超巨大ミッション 1 道場破り?的な
フォールンの街に春がやってきた。
吐く息も白くなくなって、活動できる時間も増えてくる。
一度は落ち着きをみせたかに思えた我がギルドは、またもや忙しさで目が回りそうだ。
理由はいろいろある。
まずはガディスさんの加入。
あの『万士』ダーレストが加わったとの噂が街中に広まり、話を聞いた冒険者、傭兵、あるいは帝国の騎士でさえも手合わせを求めて、やって来るようになった。
初めは全面お断りにしようと考えたのだが、本人の希望と、ミューズさんの助言もあって、手が空いている時は模擬戦を行うことになったのだ。
ガディスさんは、戦闘の勘を取り戻したいらしく、悪く言うとやってきた人たちを練習台にする、といった様子。
ミューズさんの助言は、これも悪く言うと『客寄せ』。
事実、見物人がガディスさんの戦いぶりを見て、依頼を持ち込むというケースが多々あった。びっくりだ。
そして別の理由が、指名依頼の増加だ。
このところ、ウチのメンバーは名がかなり売れており、顧客がついてきたのだと思われる。
世界一のギルドを目指す者として、嬉しいかぎりだった。
他にも、ウチの敷地にある各店舗のお客が来たり、Aランクギルドという看板を見て依頼をしに来たりと、さまざまな理由があるのだった。
みんなはつらつとしていて、見ているだけで笑みを浮かべそうになってしまう。
ギルド連合をまとめるハイマスターとして、こんなにすばらしいことはない。
新聞や雑誌に取り上げられることも多くなってきた。
利益も順調に出ているから、拡大を考える頃合いかもしれない。
「新しい人員も増やすべきかなー」
なーんて考えつつ、いつものように一階奥の冒険者待機場所で休憩していた。
「シントさん、ちょっといいですかー?」
そこへやって来たのがアンヘルさん。
うちで働くかたわら、執筆活動を続けていて、書籍を発行することが彼女の目標だ。
ミューズさんにいろいろ指導されている場面を何度か見かけているから、がんばっているんだろうと思う。
一方で流行りのファッションにかなり詳しく、女性陣で盛り上がっているのも見た。
仲が良いようでなによりだ。
「緊急の依頼ですか?」
「それが、違うようでして」
「違う?」
「はい。ギルドマスターに会わせろって、言ってます。そう言えばわかる、と」
なんの話だ?
「行きましょう」
「おねがいしまーす」
アンヘルさんには持ち場に戻ってもらい、受付カウンターのところで待つ三十代くらいの男性に声をかける。
槍を背にしたいかにも強そうな男だ。傭兵か、冒険者か、とにかく話を聞いてみようか。
「当ギルドのマスターを務めるシント・アーナズです。ご用件はなんでしょう」
男性は俺を見るなり、首をかしげる。
「あんたが?」
「ええ、そうです」
「なんだよ、おれぁてっきり『光撃槍』か『魔剣姫』だと思っていたんだがな」
間違いではない。
カサンドラとアリステラには本部マスターをやってもらってる。
「二人はいま仕事で出ています。二人に用なら出直してください」
「……いや、おれが来たのはここのギルドマスターに会うためだ」
「そうですか。ではご用件をおねがいします」
「……」
彼はおれをじろじろ見て、うなっている。
なんなの?
「そういえばまだお名前をうかがってませんでしたね」
「ああ、わりいな。おれぁ冒険者ギルド『パワージャベリン』のマスターをやってるもんで、テリー・バージャントだ」
テリー・バージャントという名は耳にしたことがある。
たしか、そうとうな槍使いで、いつだったかカサンドラが名を口にしていた。
「バージャントさん、そろそろご用件を」
「枠を奪いにきた」
枠って、なんの話?
「すみません、意味がよくわからない」
そう言うと、彼はにやりと笑った。
「まあ……機密だしな。おおっぴらには言えねえよな」
「機密?」
ますますなんの話かわからない。
「とにかく勝負だ。ここは庭が広そうだから、やれるだろ」
「待ってください。なんの話ですか」
「受けてもらうぜ。大仕事がかかってんだ」
なに言ってんだ、この人。
なにか勘違いをしていないだろうか。
「受ける理由はない」
「だったら枠を譲りな。そしたら帰るわ」
「ですから、枠の意味がわからない」
「おいおい……いい加減にしろよ。それとも……」
彼は室内を見回す。
俺たちの言い合いに、お客や受付にいるアンヘルさんとサーヤさんとクロエさんが視線を送ってきた。
「こんな大勢の前で逃げんのか? ギルドマスターだろうが」
「逃げはしませんが」
「ならいいじゃねえか。戦えるんだろ?」
単純な手合わせとは違う。
なにか事情があるということか。
正直、ぜんぜん納得がいかないんだけど、話を続けても帰ってくれそうにない。
「わかりました。もしこっちが勝ったらわけを話してもらいますよ」
「わけもなにもねえと思うが……まあいい。おれが勝ったら枠はいただく」
もう、さっきから枠、枠って、いったいなんなんだ。
というわけで外に出る。
庭に作った円形の修練場で向き合った。
「訓練用の木槍を用意してきた。あんた、武器は?」
「俺は魔法士ですので、武器はありません」
「へえ、そうかい。そこの嬢ちゃん、はじめって言いな」
彼は外で遊んでいたミリアちゃんとミコちゃんを見つけて、声をかけた。
二人はそろって首をかしげつつ、近くにやってくる。
「おじ、なにする?」
「おにーちゃん、どうしたの?」
「少し離れたところから、はじめって言ってほしいな」
「うん! わかった!」
素直だ。癒される。
あと戦いに巻き込まないよう、障壁を付与した≪魔弾球≫を念のため二人の周囲に配置した。
「なんだあ? なんの魔法だ?」
「お気になさらず。始めましょうか」
「ああ、合図頼むわ」
ミコちゃんの元気のいい合図で、バージャントさんが一気に間合いを詰めてくる。
穂先のない木槍であっても迫力は十分。
裂帛の気合とともに突きを連打してくる。
槍の間合いは魔法士にとって厄介すぎる。
至近距離ならば≪魔衝拳≫でなんとかできるが、ほどよい距離が、逆に選択肢をなくすのだ。
しかしながら、攻めさせ続けるのは嫌すぎる。
反撃しよう。
「≪衝破≫」
「……ちっ!」
彼は槍を盾にして、防いだ。体勢を立て直しべく、わずかに後退する。
好機。
今度はこちらが距離を詰める番だ。
「≪魔衝脚≫!」
「蹴りっ!?」
大きく踏み込んでの前蹴り。
槍をへし折り、バージャントさんをさらに後退させる。
「もいっかい! ≪衝破≫!」
「うぐうっ!」
彼は派手に吹き飛んで、地面を転がった。
「く、くそっ……まだまー―」
立ち上がる瞬間を狙い≪魔弾≫を放つ。
魔力弾は正確にバージャントさんの眉間を打った。
彼は気絶し、その場に崩れ落ちる。
勝負ありだ。
「おにーちゃん! かっこいい!」
「おじ、つよい」
見ていた二人が飛び上がってはしゃいだ。
面と向かって褒められると、嬉し恥ずかしだ。
とりあえず話を聞きたいので、威力を最小限にした≪水之砲≫を使い、水をぶっかける。
「ぶあはっ!」
「あなたの負けです」
「……そのようだな」
バージャントさんはその場であぐらをかき、悔しそうだ。
「それで、枠というのはなんの話なのですか」
「……マジで言ってる?」
「ええ、そうです」
「なにもしらねえのかよ。こっちが聞いてる話と違うな」
やはりなにかの誤解ではなかろうか。
話が噛み合わなすぎる。
「とにかくおれの負けだ。帰るわ」
「待ってください。話を」
「話をしちゃいけねえってのが、条件なんでな。詳しいことを聞きたきゃ、依頼人がそのうち来るんじゃねーの?」
「はあ」
わけがわからないよ。
「それにしてもあんた、マジでつええ。『光撃槍』と『魔剣姫』が下につく理由を理解したぜ。じゃあな」
勝手に納得して帰っていく。ほんとうになんなんだ。どうかしてる。
「意味わからん」
俺も戻ろうとしたが、できなかった。
バージャントさんと入れ違いの形で、別の男性が敷地に入ってくる。
その男は俺を見つけ、言った。
「ギルドマスターに会いたい。取次願おうか」
またなの?




