超巨大ミッション 9 レオ・グレンザー
突然現れたレオ・グレンザー伯爵。
身長は190センチほどあるだろうか。
熱を帯びた目で集まった俺たちを見回し、満足そうにうなずいている。
闘気や屈強な肉体とは裏腹にかなりのハンサムだ。性格は陽気そうだし、良い人に思える。
「閣下……まったく。来るならそう言ってください! それに、親睦会の予定などありませんから!」
グレースさんが駆け寄り、怒る。
「おまえは堅い。堅すぎる。ほうれ、みな喜んでいるだろう」
冒険者たちはどちらかと言えば神妙な顔つきだ。
俺は嬉しいけど。
しかしこの二人、仲が良さそう。
「グレースとグレンザー伯は従兄妹なのですわ」
皇女殿下がすぐ後ろからささやきかけてくる。
いつの間にいたのか。気配に気づけなかった。
「立食パーティだな。みな、遠慮なく食ってくれ」
みんなして顔を見合わせた後、食事にとりかかる。
腹が減っては戦ができぬ、だ。
俺もさっそく皿を取りに向かった。
「果物がありますね。ディジアさん、イリアさん、食べましょう」
(シントったら)
(またよだれがー)
帝都の料理がどんなものなのか、ずっと気になってたからちょうどいい機会だと思う。
熱々のソーセージと、ソースがたっぷりかかった焼肉。それと溶けたチーズのかかったパンをたくさん乗せてみた。
で、食べる。
「おー、うまいぞ。味付けは濃い!」
一般的には、北に行けば行くほど食べるものの味付けが濃くなるのだという。
帝都はフォールンの真北にあって、冬はけっこう寒いらしい。それと関係しているのかも。
ウチのメンバーたちはほどほどにしているようだ。
おごりなんだから、遠慮しなくていいのに。
フランはなにも食べず、飲み物の入ったグラスだけ持って皇女殿下と話していた。
「こっちはサラダだな。ドレッシングが死ぬほどうまそう」
取り分けて、口に入れる。
さっぱりとした爽やかな酸味だ。とても良い。
他のも一通り取って来て、椅子を持っていき、隅に座った。
ディジアさんとイリアさんは結局、人の姿にはなっていない。
人がいっぱいるから、恥ずかしいのだろうか。
そのうち、ラナがやってきて俺の隣に座った。
焼いたチキンを手に持って、辺りを見回している。
「やっぱバチバチだねー」
バチバチ?
「なんの話?」
「一番にらまれてる本人がこれだもん」
んん?
たしかにさっきから見られているような気もする。
「ここにいる冒険者の人たちは最低でもプラチナ級。で、オリハル級がシント含めて三人に、他はヒヒイロカネ級、ミスリル級がいっぱい。でもやっぱり一番注目されてるのはシントだよ」
「俺?」
「十七歳でオリハル級ダブル。たぶんだけど史上最年少。その情報は公開されてないけど、ここにいる人達はみんなある程度知ってるもん。いったいどんな実力なのかって、気になってる」
買い被りに過ぎる。
「シントよりも活躍して、帝室の覚えをよくしようって考えてると思うよ?」
「はー、なるほどー」
(シント、もう少し興味を持ったらどうですか?)
(だめだよディジア、料理のことで頭がいっぱいなんだから)
いやいや、そんなことないよ?
完全に否定しきれないのが痛いところではあるが。
雑談しつつ、食事を進めていたところ、会場内がざわざわし始めた。
なにごとかと目を向け、びっくりする。
ガディスさんが、グレンザー伯爵に絡まれているようだ。
脇にいるカサンドラとアリステラが俺に視線を送ってきた。
ちょっと行ってみよう。
「貴殿がガディス・ダーレストだな?」
「そうだが」
ガディスさんはソーセージを食べかけの姿勢。
少しばかり物々しい雰囲気になっている。
「まずは礼を言わせてもらおう」
「礼を言われる理由はない」
「大戦の時、我が家の者を助けてくれたろう?」
「そうか。覚えていないから、礼はいい」
ガディスさんは興味がなさそうだ。
「いや、それでは礼儀を欠く。改めて礼を言う」
と、グレンザー伯は頭を下げた。
周囲からどよめきが生まれる。
「大戦の後、貴殿を探したのだがな。ついぞ見つからなかった」
「……ああ、事情があって離島にいた」
「そうだったのか」
謎の力で島に閉じ込められていただなんて言ったら、グレンザー伯爵はどんな顔するかな。
「それでだ。高名な貴殿と手合わせを所望したいのだが、よろしいか」
周囲がさらにざわつく。
【神格】の所有者が挑むほどの猛者。それがガディスさんだ。
「おれももう歳だ。すまないが、【神格】の所有者と戦う元気はない」
「謙遜だろうに。まだ枯れる歳には見えん」
グレンザー伯爵が楽しそうに笑う。
「ではそちらのレディはどうだ?」
「ん? あたしかい?」
彼の目がウチのカサンドラに向く。
「その槍……おそらくは神槍ゲイボルグのレプリカだろう? それと、ただならぬ立ち居振る舞い。幾度も死線を超えた者だけがまとう空気。なかなかに素晴らしい」
大絶賛、だな。
うんうん、俺も鼻が高い。
「な、なんだい急に」
「なんなら手合わせではなく、個人的な食事でもどうだ? 槍についての話がしたいな」
「ちょっ……」
「……え、デートの誘い」
「うっそ、やば」
「大胆、です」
ウチの女性陣がびっくりしている。
「いや、いきなり言われてもねえ」
カサンドラが困っているようだ。
これはいけない。間に入ろう。
「お待ちください。いきなり引き抜きとは感心できませんね」
「おっと、すでに騎士がいたか。ふむ……君はもしや」
「シント・アーナズです。初めまして」
「なるほど、例の男か」
例の男? なんの話だ。
「君ともじっくりと話したいところだが、それは明後日の楽しみにとっておこう」
「明後日、ということは」
「ああ、調査隊には私も参加する予定だ。聞いていないのか?」
え、それほんと? 聞いてなかったけど。
フランに続き、もう一人【神格】の所有者が参加だなんて、思いもしなかった。
周りにいた冒険者たちは知っていたみたい。
もしかして俺、仲間外れ?
「おお、そうだ! 手合わせは後日として、腕相撲大会などはどうだ。私に勝てたらまたメシをおごるぞ?」
歓声が上がる。
グレンザー伯爵はいきなり現れたにもかかわらず、みんなの心を掴んだようだ。
これが大戦の英雄、か。おじい様たちとは違う、彼特有の雰囲気だと思う。
「まったく、暑苦しいったらないわね」
「フラン」
「グレンザー伯はいつも通りですわ」
「皇女殿下も、まだいたのですか」
「ひどいですわ~」
なんかぷりぷりし出した。
反応したら面倒そうなので、曖昧な返事でごまかそう。
「シント、後で話があるのだけど」
フランがそんなことを言う。
「話なら今でもいいけど」
「とにかく、後であなたたちのところに行くわ」
シャレや遊びではなさそうだ。
変なこと言ってこなきゃいいんだけど。
「エリザ、そろそろ行くわよ」
「フランったら、そんなに急がなくてもいいではないですか」
「だめよ。ここにいたら汗臭さが移りそうだもの」
なんてひどい言い草だ。
そんなに匂わないでしょうよ。
そんなこんなで、フランが皇女殿下を連れて去っていった。
グレンザー伯はまだまだ親睦を深めたいようで、腕相撲大会に興じている。
「シント、明日の予定は?」
ガディスさんが聞いてくる。
みんなは自由行動でいいと思う。
「準備があるなら、それに集中してください。俺は行きたいところがあるので、自由行動にしましょうか」
「了解した」
「ってか、どこ行くの?」
「どうしても気になるんだ」
「もしかして、あの写真に写った建物かい?」
そうだ。
あれは、家、というよりはもっと別のものに見えた。
「なにかの遺跡なのかな」
「……普通の家じゃなさそう」
「うん、かなり、大きかった」
みんなの所感もだいたい同じなようだ。
ただの家ではなく、もしも別のなにかならば、話を聞けそうな場所が帝都にはある。
「明日は帝都学術院に行ってみようと思う。アレが遺跡……遺構かなにかなら、情報があるはずだ」
超巨大モンスターの背にある施設がいったいなんなのか。
俺たちは戦う相手に対してなにも知らないのが現状。少しでも情報がほしいと思うのだった。




