる。
もう遅いだろう。
すでに何人かの冒険者が騒ぎに気づき、遠巻きにこちらを見ているのだ。
「おい、あれって」
「来てたのかよ!」
敏い者は我先にとひざまずく。
「グレース、諦めなさいよ。もうバレたわ」
「公女殿下っ! しかし!」
キャンプ地が混乱に包まれようとしている。
そこへ入ってきたのは、グレンザー伯だった。
「はーっはっは! みな驚いたろう! 殿下は我らを慰労しに来てくださった! 直に活躍を見て、よく働いた者には多大な褒賞を下されることだろう!」
伯爵の言により、場が盛り上がる。
彼はグレースさんにウインクを一つして、この場を離れるよう促した。
「殿下、今日はもう休まれるのはよいでしょう。食事などは我らがご用意いたしますゆえ」
「わかりましたわ」
意外にも素直に引き上げていく。
そばにいたグレースさんが密かに安堵の息をした。
「まったく。フラン、なんで黙っていたんだ」
「しかたないでしょ。急に一緒に行くって言い出すんだもの」
「しかしまた、【神格】が増えるだなんて」
「それなりに決意して来たみたいよ。それに……」
「それに?」
「エリザはわたしの次くらいに強いんだし、放っておいてもいいわ」
フランの次に強い?
初めて聞いた。
信じられないな。
「その話はもういいでしょ。それよりもあなたたち、なにを作っているの?」
興味深そうに俺たちの後ろのモノを見てくる。
そういえば最初の質問に答えてなかった。
「台所だよ。あとお風呂はあっちに作っておいたから」
「ふーん……ずいぶんと気がきくわね」
表情は普通だけど、なんか嬉しそう。
「テントは余ってないかしら」
「うん? まさかとは思うけど、持ってきてない?」
「ええ、そうよ」
「なんで」
「荷物になるじゃない」
言われてみれば、彼女が持っているのはリュック一つだけだ。
「いや、予備の分はないよ」
「そう。ならダイアナのところで寝るわ」
姉妹だから気安いとは思うけど。
「シント、なんか騒がしかったけど」
「……なんかあった?」
テントの中で休んでいたウチのメンバーたちがぞろぞろと出てくる。
「後で話すよ。それよりもお風呂がもうできてるから、行ってきたら?」
「さすがはシントだねえ。快適さ」
「シント、一家に、一台、です」
「あ、それいいね」
「……やばい。便利すぎ」
なんだそりゃ。
「って、フラン、あんたもいたのかい」
「……シントにいちゃもん?」
「少し話していただけよ。それよりもお風呂に案内してちょうだい。汗を流したいわ。それとダイアナ、テントを間借りさせてもらうわよ」
「え……?」
姉が妹を強引にテント内へ強引に連れていく。
「……ダイアナ、あなたねえ、下着やパジャマくらいちゃんとたたんで入れなさいよ。皺が寄ってるじゃない」
「あ、う、うん、ごめん、なさい」
声が駄々洩れなんですけど。
ともあれ、みんなお風呂に行くみたいだから、料理に集中できるというものだ。
★★★★★★★
そして夜。
食事を終えた俺たちは各々に準備や休息を行う。
ウチの女性陣とフランはもう風呂を終えて、それぞれのテントにて休んでいるだろう。
で、俺はというと――
「ふー、あったまる」
夕方に作った風呂――男湯に浸かり、大きく息をついた。
モンスターウォーズにてすることとなった土魔法による一夜砦の建築はほんとうに大変だったけれど、応用して風呂だの台所だのを作れるようになったのは、マジで素晴らしい。
いまでは、遠出に欠かせない技術となってしまった。個人的には風呂よりも台所のほうが好きだけどね。
「おっと、邪魔をさせてもらおうか」
簡易更衣室から出てきたのは、あられもない姿のグレンザー伯だった。
見惚れるほどの締まった筋肉と、その上に走る大小さまざまな傷痕。
感じる雰囲気もそう。まさに歴戦の戦士である。
「あ、どーぞどーぞ」
彼は軽く湯で体を洗い、湯船に浸かった。そのとたん、顔が緩む。
「ふう……これはなんとも……まさか野宿で風呂に入れるとはな」
ご満悦のようだ。造ってよかったと思う。
「時にシント公子」
公子、と呼ばれてしまった。バレてるとは思ってたけど、とりあえず否定はしよう。
「俺は公子ではありませんよ」
「ふっ、そうか。ではシント殿、少しばかり聞きたいことがあるのだが」
「はい」
真面目な話かな。でも伯爵の顔は緩みっぱなしだ。
「モンスターウォーズに参加したのだろう? 噂では総司令官だったとか」
あの話か。
「たしかに拝命しましたけど、名目上です。実質的な権限はありませんでしたし、ずっと最前線にいました」
「そうだったか。私も……できることなら参加したかった」
モンスターウォーズでの戦闘は、一日で終わってしまった。
普通じゃ考えられないことだ。
グレンザー伯は知らせを聞き、軍を整え、南下を開始していたのだが、途上でモンスターウォーズは終わったとの報を受けたのだという。
「向かって来ていたのですね」
「ああ、かなり急いだのだがな。大河にたどり着いたところで、引き返す羽目となったよ」
「グレンザー伯がいればもっと楽に勝てたと思います」
これはお世辞でもなんでもなく、素直な感想だ。
この人がいれば、左翼をダメオン侯爵とともに任せ、俺はもっと自由でいられた。
「買い被りさ。大戦の英雄などと言われてはいるが、帝国本軍はボロボロにされたのだからな」
それは誰もが知っていることだった。
大戦時、帝国本軍は15万という大軍を投入したが、南方諸国連合の策に嵌まり、わずか数日で三分の二を失うという最悪の結果となる。
名だたる将軍が討ち死に、または逃亡する中、この人と当時はまだ男爵にすぎなかったダメオン侯爵が残兵をまとめ、終戦まで持ちこたえたのだ。
「とてつもない戦いだったのだろう?」
「そうですね。危ういところでしたから」
敗北しかけたのは間違いない。
「聞きたい話というのは、モンスターウォーズのことですか?」
「それもあるが、本題は別だ」
やはりだ。
モンスターウォーズの話であれば、別の人間からでも聞けるわけだし。
変な話じゃなければいいけど。




