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超巨大ミッション 12 またかよ

 目的の場所は帝都から西北にある山地だ。

 大街道から外れた地域であり、とうぜん鉄道もない。休憩地として小さな宿場町が一つあるだけで、帝都の近辺にしては辺鄙な場所になるだろう。

 古くは旧帝国の皇帝たちが狩猟場としていたらしく、その名残で今も帝室の直轄領となっているのだそう。


 一日目の道程は順調に踏破。

 なんの問題も起きず宿場町に到着することができた。

 みんな緊張していたのか、口数は少ない。唯一の例外があるとすれば、それはグレンザー伯だけだろう。


 彼はなにかにつけ、ウチのガディスさんのところに来て、話を聞きたがっていた。

 十年間もの長い時間、どこへ消えていたのか気になるようだ。

 ガディスさんは寡黙な人だし、多くを語ることをしなかった。

 

「宿はとってあるゆえ、それぞれ休むといい。明日は遅れぬように」


 グレースさんはお供の方たちを連れてさっさと行ってしまった。

 冒険者たちも散っていく。

 いまのところ、調査団に協調性というものは見られない。みんなバラバラでまとまりはなかった。

 

「シント、明日からの予定を決めておいた方がいいんじゃないかい?」

「……不安」


 カサンドラとアリステラは、まとまりのない調査団に対し、疑念を抱いている模様。


「そうだなー、正直に言って陣列を組んだりは期待できないから、俺たちはまとまって動いた方がいいんだけど」


 しかしながら、そうはいかないのだ。

 まずは早朝に各ギルドの諜報に長けた者たちが先行し、アルテト村との中間地点で落ち合うのだった。

 ウチからはラナが参加する。とうぜんの人選だろう。


「ガディスさん、できれば殿しんがりをおねがいできませんか?」

「構わんが、それは全体の、ということか?」

「ええ、そうです」


 俺とディジアさんとイリアさんは魔法士だから、後方がいい。だが、背後を突かれた場合のことを考慮し、ガディスさんを配置しておきたい。

 

「承知した」

「ええ、頼みます。カサンドラとダイアナは前。なにか見たらすぐに教えてほしい。アリステラは二列目だ」


 全員がうなずく。

 と、ここでダイアナが控えめに手を挙げた。


「シント、その、サナトゥスが落ち着かなくて」

「もしかして、アレのせいかな」


 口にするのも面倒なお方が一人、紛れ込んでいる。

 なんのつもりかは知らないが、すぐにでも帰ってもらいたいところだ。

 彼女自身から、ときおり挑発ともとれるような莫大な魔力の噴出のせいでいちいち気が散る。

 どんな【才能】かはわからないけれど、かなりのものだろうな。


「フランはなにも言わないし、どういうつもりなんだろう」

「なんのことだい?」

「すっごい顔してるけど、だいじょぶ?」


 ラナが心配してくれてる。

 だいじょうぶだけど、だいじょうぶじゃない。


「今日はゆっくり休もう。明日からどうなるか、心の準備だけはしておいてほしい」


 なにがあってもいいように、構えておかなければ。

 不安だけど。



 ★★★★★★



 翌朝は静かに過ぎる。

 今日から本番だとわかっているので、冒険者の間で交わされる言葉は極めて少ない。

 ウチのラナを含めた斥候隊はすでに出ているので、俺たちは後を追うかっこうだ。


 緊張が高まってきた。

 あの超巨大モンスターがほんとうにいるのか、いるとしたらどこまで迫っているのか、突き止めねばならない。


「では出発の前に、伯爵閣下からお言葉をいただく」


 団長はグレースさんだが、グレンザー伯が実戦闘の指揮を執ることになっている。


「私が前線の指揮を執るが、我らは寄せ集めだ。それぞれのやり方もあるだろうから、私からの指示は二つ。『死ぬな』と『己の身は己で守れ』だ」


 おお、シンプルでいい。


「調査団は、軍ではない。いつも通りで構わん。だが、最低限の敬意とマナーは守っていこうじゃないか」


 拍手が生まれた。みな異論はないようだ。

 グレンザー伯はよくできた人だと思う。


「各々方、なにか異変を感じた場合はすぐに教えてほしい。こちらも連絡は密に行うつもりだ。以上」


 最後はグレースさんが締めて、出発となる。

 隊列に関しては、伯爵率いる『大紅蓮』が先頭。続いて『絶倒剣』や『爆斧』をはじめとした超高ランク冒険者が固める。ここにはウチのカサンドラとダイアナを加えてもらい、アリステラは中列だ。


 グレースさんたちが真ん中にいて、ここにはフランもいる。

 その後ろに俺。で、一番後ろにガディスさんだ。

 集った冒険者の内、弓矢などの飛び道具を使う人たちは俺のところに配置されている。


 寄せ集めにしては、まずまずの位置関係だろう。

 みんな経験豊富だから、俺がなにかを言うこともないのだった。


「シント」


 出発してすぐ、ガディスさんが声をかけてくる。


「どうしました?」

「ここからは森が深くなるようだ。見えるものだけを信じるな」

「はい。肝に銘じておきます」


 ガディスさんは鋭い。学ばせてもらおうか。

 目的地までは歩いて二日以上かかる。整備された道もない。場合によっては土魔法を使うこともあるだろう。


 五十人からなる一団は、森の中を慎重に進む。

 斥候隊は割と見通しの良い道を選んで行ったようだ。定期的に印が置いてあるので、後発隊は楽ができた。


 そうして歩むこと半日。

 日が傾いた刻限に、ようやく斥候隊と合流することができた。


「ラナ、お疲れ様」

「シント、みんなもおつかれー」


 まずは無事を祝う。


「そっちはなにかあった?」

「いや、斥候隊のおかげで楽に来れたよ。ラナの方はどう?」

「いまのところなにもないかなー。むしろなにもなさすぎて不気味かも」

「不気味?」

「うん、この先にもちょっと行ってみたんだけど、生き物が見えないんだよね」


 ふむ。

 超巨大モンスターのせいで獣が逃げているのか?

 そうすると、やはり存在するのは間違いないと見ていいのかも。

 

「あと、勘だけど、嫌な感じるがするよ。ここから先はほんとに気をつけたほうがいいと思う」


 ラナの危険察知能力の高さは、俺がよく知ってる。

 今まで以上に警戒しよう。


「みんなはテントの用意だ。そこに出しておくから、頼む」

「あんたはどうするんだい?」

「お風呂とかいろいろ作っておくよ」


 これにはウチの女性陣が大喜びだ。


「さて、ディジアさん、イリアさん、そろそろ出番です。手伝ってほしい」

(ええ、もちろんです)

(お菓子食べたいな)


 二人が人の姿になる。

 今回は事前に言っておいたので、美少女姿になってもらった。

 常に進化を続ける彼女たちは、今ではかなりの時間を成長した姿でいることができる。


 モンスターウォーズでの戦いからこっち、凄まじい勢いで魔法の腕を上げていいるので、一緒にいる時はほんとうに心強いのだった。


 キャンプ地から離れた少しばかり離れたところで、魔法を発動。

 土魔法により、地面が盛り上がる。


 二つの浴槽とそれを仕切る壁。

 イリアさんが形を綺麗に整え、ディジアさんが浴槽を適度な炎で焼き固めればもう完成。

 もちろん、下部には薪を入れられる穴があり、温度の調節も可能だ。

 水に関しては魔法で生み出して終わり。

 かなり簡易的だが、十分な代物に出来上がったと思う。


 お次はキャンプ地に戻り、ウチのテント近くで再び土魔法を使用。

 ある程度の形を用意したら、細かい部分はディジアさんとイリアさんにおねがいする。


「シント、なにをしているのよ」


 フランが背後から声をかけてくる。


「フラン……と『謎の騎士』さん。何か用?」


 フランの隣には、フルフェイス兜の女性騎士が立っている。

 乗馬服を改造したような軍服を着ていて、腰には見るからに立派な長剣を差していた。


「そうね。『謎の騎士』があなたと話したいそうよ」


 謎の騎士は黙っている。

 見つめていると、静かに笑い始めた。


「ふっふっふー……じゃーん!」


 兜を取り払うとそこには――


「実はわたくしですわ~」


 エリザベス皇女殿下が満面の笑みだ。

 いやうん、知ってたよ。最初からね。


「あれ? ぜんぜん驚いていませんわ。フラン、これはどういう」


 フランは額に手を当てて、露骨なため息をつく。


「シント、このヒトはなにがしたかったのですか?」

「なんかいま変な空気になったけど」

「ディジアさん、イリアさん、皇女殿下はいま俺を驚かせようとしたのですが、その前からすでにバレていたので、サプライズは失敗。盛大にスベリましたね」

「え? す、すべっ……」


 彼女はフランへ救いを求める視線を送った。


「びっくりするぐらい盛大にスベッたわね」

「がーん」


 しなだれる皇女殿下。

 もうダメだ。見ている俺の方が恥ずかしくなってくるのだった――

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