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超巨大ミッション 4 女騎士の正体

 突然やってきたゼーベルト男爵に続いてぞろぞろと入って来る騎士たち。

 いったいなんなんだ、とすぐそばのゼーベルト男爵へ目を向ける。


 彼は憮然とした面持ちで、どことなく様子が変だ。

 まさか、ウチを家宅捜索でもするつもりだろうか。

 悪いことはしていないと思うけど。


「お供の方がずいぶんと多いようですね」

「……まあ、私もそれなりの立場にある。大目に見てほしいところだ」

「わかりました。ではこちらへお座りください。お付きの方々はそこの椅子へどうぞ」


 重鎧の騎士は立ったままだが、女性騎士の三人は椅子に腰を下ろした。

 だけど、なんだか一人だけ変わった人がいる。

 かっこうは凛とした女騎士、といった風情なものの、顔はベールに包まれていて見えない。

 見覚えのある仕草やほのかに鼻をくすぐる花の香り。

 うーん、これは、ツッコミ待ちか?


「アーナズ殿、なにか?」

「ああ、いえ。ではお話を聞きましょうか」


 卓に着くと、アンヘルさんがお茶を持ってきてくれた。ウチで用意できる一番高いヤツだ。


「あいかわらず良い香りだ。さすがはドラグリア産……たまらないな」


 ゼーベルト男爵はお茶好きのようで、以前に来た時もやたらと感動していたのを覚えている。


「それで、今回はなんの御用でしょう」

「うむ、さっそく、と言いたいところだが」


 男爵は室内を見回し、うんうんとうなずく。


「驚いたよ。前回はいかにも普通のギルドといった様子だったが、まさかフォールンの商業地に進出しているとは。まこと天晴だ」


 褒めてくれてはいるようだが、どこかぎこちない。


「しかも、聞けば外の店も君の経営なのだろう? 尋常なことではない」

「お褒めに預かり、恐縮です。とはいえ、本題を。忙しい身でしょうに」

「う、うむ」


 困りまくる男爵。

 それを見たベールの女性騎士がくすくす笑う。


「まあ、その、なんだ。論功行賞をすっぽかしてまで仕事に身を入れているのだとわかったわけだが――」


 話が長い。

 それと、やっぱり気になりすぎる。


「おお、そうだ。従業員を紹介してくれないか。なんでも、貴族の女性が取締役と聞いた。ぜひ目通り願いたい」


 ミューズさんのことか。というかその口ぶりだとウチのことをだいぶ調べてきたようだ。

 紹介するのはいいとして、()()()()()()()()()()()()()()()()


「ゼーベルト男爵、ちょっと失礼」

「……」


 席を外し、近くで座る女性騎士に近づく。

 彼女はベールで隠した顔をそむけた。


「じー」

「か、顔が近いですわー」


 なにその棒読み。

 そろそろいい加減にしていただきたい。


「エリザベス皇女殿下、ですよね?」


 聞いてみる。


「さあ~ わたしはそのような人物ではありませんよー」

「すみませんがお遊びはここまでです。さっさとこちらへ」

「も~ すぐにばれちゃいました」


 彼女が認めると、周囲の人たちが一斉にため息をついた。

 やっぱりな。


「アーナズ殿、こたびはお忍びであるゆえ……」

「わかりました。では――」

「エリザ、と呼んでね?」


 いやそれは無理だ。

 殿下、とだけ呼ばせてもらう。


「依頼を秘密にしたい方のための部屋がありますので、移動を」


 皇女殿下が来ているなどと知れたら、大騒ぎ以上のとてつもない事態になる。

 なので場所を変えてもらった。


 案内した部屋は、普段は滅多に使わない場所だ。

 ウチは貴族からの依頼を極力受けないようにしているから、使うことはないだろうと考えていたが、いちおう作っておいて正解だったと思う。


 真っ赤な絨毯が引かれた部屋に入ってもらい、座る。

 皇女殿下にはまだ誰も座っていない豪華ソファーを使ってもらった。


「シントったら、久しぶりに会ったというのに~」


 たしかに久しぶりだ。前回は一年ほど前にホーライで再会した。

 殿下がベールを取り払うと、ふんわりとした優しさのにじみ出る、見る者を油断させる美貌があらわになる。


「お久しぶりですね、皇女殿下。でもいまは仕事中です」

「お堅いですわ」

「なんと言われようとかまいません。話を進めてください」

「え~」


 あいかわらず掴みどころがない人だ。

 彼女はただの姫じゃない。皇帝陛下に代わり政治の重要な部分に関わって、活躍していると聞いた。

 今回だって、ただ遊びに来たわけじゃないだろう…………ほんとに遊びに来たわけじゃないよね?


「しかたありませんわ。ゼーベルトさん、おねがいいたします」

「はは! では殿下に代わり、アーナズ殿に説明をいたしましょう」


 ようやく話が進みそうだ。

 ゼーベルト男爵はカバンから冊子を取り出した。

 すすっとテーブルの上に置かれた冊子は、なんの装丁もない急な造りに見える。


「まずはそれを読んでほしい」

「ええ、拝見します」


 タイトルのない表紙をめくる。

 最初の一文だけを見て、呼吸が止まりかけた。

 これ、マジか?


 さらに読み進める。

 ありえないな。ほんとうなのだろうか。


「……」


 読み終わり、考えてみる。

 荒唐無稽、とは言えない。モンスターウォーズの最終局面では、巨大なモンスターを見たし、退治した。


「驚いただろう。私も信じられんよ」


 ゼーベルト男爵が同情したような目を向けてくる。

 

「この内容が真実なら、帝都の近郊に超巨大モンスターが出現したことになりますね」


 冊子の内容は、驚嘆に値するものだった。

 帝都では地震が続き、次いでもたらされた『山が動いている』との情報。

 

「誰も取り合わなかったのだが、異変を察知した殿下が一早く諜報員を送り込み、判明したのだ」


 送り込まれた諜報員五名の内、戻って来たのは一人。

 全身傷だらけで、息も絶え絶えに持ってきたのは、一枚の写真。

 その諜報員は、写真を手渡した後、亡くなったそうだ。


「肝心の画像はないようですが」

「さすがに持ち出せるものではない。帝都で保管してある」

「討伐の依頼ですか」

「いや、まずは調査だ」

「調査? モンスターだと判明しているのでしょう?」


 悠長すぎる。


「いや、それなのだが」


 ここで皇女殿下が口を開く。


「誰も軍を動かさなくて。眉唾な話に兵は出せぬー、なんて言うんです」

「写真一枚では証拠にならん、という次第だ」

「呆れますね。死にたいのですか?」

「私に言わないでくれ。それと、魔力を当てないでくれないか」


 男爵はげんなりした様子だ。気苦労が多そうで、なんだか気の毒。


「こたびは殿下の独断。軍はほぼ動かせない」

「だからシントにおねがいしようと思ったのですわ」


 理由も目的もわかった。

 しかしなぜわざわざフォールンのウチに来たのだろうか。

 帝都も冒険者が多い。調査と言うなら現地で雇えばいいだろう。


「ウチに依頼するのはなぜです? 帝都圏には高名な冒険者がたくさんいると思いますが」

「いや、それはだな……」

「シントに会いたかったんですもの」


 それだけ!?

 なんなんだこの人は。


「ですが、ここに来て正解でした。モンスター退治に実績のある人間を次から次へと倒しまたし、ていうか、歯牙にもかけなかったんですもの」


 うん?


「ホーライの大活躍は聞きましたけれど、実際に見たわけではなかったわけですし、フランからもいろいろ聞いちゃって。それで、試したくなったのです」


 おい、まさか。


「すごい魔法でしたわね~ あんなに小さくてかわいかったシントが、たくましくなって」


 なんか親みたいな言い方だな。一つしか歳離れてないだろ。


「枠がどうのと言ってきた連中は殿下の差し金でしたか。怒りますよ?」

「怒らないで~ どうしても見たかったのです~ しくしく……」


 ウソ泣きしてもダメだ。

 ほんとこの人は信じられないことをするな。

 ここ数日の冷やかしは殿下のせいだったわけだ。


「アーナズ殿、ここは一つ、試験とでも思い、治めてほしい。依頼が依頼だ。選別は必要だと思うが」


 心の中でため息をついた。


「わかりました。文句は後にしましょう」

「文句も言わないで~」


 うん、もうなにも言わないようにしよう。心が乱される。


「依頼元はどうなりますか?」

「帝室から、ということになる。しかし、最高機密だ。口外無用で頼む」


 とうぜんだ。こんなことが知れたら、大パニックになる。


「まずは調査、ということでよろしいでしょうか」

「シント、やってくれるのですね?」

「緊急事態になりかねない事です。否やはありません」


 山ほどもある超巨大モンスターが相手なら、やるしかない。

 かなり危険な仕事になりそうだけど、放ってはおけないことだ。


 ふと、皇女殿下を見る。

 彼女は優しい微笑みをたたえ、見返してきた。


 なんとなく嫌な予感がするけど、いまは気にしないでおこう――



 

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