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超巨大ミッション 3 無限回廊もどき

「ん?」


 急に目が覚めた。

 窓の外はまだ薄暗い。


「まだ五時だな」


 時計を確認する。時刻は早朝も早朝。

 半身を起こして大きくあくびをしていると、妙な音が耳に入ってきた。

 音の次は、揺れ。机の上の物がカタカタと動き始める。


「またかー」


 最近になって、地震が起こるようになっていた。

 ここフォールンは内陸にあって、自然の地震はめったに起こらないはずなのだが、昨日も一昨日も小さな揺れがあったのだ。


 揺れはすぐに収まった。

 寝直そうにも、目は冴えている。


「まあいいか。準備しよう」


 今日はよくわからん『枠』とやらを求めて来る冒険者たちに対し、対策を打つつもりだ。

 早く起きれたし、すぐに始めよう。



 ★★★★★★



「シント、こっちはどうすれば」

「ディジアさん、そこだと前過ぎるので、もう少しこっちです」

「ねえねえ、シント、ほんとにこっちも空けるの?」

「イリアさん、だいじょうぶです。そこに出入り口を――」


 ディジアさんとイリアさんに手伝ってもらって、あるモノを作っている。

 

「ちょっ……なにしてるのよ」


 そこへミューズさんが出勤してきた。

 

「か、壁?」

「模様はイリアさんにおねがいしました。どうでしょう」


 ギルド前の庭に土の壁をおったててみた。

 幾何学的な美しい壁の模様は、細かく削ってもらい浮き彫りにしたものだ。


「模様じゃなくて。なんなの、これ」

「冒険者対策です」

「あー……迷惑な人たち」


 このところ、言いがかりみたいなことを言われて、手合わせを申し込まれているのだ。

 いちいち相手をする時間がないし、キリもなさそうだから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「これだいじょうぶ? 一般の依頼人も来られないんじゃ」

「それについては問題ありません。依頼人の方用に出入り口を作ります」

「え、ええ」


 ミューズさんは面食らっているようだ。

 

「シント、完成しましたよ」

「ありがとうございます」

「これで変なヒトたちは来られないってこと?」

「ええ、その通り」


 くっくっく、これで冷やかしみたいな連中はもう入れないだろう。

 

「シント、シント、顔がものすごいことに」

「変なかおー」


 おっと。意地の悪い笑みが出てしまったかも。

 さて、ちゃんと効果が発揮できるか、楽しみだ。



 ★★★★★★



 ディジアさんとイリアさんとともに本日の仕事を終えて、ギルドに戻る。

 時刻は夕方で、スーパーマーケットはにぎわっているようだ。

 最近はよく俺自身も利用している。自分で言うのもなんだけど、安くておいしい食材が手に入るんだよね。


 で、俺たちが作製したギルドへと続く土の回廊を見た。


「うわわわわわ! なんなんだよここはあああああああああ!」


 恐怖で引きつった顔の男が、俺たちの横を慌てた様子で走り過ぎていった。

 ふふふ、効果は上々のようだな。


「いまのはなんでしょう」

「なんか泣いてたし」

「俺たちが作った無限回牢ですよ」

「?」

「??」


 二人そろって首をかしげている。

 そういえば手伝ってもらったけど、説明はしていなかったな。


「とりあえず中に入りましょうか」


 食事時だ。食べながらでもゆっくり話すとしよう。


「ただいま」


 中に入ると、ほとんどのメンバーが集まっていた。

 なんだかみんな神妙な顔つきをしている。


「あ、シント」

「……ねえ、ハイマス」

「あの入り口、おかしい、です」

「完全にホラーだニャ」


 そんなことはない。仕組みは単純だ。


「一般の依頼人の方はどうだったかな」

「あー、そっちは普通だったニャ」


 冒険者は来られなかったようで、安心した。


「シント、きっちり説明してほしいんだけど」


 たしかにミューズさんにはざっくりとしか話してなかったと思う。


「わかりました。でもぜんぜん変なことはしていませんよ」


 説明しよう。

 まずは土魔法で壁を生成し、ギルドへの道をいったん遮断。

 次に、施設へ向けて真っすぐな廊下を作る。廊下は『枠』を求めて来る人間用。一般の方、業者用の入り口に廊下は要らないので、出入り口のみだ。


 こうして左右に出入り口を一つずつ作成したところで、さらに両方へ立て看板を置いた。

 一つは『一般の依頼人の方はこちら』だ。

 で、もう一つには『枠が欲しい冒険者はこちら。ただし、ここ以外から入った場合は不法侵入とし、憲兵または冒険者庁に通報します』と書いた。


「そんなんで冷やかしを防げるのかねえ」

「ここからが肝なんだ。冒険者用の出入り口に空間を移動する魔法の罠を張ったんだよ」

「!」

「え?」

「わ、罠? ハイマスター、それは……」

「危険はないよ。だけど、入ったら少し後ろに移動するよう調整してあって、持続時間はおおよそ二十四時間」

「つまり……?」


 要するに、出入り口を過ぎると、出入り口前に戻される。何度行っても戻される。冷やかしの連中は永遠にギルドへはたどり着けないってこと。


「……んなアホな」

「来た連中が気の毒に思えるさね」

「どうりで変な叫び声が聞こえると思ったわ」


 みんなあんぐりと口を開けて、驚いているようだった。


「シント、一つ疑問なのですが」

「ええ、言ってください、ディジアさん」

「どうして冒険者のヒトたちは律儀に片方の出入り口を使ったのでしょう。反対側には魔法がないのに」

「そうだよね。それに、壁をとびこえればいいんじゃないの?」


 ディジアさんとイリアさんの疑問は当然だ。


「心理的な縛りですね。出入り口が閉じているわけではないので、まずは入るでしょう。それに、通報されるかもしれないという疑念だって生まれている。ああいうふうにするだけで、人間は意外と律儀になるものです」

「なるほどー」

「ヒトっておかしいね」


 ここでアテナが手を挙げた。


「マスター、これはもしや『時の回廊』を再現したのでしょうか?」

「おっ、さすがはアテナだ。その通り」


 ビッグウッド山中の遺跡では、時間が延々とループする回廊に入りこんでしまった。

 これはその応用。

 さすがに時間を操るなんて真似はできないから、空間移動のトリックを使ったのだ。


「ンーフ……さすがはわたしのマスター。恐れ入ったと心から言わせていただきます」


 アテナのお墨付きが出たなら、完璧だな!


「いやー、ほんと、引っかかった人たちの間抜け面が見られなくて残念だよ」

「……」

「……」

「……」


 あれ~? なんで黙るの~?


「とりあえず……明日からは普通でおねがい」

「え、でも」

「そうさねえ……きっと噂が広まってもう誰も来ないと思うさ」

「……右に同じ」


 なんか不評だな。

 絶対にたどり着けないギルドって、謎っぽくてかっこいいとも思うのだが。


「しかたないですね。回廊は破壊しましょう」


 残念なことだ。

 でも、カサンドラの言う通り、しばらくは面倒な連中が来ないかもしれない。


「とりあえずは食事だ。みんなもどう?」


 みんなそろっているし、たまにはいいだろうと思うのだった。



 ★★★★★★



 次の日――

 あれだけしつこかった冷やかしの連中は来なかった。

 イイ感じに噂が広まったものと推察できる。

 この日は何事もなく過ぎ、夜と早朝にまたしても地震があったものの、特に問題はない。


 そしてさらに明くる日――


「うぉっほんん!」


 というやけに芝居がかった咳ばらいが聞こえてきた。

 ちょうど外に出ようとしたところだったので、玄関から入ってきた男性と目が合う。


「アーナズ殿」

「ゼーベルト男爵?」


 驚いた。

 なんでこの人が?


「お久しぶりですね」

「ああ、久しぶりだ」


 去年に勃発した『モンスターウォーズ』の少し後、エリザベス皇女殿下の使いとして来た貴族の人だった。


「無事に帝都には着けたみたいですね」

「……いきなりあのような魔法。やるなら先に言ってくれたまえ」


 非難の目を向けられる。

 言ったよ? 魔法で移動させるって。


「今日は抗議に来たのですか? お詫びにお茶でもどうです?」

「抗議に来たのではないが、茶はいただこうか。話がしたいのでな」


 前に会った時と同じで、きっちりとした襟元に、清潔感のある装いだ。

 さすがは帝都の貴族。少しばかり堅苦しいけど、隙はない。


「ではこちらへどうぞ」


 依頼人の方用に置いたウチの中では一番立派なテーブルまで案内する。

 アンヘルさんに客用のお茶を頼んでいると、男爵に続いて、何人かがぞろぞとろと入って来た。


 重厚な鎧を身に着けた、いかつすぎる騎士が二人。

 それと、きらびやかな軽鎧と槍を持った女性の騎士が三人だ。


 ずいぶんと物々しい。

 何事?

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