どんどんギルドが強くなる 9 まだまだ成長していく
冬が終わりに近づいている。
そろそろ一区切りの時を迎えようとしていた。
帝国においては半年に一度、納税の義務があって、企業などはその準備に大忙しとなる期間だ。
もちろん俺たちの住むフォールンでも同様。
税金の計算等は事務方のメンバーが一手に引き受けてもらっている。
「今期もなかなかだったなー」
一人、椅子の深く腰を預け、振り返ってみる。
前期ほど大仕事が続いたわけではないが、とんでもないことが多かった。
「シント、なんだか変な顔をしています」
「どうしたの? おなか壊した?」
ディジアさんとイリアさんがやってくる。
「それとも、新しい魔法ですか?」
「だったら教えて!」
「そういうわけではありません。ただちょっとだけ今期のことを思い出していました」
二人が俺の向かいに座る。
最近仕事続きだったこともあり、今は待機場所でゆぅっくりしているところだ。
ディジアさんとイリアさんも飛び回っていたから、今日は休み。
「本部施設の移行からモンスターウォーズ。ラグナではいろいろありましたし、この前は島での出来事。でも、みんな無事でしたし、ほっとしていますよ」
「そうですね。いろいろありました」
「たいへんだったし」
二人にもかなりがんばってもらったから、頭が上がらない。
何度もピンチがあって、そのたびに助けられた。
「でも、過酷な戦いをくぐり抜けたことでみんな強くなってる。ウチのギルドはどんどん強くなっていて、俺は嬉しい」
ギルド連合として新たに加わった『アマゾネス』『バーバリアンズ』『アクアウインド』、グレイメンさんと彼の娘が二人。
モンスターウォーズ後にはあのティール家にいた将軍の一人クロードさんに、アークスで以前ともに仕事をしたタッくんたち。
ラグナでは偶然にも知り合った作家志望で夜の蝶だったアンヘルさん。
思い出したくもない奇妙な島では、ガディスさんとミコちゃんと出会って、スカウトした。
ウチもほんとうに大きくなった。
本部マスターを任せているカサンドラとアリステラは、いまや自分の判断で大仕事をこなせるまでになっている。
ウチのエースたる二人は、このところ増えまくっているモンスター討伐の仕事で走り回っているのだ。
二人がいないところのカバーは、副マスターであるダイアナとリーアが申し分なく務めている。
また絶対的な信頼を寄せているラナには、調査、情報収集の全てを任せており、彼女もまた期待に応えるようにすさまじい成果を上げていた。
もちろん、テイラー夫妻の安定感は抜群だし、アイリーンの剣はますます磨きがかかっていて、プラチナ級にはとどまらない実力を発揮している。
おそらく、戦闘力だけを見ればミスリル級相当であり、次の等級更新でジャンプアップも期待できるだろう。
地道に実績を上げているアテナ、シスター・セレーネもいまやソロで仕事を請けられるようになり、ギルド全体の仕事の回転を確実に底上げしてくれている。
去年の夏に加入したヴィクトリアも最近は自信をつけたようで、バリバリに依頼をこなしていた。
戦闘も結果も派手だから、かなり下の等級であるが、フォールンで名を売りまくっている。
「みんな腕を上げていますし、新加入のメンバーが刺激になっているようですね」
「いっぱい増えたもんね!」
ギルド内での競争意識もまた、必要なことだと思う。
仲が良いだけでは、進歩がない。
冒険者は実力主義であり、実績が全て。
安心、安全というウチのモットーを邁進するには、人を助けられるだけの強さが必要なのだ。
今期はギルド連合のメンバーに加え、クロードさん、ガディスさんといった超がつく実力者が加わった。
年上で経験も豊富な人たちばかり。ウチは若い者がほとんどだったから、頼りにさせてもらおう。
「シントが一番がんばっています」
「うん、ずっと見てるし」
「ありがとうございます。だけど、まだまだだ。追いつかれないようにしないと」
うかうかしていられない。
今期は会社の経営という未知の分野に時間を取られることも多かった。
ミューズさんのおかげでなんとかやっていけてるけど、もっとしっかりしないといけない。
オリハル級という等級がただのハリボテとならないよう、がんばろうと思う。
今期を振り返りながら雑談をしていると、アミールがやってきた。
彼もこの一年でずいぶんとたくましくなったものだ。
「シントさん、少しいいでしょうか」
「アミール。学校は終わり? 早いけど」
「今日で試験が終わったんです」
そうか。定期試験だったのか。
「お疲れ様」
「はい、なんとか終えられました」
表情を見るかぎり、問題はなさそう。
姉のカサンドラに聞いたかぎりでは、成績優秀だそうだから、心配はしていない。
「それで、なにか話でも?」
「はい。もしよければ訓練をおねがいしたくて」
「わかった。いいよ」
「……! ありがとうございます!」
アミールと訓練するなんて、いままでなかったこと。
彼には夢があって、なんと自分でギルドを開きたいのだという。
そのためにウチのメンバー全員から師事を受けているのだ。アミールの勤勉さにはほんとうに驚かされる。
ディジアさんとイリアさんはお風呂に行ったので、一人で庭に作った修練場へ足を運ぶ。
アミールは準備をしてからやってきた。
「それ、全部?」
「はい!」
剣と槍と斧と弓矢と拳にはめる鉄の輪とか、大剣に短剣が二つ。すごい数だ。
「じゃあさっそくやろうか」
「おねがいします!」
アミールは剣を取り、構えた。
いまの実力を見る良い機会だ。こっちも注意深く相手をしよう。
で、一時間後。
アミールは膝をつき、荒く息をしている。
「ありがとう……ござい、ました……」
結局全部の武器を試したのだが、どれもちゃんと使いこなしているようにも思える。
これで十四歳とは、恐れ入るばかりだ。
「ずいぶんと腕を上げているみたいだ。驚いたよ」
「……」
アミールの表情は、明るくない。
「どうしたの?」
「その、ご意見を、ぜひ」
「意見って?」
「僕はみなさんに師事してもらって、いろいろと学んできました。ですが、どの武器もシントさんにかすりもしません。やはり、一つに絞ったほうがいいのでしょうか」
なるほどだ。
たしかに一つの武器にだけ時間を割いたほうがいいとは思う。
でも、それでいいのかな。
「姉さんは槍一筋ですし、リーアさんはハルバードを。テイラーさんたちは弓矢ですし、アイリーンさんなんて、カタナに全振りです」
「アミールの言うことはもっともなんだけど、それでいいの?」
「……え?」
「俺はほら、魔法の【才能】がないでしょ? だからこそ思うんだけど、【才能】は奇跡の恩寵で、すごい。しかし一方でそれ以外が選択しにくいっていう縛りでもある」
「縛り……」
「アミールの【才能】を活かすんだったら、手数の多さが一番の武器になりそうだ。だから、全部極めてみたら?」
「……!?」
「もちろん、いばらの道だ。生半可な努力じゃ無理。だけど、君ならきっとできるような、そんな気がするんだよ」
器用貧乏ではなく、器用万能。いや、もっと上の、あらゆるものに対応できる器用超万能だ。
「目標にしやすいのはガディスさんかな。あの人はあらゆる武器を使いこなす『万士』。お手本になるはずだ」
アミールの顔がどんどん明るくなってくる。
「厳しい道なのはわかっているけど、挑戦する価値はあると思う」
失敗すれば、全てが中途半端になるだろう。
しかし、ギルドマスターだったり、ダイアモンド級以上の等級を目指すのであれば、どんな状況にも対応していく必要がある。
「わかりました。挑戦します」
「その意気だ。人生は一度きりなんだしね」
「人生は、一度きり……」
彼は深々と頭を下げた。
「なんだか、目が覚めました。新市街出身の僕が学校にまで入れて、すごい師匠がたくさんいます。恵まれた環境なのにつまらないことで迷ってました」
つまらないことなんかじゃないと思うけど。
「納得いくまで、やってみます」
「うん、それがいい」
顔を上げたアミールは、晴れやかだった。
まったく、期待させてくれる。
ウチの子ども組といい、下の世代もすごい。
未来になにが待ち受けているかはわからない。しかし、これから我がギルドがどうなっていくのか、わくわくが止まらないのであった。




