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どんどんギルドが強くなる 8 ほんとうの霧が晴れる

 とにかくも一安心だ。

 子どもたちはみんな無事だった。


「ミコ、なにがあった。敷地の外に出るなと言っただろう。なぜ言いつけをやぶった」

「……ごめんなさい」


 きつめの言葉だったが、しかたない。実際、危険な状況だったと思う。


「ミリアもよ。勝手に出たらだめでしょう」

「だって……」


 二人とも、黙ってしまった。


「とりあえずはわけを聞きましょう」


 俺としては、なにもわからないので言葉が出ない。


「ミコ、教えてくれ」

「……あの人、おかーさんに会わせてくれるって言ったの」

「な、なに?」


 ガディスさんの恐ろしい眼光が、ウェイトンを射抜く。


「貴様……」


 すさまじい怒りの形相。

 とりあえずはなだめ、話の続きを聞く。


「でも、おかーさんしんだから、もう会えないっておとーさん言ってた。この人、うそついてるって思った」


 そうだ。ウェイトンは言葉巧みに子どもを誘拐したのだ。


「そしたらディジアとイリアとミリアがてつだってくれるって」

「ミリア、そうなの?」

「うん」

「はあ……でも危険だわ」


 メリアムさんは頭を抱えた。

 全員の視線がウェイトンに集まる。

 首尾よく誘拐したつもりが、返り討ちにあったってわけか。


「ウェイトン、おまえはなぜ生きている」


 聞くと、ヤツは邪悪な笑みを浮かべる。


「ばぁかめ! おまえたちの攻撃でなど死なん! 一片の肉からでも復活できるのだ!」


 あの時、ガディスさんの豪剣によってウェイトンは切り刻まれた。

 アレで死なないなら、どうやって倒せばいいのか。 


「どうやってここへ来た」

「私は人に乗り移れるのだぞ! 人間から人間へ次々移ったまでよ!」


 なんて恐ろしい能力だ。

 島を出てから二週間近く。移動できるだけの猶予はあった。

 俺の落ち度だ。とどめを確認しなかった。


「シント、おれにやらせてくれ」

「ガディスさん」

「許せん。ユリをだしにミコを釣ろうとするなど……」


 怒りが伝わってくる。

 同感だ。しかもその目的はミコちゃんの体を乗っ取ること。

 利己的で、救いようがない。

 だが、まだだ。聞きたいことがある。


「その体は誰のだ? 乗っ取ったんだろう?」

「誰かなど、どうでもいいことだ。魔法の【才能】さえあれば、それでいいのだからな!」


 魔法士の肉体がもっとも適している、ということだな。ミコちゃんを狙うのも、そこが理由か。


「ふざけるな。おまえは力がほしくて他人の体を」

「ああ、そうだ。私はその娘の体を手に入れ、王になる。世界の王となるべき私の姿を目に焼き付けてやろう。クズ冒険者が」

「王だって? おまえは王なんかじゃなく、ただの愚か者だ。子どもだと思って誘い込んだ挙句、返り討ち。おまえが近づいたのは全員【神格】の所有者だよ」

「……は、はあ?」

「気づかなかったのか?」


 ウェイトンは言葉がないようだ。


「おまえはどうやって人に乗り移る? 魔法なのか? それとも【才能】なのか?」

「……」

「それとも()()()に秘密が?」

「!?」


 顔色が変わった。


「おまえが所蔵してた『邪呪の秘密』は回収してある。あれにはなにが?」

「……くそが! 私の町を跡形もなく燃やした挙句、本まで盗むとは!」


 燃やしたのは俺じゃないんだけど。

 ウェイトンは笑い始めた。

 耳が腐りそうな、嫌な笑いだ。


「ふはーはっはっは! おまえなどに内容はわかるまい! この私でさえ何年もかかったのだ! おまえのちゃちい脳みそでは――」

「定着と反転、だろ?」


 笑いが止まる。


「見てすぐにわかったけど」

「……」

「だけど、なにを定着させるのかがわからない。文字がかすれていて読めなかった」


 こいつの能力を考えれば、なんとなくはわかるのだが、聞いておくべきだ。


「教える義理など……」

「当ててやろうか? 霊子だろう」

「き、きさま……なぜ」


 当たったか。

 信じがたいことだ。

 魂たる霊子と肉体と精神体は切り離すことなんてできないとされている。

 

 おそらく、それを可能としているのが、異質な魔力と未知の術式。

 魔法にしてもこいつ自身にしても、最悪の存在だと思う。


「まさかとは思うけど、乗り移った相手の霊子を反転させ、負を作ってそこに自分の霊子を定着させているのか?」

「ばかな! おまえはなんなんだ! なんでわかる!」


 マジで当たってる? テキトーに言っただけなんですけど。

 まあいい。これでわかった。

 この世界には、魂を冒涜するこの男のいる場所はない。


「イリアさん、≪アイシア≫をおねがいできますか?」

「うん、いいよ」


 イリアさんの剣魔法は四本ある。

 ヤツを縫い付けているのが三本。残りの一つは、邪悪なモノを消す剣だ。


「シント、その剣はなんだ」

「悪いモノを浄化できる剣です。これでとどめを刺す」

「それを貸せ。今度こそおれの手でケリをつける」


 積もりに積もったやりきれなさが、彼の悲しい瞳から伝わってくる。

 

「これほど怒りを覚えたのは初めてだ。だが……それはこいつに対してではない。不甲斐なくも仇をとりきれなかった、おれへの怒り……」


 ここまで言われては、託すしかなかった。

 光剣を渡し、魔法を構える。


「イリア、ヤツを解いてくれ」

「いいの?」

「化け物といえど、身動きのできない者を切り刻む趣味はない」


 ガディスさんの言葉に、ウェイトンは笑みを浮かべる。


「じゃあ、解くね」


 三本の光剣が解除され、ヤツは自由の身となった。


「なんてバカな男だ。ダーレストぉ……後悔させてやる。そしてぇ! おまえの目の前で娘を奪ってくれる!」

「黙れ、下衆め」

「私が下衆なら、おまえはクソだ。女をみすみす死なせたただのクソだぁ!」


 全員が固唾を呑んで見守っている。


「ミコ、よく見ておけ。ユリの無念を……おれが晴らす!」

「おとーさん! がんばって!」


 娘の応援により、ガディスさんの闘気がほとばしった。

 これには息を呑むしかない。


 彼は光剣を両手に持ち、だらりと下げた。

 空気が張り詰める。

 

「しぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇ!」


 対するウェイトンは両腕を触手と化し、その場から恐ろしい攻撃をしかけた。

 瞬間、ガディスさんの腕がかすむ。


 次の刹那に粒子となり果てる触手。

 イリアさんの光剣は、邪悪な存在に対しすさまじい効果を発揮した。


「バカな! バカなバカなバカな! き、消えるだと!」

「最後の言葉はそれでいいのか?」

「なにを――」

「はあっ!」


 一気に距離を詰め、踏み込む。

 床が砕けたと同時に打ち込まれる大上段からの斬撃。

 まるで抵抗なく頭のてっぺんから股間までを斬り抜けた。


「――はがっ!」


 切れ目から光が漏れだした。

 終わりだ。

 あまりにも見事な一撃に目を奪われてしまった。


「くそ……くそ! あと……もう少しだったものをををををををを!」


 最後の最後も下衆にふさわしいつまらないせりふだ。

 人間であることをやめ、邪悪な力に頼った、哀れな男の末路。

 せいぜい派手に散れ。おまえにはもうそれくらいのことしかできない。


 ウェイトンが消え去り、戦いは終わった。

 とたんにディジアさんとイリアさんが俺をはさんでくる。

 両腕にしがみつかれ、身動きがとれなくなった。


「これで島の件は終わりましたね」

「もうほんとしつこいし」


 予想外の出来事ばかりだ。島にいた時だけでえらいことだらけだったのに、まだ続きがあるとは思いもしない。


「おとーさん! つよーい!」


 ミコちゃんが抱き着く。

 ガディスさんは大きく息を吐いた。

 彼に言葉はない。ただ優しい瞳で、娘を見つめている。


「素晴らしい一撃でした。心技体……全てがそろった、真の剣だったと思います」


 クロードさんはずいぶんと感動している。

 

「ほんとうによかったですね……」


 アンヘルさんは自分の涙をぬぐっていた。


「二人が冷静だったので、かなり助かりましたよ」

「いえ、とうぜんのことをしたまでです」

「というか、シントさんが焦っちゃう姿なんて初めて見ました」


 いつだって内心じゃけっこう焦ってます。


「そういえばメリアムさん」

「はい、なんでしょう」

「ミリアちゃんが『ははじきでん』と言ってましたけど」


 七歳とは思えない動きと蹴りだった。

 さすがは元凄腕の傭兵の娘。俺が見てないところで訓練をしていたか。


「あれは別に、そのー」


 あれ?

 メリアムさんが口ごもっている。


「はは、へんなおじくると、あしのあいだ、ける」


 うん?

 いろいろとツッコミたい衝動に駆られるな。足の間ってことは。


「つまり、金的攻撃を?」

「それはその、たまに冷やかしが来るもので、おほほ」


 なんてことだ。

 たまに依頼人を装った冷やかしが来るという報告は聞いていたけれど、メリアムさんが撃退していたのか。


 それにしても、ウチの子ども組は強すぎる。

 まさかこうも簡単にウェイトンをやりこめるとは。

 聞いた話がほんとうなら、あえて罠にかかりそれを利用したようだ。


 危険だけど有効な手でもある。

 でも、やっぱり危険だ。


「二人とも、心配してはいませんでしたが、心配しましたよ」

「それは心配しているのですか? していないのですか?」

「シントの真似したんだよ! わざとはいりこんで、やっちゃう!」

「ええ、感心しましたよ」


 でも、次に似たようなことがあった時は必ず先に言ってもらおうか。


「帰りましょう。四人には報酬としてお菓子を買ってあげますね」

「果物もおねがいします」

「やったー! ケーキたべたーい!」

「おにーちゃん! わたしアレがいい!」

「おじ、ちーずけーき」


 喜ぶ子どもたち。


「おい、シント、甘やかすな」

「そうですわ。ハイマスターは子どもたちに甘すぎます」


 なんか俺が怒られてしまった。

 クロードさんとアンヘルさんが小さく笑う。


 気が抜けた。

 さっさと帰ろう。


「ガディスさん、ようやくケリをつけられましたね」

「ああ、感謝する。もしまた蘇るようなら……何度でも地獄へ送り返してやろう」


 およばずながら、俺も手伝おう。

 子どもたちの未来は、守る。

 子どもたちだけじゃない。ギルドのメンバーみんなのことも。


 今回体験した一連の出来事には考えさせられた。

 いろんな親子の姿を見たと思う。

 

 だからこそ、ガディスさん親子には幸せになってほしいと思うのだった――

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